80話 アルマッティからの依頼
ついに80話!
私は配信ボタンを押して挨拶をはじめる。
「こんにちは! 今回はアルマッティさんのクエスト配信をしまーす! 今回のゲストはこちら!」
無表情のオルトが映って、私はその頭に手刀を落とした。「いでっ」という情けない声が口から漏れた。
「もう、ちゃんと笑ってよ」
「なんで」
《なんでw》《やる気なさすぎ》《今回のゲストオルトかよ》《琴音ちゃん出せよ》
視聴者から文句言われた。
琴音や他のみんなは別の場所で任務をしているはずである。琴音が見たいのなら、琴音の配信に行けばいいのだ。
「琴音の配信あるでしょ」
「そうだ、俺に文句言うな。人選はアルマッティだ」
「呼びました?」
後ろから声がかかった。満面の笑みを浮かべる少女が一人。攻略庁長官にして、おそらく最強の冒険者。
「今回の依頼を説明しに来ました」
「は、はい」
手に持っているファイルをパラパラとめくって何やら探しているようだが見つからないらしい。
「あ、あった」
はい、と見せられたのは一枚の石の写真……というか石板だろうか。昔の異形文字のようだが。
「レイヴン侯ラプラプリム?」
「おっと、この文字が読めるとはさすが“あの”レイヴィス様の娘ですね」
「“あの”って、レイヴィスは何者」
「教えたら消されるので言えません」
こっわ。そんな武闘派なの、お母さん?
あ、いや違う。見ててわかったけど、あの人エクリプスの扱いだけめっちゃ雑なんだよ。かわいそうに。
「今回、ロビン・フッドの亡霊改めて、堕天使フェリルを探して欲しいのです。できれば、このレイヴン侯の情報も欲しいですが」
「私が生まれるより前の人だからなぁ……」
レイヴィスくらいしか、知ってる人はいない気がする。
というか、ロビン・フッドといえばの人物がいなくないか?
「ゼールは?」
「彼は琴音さん、フィテロさんと一緒に別のダンジョンへ向かわせました」
でた、不法滞在道化師。
レオとキールは潜伏しているというのに、この蘇り女は日本という国をウロウロしすぎている。
出身国のアメリカから帰還命令が来たが「私はもう死んだるので、国籍はありません!」とか日本としてもそれはどうなんだという返事もして突っぱねた。
寝泊まりは裏町でしているようだが、政府からすればいい迷惑。
日本政府に関して言えば、レオとキールを帰国させろとイギリスからも苦情がきてるとか。
………全部アルマッティがなんとかしたらしいけど。
そのうち、アナスタシアや美雨も呼ぶんだろうか。呼ぶんだろうなぁ……。
「では、工藤さんは本当にレイヴン侯については知らないんですね?」
「うん………いや待てよ」
私はとあることを思い出した。
昔、町の本屋のおばあさんが教えてくれたことがある。
そう、レイヴン侯が連れていたという悪魔について。彼女はそれを“ラプラスの悪魔”と呼んでいた。
確か、その悪魔は……。
「アルマッティさん、ナイトメアなら何か知ってるかも」
「ナイトメアが?」
「みぃ……?」
事情を聞いたナイトメアはしばらく考え込んでいたが、何かを思い出したのか顔を上げた。
「レイヴン侯の連れていた悪魔は、先代の黒の王で間違いない」
「ほんと?」
「ただ、私に王の座を譲った後、探しものがあるからと魔界を出ていきました」
その悪魔はレイヴン侯ラプラプリムと契約していた未来視ができる悪魔。主人の名前からとって“ラプラスの悪魔”と呼ばれていたとかなんとか。
「仕方ありません、私も今回のクエストに同行しましょう」
《おっしゃあああ》《アル様!》《オルアルきちゃ》
コメント欄が盛り上がる。というか、オルアルってなんだ琴音はどうした。
「今回はロビン・フッドの亡霊を探すというクエストです。成功報酬はありません。わたくしが勝手に出したものなので」
ちょっとまてい!
報酬が出ないってどういうことだ! こっちは大学を休んでまで来てやってんだぞ!!!
私はアルマッティの肩を思いっきり揺さぶる。
アルマッティは目を瞑って薄ら笑いを浮かべながらされるがままになっていた。なんかむかつく。
「レイヴン侯ラプラプリムの予言の石板には、ユウヤミカゲミツ……ゼールがフェリルを探す必要があると書かれているようにも感じますが、レイヴィス様の娘ならば、フェリルもきっと協力してくれるはずです」
アルマッティはその後、ぼそりと何やら呟く。
「まあ、あたしがいれば無理矢理従わせるまで」とかなんとか言ってたけど気のせいだよね、うん。
「今回攻略してもらうのは、ロビン・フッドの亡霊とゆかりのある数字……」
“Japan046”。
未だに未攻略のA級ダンジョンである。
「そう言えば優希さん、リヴァドラムは?」
「あー、レイヴィスが特訓したいからって連れ出してて」
「え、優希使えなくなるじゃん」
「リヴァドラムがいなくても戦えるし!」
オルトが舌打ちをしたので、胸ぐらを掴んでやった。オルトはけっという顔をしてため息をつく。
ムカつく〜〜〜〜!!!!
おのれ、討伐組合のツートップが私を見下してくる!!!
「帰ってアルマッティにいじめられたってお母さんに言いつけようかな」
「ちょ!?」
「琴音にも言っておかないと」
「え!?」
二人して平謝りしてきた。
《草》《結局優希さんが強いんだよ》《権力逆手にとってなかった?》《アル様が優希ママに弱いのなんなん》
コメント欄は面白がっていた。
“Japan046”はアンデッド系モンスターの巣窟であり、低階層は肝試しにも使われるガチの場所だ。
正直、本当にフェリルがいるのかは怪しい。
「ゼールたちはどこに行かせたの?」
「とりあえず、別のアンデッド系ダンジョンへむかわせました」
………今までの流れ的には、一番フェリルがいる可能性の高いこのダンジョンにゼールを向かわせる方がよかったはずなんだけど。
「もしかして、アルマッティさんはここにはフェリルはいないと?」
「まあ、そうですね。今までこうしたダンジョンに出現していたのは響木奏と繋がっているボスでした。となると、レイヴィス様派のフェリルがいるとは考え辛いです。それに、ボスとはいえ、彼女はあまりダンジョン攻略に乗り気ではなかったはずですし?」
どういう意味だそれは。
願いを叶えてもらうために、堕天使たちはダンジョンボスになったはず。乗り気じゃないボスなんていないのでは?
「フェリルはお人好しな天使です。クリアされれば、レイヴン侯に会うつもりだったのかもしれませんが、人を殺すのは好きな天使ではありません」
それはおかしい。
一周目でロビン・フッドの亡霊は、冒険者を殺した。間違いない。
「ああ、そのことですがおそらく3体目の寄生オーガでしょうね」
一周目にて、寄生オーガはオラシル、レオに寄生していた。残る2体も誰かしらに寄生していたはず。
なるほど、確かに超遠距離アタッカーのロビン・フッドの亡霊に寄生すれば相当強かったはずだ。
相変わらず、レオに寄生した理由はわからないけれど。
「まあ、とりあえず行けばいいんだろ。早く終わらせて飲みに行こうぜ」
「飲むな行くな」
たまにでるおっさん臭を隠しきれなくなったオルトにツッコミを入れてアルマッティも続いた。
「本当にダンジョンにいるのかな?」
「ダンジョン以外はレイヴィス様たちが探してくれてます。大丈夫、次期に見つかりますよ」
だといいのだけれど。
私は、行方不明になったラプラスの悪魔についてどうしても考えてしまう。
ゼールでなくてはダメな理由が、もっとちゃんとした理由があるのではないかと、そう考えてしまうのだ。




