78話 あの日の真実は
私は攻略庁から外に出て、思いっきり伸びをした。
攻略庁ダンジョンはアルマッティが謎のスキルによって元に戻した。
キールは一周目からの想い人であったフィテロと合流した。
「寄生オーガも倒したし、なんとかなるもんだね」
「ユーキ、寄生オーガは何体倒したの?」
嫌な予感がしたのは言うまでもない。そう言えば、あの寄生オーガは死ぬ前に「これで終わりだと?」的なことを言っていた気がする。
「一体だけですよ、レイヴィス」
デミヒューマの一人であるファンがはっきりと言った。レイヴィスはやっぱりかとでも言いたげに頭を抱える。
「みんな、聞いてほしい」
一同の視線がレイヴィスに向く。
ダンジョンを解放して、ようやく合流してきたアルマッティは全てを察したのか険しい顔をしていた。
「寄生オーガは四体いる。全てを斃さない限りはやつらは警戒しなくてはならない」
「ちょっと、疑問に思ったことがあるんだけどいいか?」
手を挙げたのは、レオだった。そういえば、寄生オーガの一件からずっとなにやら考えていたようだった。
「一周目で俺と優希が死んだのは44層だったんだよな?」
「そうだよ、二人ともオラシルっていう人喰いにやられて」
「やっぱり、おかしい」
は?
その場にいた全員が、レオを不思議そうな目で見た。それはそうだ、その事実の何がおかしいというのか。
「寄生オーガは、四体いるんだよな?」
「そうだよ」
レオは拳を握った。
「一周目の44層ボスはオラシルじゃない」
オラシルじゃない? 本人が、ボスとして私を食い殺したと言っているのに?
私は麗華を見る。彼女は目を見開いていた。なにかを思い出しそうな、思い出せないようなそんな表情のまま。
「二周目の44層、“一周目のサバイバー”の一人であるラビットは俺とブライトに確かにこう言ったんだ」
レオは息を吸って呼吸を整える。
『もう、嫌なのよ。レオを殺すのも、そんな彼に笑顔で殺されるユウキを見るのも!』
その場の空気が凍りついた。
それはつまりあれか? 私を食べ殺したのは、オラシルではなくて……。
「あの場で俺たちは寄生されたんだ。その時に記憶もいじられた可能性はないだろうか?」
「ありえます。寄生オーガのボスである個体は意識を錯乱させるスキルを持っています」
アルマッティは無表情のまま答える。
ラビットは【状態異常耐性】というスキルを持っていた。ラビットだけは錯乱状態を避けることができたのかもしれない。
麗華が知らなかったということは、響木も知らない可能性が高い。
「響木奏が44層にて俺と優希を引き離したのは、俺が優希を殺さないためだったのか?」
「おかしなこと言うなよ、レオ」
カナ………いや、キールがレオを睨みつけた。
「響木にお前を生かすメリットなんてないだろう」
「いやだなぁ、キール」
フィテロはクスクスと笑いながらも、大真面目に得意げに人差し指を立てた。
「響木奏は男だったってことでしょうよ」
「なるほど、だからレオさんを生かしたのか」
オルトも納得したのか琴音を見て頷く。対する琴音はイマイチよくわかっていないようだ。
「つまり、どういうことですか?」
何も知らない疾風がレイヴィスに問いかける。そんなレイヴィスも話が見えていない。
アルマッティが再び解説を始める。
「響木奏が【ループ】を使った目的は、優希さんを生き返らせて、レオさんと幸せになってもらうことだったのかもしれませんね」
ちょちょちょ!?
それはしかし、リリスカルラの目的とはかけ離れている。利害の一致で協力してるわけではないのか?
そもそも、それならもう響木の目的は達成していないか?
「つまり、俺たちは“一周目のサバイバー”には殺されない、ということか」
「だからあの時……」
テレビ局ダンジョンで交戦したフェンリルは私を殺さなかった。しかし、今ならわかる。殺さなかったのではなく、殺せなかったのだ。
「響木奏は目的こそ達成したが、リリスカルラに【ループ】を手伝ってもらったために協力せざるを得ないというわけか」
「え、じゃあ響木のこと味方に」
「無理だろうね」
レイヴィスがようやく口を開いた。その顔は本気でそう思っている時の顔だ。
「リリスカルラは裏切りは許さないし、そもそもそういう契約で【ループ】を使ったなら、奴も最初から人間世界を異形のものにするつもりだったはずだ」
なるほど、結局響木と交渉の余地がないのは変わらないということか。
「というか、やっぱり優希さんってレオさんのこと好きだったんですか?」
琴音の何気ない一言に一同の視線が私に集まった。ちょっと待て、レオまで首を傾げてこっちを見るな、あとリヴァドラム、お前はなぜ嬉しそうなんだ。
「そんなんじゃないし」
目を逸らしてからポツリと言う。いざ意識するとやっぱりそうなってしまうのだろうか。
初恋なのは間違いないけど、今も好きかと言われるとそうでもないと思っていた。……今の今まで。
「レオさんは響木奏と直接対決するべきなのでは?」
「ガキは黙ってろ」
アルマッティの茶々にレオはデコピンをかます。アルマッティは涙目で額を抑えながら頬を膨らませた。
可愛いやめろ。
「とりあえず、寄生オーガには注意して寄生されないようにすること。二人は帰る?」
レイヴィスはレオとキールに声をかけた。
そうか、不法入国だもんね、さっさと帰らないと。寂しくなるなぁ。
「いや、帰らない」
「え!?」
「嬉しそうですね、優希さん」
「ガキは黙ってて」
アルマッティは再び頬を膨らませる。エクリプスとかいうすごい天使だとわかったはずなのに、それが判明した瞬間扱いが雑になった。本当に可哀想。
「バラバラになって各個撃破されるリスクを高めるよりマシだろ。特に、俺とフィテロは」
そうか、フィテロはアメリカ人だし死んだことになってるから戸籍もない。かく言うキールもフィテロと一緒にいたいだろうし。
「レイヴィスたちと、〈暗所街〉で待機するよ」
「決まりだ。当分はやることないけど、各自こまめに連絡を取り合うこと。以上、解散」
私たちはとりあえず、攻略庁ダンジョンを後にした。




