77話 復活の死霊王
短めです
キールとジャズは階段を駆け上っていた。
グエルにより、復活したはずの【地獄郷の使者】フィテロ・アーリマンはどこにもいない。
「お前の親父嘘ついたのか?」
「まさか! 何らかのトラブルだろう!」
とりあえず、上の階にいるカイモと合流しなければないらない。パーミアも、無事かはわからない。
「ほんと、ついてない」
最上階でその光景を見て、キールは顔を顰める。限界を留めず肉塊と化したバルハッド。
そして、そんな血の海の上に漂う死魚竜。
「カイモ!」
「キシャアア!」
どこかホッとしたように、カイモはキールに近づいてゴツゴツした頭をキールの胸に擦り付けた。
「カイモは、遥か昔にグラスギルドに追い出された本物の〈暗所街〉の王だ」
レイヴィスがキールに近づいて来る。
女装をしていたことにつっこんでこない辺り、もしかしたら最初から気づいていたのかもしれない。
そのことを悔しく思いながら、キールは口を開く。
「カイモはどうなりますか」
「どうもならない。王位奪還おめでとう、カイモ」
カイモはしばらく無言だったが、大人しく口を開いた。
「ありがとう、レイヴィス。キールも」
カイモは本来の力を取り戻し、話せるようになったようだ。しかし、会話ができるのは、〈暗所街〉の中だけだとか。
カイモ。
もう一つの名前を、死霊王と呼んだ。アンデットが多く住まう〈暗所街〉の本物の王であり、かつてルシフェルに堕とされた天使の一人だ。
ただ、それだけだ。
キールは全てが終わったことへの安堵と同時に不安に襲われた。
カイモは〈暗所街〉の王となった。自分とはもう一緒にはいられないのではないか? ただの冒険者でしかない自分とカイモはもう釣り合わない。
ただ、別れの前に一つだけ聞きたいことがあった。
「カイモ、最初から俺が男だって気づいていたのか?」
カイモは首を傾げる。
「女のつもりだったの、あれ?」
地味に傷ついた。キールの変装は完璧なはずなのだ。少なくとも人間にバレたことはない。
もしかしたら、魔族には性別の偽装というものは通用しないのかもしれない。
「キールさん、無事でしたか!」
後ろからアルマッティにおんぶされたパーミアが手を伸ばしてきた。キールは少し迷ってから、パーミアとハイタッチをする。
あとは、攻略庁ダンジョンに戻って優希たちを助けるだけだ。
「キール、ファテロ・アーリマンの居場所がわかったぞ」
ジャズが最初からこの輪にいたかのようにとことこと近寄ってきた。そういえば、一緒に階段を駆け上がってきたのだった。
「工藤優希の場所に飛ばされたらしい」
同時に、ファテロの【ワープゲート】が目の前に現れた。向こうから声が聞こえる。
「リヴァドラム一択!」
「キュア!」
リヴァドラムが嬉しそうに【ワープゲート】に吸い込まれていく。キールは体に力を入れた。
「次は俺たちが行くぞ」
「わたくしも行きます」
アルマッティがのんびりと言った。
【ワープゲート】は、戦闘時で一番最初に使った場合、一つしか移動できないという決まりがある。
フィテロはまず最初に、工藤優希をパワーアップさせるべくリヴァドラムを移動させたのだ。
次の【ワープゲート】は無制限に移動ができる。その時に一気に戦地に傾れ込む。そこにフィテロがいる。ようやく会えるのだ。
しばらくして、再び【ワープゲート】が開く。
「カイモお別れだな」
「どうして?」
「死霊王としての仕事があるだろ?」
カイモは首を横に振った。
「人間一人の寿命分くらい仕事しなくても、〈暗所街〉は困らないよ」
それは、ついてきてくれるということだろうか。
嬉しい。何もなかったキールにとってその言葉は何よりも。
「ありがとう、カイモ」
「それじゃあ、行こうか」
レイヴィスが頷いた。
「俺に乗った方が速いぞ」
ジャズの言葉に従ってキールは人よりも少し大きなダイアウルフにまたがる。背中はしっかりしていて落ちることはなさそうだ。
「行くぞ!」
キールは新たな一歩を踏み出した。




