71話 人外も配信する
ゴブリンは馬鹿が多い。
そもそも、ゴブリンを含めた亜人種のほとんどが、デミヒューマよりも遥かに劣っている。
獣人や猫人、蜥蜴人などは頭の良い個体もいると聞く。
しかし、集落などを旅する狼として巡ったが、文明のレベルは遥かに低い。
「とくに、小鬼は酷い………」
「おい、誰かゴブリンを悪口言ったか?」
ライダーの一人が苛立った様子で叫んだ。
すぐに喧嘩が始まる。ジャズは大口を開けて欠伸をした。
今の立場を甘んじて受け入れているのは、一世一代の狩りのためだ。
そのはずだった。
「グルルルル」
「どうした、ジャズ?」
ジャズはなんとか意思を伝えようとする。
飯の臭いを嗅ぎ取った。鼻は嘘をつかない。
☆☆☆
「うそ………」
ある檻のデミヒューマが子供を産んだ。
それと同時に現れたのは、一頭の狼だった。
ゴブリンは嬉しそうに笑うと子供を殺すように、狼に命令する。
「死産した子供は部下が処理するんです」
カナは全てを察した。
狼はご褒美に内臓をもらっている。
「ジャズ………」
敵なのか、味方なのか、それすらわからない。
一つ言えるのは、激戦を一度制し、冒険者を一時撤退まで追い込んだダイアウルフ・コロニーの生き残りというだけのことはある。
狼が、チラリとこちらを見る。
血を滴らせながら、鼻を舐めた。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「貴様らは………」
「おーい、ジャズー! 早く戻ろうぜ」
ジャズは舌打ちをすると走り出した。
☆☆☆
穴に落ちた優希を放置して、ボス部屋を目指すことにしたレイヴィス一行。しかし、目的地には。
「まずった」
ボス部屋はおろか、扉すらなかった。
「完全に地下にしかないね」
「どうします? 強行突破でもしますか?」
アルマッティの発言にレイヴィスは首を横に振る。
「余計なことはしない方がいい。敵の目的は、私たちの印象を悪くすること」
「しれっとわたくしを化け物陣営に加えないでもらえます? 一応、人間なんですけれど」
レイヴィスは無言で思案する。
「アルマッティ。今から配信とかってできるの?」
「できますけど、どうしてですか」
「連絡手段、かな」
「はーい、アルマッティの【キラキラ星空ちゃんねる】だよー?」
「わたくしの名前勝手に使わないでもらえますか?」
ボス部屋を目指して集合した人外チームは、早速アルマッティのチャンネルにて配信を行い、現状を報告することにした。
初の配信に変な空気が漂う中、口火を切ったのは工藤麗華である。
《クソ人外配信w》《色々ヤバい》《アル様そっち側なの?》《迷宮組を嵌めたくせに配信するんだ》《むしろやましいことないから、配信してるのでは》
レイヴィスの狙い通りだ。アルマッティは軽く頷いた。
「わたくしたち、ボス部屋の上辺りにいると思うのですが、地下に落下したメンバーと連絡が取れないのです」
《あー》《コメント欄か》《頭良くね?》
「というわけだよユーキ。早く反応して」
「キュア!」
《リヴァたんもそっちかぁ》《そりゃそうか》《カイモいなくね?》《てか、アル様なんで落ちてないのw》
《優希:マジナイス!私たちもカナパーミア以外とは合流》
全員が顔を見合わせる。
「パーミアっていうと、あのデミヒューマの子?」
麗華の質問にトディンが頷く。
「カナは、あの死霊術師ってことで合ってるかな?」
「はい」
「彼女の死霊はどうして迷宮に落ちれたんだ?」
「それは」
《優希:カイモは【半透明】でシールドや結界系のスキルを貫通できるから!》
「私の【ファーストシールド】も壊せますから、間違いないです。おそらく、例外はないかと」
「となると、ボス攻略においても結構重要だった?」
《優希:ボス攻略はオルトの【貫通】があるから大丈夫》
「でも、【貫通】は結界系スキルを突破できないでしょ」
「となると、私たちはカナとパーミアを追うべき……?」
麗華がそう言った時だった。
リヴァドラムが後ろを振り返った。
「キュァアア!」
「シャァアア!」
《カイモ?》《カナは?》《はぐれた?》《一仕事終えたのか?》《まさか》
「トディン」
トディンは頷くと、カイモの匂いを嗅ぐ。
深い森の奥に生息する森林蜥蜴人は嗅覚に優れている。
「〈暗所街〉だ。バルハッドの匂いがする」
「バルハッド!?」
麗華が驚いたように声を荒げた。
対するレイヴィスは落ち着いている。
「【意思疎通】」
(助けて)
それは、幼い少女の声に聴こえた。
ここまでハッキリと意思疎通ができるアンデットは少ない。
主人の力が強いのか、このアンデットの意志が強いのか。
「何があった」
ザザバラが静かに尋ねる。
(カナが死んじゃう)
(おちついて、かいも)
リヴァドラムが小さく呟いて、カイモの体をそっと撫でる。
(地下迷宮にあった小川を辿ったの……。私が、止めてたらよかったのに)
「地下迷宮の、小川?」
レイヴィスが首を傾げた。
「寄生オーガの時にはなかったよ」
《せやな》《報告書にもなかったはず》《新要素か?》
「トディン。〈暗所街〉に小川は?」
「あるよ、管理塔に内部から流れ出てる。確か、グラスギルドが部下に作らせた給水用の小川だ。今の王になってからは、使われてない」
「それを何者かが、迷宮と繋げた」
「そんなことできるのは、一人だけだ」
ザザバラは断言する。
「ルシファーが、S級冒険者を捕まえるために作ったんだろう」
《引っかかるかわからんやろ》《お前らもできるんじゃねぇの?》《悪者になすりつけてるとも限らん》
「一か八かでやるには手が込んでる。もしかしたら、第三者って可能性も」
「それはないよ」
麗華の発言をレイヴィスは遮った。
「エクリプス」
「アルマッティです」
「…………アルマッティ。私たちは、どっちを優先するべきだと思う?」
「もちろん、〈暗所街〉の王ですね。わたくしたちは、地下迷宮に降りれないですし、何より人間に〈暗所街〉を歩かせるわけにはいきません」
「アルマッティさんも、人間だよね」
麗華のツッコミは無視して、アルマッティは続ける。
「バルハッドは竜獣。人を主食とする異形ですから」
「対戦経験ないけど、いける?」
全員が力強く頷く。
(サポートは任せて)
(ぼくもたたかえるよ!)
テイムモンスター達もやる気だ。
「じゃあ、ザザバラ。本部に応援要請。デザイア、イクスタ、宇宙、ムルルを呼んで」
「アガツル、リュカラ、オラシルは?」
「必要ない。それよりも、範囲攻撃スキル持ちはいる?」
「それなら、俺が」
今まで無言だったロアが口を開いた。
《ロアもそっち側か》《当たり前だろ》《クソ人外陣営が怖い》《アルマッティしれっと人外で草》《アル様嘘だと言え》《でも、アル様強いから安心》《どっち見るか迷う》
「アーカイブはおそらくどっちの配信も残らないので、気をつけて見てください」
アルマッティはそう言うとコメント欄を切った。
「ここからはコメントに反応しませんので、よろしくお願いします」
キリが悪いですが、活動休止します。
詳細は活動報告に上げてます。




