72話 戦闘開始の合図
私はボス部屋の前に集まったメンツを眺める。
S級冒険者。
私とレオ。
二人とも前衛で剣士だ。
リヴァドラムがいないので、私の能力は半減だが【ヴィクトリム】の【聖剣】が使えるなら問題ない。
A級冒険者。
琴音、オルト、デッドクラック。
琴音はサポート職。
オルトとデッドクラックは前衛だ。
まあ、デッドクラックはどちらかというと暗殺者だから、真正面から戦ってもらうことはないな。
C級冒険者。
ゼール。
一応は、前衛。
貴重な回避盾である。こういう時のために鍛えたんだよなぁ。私ってば天才か?
攻略庁職員。
古沢恒星、糸部咲撫。
まさかコイツらが討伐組合の幹部だったとは。
一度会ったことあるのに気づかないなんてなぁ。
二人の戦い方はよく知らないんだよな。オルトが的確に支持を飛ばしてくれるだろう。
討伐組合。
アッセ、フォン。
デミヒューマの子供たちだ。二人とも遠距離の後衛であることを見るに、レイヴィスが選んだんだろうな。
パーミアも剣銃使いの中距離型だったし、前衛が多いからバランスを考えてくれたんだろう。
そんでもって。
「誰デスカ」
「え」
おそらくレイヴィスの決まりを破って単独行動をしていたと思われるその人物は首を傾げてオルトを見た。
オルトはそんな彼に気づいてすらいない。
「敵?」
「違うよ!」
大声を発したことにより、ようやく全員がその存在に気づく。
《あれ疾風くん?》《疾風じゃん》《疾風いて草》《いつからいたw?》
おいおい、リスナーも気づいてないのかよ。
「皆んなはじめまして?」
皆んなの反応が微妙だから、私は恐る恐る聞いた。
「えっと、オルトさんとは昔に一度お会いしました」
「え? そうだっけ?」
《オルトクズすぎて好き》《即席チーム大会で組んだやん》《そんでもって優勝したやん》《それで疾風くん有名になったやん》
「有名な方?」
「工藤さんほどでは」
《それはそう》《でしょうね》
「それじゃ、なんでここに?」
「レイヴィスとかいうエルフについて来い、と」
断らなかったの!?
「ランクは?」
「Cです」
でも、レイヴィスが誘ったんだよね?
「それより、工藤さんは人間ですか?」
私はそっと耳を触る。
「私はサラブレッドだからね」
「ハイブリッドでは?」
「……………………」
「……………………」
「ま、馬なわけないか」
「誤魔化すな」
《ハーフってこと?》《BBA説出てくんの好き》《疾風くん、もっと引き出せ!》《化け物陣営ってこと?》
私はコメント欄に冷や汗を流す。
いや、大丈夫! 私はBBAじゃない!
「ピチピチの二十歳です」
「思ったより………」
「何よ!!」
《疾風最高》《可愛い》《ハーフエルフマジ?》《萌える》《もう一生推すわw》《それな》
私は疾風と呼ばれる冒険者を見た。
「職業は?」
「一応、遠距離とサポート………」
え!?
どっちも出来るの!?
「【鑑定】」
「信じてないな」
「ちょっと静かに!」
「はい」
《種族:人間
レベル:---
名前:田木疾風
スキル:【ヒール】【効果範囲拡大】【クールタイム短縮】【光線】【招雷】
装備:聖霊学園の制服
テイム:白虎【ライデン】
所属:なし
足跡:なし
称号:【C級冒険者】【四聖獣テイマー】》
疾風って名前だから、てっきりスピード型だと思ったけど。
なるほど、レイヴィスがスカウトしただけのことはある。
「よし、君採用」
「あの、レイヴィスさんとはどういう関係で?」
「後ろから攻撃、それから回復」
「……………はい」
《はぐらかした?》《親子とか?》《そんなバナナ》
私は腕を組んでこちらの様子を伺うメンバーを見た。
「それでいい?」
「問題ない。元々、回復役がいなくて困ってたところだ」
オルトが頷く。
こいつ、ついにタメ口になりやがったよ。
「お役に立てるのなら嬉しいです。レイヴィスさんは、その………」
「別のボス?を倒しに行った」
「え、それって援軍来ないってことですか?」
「情けないですね、援軍有りで戦う気だったんですか?」
やめたれ、琴音。
「………援軍なしで、命懸けの戦いをすると? かつて、はじまりの冒険者達が苦戦した相手に、こんな少人数で?」
私は頷いた。
「そうだけど、違う」
「?」
「私達は、はじまりの冒険者よりも遥かに強い」
《かっけぇえええ!!!》《ま、ハーフエルフだし》《メンツ的に弱いけどね》《ま、工藤さんが言うならそうなんでしょうよw》
疾風はため息をついた。
「僕は、ついていけばいいですか?」
話がわかるらしい。
「そ。黙って言うことを聞けば、命は残る」
「信じますからね」
私は深く頷いた。
「誰も死なない。死なせない」
“ダンジョン”第44層ボス【寄生オーガ】。
多くの犠牲者を出した最悪のボスが取り付いた、〈暗所街〉の元王、グラスギルド。
負けられない。
問題はレイヴィスなし、リヴァドラムなしのこの状況でどうやってグラスギルドから寄生オーガを引き離して討伐するのか、だ。
アルマッティもいないし…………。
「レオ、寄生オーガがどうやって分離したのか覚えてない?」
「悪いな。だが、何かしらの条件はあるはずだろ」
「戦いながら探すか……」
疾風が目を丸くした。
「んな、悠長な」
「もしくは」
私はメンバーを見回す。
「グラスギルドは諦める」
「確かに、逃げられたら面倒だな」
「最も警戒するべきことを忘れてますよ」
琴音が呆れたように呟く。
「私たちは寄生されないようにしないと。前衛は必ず私の【神秘ノ光】を」
「あっ!!」
オルトが小さな叫び声を上げる。
「何?」
「【リセット】で、状態異常を解除できないか?」
全員が表情を明るくして琴音を見る。
「盲点だった。おそらく、可能です」
つまり、最初のミッションは。
「よしっ。琴音を死守しながらグラスギルドまで連れて行くよ!」
全員が頷く。
【リセット】後に、グラスギルドが襲ってこなければいいのだけど………。
☆☆☆
『ねえ、冒険者さん』
『ねえ、どうして、嘘をついてるの?』
カナはすっと目を開けた。
知らない天井だ。
カナはポケットに手を突っ込んでため息をつく。大丈夫。バレるわけがない。
「パーミア?」
そこで、カナはあることに気づいた。
パーミアがいない。
「デミヒューマの子供なら連れて行かれたぞ」
「っ!?」
気づかなかった。同じ檻に、敵がいたとは。
確か、コイツの名前は……。
「ジャズ」
「ああ。久しぶりだな、死霊術師のカナ・ブラック」
カナはポケットに手を突っ込む。
「貴様は、なぜそんな格好をしている? 何を隠している? 俺は鼻が良いんだ」
「あたしは、何も隠してなんかいない」
それはただ、目に見えないだけだ。
「それより、パーミアは」
「あのガキは今頃あの獣の餌になってるだろうよ」
カナは立ち上がる。
早く助けなくては、手遅れになる前に。
「どこに行く気だ?」
「助けないと!」
「なぜ?」
ジャズは真っ直ぐカナを見つめる。
「誰も信じていない貴様に、誰かを助けることなどできるわけがない」
「違う、あたしは」
『私を、連れてって。独りにしないで』
カナはもう一度座り込む。
死ぬわけにはいかない。
「嘘だらけの貴様には、誰も救えない」
「あたしは、この生き方しか知らない」
「そうだな。俺もだ」
ジャズは、前脚を差し出す。
「詐欺師同士、仲良くしねぇか? お前さぁ、…………だよな?」
カナは無表情でジャズを見つめる。
「のった」
☆☆☆
パーミアは恐怖で震えていた。
「俺は鼻が良いんだよ」
バルハッドは涎を垂らしながら呟く。
「お前の連れの冒険者。アレは、俺には食えない。俺は女しか食わないからな」
「…………え?」
今、なんと言った。
女しか食わない?
「嘘、カナさんが? なんで?」
声は高く、身体は華奢で………。
そもそも、誰も疑っていなかった。
「気味が悪いなぁ? 味方まで騙して。とんだクソ野郎だ」
バルハッドは大きな口を開ける。
「そこまでです!」
バルハッドの身体が揺らぐ。
何者かの攻撃。その正体は、一人の少女。
「危なかったね」
そして、エルフ。
見たことないほど、強大な魔力。
そこでバルハッドは老獣たちの言葉を思い出す。
『決して、レイヴィスとことを構えてはならない』
自分は破滅への一歩を踏み出してしまった。
しかし、降参だけはプライドが許さない。
「侵入者だぁあ!! 殺せぇええええ!!!!」
少女が不快そうに顔を歪める。
隣の森林蜥蜴人は面白そうに目を細めた。
「僕らは雑魚の殲滅でいいのかな、我らが神よ」
「その呼び方やめてくれない? 私は神でも仏でもないんだから」
「仰せのままに」
バルハッドは恐怖で高鳴る鼓動を抑える。
そして、とある死霊に目を止めた。
「貴様の主人ならば、地下牢だぞ。嘘つきの、主人を持つ愚かな死霊よ」
死霊は「キシャァアア」と鋭く鳴いた。
レイヴィスは目を見開く。
「ちょっ、まっ」
次の瞬間、バルハッドの身体に穴が空いた。
目に見えない攻撃。放ったのは。
「カイモ、何してるの!?」
カイモは怒りのこもった雄叫びを上げる。
バルハッドはたった一体の死霊によって殺された。
戦いの火蓋はすでにきられた。




