61話 攻略庁ダンジョン
お陰様で日間ランキングにのりました!
ありがとうございます!
「アルマッティ」
糸部咲撫が心配そうに声をかけた。
「なんでしょう」
「大丈夫?」
アルマッティは静かに頷く。
「オルト。“二周目のサバイバー”が来たらどうする?」
「来ないと思う」
オルトは鉄パイプを手に持った。
「アルマッティを確実に殺したいのなら、人間は来ない」
「そうだね。人間の情報は【アーカイブ】に入ってるわけだし。見たことない奴とか、【アーカイブ】を手に入れる前に会った奴とかが来ると思う………思います」
琴音がすぐに口調を直した。
咲撫は気にするなというように手を軽く振ると、携帯を取り出した。
「うーん、やっぱ圏外だ。配信もできないみたい」
そして、壁にある監視カメラを見て、細い目をさらに細めた。
「でも、多分あそこから配信されてるよ?」
「皆さん、ARマシンは?」
「ねぇよ」
「ありません」
「手元にはないかな」
「ですよね」
アルマッティは悲しそうにポケットを見る。
「エルゥラも、どこかに行きましたし」
「どうするの?」
「信じます」
アルマッティは監視カメラを見た。
「ナイトメアを、待ちます」
☆☆☆
私は突然かかって来た電話に飛び上がった。
そこには先日名刺交換をした攻略庁の古沢恒星の文字があった。
「は、はい」
『哀奈………じゃ、ねぇな。工藤! 攻略庁がダンジョン化した! 今すぐ応援に来てくれ!!』
私は何か嫌な予感がしてスピーカーにする。
「だ、誰?」
『太陽だ! 憶えてないか!?』
「もしかして、討伐組合の?」
レイヴィスがボソリと呟いた。
それを聞いて安心したように恒星が叫ぶ。
『エルフもいんのか! すぐに応援に来てくれ!!』
「攻略庁がダンジョン化したってことは、そこに誰かいるの?」
『いるよ! ナデシコも、アルマッティも、オルトも、琴音も、皆んな中にいる! 俺が現場から帰って来たらもう』
そこからのレイヴィスは早かった。
すぐにイクスタに合図を送り、黙って聞き耳を立てていた討伐組合の面々に合図した。
まず、オラシルとシャラ、そして、レイチェルが立ち上がった。
次に、料理担当の元奴隷のパーミアがさっと剣銃を持って来て支度を始めた。
他のメンバーは静かに周りを見て、何もしない。
居残り組だ。目配せだけでこれを決めた。
「妥当な判断だ。合格」
パーミアは小さな体を揺らしながら、私にポーションを渡す。
「お守りです」
「あ、ありがとう」
何のポーションだろう?
「アスファは待機。まだ、隠しておきたい」
「大丈夫か?」
「私を誰だと思ってるの」
アスファは黙ってオラシルを見つめる。オラシルは「了解」と頷くとニヤニヤしながらレイヴィスを見た。
「黙れ」と、何も言っていないオラシルにそう言うとレイヴィスは私達を見た。
「早く」
「あ、うん」
ゼールとロア、それからリヴァドラムが動き出す。
「急ごう」
「【ワープ】するよ」
「はい!」
攻略庁前には、多くのメディアがいた。
あ、これまっずい。
【ワープ】して現れたS級冒険者に顔を明るくした野次馬達はすぐに隣にいる化け物を見て悲鳴をあげた。
長耳の人間、黒い不気味なドッペルゲンガー、デカい蜂。
「工藤優希!」
恒星が走って来た。
彼以外、誰も近づこうとはしない。
「助けに来たぜ」
オラシルが自信ありげに言う。
私はメディアを見て、にこりと微笑む。周りの空気が少し緩んだ。
「レイチェル………。久しぶりだな」
「会エテ、嬉シイヨ」
「それで、状況はどうです?」
「パーミア? お前も来たのか?」
不安そうにレイヴィスを見た。
「大丈夫。スキルも優秀だし、オルトの弟子だったんでしょ」
「そうだが」
「で? 状況は?」
恒星は気を取り直して状況を伝える。
攻略庁は突然ダンジョン化したらしいが、野次馬の中には不審者を見た者いるらしい。
一階にいた人間は外に出て来たが、職員の何人かは既に攻略を始めており、その中にはオルト、琴音、アルマッティのA級冒険者もいる。
「そんで、ここが一番重要なんだが」
恒星は後頭部を掻く。
「響木奏を、見た奴がいる」
私はふうっとため息をついた。
「リヴァドラム、行こう」
「キュア」
リヴァドラムは頷く。あんなに懐いていたのに、敵対してもいいのだろうか。
「恒星さん、響木は私が倒します」
「無理だよ」
レイヴィスは冷静に言う。オラシルも頷いた。
「【ループ】に対処できないでしょ。響木は私とオルト、エルゥラが倒すから」
そして、チラリとリヴァドラムを見る。
「ユーキはリリスカルラとルシファーを」
「まあ」とレイヴィスは続ける。
「多分、雑魚しかいない」
☆☆☆
マロニエは驚愕した。
【黒ノ門】が開き、美しい龍が現れた。
「あー、しゃるるぅー」
その口から発せられたのは、拙い言葉。
「来たわね」
シャルルは満足そうにそれを見た。
「【黒ノ王】。どこへ行きますか?」
門は勝手に開いた。内側から、こじ開けたのだ。
この悪魔は、おそらく強い。
「これが、【黒ノ王】」
マロニエは気を取り直して悪魔を見つめた。
ひどく冷たい目で、悪魔はマロニエを見下ろした。
「だぁれぇ?」
「マロニエと申します。吸血王ザザバラの娘で、レイヴンズ様の協力者です」
「はじめましてぇ」
悪魔にしては恐ろしいほどに温厚だ。
「何をして来たの?」
「あかいおーさまを、あたらしくしたのぉー」
シャルルは真顔でマロニエを見た。
わかっただろう? この悪魔には逆らうな。
そう言ったように見えた。
「ねぇ、あるじさまに、あってもいいー?」
「もちろん。いってらっしゃい」
「悪魔が、それも【黒ノ王】が、レイヴィス様方に接触すれば、父上に反逆がバレますよ!!」
「だから、貴女も行くのよ」
マロニエは絶句する。
悪魔は誰だ?
嵌められたんだ。この悪魔と吸血鬼に。
「いっしょに、いこぉ?」
「は、はい」
マロニエを背に乗せると、悪魔は嬉しそうにシャルルを見た。
「いってきまぁーす!」
空を舞う悪魔はマロニエを気にするように呟いた。
「親子喧嘩?」
その落ち着いた声に、マロニエは恐怖をさらに大きくさせた。
「はい。喧嘩別れでした」
「親がいない子供だっている。主様が、そうだった」
悪魔は悲しそうに鳴いた。
「忘れられてないといいわね、お互い」
この悪魔は恐れている。
主人に拒絶されることを、何よりも恐れている。
悪魔とマロニエは同じだ。
「そうですね。叶うなら、もう一度」
あの大きな手で、頭を撫でてもらいたい。
あの細くて暖かい手で、抱きしめてもらいたい。
「貴女、強い?」
「はい。争い事は苦手ですけど」
「あたしも、それは嫌い」
意外だった。悪魔は戦闘狂がとにかく多いのに。
それに、彼女は【黒ノ王】だ。
「主様も、嫌いだった。泣きながら、本当は戦いたくない、終わりにしたいと言っていた」
〈人間街〉が近い。もう少しだ。
「それでも、彼女は戦い続けた。細くて細くて、いつ切れるかもわからない繋がりのために」
「わかる気がします」
マロニエも、ヴィーガに乗る皆んなといたい。役立たずと追い出されたくない。
「でも、それでも。主様は強かった。あたしの力は諸刃の剣。痛いものは痛いし、切れる縁なら切った方がいい」
【黒ノ王】の能力が何かはわからないが、おそらく。
「あたしは、主様のお側にいたい。けれど、傷ついて欲しくない。でも、それ以上に」
必要とされたい。
悪魔の中には葛藤がある。




