↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/88

57話 嘘つきとリーダー

 アルマッティは足音を立てて歩くオルトの後ろを黙って歩いていた。

 昔の泣き虫がどこかから出てきそうだ。


「アルマッティ」

「はい」

「悪魔と契約…………してたのか?」

「はい」

「いつだ?」

「一周目のちょうど今頃ですかね」

「じゃあ、【反転】と【ループ】で契約は解除されたんだよな?」


 アルマッティは言葉に詰まる。



     ☆☆☆



「けーやく、かいじょぉ、するのぉ?」


 どこか寂しそうにそう聞いた。


「契約の内容、忘れてないよね?」


 ナイトメアだけだ。ナイトメアの前でだけは、実衣は実衣のままでいられた。


「一人に、しないでよ」

「じゃあ、またぁ、あおーねぇー」


 ホッとしたように、悪魔はそう言った。

 その言葉が嬉しくて、実衣はそれだけで満足だった。



 それなのに、まだあの悪魔とは会えていないなんて。



     ☆☆☆



「さあ」


 オルトが拳を握る音が聞こえた。さすがに殴ってはこないだろう。

 そう思ってオルトを見ると、その目は驚くほど悲しそうに輝いていた。


「オルトには、関係のないことです」

「最初から、契約してたんだな。オレにも何も言わないで、ずっと、黙って………!」


 悪魔との契約は、一度契約すると例外的な場合を除いて解除されることはないと言われている。

 その理由は簡単だ。悪魔とする契約のほとんどは、絶対に叶わないものだからである。


 しかし、【反転】と【ループ】による時間の逆行により契約の解除が可能となった。

 アルマッティと悪魔の間には、強い絆があったと信じている。だから、悪魔は必ず戻って来ると信じている。

 だが、かつて使った契約書であるリトルゲッコーは本来の姿に戻ってしまった。つまり、魔法的意味を持った契約は解除されている。

 しかし、まだ残っている。


 とても、細くて硬い糸が一本だけ。


「切れない糸を、信じるのなら、わたくし達の間には確かに契約書があります」


 オルトを心配させまいと、アルマッティは努めて明るく言う。こんなのは、キャラじゃない。だけど、ずっと演じて来たんだ。

 大好きで、ずっと会いたかった姉のいる施設を抜けだして。

 それも全て、見えない糸に縋りたかったからだ。あの悪魔は証人なのだ。泣き虫だったアルマッティが強くなった。


「リトルゲッコーはもうじき、わたくしを殺しに来るでしょう」


 オルトが目を見開いた。


「一周目で、リトルゲッコーは一度も現れなかったぞ」

「当たり前でしょう。彼こそ、わたくしと悪魔の契約書なのですから」

「お前………マジかよ」


 アルマッティは目を細めた。


「月島実衣」

「は?」

「名前、教えたことなかったですよね」


 オルトの手のひらに、ゆっくりと指で文字を描いた。

 空には満月が輝いて、二人を静かに照らしている。


「名前を知っているのは、施設の人たちと、悪魔と、両親だけなんです」

「施設………?」

「リトルゲッコーとの戦いは、再び契約書を手に入れるか、復讐を成功させるかの戦いなんです」


 泣き虫で、弱虫だった自分はもういない。


「『死にたくない』だなんて、傲慢な言葉は、もう吐きません」


 アルマッティはそれだけ言うと、再び歩き始める。

 しかし、手を掴まれて立ち止まった。


「お前がそれを口にしなくても、オレは言うぞ」


 一度殺された相手に、再び一対一の戦いを挑む馬鹿はいない。

 リトルゲッコーは、“二周目のサバイバー”と攻めて来る。


 一周目の最後、アルマッティと悪魔は敵の本拠地に乗り込み、あらかじめ決めていた『脅威となりそうな堕天使』を魂ごと消し飛ばした。

 悪魔の力あってこそ、そして、アルマッティの捨て身の特攻あってこその作戦だった。

 結果、4体のボスを完全消滅させることに成功した。

 敵は予定していた【反転】と【ループ】を少しずらすはめになり、結果として、ユーキの覚醒とオルトとコトネの〈光天街〉入りを許した。


「お前に死なれたら困るんだよ」

「わたくしは、一周目でもう役目は果たしたつもりです」

「じゃあ、なんで【記憶保存】を使ったんだよ」

「悪魔を、一人にしたくなかったんです」


 ただ、それだけだ。

 だけど、いくら待っても悪魔はやって来なかった。


「来る」


 オルトは断言した。


「お前の悪魔は絶対に来る。お前、自分にもう少し正直になれよ。本当は、もっと命を救いたかったんだろ。本当は、もっと子供らしいことしたいんだろ。本当は、もっと泣いたり笑ったりしたいんだろ」


 アルマッティはオルトの手を振り解く。

 これ以上はよくない。泣き虫が戻って来てしまう。


「アルマッティ!」

()()()のことなんて、ほっといてよ! あたしの気持ちなんて、微塵もわかっちゃいないくせに!」

「はぁ!?」


 オルトは立ち尽くして、少女の後ろ姿を見送った。



     ☆☆☆



「ということが………ありまして……」


 オルトの話に私たちは大きなため息をついた。

 やばい、アルマッティさんが可哀想。


「ほんと、むかしっから不器用だよね」


 琴音だけは少し嬉しそうだった。自分に暴言を吐いた男がのそのそと戻って来たのは、さぞかし良い気分だろう。

 黒音って呼ぼうかな。


「でも、どうするんですか? アルマッティの言い分は多分正しい。リトルゲッコー達が、彼女を警戒する理由もわかりました」


 ゼールは冷静だな。よしよし。


 にしても、悪魔と契約した人なんて、私は知らないしなぁ。やっぱり、頼るべきはレイヴィスか、もしくは、悪魔のデザイアだろう。


「とにかく、オルトはアルマッティを追って! 琴音も一緒に行ってくれる?」

「もちろんです」

「ゼールとアスファは私と一緒に悪魔を探そう」

「あては?」

「デザイアなら、何か知ってるかもでしょ?」


 私はそう言うとオルトを見た。


「アルマッティの一人称、『あたし』だったんだけど……」


 すごく気になるけど、そういうのは琴音に任せよう。


「オルトは、どうしてアルマッティを仲間にしたの?」

「それは………」

「あるんでしょ。アルマッティを、失いたくない理由」


 私の声にオルトは静かに頷いた。

 そして、すぐに扉の方へ向かう。


「オレ、行くよ」

「では、私もこれで」


 私とゼールは顔を見合わせる。

 今回、“二周目のサバイバー”と初の直接対決になるかもしれない。



     ☆☆☆



「お前が?」


 実衣は一人で歩いていた。長く伸びた髪を一つにまとめて、町中に落ちている死体を集めて回っていた。


「お前が、葬儀屋のアルマッティ?」

「ある、まってぃー?」


 実衣は首を傾げた。


「死体を集めて、河原で燃やしてるんだろ? アンデットにならないように」

「確かに、そんなことはしてますけど……」


 年上に話しかけられるのは初めてだった。今までは冷やかしに来る小学生くらいしか相手はいなかった。


「これをやり出してどれくらい?」

「もう、2年になりますね。それが、何か?」

「“サバイバー”に何か言われないのか?」


 実衣はますます不信感を募らせた。しつこい男は嫌われると昔姉が言っていたが、まさにこのことだろう。


「いいえ。そのようなことは一度もありません」

「何で? アメリカの葬儀会社は潰されたって聞くぞ」

「それは、わたくしが………」


 実衣はため息をついて、男の手を引っ張った。


「力、強いな。細い割に」

「ここ」


 実衣は無表情で、自ら掘った穴を指差す。

 本来は、遺灰を捨てるための穴だ。そこには、先日仕留めた獲物が入っている。


「これ………」

「火龍の死体です。定期的にやってくる“サバイバー”の使いはこの程度ですよ」

「この、程度………?」

「お兄さん、裏町に行ったことは?」

「敵の総本山だぞ」

「そうですか。わたくしを何かに誘うおつもりなら、もう少しマシになってからにして下さい」


 実衣は再び死体運びを始める。

 もう、誰も冷やかしにも来ない。外を出ることを恐れる臆病者ばかりだ。どうせ、この男も。


「わかった」

「火龍の死体、もう一つ増えるかもだけど、いいな?」

「はい?」


 それから数日後、男は火龍とは違うものの、同じ強さのモンスターの死体を持って来た。

 彼からする血の匂いが、激しい戦闘の跡をしるしていた。


 実衣は悔しくてたまらなかった。

 彼は、自分よりも強い。臆病者は自分だ。

 革命のために、自ら動いている。受け身な自分とは大違いだ。


「“サバイバー”と“ダンジョン”ボスに復讐する。協力してくれ、葬儀屋のアルマッティ」

「考えさせてください。三日後に、お返事をします」

「わかった。オレはシムラトオル。お前は」

「………あなたに名乗る名前はありません」


 実衣はずっと、名前を隠してきた。

 自分の名前は、あまり好きではなかったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。