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49話 さよならの前に

メリークリスマス!

「楽しかったか? 俺らを騙して」


 哀奈(あいな)はアルスに向かってそっと口を開いた。


「楽しかったよ。皆んなと、素敵な冒険ができて」

「………………」

「嬉しかった。私の………宝物」


 アルスは、おそらく答えを知っていたのだろう。

 ただ気まずそうに目を逸らした。


「二周目は、また、仲良くしてね」

「俺は化け物と仲良くなんか………」


 哀奈は【勝利の剣】を差し出した。

 アルスは剣士だった。良いスキルもたくさん持っていた。きっと、哀奈よりも使いこなせる。

 少なくとも、覚醒前の哀奈よりは。


「約束の、証だからね」

「やめろ………。俺は、どうせ死ぬんだ」

「アルスが死んだら、私に返して。アルスの分まで、私、頑張るから」


 アルスは震える手で【勝利の剣】を掴むと、光る目を拭って走り出した。


「もうすぐ、はじまります」


 今まで無言でやり取りを見ていた女性が呟いた。


「そう言えば、誰?」

「アルマッティです」

「え?」


 老けた。

 それが一番の感想だろうか。

 彼女は血まみれだった。全て返り血だと思いたいが、彼女の激しく上下する肩がそれを否定している。


「ははは………皆んな、もうダメですね。でも、なんとかここまで来れたので、ミッションコンプリートです」


 悲しそうに、アルマッティは言う。

 彼女の肩に乗っていたカーバンクルが、嬉しそうに「チチッ」と鳴いた。どうやら、哀奈のことを憶えているらしい。


「彼女………エルゥラが【記憶保存】を施してくれます」


 あの時使われた【スキル結晶】の内容だ。

 哀奈は微かに息を呑む。やはり、あれは史実なのだ。


「聞いてくださいよ。私、ボスを4体も倒しました。このザマですけど………。オルトには敵いませんね」


 アルマッティは俯く。


「貴女が倒れてしばらくした後、オルトとコトネさんは旅立ちました」


 哀奈はハッと顔を上げる。


「それから、会ってません」


 〈光天街〉は哀奈がいた町だ。

 おそらく、そこまで行く手段は徒歩だろう。本当に辿り着けたのかもわからない。


「あ、おか………レイヴィスは?」

「彼女にも、その日から会っていません。世界中を旅して、同胞を集めてくださいました」


 どうやら、ムルルが伝言役としてしばしば討伐組合を訪れることはあっても、レイヴィス本人が帰って来ることはなかったそうだ。


「そう、なんだ………」

「大丈夫。また会えますよ」


 アルマッティはそっと哀奈の手を握る。


「また、会いましょう」

「本当に、会える?」

「はい。だから、頑張ってください」


 どこかから、鐘の音が聞こえた。

 アルマッティがそっと目を閉じる。


「エルゥラ」

「キュ?」

「また、私の相棒になってくれますか?」

「キュ!」


 カーバンクルは悲しそうに鳴くと、走り出した。

 遠くへ、遠くへ。まるで、何かから逃げるように。


「哀奈。どんな冒険を、したんですか?」


 鐘の音が大きくなっている。


「また会った時に、話すね」


 答えは返って来なかった。


「アルマッティさん?」


 隣を見るのが怖くなった。

 鐘の音が大きくなる。


 目を強く瞑った。







 《二周目》



「ここに集められた子供達で、神の創った“ダンジョン”へと挑んでもらう」


 目の前の天使はそう言った。

 工藤優希(くどうゆうき)は、恐怖に目を見開いて、隣にいる妹の手を強く握った。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん」


 泣き虫のはずの妹は、やけに自信満々に呟く。


「お姉ちゃんは、絶対生き残るから」

「わからないよ。大体、私は戦ったことなんてないし」


 すると、隣にいた年上の女の子が達者な日本語で言う。


「大丈夫! 一緒に頑張ろ! あたしはラビット、よろしくね」


 優希は少し楽になって頷く。


「私は工藤優希。はじめまして、ラビットさん」



     ☆☆☆



 レイヴィスは大きくなる鐘の音を静かに聞いていた。


「嫌だなー、この音はいつ聞いても慣れない」

「キュ!」


 やけに悲しそうなカーバンクルが、空間をこじ開けてレイヴィスの隣にやって来た。


「どうしたの?」

「キュー」


 何を言いたいのか、相変わらずわからない。

 これが、大昔は天界で一番聡明と言われた天使の末路なのだ。


「毎回、思うんだ。【ループ】の先にあの子達がいないか」


 つい、探してしまう。

 根本は同じはずなのに。新しい世界だからと、いないはずの影を探してしまう。


「私は、もう耐えられない………」

「キュ!」


 エルゥラが頬袋から何かを取り出した。

 それは、小さなブローチだった。



『お母さん! これ! 誕生日プレゼント!』

『なに、それ?』

『生まれたことに、感謝してね、お母さんが子供に渡すの!』



 当時は聞いたこともない風習だった。


 レイヴィスは勢いよく立ち上がった。


「う、そ…………」


 ブローチを握りしめる。

 ずっと昔のものだ。確か、ユーキはあれからずっとこれをつけていた。あの日も、つけていたのではなかったか?


「嘘だよね?」

「キュ」


 エルゥラが首を横に振る。


「なんで、今更」


 レイヴィスはエルゥラを抱きしめた。

 「チチッ」と嫌そうに鳴くわりには、大人しくしてくれた。


「アスファ………やっと、見つけたよ」


 なんとなく、全てを悟った。



 突然消えた双子と、前日に創った【スキル結晶】。

 街に現れるカーバンクルの噂と、見たこともない怪物の話。

 あの日、双子は間違えたのか。

 聡明なカーバンクルは、わざと双子を導いた。



「アンタ、まだ“知識の神”のパシリしてんの」

「キュ」


 エルゥラはようやく、レイヴィスの腕から抜け出すと、毛並みを整えた。

 そして、ゆっくりと頭を垂れた。


 鐘の音が大きくなっている。


「ありがとう」









 レイヴィスは、()()()()()()()()()()











 そして世界は巻き戻る。

これにて、第二章終了です!

次回から新章になります!

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