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番外編 オル琴配信&アルマッティ③

 闇の向こうへ消えて行ったオルトを眺めていた琴音は我に帰る。


「追いかけないと!」

「いってらっしゃい」

「ついて来てくれないんですか!?」


 アルマッティはふらふらと手を振った。


「アシストは任せてください。というか、オルト一人で十分ですよ、あんな雑魚」

「え、A級だって言ったじゃないですか!!」

「はい」


 アルマッティは笑みを深める。


「さあ」


 琴音はデッドクラックを見る。何か言ってくれるかもしれない。


「あー、頑張れー」


 琴音は涙目になってコメント欄を見た。



《アル様もデッドクラックも冷たいw》《マジでオルトが勝てるって思ってんの?》《無理だろ》《行くな、無駄死にするぞ》



 琴音は走り出す。

 その選択を否定するコメントに、琴音は答える。


「オルトは、幼馴染なんです。死なれたら、困ります」




 琴音は血まみれの通路を呆然と眺めて、意を決して歩き出した。


「オルト、どこ?」


 昔から、オルトは強かった。喧嘩も、心も。頭も良かったし、いつも琴音を引っ張ってくれた。

 しかし、いつの頃からか疎遠になった。

 思春期の異性の幼馴染では、よくあることだろう。だが、琴音には耐えられなかった。

 同じ高校に入れると知った時はとても喜んだ。

 冒険者にならないかと誘われた時は、もっと嬉しかった。


 オルトは相棒なのだ。



 人影が見えた。


「オルト!」

「うぁああああ!!!!」


 悲鳴が聞こえた。

 人影は二つ。倒れて悲鳴を上げる者。もう一人は、喰らう者。


「イーター………!?」


 道のりは一本だったはずだ。

 なのに、どうしてオルトと会わずに敵と会う? オルトが見逃すわけがないのに!


「まさか、迷宮型ダンジョン………!?」


 アルマッティ達と離れるのではなかった。

 これは、ベテランである二人が欺かれたことを意味する。



《誰か報告に行け》《マジかよ》《私行きます》《乙》《これ、琴音ちゃん大丈夫な感じか?》《正直ヤバい》



「見つけたァア! 美味そうなオンナァア!」


 琴音は杖を構える。

 元人間のイーターが走って来る。

 しかし、違和感がある。もしかして………。


「【リセット】!」


 黒いモヤモヤがイーターから離れた。

 すぐに、イーターが人形のように崩れ落ちた。ただの死体に戻ったのだ。


「【神秘ノ光】!」


 琴音に近づいてきたダンジョンボス“怨嗟の黒霧”を警戒してスキルを使う。

 もう一つのパッシブスキル【死線】は、アンデット系のモンスターには通用しない。

 完全に詰みだ。


「【エンチャント】!」


 光の弾丸が後方から飛んでくる。

 “怨嗟の黒霧”はどこかへ消えて行ってしまった。


「大丈夫ですか?」

「アルマッティさん………」


 デッドクラックがいない。

 もしかしたら、オルトを追って行ったのだろうか。


「迷宮型だと聞いて、急いで来ました」

「どうしてここが?」

「エルゥラは万能なので」

「キュ」


 肩に乗るカーバンクルが、誇らしげに鳴いた。


「それにしても、危なかったですね」

「助かりました」


 琴音はそう言うと、オルトを探そうと再び歩き始めた。

 アルマッティも黙って後ろを歩いて来る。


「私………オルトはもう少し慎重派だと思ってました」


 アルマッティはキョトンとした顔をしてふふふと笑った。


「格好つけたい年頃なんですよ」


 今度は琴音がキョトンとする番だった。

 何を言いたいのか理解して急に熱くなった。


「そそそそ、そんなんじゃないです!」



《お?恋バナか?》《恋バナナ》《美味そう》《オレらも食べたい》《もっとよこせ》《てか、琴音はやっぱオルト好きなの?》《こら》《黙って食べろ》



 琴音はコメント欄を横目で見ながら、ダンジョンの通路を歩いて行く。


「これじゃ、マッピング機能は役に立たないですね」

「申し訳ないです。せっかく教えた機能なのに」

「アルマッティさんは悪くないですよ」


 アルマッティは困ったようにARマシンを外した。冒険者にとってこれを外すことがどれだけ命知らずかは言うまでもない。

 琴音は注意しようと口を開くが、やめる。

 まるでそれが自然体だとでも言うように、真っ直ぐ前を見つめていた。


「琴音さん。時に人は、己だけを信じなくてはなりません」


 エルゥラが耳を激しく動かし、「チチッ!」と鳴くとアルマッティから降りて走り出した。

 まるで、何かが聞こえたかのように。


「ARマシンが壊れたなんてくだらない理由で死ぬ冒険者は、日本にはいりません」


 琴音は息を呑む。

 アルマッティは、ARマシンがなくても戦えるのか? クールタイムも、相手の体力予測値も、外部との連絡手段も、全て投げ捨てて?


「今すぐ外せとは言いませんが、A級に本気でなりたいと思うのなら、それを外す努力はしてください」


 そして、迷ったそぶりを見せてこう付け足す。


「オルトに追いつきたいと、思うのなら」


 そう言えば、今日のオルトはARマシンをつけていただろうか?



《まだ外さないで》《配信できないし》《ドローン撮影はいける》《一人称配信はマシンないと終わるやん》



「命の遣り取りで、リスナーに振り回されるのはよくないですよね」

「はい」


 琴音の呟きに、迷うことなく答える。


「行きましょう」


 まだ、これを外せない。外さない。

 これがなくては死んでしまうような弱い冒険者だからだ。いつか、もっと強くなったら………。


「オルトの居場所は、見当がありますか?」

「いえ。適当に歩くのも有りかと」

「なぜ?」


 迷宮型ダンジョンで適当に歩くのは自殺行為だ。子供でも知っている。


「ここのボスは徘徊型。場所がわかるデッドクラックはオルトの方へ行きましたし………。私達は、ボス討伐を諦めて生存者を探します」


 遠回しに、アンデット化した冒険者を殺そうと言っている。

 今後のためには、必要なことだろう。


「わかりました」


 琴音とて、B級だ。

 命の遣り取りには慣れたつもりでいる。

 最初は恐ろしく、一晩泣いて、食事もできないほどショックを受けたが、今では何とも思わない。

 オルトに言われたのだ。「弱い奴が悪いし、オレは琴音がアンデットになっても躊躇わない」と。

 少し悲しかったが、ありがたくもあった。オルトに殺されるのならという安心感もあった。

 だから、何も怖くない。


「大丈夫。貴女は強い」


 全て見透かしたようなアルマッティの発言にドキリとした。


「それに、わたくしもついています」


 そうだった。琴音の隣に立っているのは、工藤優希を除けば日本で一番強い冒険者だ。



  

     ☆☆☆



 デッドクラックと合流したオルトは、“怨嗟の黒霧”を求めて通路を歩いていた。


「ワープしてるな」

「ふざけろ。どうしたらいいんだよ」

「状態異常を不意打ちで喰らわすしかないな」


 オルトはため息をついた。手段ならある。


「よし、近づいて来たら合図くれ」

「何秒で仕留める?」

「10秒もいらねー」

「了解、リーダー」


 オルトは鉄パイプを片手に持った。

 勝負は一瞬だ。しかし、それを“怨嗟の黒霧”に勘付かれてはいけない。




「そろそろだ」

「了解」


 デッドクラックの合図とほぼ同時に、“怨嗟の黒霧”が現れた。すぐに逃げようとするボスに、オルトは走り出す。


「【雷鳴】!」


 “怨嗟の黒霧”の行動が止まる。

 オルトは続けてスキルを放つ。


「【貫通】!」

「【かまいたち】」


 オルトは“怨嗟の黒霧”を見て鼻を鳴らした。

 既に、体が崩れ始めている。


「この程度か?」

「コイツの【物理耐性】を全部無効にしたからだろ……」


 【貫通】は第一撃を必ず通常の威力で当てて、尚且つ、相手の防御系スキルやパッシブスキルを完全に破壊・無効化するスキルである。

 パッシブスキルを無効化した場合は、1日経たないと効果は復活しない。


「ふん」


 オルトはもう一度鼻を鳴らすと、ふと気づいたようにデッドクラックを見た。


「そう言えば、琴音は?」

「お前を追いかけて行ったぞ。多分、アルマッティが一緒」


 そこまで聞くと、オルトは既に走り出していた。

 デッドクラックはやれやれと首を振る。


「溺愛しすぎ……」



     ☆☆☆



 ダンジョンの入り口で、犠牲者の家族が涙を流していた。この光景は何度見ても慣れない。慣れたくない。


「お疲れ様でした」


 アルマッティが疲れた顔で近づいて来た。

 もう配信はしていない。

 アンデットになった冒険者も、迷子になっていた冒険者も全員回収が終わった。

 アルマッティは報告書の作成を手伝っていたはずだ。


 この後、お待ちかねの報酬金の配布になる。

 ボスを倒したデッドクラックとオルトが一番、アンデットの討伐に尽力した琴音たちのような冒険者が二番、生還した冒険者が三番。

 そして、犠牲者となった冒険者には『死亡手当』という特別報酬金が配布される。

 

「今回はスパチャもありましたし、ガッポガッポですよ」

「帰りはファミレスでも寄るかー」

「良いですね! もちろん、オルトの奢りで」

「はあ? お前も金貰うじゃん」

「いいじゃねぇか。男なら奢ってやんなよ」


 デッドクラックがだるそうに呟く。ダンジョンに潜ってボスを倒した人物とは思えない。


「仕方ねえな………」

「やった」


 琴音は奢られる嬉しさとは別の理由で口元を緩ませる。

 こう見えて、オルトは学校でもかなりの人気者だ。


「オルト、琴音さん、デッドクラック」


 アルマッティが紙を持ってやって来る。

 この紙に書かれた金額分だけ、口座に振り込まれているはずだ。


「20万か………安いな」

「私は10万ですよ。いいじゃないですか」

「命かけてる割に安いんだって話をだなぁ」


 そう。冒険者は儲かりそうで儲からない。命がけで戦う職業とはいえ、ダンジョンの外までモンスターが出てくるわけではない。

 故に、スポーツだの遊び感覚だので仕事をしている者が多い。ライバーという職業ができたのは、ダンジョン攻略の報酬金だけでは生活ができない者がいたからだ。


 B級以上はかなりの高額納税者だが、それは今回のように優先的にダンジョン攻略を行えるからである。

 おこぼれに授かるしかないC級以下は、副業や攻略庁から『一般依頼』などの体力任せの仕事を受けて生活している。


 冒険者一筋で食べて行くことはまず不可能なのだ。


「んじゃ、オレらファミレス行くわー。アルマッティもがんばー」

「………………え?」


 アルマッティはポカンと口を開けた。

 琴音はオルトに話しかけようとしたが、オルトは既に入り口にいた。いつのまにあの距離を移動したのだろう。


「あ、アルマッティさ」

「早く行って」


 アルマッティは苦笑した。


「ほら、早く」


 怒ってはいないようだ。

 琴音は走り出す。

 ダンジョンの入り口には、未だに泣き声が響いている。


「行くぞ」

「うん!」


 そこに二つの声がこだました。

 冒険者の世界では、強い者が正義だ。

今年最後の投稿です!次回から新章になります!

良いお年を!

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