50話 小竜の不思議
新章開幕です。今年も頑張ります。
私たちはようやく、裏町にやって来た。
見慣れた〈暗所街〉に見慣れた面子が揃っている。
スライムの宇宙、ドワーフの情報屋クル、神速鳥のムルル、イーターのオラシル、ドッペルゲンガーのレイチェル、猫又のレイラ、蟲王シャラ……………。
「レイヴィス…………」
私の大好きなエルフは、私をしばらく真顔で眺めていた。それから、ふっと笑って手を伸ばした。
「大きくなったね、ユーキ」
涙が溢れてくる。
ギョッとしたようにオルトが私とレイヴィスを見比べた。それを琴音が叩いていた。ゼールが呆れ顔で二人を眺めている。
「ごめん、レイヴィス………。勝手にいなくなってごめん」
「いいよ。ちゃんと戻って来たじゃない」
すると、私の肩がトントンと叩かれた。
振り向くと不思議そうな顔をしているリヴァドラムがいた。
「あ、そっか」
私はリヴァドラムを抱き上げてレイヴィスに見せる。
「見て。私の相棒のリヴァドラム」
「キュア!」
「反転小竜………?」
のそのそと隣までやって来たオラシルが興味深そうに呟いた。
「そう。可愛いでしょ?」
「コイツ、めっちゃデカくなるんだぞ」
当たり前だろ、あの反転竜から産まれて来たんだぞ。
オラシルを睨みつけた私を、レイヴィスが呆れたように見つめた。
「そうカッカしないの」
「オラシルが変なこと言うから………」
私はそう呟くと、琴音たちの方を見た。
討伐組合時代の仲間たちとの再会を、彼らなりに喜んでいる。
「そう言えば、アルマッティさんは?」
琴音、オルト、ゼールの目線が私に集中する。
これはそう。「嘘だろ」と目が語っていた。
「あの………S級認定書、読みました?」
「あの政府のお偉いさんから送られてきたふざけた文章?」
「…………はい」
私は首を傾げる。
「太陽もナデシコもデッドクラックもいないし」
「……………半分にはもう会ってるはずだが」
「え!?」
ゼールは無言の圧をかけてくる。「お前、マジか」と。
というか、ゼールって誰だ?
「ゼールって一周目で会ってないよね?」
「優希さんの妹にしか会ってません」
レイヴィスが不安そうに私を見たが、何も言わなかった。
麗華に会ったのなら、コイツは敵なんじゃないのか?
「ゼールとは〈光天街〉で会った」
「麗華さんとも、そこでお会いしました」
死者の魂の集まる場所。つまり、死んだ後の麗華か。
リヴァドラムは不思議そうにはじめましての面々を眺めている。
「ユーキ。リヴァドラムは【反転】を使える?」
「そりゃ、反転竜だし」
「これからは、自分にも使えるからね」
はて?
私に使える………はっ!?
「【反転】したらエルダーリッチに!?」
マジ? ラッキー。
「リヴァドラム! ありがとう!!」
「キュア」
「よくわかってないけど、いいよー」みたいな顔で返事された。可愛いから許す。
「レイヴィス達はこれからどうするの?」
「しばらくはここにいるよ。別働隊はヴィーガを探す予定」
「別働隊でーす」
討伐組合の悪魔族のデザイアと森林蜥蜴人のトディンが手を振る。
この二人? 不安しかない。
「討伐組合は顔が割れてないから、かなり便利なんだよ」
レイヴィスはそう言うけど、リュカラとかアガツルとかでもいい気が………。
「駄目だよ。堕天使組は一周目で散々に暴れたんだから」
私がいない間に何してるの?
「でも一番警戒されてるのはアルマッティだよね」
「だよね」「だよね」じゃねーよ!!!
私がいない間に何してるの!?
アルマッティさん、一周目はただの人間だったでしょ!
「じゃあ、私達は普通にしてていいの?」
「普通にしてろ」
オラシルが得意気に言う。
「ちなみに、“ダンジョン”ボスはちゃんと仲間にできてるの?」
「そこはバッチリだ」
よしっ!
“二周目のサバイバー”陣営の戦力は完璧にはわかってないからな。スパイとかいんのかな?
「しばらくはここにいるかな」
琴音たちを見たら嬉しそうに頷いたので、そうすることにした。
〈暗所街〉の宿屋にて、私はベッドに腰を下ろしてため息をついた。
今頃琴音達は昔の仲間と今を語らっているんだろう。
「入るよ」
入ってから言わないでほしい。
私はレイヴィスを見つめた。リヴァドラムは私の隣に丸まって眠っている。
「いつ気づいたの?」
「エルゥラが、教えてくれたんだ」
少し意外だった。
お母さんなら、もっと早くに気づいていてもおかしくはないと思っていたから。
「ユーキはハーフエルフだよ。ハーフエルフの寿命は、どちらの親の血が濃いかに左右される」
私は裏町に入ると同時に長く伸びてしまった耳にそっと触れる。レイヴィスと比べてもあまり違いはない。
きっと、エルフの血が濃いんだ。
「生きているかもと信じて、何年も何十年も、何百年も探して旅をしたよ」
いるはずなんてない。だって、私もレイカも遠い未来に連れて行かれた。そして、世界の記憶を書き換えた。
工藤優希という人間が、これから行うことを見越して。
「世界の端から端まで探したけど、見つからなかった。だから、もう死んだんだって思った」
「ごめんなさい」
私もレイカも大切にされていた。
見たこともない笑顔と愛情を当たり前のように受け取って、父親がいなくて大変だろうに、私達を育ててくれた。
「哀奈に会った時は、少し似てるって思ったけど。記憶が違うから、他人のそら似だと思った」
私が覚えていたのは“ダンジョン”の記憶だけだったし、レイヴィスのことを一度も母親として認識しなかった。
あの頃は自らの【記憶操作】にかかっていたから仕方ない。
私を送ったラグナロクも、それを込みで…………ん?
「ラグナロクって、スキル効かない?」
「今更だけど、うん」
「どうして?」
「天使統括だから」
「レイヴィスよりも強い?」
「え………、私の方が強いよ」
「え?」
「え?」
「今更だけど、レイヴィスって堕天使だよね」
「違います」
即答だった。
嘘だよ! あんなにユニークスキル持ってて、レベルも高いし、色々なこと知ってるし、堕天使にも命令できるし、神様にも知り合い多そうなのに堕天使じゃない!?
「お父さんのコネか」
「知りもしないお父様のことをなんだと思ってるの……」
私の物理面の強さってお父さんの遺伝だと思うんだよね。レイヴィスって剣術とかあまり得意じゃなさそうだし。
「いつかわかるよ」
「けち………」
「うるさい」
窓の外を見る。
〈暗所街〉は一日中暗い場所だけど、街灯やら建物からの光やらでいつも明るい場所でもある。
裏町を全て回ったわけではないけど、この街が特殊だということはわかる。
「星………見えないね」
「見に行くといい」
レイヴィスは当然のように呟いた。
「いいとこ、知ってる」
☆☆☆
リヴァドラムは夢を見ていた。
親の顔は知らない。
知りたくもない。
親の話をするとき、あるじ様から微かに怒りの匂いがするのだ。
それが嫌だった。
親のせいで、あるじ様から嫌われるのは嫌だった。
これは、あるじ様から嫌われる夢だ。
「キュアァア」
かまって欲しくて甘えても、あるじ様はこっちを見てくれない。
後から仲良くなった人間や異形と楽しげに話している。
リヴァドラムの方が、先に仲良くなったのに。
リヴァドラムよりもあるじ様と仲良くしていいのは、れおとたーしゃとめいゆいとかなだけなのに!
「グルルル………」
口から聞いたこともない唸り声が聞こえた。
「リヴァドラム? 大丈夫?」
リヴァドラムはすっと目を覚ました。
心配そうにあるじ様がこちらを見ている。
隣には、あるじ様と似た匂いのエルフがいた。
「キュア………」
「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
頭を撫でてくれる。
リヴァドラムは、あるじ様が好きだ。
だから、あるじ様を困らせるかなでのことはもう嫌いだ。
「その反転小竜………思ったより従順なんだね」
「リヴァドラムは甘えん坊なだけだよ」
「ちょっと失礼」
「ギャ!!」
「何してるの!?」
変なところを触られた。
すぐに離してもらえたが、すごく不快だ。
だけど、あるじ様と似た匂いだから我慢する。
「普通だったら噛み付くよ」
「何を………」
「反転竜の雄って、誰かの下につかないよ」
「おす?」
「キュア?」
リヴァドラムは首を傾げる。
「反転竜は最強のドラゴンだけど、なんでか知ってる?」
「確かに、名前のわりに知名度低いよね」
「それは、大人になる前に殺されるからだよ」
エルフはリヴァドラムの頭を撫でる。
気持ちよくて思わず甘えてしまう。
「大人になると、反転竜は大量のスキルを取得して同時に称号をいくつも持つ。その中に、アレがあるんだ」
「アレって、私も持ってるアレ?」
「そうそう」
リヴァドラムはエルフの膝の上によじ登る。
いい匂いだ。やっぱり落ち着く。
「【天敵】の称号。反転竜ってのは、天使や神を殺せる唯一のモンスターなの」
その理由は単純だ。
聖と魔を自在に操り、場合に応じて使いわける高い知能を有する。
そしてただのモンスターにしては珍しく、会話が可能である。
「コイツ、早く大きくならないかな………」
「コイツじゃなくて、リヴァドラム!」
リヴァドラムは目を細めて、あるじ様の膝の上に座る。
やはり、ここが一番落ち着く。
ここが、リヴァドラムの居場所だ。
「大きくなったら乗せてもらい?」
「余計なお世話!」
大体、リヴァドラムが大きくなる頃には………って、私はハーフエルフだった。なるほど、割とずっと一緒なのか。
そんな私を見て、レイヴィスは得意気に笑う。
「なるほど、男の上に乗ったことないでしょ」
「当たり前だろバカ!」




