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48話 予約特典は最強です?

「いらっしゃいませー!」


 ゼールとレイカに案内されるままに来た扉を開けて、すぐにコトネが扉を閉めた。

 チラリと黒いフードの人間らしき異形と、黒い狼系モンスター、それから金髪碧眼の天使がいた………ように見えた。


「入らないの?」

「ちょっといいかなゼールくん」


 コトネがゼールに詰め寄る様は、歳下を逆ナンパする熟女のようだ………とオルトが考えていると睨まれた。


「あの天使は、ふざけているのかな?」

「人間が好きらしい」

「じゃあ、なんでアルバイトが着てるみたいなエプロン姿で第一声が『いらっしゃいませ』なのかな?」

「さあ」


 ゼールは扉を再び開けようとドアノブに手をかける。

 嫌そうに顔を顰めたものの、これ以上時間をとるのはまずいと思ったのか何も言わずにコトネは引き下がった。


「もどってらっしゃいませー!」

「やっぱ駄目だよこの天使。一旦殺して人員交代してもらおう」

「天国行けないぞ、お前」

「一緒に堕ちてくれるよね、オルト」

「うん、まあ。それはもちろんなんだけどさ、無意味なことで堕ちるは嫌だよ、俺」


 そんなやり取りをみて、ラグナロクはクスクスと笑う。


「ごめん、ちょっとからかいたくなって」

「一回だけ許すよ」

「ありがとう」


 そう言って、ラグナロクはふうとため息をついた。


「さてと、早速本題に入りましょうか」





 オルトは無言で座る。

 扉の向こう側の内装はオシャレなカフェのようになっていて、店員姿のラグナロクが、カウンターに。

 フェリル、ゼール、オルト、コトネが椅子に。

 そして、麗華はなぜかオルトの膝の上に座っている。

 コトネがやけに麗華を座らせたがっていたのだが、そんなに子供好きだっただろうか。いや、彼女が子供好きなら、自分の膝の上に座らせればいいではないか。


「君たちの目的はフェリルから聞いたわ」

「はい」


 歳を取ったコトネは、中年のおばさんのようにサバサバしており、何でもかんでも知りたがる。

 それなのに、若々しく、少しではあるがユーモアもある。

 彼女の中で、歳を取ることへの恐れがあるのかもしれない。


「フェリルから聞いていたんなら、私達が何十年もかけてここまで来る必要はなかったんじゃないかな?」

「確かに」


 オルトも呟く。

 自分も少しだが、思ったことだ。


「それは、あなたたち3人に特典を渡すための方便よ」

「特典?」


 首を傾げたオルトを見て、コトネはわかったように聞いた。

 ニヤニヤしながらこちらを見ている。ほんと、できた嫁だ。


「スキルをいくつか選んで欲しいの。選べるスキルの数だけど相談して決めて欲しい。これは、神からの命令だから勘弁してね」

「はい」

「スキルの数が3、4、5。誰が何個のスキルを取るかを、決めて欲しい」


 オルトはコトネを見た。

 こういうことには、ずば抜けている。


「まずは、一番強いオルトが5つ選ぶべきだよ。【記憶保存】もあるし、敵を出し抜くための手数は多い方がいい」

「了解」

「ゼール。君のことはよく知らないけど、戦闘スタイルに決まりはあるのかな?」

「残念ながら、これといってないよ。僕は雑用係だったから」

「なるほどね。じゃあ、君には戦闘寄りのスキルよりも、生存にとにかく長けたスキルを選んで欲しい。君が4つ取ってくれ」

「理由を聞いても?」

「敵は強力なスキルをいくつも持っているけど、全て避けて生存すればいい。君はオルトの真横で全ての攻撃を捌いて欲しい」

「ゲームでいうとこの、回避盾ってことか?」


 オルトは納得する。

 確かに、小柄であまり筋肉質とは言い難いゼールには、どっしり構えるタンクよりも回避に専念するタイプのタンクがお似合いだ。


「私はサポート。後ろから、状態異常とあとは自衛手段くらいは持たせてもらうよ。哀奈(あいな)と合流する前に死んだら本末転倒だからね」


 オルトとゼールは頷いた。


「じゃあ、選んで」




 オルトはぱっと見で、【追撃】と【貫通】を選んだ。

 これは、【神速】持ちのオルトならファーストアタックである程度の敵は殺せるだろうと判断したからだ。

 二周目の武器も鉄パイプなら、【カスタム】も悪くないが、それは哀奈に任せればいい。


 そもそも、オルトは【記憶保存】を隠さなくてはならないことに気づいた。


「ラグナロク。ステータス隠蔽系のスキルはあるか?」

「もちろん。この【詐欺】というスキルよ。【詐欺】はステータスにも載らないスキルだから、使えると思う」

「ははは。正直者のオルトが【詐欺】だなんて、笑える冗談だね」


 棒読みで笑われた。


「軽口叩いてないで、さっさと選べ」

「もう選んだよ」


 そう言ってステータス画面を見せて来る。


「【神秘ノ光】【死線】【リセット】? 弱そ」

「いいえ、良い判断だと思うわ」


 ラグナロクのお墨付きをもらい、勝ち誇ったようにオルトを見た。オルトは舌打ちをして、ラグナロクに向き直る。


「この女を屈服させるスキルはあるか?」

「ベッドの上で張り倒せば?」

「曲がりなりにも天使ならそんなことは言うな。あと、それはやった。効果が続くのは起きるまでだ」


 ゼールが引き攣った顔でとあるスキルを指差した。


「【金縛り】なんての、ありますよ。敵が一定時間動かなくなるそうです」

「“敵”が、動かなくなるんだね?」

「はい」


 コトネは安心したように笑った。


「それなら、もっと応用の効くスキルがあるはずだ。例えばこの………【雷鳴】というスキル」


 雷を当てて、相手を一定時間【麻痺状態】にする。

 攻撃は、必ず当たる。


「それ、二周目スキルよ。目の付け所がいいわね、お客さん」

「二周目スキル?」

「二周目の人間しか使えないスキルのこと。なんらかの形で一周目の記憶を持ち込めた者が使えるスキルよ」


 オルトは無言でそのスキルを選ぶ。

 残るは一つだ。


「【攻撃力アップ】。これしかないな」

「パッシブですけど、効果薄いですよ?」


 ゼールの声に、コトネが笑う。


「オルトは二周目の人間だよ。鍛えてスキルアップでもするんだろう」

「これを得たら、もう二度とスキルは得られないのか?」


 ラグナロクはしばらく黙っていた。

 答えにくいことでも聞いただろうか。


「いや、そんなことはないわ」

「わかった。方法は聞かない」

「ありがとう」


 ラグナロクはほっとしたように言った。

 オルトは紅茶を優雅に飲んでいたフェリルにも声をかけた。


「ありがとう。俺たちをここに連れて来てくれて」

「………別に。あの道のりだったから、君たちの力だと思う。正直、ここまで来れるか半々だったから」


 コトネは「あり得ない」と言うように肩をすくめた。

 彼女からしたら、今回の任務はとても大切なものだったのだろう。


 どこかから、鐘の音がした。

 優しく響くその音は、世界の悲鳴にも聞こえた。


「そろそろ時間ね。私は“記憶の神様”からいただいた【記憶保存】があるけど、他の天使はそんなことないわ。それから、堕天使の多くはレイヴィスにより味方になった」


 ラグナロクは寂しそうに笑った。


「しばらくお別れ。せっかく会えたのに」

「私達は、普通なら決して出会わなかった。また会えるんだ、そこまで悲しむことはないよ」


 コトネはいつもの調子で言う。

 しかし、こちらを見たコトネは悲しそうに呟いた。


「また、元の関係に戻るんだね。お互いの気持ちを知らないままだったあの頃に」

「俺がなんとかするよ」

「信じてる。今度は、哀奈と、ゼールと、皆んなで心躍る冒険をしよう」


 コトネは小指を差し出す。


「約束だよ」

「ああ」


 鐘の音が大きくなっている。

 ゼールもどうやら、フェリルとの別れを告げたらしい。


「それから、オルト。浮気したら殺すからね」


 最後の恐ろしいことを言い残すと、目の前が光に包まれ、コトネの姿は見えなくなった。









 《二周目》



(とおる)! 何ボーッとしてんの! 学校遅れるわよ!」


 オルトはハッと目を見開いた。

 自分の姿が幼くなっている。


「母さん………」


 死んだはずの母親が苛立った顔でこちらを見てくる。

 カレンダーを見て、思わずニヤリと笑ってしまう。


「何がおかしいの、早く行きなさい!」

「わかったー」


 透は立ち上がった。


「行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」




「おはよう、音々(ねおん)ちゃん」


 彼女とは、幼稚園の頃から一緒で、下の名前で呼び合える仲だった。

 いつからだろう。いつのまにか透は音々を「琴村」と呼んでいた。それでも音々はずっと「透くん」と呼んでくれていた気がする。


「おはよう、透くん」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 そう言えば、自分から声をかけたのは久しぶりだ。


「ねえ、昨日のドラマ観た?」

「ごめん、知らない」

「観た方がいいよ! 恋愛ドラマなんだけどね」

「オレ、他人の恋愛興味ないよ」


 音々は頬を膨らませる。


「最終回の内容だけ教えて」

「もう! 透くんは女心がわかってない!」

「はいはい、ごめんごめん」


 透は内心で笑う。

 いつか絶対、からかってやろう。


「オレはもっぱら、冒険物が好きだよ」

「そんなことはどーでもいーの!」


 透はしばらく、音々との会話を楽しんだ。

 光の向こうに、彼女の涙が見えたから。

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