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39話 お社

 レイラの守るお社は、とても古臭いが綺麗に掃除されている。

 木の葉は一つもなく、小石までもが同じ大きさの丸い綺麗な石が敷き詰められているだけだ。

 近くの森も、規則正しく、土砂崩れが起きそうもない。


「レイラ、このお社には何がいるんだ?」

「村の人たち」


 オルトの質問に、レイラは寂しそうに呟いた。


「それから、あの人」


 レイラは身を翻してどこかへ歩いて行く。

 今日はもう姿を見ることはないだろう。


「あの堕天使をどう仲間にするか……」

「じゃあ!」


 哀奈は走り出す。オルトはため息をついて後に続いた。



     ☆☆☆



「ここか?」

「はい、ザザバラ」


 工藤麗華(くどうれいか)と吸血王ザザバラは舌打ちをした。


「あの小娘はこんなところを通ったのか?」

「はい。………ヴィーガの通った後もあります」

「ヴィーガめ。我らの邪魔ばかりしよって」

「何をしているの?」


 黒い猫又が木の上から声をかけた。

 その声は微かに震えている。レイラは元々、戦闘が好きな天使ではなかった。

 ユニークスキルも、戦闘向きではない。


「ここに、マロニエという小娘はこなかったか?」

「…………知らないわね」


 その瞬間、山の空気が震えた。

 ザザバラの瞳が怒りに燃えている。


「嘘を、ついただろ?」


 レイラが見事に着地した。


「嘘を司る天使が、嘘をつくとでも?」

「つくさ。貴様は昔から、嘘吐きだ」


 すうっと両者の目が細くなる。


「そうね。彼女はもう、ここにはいないわよ」

「そうか。なら、オルトと哀奈を出してもらおうか」

「断る。あの二人は、レイヴィス様からの預かりものだから」

「…………そうか。残念だ」


 殺し合いが、始まる。



     ☆☆☆



 哀奈はお社に花を置いて、手を合わせる。


「そんなんで、来てくれるのか」

「ほら、オルトも」

「はいはい」


 オルトはしゃがんで手を合わせた。


「お社の仏様、どうかあのカタブツ猫又を協力的にしてください」


 哀奈をチラリと見ると、こちらを睨みつけていた。

 オルトは肩をすくめる。


「レイラを、連れて行ってもいいですか?」


 風がザワザワと不審に揺れた。

 そして、突然、空気が震えて爆音が聞こえた。


「っ!」


 オルトが鉄パイプを掴んで身を翻そうとした。

 しかし、哀奈はそれを制する。


「待って!」

「なんでだ!」

「オルトは、スキルも何もないんだよ。大丈夫、私が行くから」


 オルトは険しい顔で哀奈を見つめた。


「お前は、行くな」

「私はオルトと違ってスキルもあるし、昔はほら、攻略者だったし………」


 哀奈は頬を緩めたが、遠目から見ても引き攣っているのがわかる。

 オルトは哀奈を真正面から見た。


「尚更行くな」

「なんで……」

「お前は、“サバイバー”じゃないからだ」


 哀奈はオルトを睨んだ。

 オルトは遠回しにこう言ったのだ。お前は、“ダンジョン”で死んだ、負けた側の人間だと。


「オルトより、マシだよ」

「お前は俺の何を知ってる? クソガキ」

「オルトだって、私のことなんにも知らないくせに! 私がどれだけ痛くて辛くて悲しくて!」


 怖かったのか、知らないくせに。


「レイヴィスが、言ってたんだ。一度死んだ人間は、死を克服できないって」


 オルトは哀奈を見つめる。


「俺は寛大だからな。例外を認めてやってもいい」

「……………」

「行くのか、行かないのか」

「……………行くよ。死ぬ気で」


 オルトがニヤリと笑う。


「んじゃ、スキルの解放でもしろ」

「へ?」

「種族的に、もっとスキル取れるだろ。レベル、今いくつだ?」

「この前見た時は、12だった」

「…………持ちスキルは」


 哀奈は正確に素早く、自分のスキルとその効果を説明する。

 オルトはお社の中を覗き込む。


「あるな」

「何が………」


 オルトはお社の前に跪いた。


「お力をお貸し下さい。その剣を、彼女に貸して下さい」


 扉が開いた。


「ここには昔、村があった。戦いの神を強く信仰したその村は危険分子として周りの村に焼かれた」


 オルトはお社の中から剣を取り出す。


「嘘を司る天使、レイラは村の人々を嘘で救おうとした。しかし、記憶の神はそれを許さなかった」


 【勝利の剣】それが、その剣の名前だ。


「騙された周辺の村人から、レイラの記憶を抹消し、再び戦争が起こった。記憶の神の狙いは、この剣だと言われている」


 哀奈がその剣を握る。

 手のひらがヒリヒリと痛む。【神聖】の属性なのだ。

 急いで【カスタム】を使い、属性を【死】へと変える。


「記憶の神には、未来が見えたらしい。堕天して、その力は失われたそうだが」


 感じる。

 この剣からは、死への恐怖が刻まれている。


「記憶の神は、この剣が必要だったんだ。今も村があれば、この剣の入手は困難になる」


 哀奈に、この剣を?

 だが、記憶の神など知らない。

 ここに哀奈を連れて来たのは、ただのエルフであるレイヴィスだけだ。


「レイラは、記憶の神に敵意をあらわにした。そんな彼女に、記憶の神はこう言ったそうだ」


 哀奈が、【勝利の剣】が、震える。


「『この剣で、堕天使を殺した勇者が現れたら、村人と同じところに送ってやる』」


 レイラは村人の誰かに、恋をしていたのだろうか。

 ここで、ずっと待っていたのだろうか。

 勇者が現れるのを。


「その剣を抜け」

「駄目だよ…………。私は、【聖剣】が使えない」

「スキルを、使え」


 哀奈は12レベルで取得できるスキルを探す。


「【鑑定】」


 オルトは満足そうに頷く。


「行くぞ」



《銘:【勝利の剣】

 ランク:神

 製作者:戦いの神

 レベル:---

 スキル:【水ノ剣】【炎ノ剣】【大地ノ剣】【死ノ剣】【毒ノ剣】【平和ノ剣】【氷ノ剣】【花ノ剣】【獣ノ剣】【大海ノ剣】【風ノ剣】【太陽ノ剣】【月ノ剣】【星ノ剣】【粘着ノ剣】【精霊ノ剣】【浄化ノ剣】【一撃ノ剣】【岩ノ剣】【光ノ剣】【闇ノ剣】【斬撃】【スラッシュ】【閃光剣】【聖剣】【投剣】【変形】【カスタム対応】【クールタイム短縮】

 称号:【勇者ノ剣】【スキル持ちの剣】【意志を持つ剣】【主を待つ者】【亡霊剣】》



 頭が少しズキズキする。

 哀奈はそっと、剣をなぞった。


「行くよ!」


 剣が震える。

 【聖剣】や【浄化ノ剣】は使えない。だが、これだけの手数があれば勝てる。

 何より、【カスタム】にクールタイムは存在しない。

 しかも、ほとんどのスキルのクールタイムは【聖剣】の10分よりも短い。


「オルト!」

「足、引っ張るなよ!」


 二つの影が飛び出す。

 レイラはすでに虫の息だった。


「【平和ノ剣】!!」


 【平和ノ剣】の属性は【無】である。

 故に、アンデットも使用可能だ。


 敵の殺意が少しだけやわらぎ、注意がこちらに向く。

 レイラが死ぬことだけは避けれた。


「【氷ノ剣】!」


 相手が目を見開く。


「【勝利の剣】!? 貴様、勇者か!?」


 レイラがうっすらと目を開けた。


「ああ…………神様。私は、やっと、逝けるのですね……」


 ザザバラの足元が固まる。


「哀奈!!」

「【カスタム】!」


 オルトの鉄パイプが【神聖】の属性へと変わる。


「まずっ!?」


 ザザバラが吹き飛ぶ。

 麗華が一歩下がった。


「【一撃ノ剣】!!」


 哀奈の目が微かに揺れる。

 「ごめん」口がそう動いた。


 血が飛び散る。

 オルトは起きあがろうとしているザザバラのところへ向かうともう一撃叩き込む。


「れい、か………」


 ザザバラの身体が崩れ始めた。


「同じところに、行けるといいな」

「許さないぞ、人間」


 オルトは鉄パイプを背負い治す。


「レイラ」


 猫又は起き上がる力もなかった。


「へいきよ。神様が、私を連れて行ってくれるでしょう」

「この剣、大事にする」

「ええ。ありがとう」


 レイラの身体が、ザザバラ同様に崩れ始めた。


「さよなら、レイラ」


 オルトは唯一形が残った麗華の死体を見下ろす。


「哀奈。埋めるぞ」

「………うん」




 小さな墓に手を合わせて、立ち上がる。


「それで、お前はどっから見てたんだ? 赤毛」


 見慣れない制服姿の吸血鬼が歩いて来る。


「私はマロニエ。言伝を預かって参りました」

一周目オルトは馬鹿強いです。ちなむと脳筋です。

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