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04

元々十分な暮らしではなかったのか、当家に移り住んだことにより、十分な食事が得られ、髪や肌の手入れに力を入れたのであろう。久しぶりに対面したエレノアは見違えるほど、美しい令嬢へと変化していた。


ブルネットの髪は艶があり、纏めている隙間から白いうなじが覗く。肌はみずみずしさを取り戻し、痩せ過ぎていた身体は、わずかに肉がつき、女性らしいカーブを描く様は男の欲をそそる。淡い金の瞳は、まるで宝石のように角度によって色を変えるようだ。知らなかった…。見惚れている俺にエレノアは気づく様子もない。


「サミュエル様、お待たせいたしました。本日はよろしくお願いします。」


そろそろ招待客も集まる頃だろう。エレノアと初めての夜会が始まる。開催者として十分な働きを見せ、客人たちに挨拶する姿は、初々しさを残しながらも堂に入っている。様々な表情を見せる彼女から目が離せず、客人に仲がよろしいこと、と言われる始末だった。


初めてのダンスは正直覚えていない。白く小さな手を握り、細い腰に腕を回すと、距離がグッと近くなり、彼女の整った顔立ちがよく見える。ほんのりといい香りがし、この香りを味わえるのは俺だけだと言うことに些か興奮を覚える。気もそぞろで、足を踏んだり踏まれたりはなかったが、うまくリードできたか怪しいものだ。


夜会は無事に終わり、評判も上々だ。翌日、エレノアを食事に誘い、共に昼食をとる。彼女がこの屋敷に来てから初めての試みだった。


「昨夜はご苦労であった。ゆっくりと休めたか?」

「お気遣いいただきありがとうございます。ゆっくりと休むことができました。」

「父母もエレノアのもてなしに感心していた。客人からの評判も良いようだし、素晴らしい出来だったと思う。改めて感謝するよ、ありがとう。」

「それはサミュエル様や皆様のおかげです!でも、お気に召したなら良かったです!大きな夜会で、それも開催者となるなんて、緊張と不安でいっぱいでしたの。それを聞いて安心しました。」

「緊張していたのか?堂々としていて、緊張していたように見えなかった。」

「フリですよ。サミュエル様とのダンスも、緊張しすぎて正直覚えていないんです。」

「はは、俺もだ。柄にもなく緊張したのか、よく覚えていない。」

「サミュエル様も緊張なさるのですか?ふふ、同じですね!」

「もし良ければ、このあと少しダンスを練習するか?お互い緊張しないように。」

「よろしいのですか?ダンスは苦手なので、練習に付き合っていただけるなんて嬉しいです!お願いします!」


俺は何を言っているんだろう。お互い緊張しないようにダンスを練習しようなど、建前もいいところだ。もう少し彼女に近づきたい。本音を隠し、気づかないフリをしないと、バイオレットに合わす顔がない。少し美しくなったことに気が動転しただけだと言い聞かす。


午後、早速ダンスの練習をする。練習なので、お互い簡素な格好だ。腰に手を回すと、柔らかい彼女に触れる。あ、そうか、コルセットをしていないよな。その柔らかさに、また気が動転する。やはり、この距離になると、彼女から漂う香りが俺を惑わせる。平静を装いリードするが、ロバートは含み笑いを浮かべており、その顔が腹立たしい。いや、1番腹立たしいのは自分自身だ。美しく、賢く、謙虚で、あどけなさを残しつつも色気を滲ますエレノアが、俺の心に入り込もうとしている。



ギリギリの時間までエレノアと過ごし、別荘へと戻る。あと数日、こちらでの生活だ。バイオレットと過ごせば、俺の心の迷いなど消えるだろう。そう思っていた。帰るとバイオレットはいつも以上に怒っていた。昨夜のことを聞きつけたようで、除け者にしたことに罵詈雑言が飛び、帰りが遅い、寂しい、もうここはつまらない、買い物がしたい、舞台に立ちたいと、ひとしきり文句を吐き出す。謝り、バイオレットの怒りを誤魔化そうとキスをするが、俺自身を誤魔化せなかったようで、その夜は疲れたと言って、早々に眠りについた。


楽しいはずのバイオレットとの時間に影が差し始めた。2人でいても、会話が噛み合わないことに気づき、あれ?何かが変わった?と思い返してみるが、何も変わったことはない。ただ、気づいただけだ。ため息を吐く回数が日毎増していく。屋敷ならばすることも多く、互いに構う時間も減るため、早く帰りたいのだが、両親たちと入れ違いにならなくてはいけないため、こちらの一存では動けない。それを知らないバイオレットが、帰りたいとごねるのも煩わしい。エレノアだったら…どんな反応をして、どんな風に過ごすのだろう。そう思わずにはいられなかった。


ようやく屋敷に戻ると、バイオレットはすぐさま外出し、俺はエレノアの顔を見に行く。お帰りなさいませ、と言うエレノアにささくれだっていた心が癒された。この頃より、少しずつエレノアとの時間が増えていった。


ある日、俺がいぬ間に、バイオレットがエレノアの元を訪ねたと報告を受けた。エレノアとの時間が増えれば、バイオレットとの時間が減り、不安に思うことは当たり前で、激情家の彼女が、どういう風にエレノアに接するかも想像がつくっていうのに、愚かにも俺はバイオレットへの配慮を怠っていた。


慌ててエレノアの元に謝罪に行くも、エレノアは目元を赤くし、自分との仲を疑って不安にお思いですから、気にしてあげてくださいと言う。なんだろう、モヤモヤする。俺とバイオレットの痴話喧嘩に巻き込まれても、この殊勝な態度が気に食わない。目元を赤くして…泣かされたのか心配になる。少しだけ触れてもいいだろうかと、頬に触れる。目が合うと、崩れそうになる理性に、総動員をかけて止めに入る。俺はエレノアにもっと触れたいと自覚する。


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