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毎夜、サミュエル様は訪れ私を抱く。いや、抱き潰す。潰されてしまっているので、オーレノアの仕事まで手が回らず、セシルはそちらにかかりっきりとなっているので、カーラに身の回りのことをやってもらう。カーラは、お2人が仲良さそうでようございます、と言って笑っているが、絶対に少しバカにしている。似ているのでわかる。
そんなに回数をこなせば、私の懐妊も早かった。妊娠が判明し、共寝はするが抱き潰されることはなくなった。お陰でオーレノアの仕事もすることができた。
妊娠とは不思議なもので、自分達の子がここにいるのかと思うと、サミュエル様のことも愛おしく思えた。
十月経ち無事出産を終える。愛しい我が子。ラファエルと名付けられた男の子は、サミュエル様によく似た美しい子であった。愛しくて、この子のためなら、火の中水の中飛び込めると思った。
母は私たちを捨てて、愛する人の元へと逃げたが、私や弟が生まれた時は、父を愛していたのではないかと思った。私たちを愛していたのは間違いないし、父のことも憎からず思っていたのだと今ならそう思えた。
ラファエルが生まれ、落ち着いた頃、私はかねてより計画していたことを実行に移す。
バイオレットが去った今、この契約自体が成り立たないのだが、サミュエル様は私が契約妻であることを忘れているような気がする。いくら愛を囁かれようと、この契約がある以上、どうしても信用できない。自分から契約破棄を言い出すのも違う気がするし、バイオレットの次に現れた私が物珍しいだけかもしれない。いずれにせよ、契約はまだ有効だ。
「サミュエル様、よろしいでしょうか。」
不安と恐怖で居ても立ってもいられないくらい緊張した。今まで積み上げた信頼が崩れるのは間違いない。そう思えるほど、サミュエル様の私を見る目は変わっていた。
意を決して、ラファエルが生まれたので、契約通り恋人(弟オーランド)を離れに住まわせたい、と。
オーランドの件を持ち出してから、サミュエル様の態度は変わった。時々苛立ちをぶつけてくる。それでも顔を見せてくれることは嬉しかった。私も自分で思っているより、この人を恋しいと思っているのだと気づく。
離れにオーランドを迎え入れると、2人で居場所を作ろうと泣いたことを思い出し、ロバートがいるにも関わらず、思わず抱きついてしまった。
その日は離れを案内するのみにとどめ、屋敷に戻る。私にも恋人がいたという事実に落胆し、小言を呈するロバートを無視する。私は、いつも通りサミュエル様とディナーをとり、いつも通りラファエルを寝かしつけ、いつも通り東棟で眠る。
その日の夜、サミュエル様は私の元にやってきた。2度と来ないかと思っていた。いつも通りサミュエル様に抱かれるための夜着を着たくせに。
招き入れると、今夜はあちらにいるのかと思った。と嫌味を言われた。意味を理解すると、恥ずかしくなり、尻軽だと思われたことが悲しくなり、顔を赤くして俯いた。
何がいけなかったのだろう。サミュエル様は荒々しく私の手を掴み、ソファへ押し倒す。こんな乱暴な扱いを受けるのは初めてで、名前を呼び、顔を見ると怒りが滲んでいる。怖くて涙ながらに訴えるも、止まらずソファでそのまま抱かれた。ぐったりしているとベッドに運んでくれる。優しくしないでほしい。サミュエル様はベッドには入らず去っていってしまった。胸に散るのは所有欲の跡。私はサミュエル様の心を傷つけたことを後悔し、1人で寝る寂しさから泣いた。
荒々しく抱いたあとから、サミュエル様の夜の訪れはなくなった。寂しい。サミュエル様は契約について、何も言い出さない。このあいだのことは置いといて、男児を生んだら、手を出さないと言う契約だって残っている。また愛人を作るつもりなのだろうか。考えると黒いものに心が覆われるため、いつも通りの生活を送り、忙しくし、考えないようにした。
ロバートは時々、離れに同行し、じっくり見ていると気づいたのだろう。私とオーランドが似ていることに。後日、恐る恐る事実関係を確認するロバートに、サミュエル様には言わないよう口止めする。
オーレノアの仕事が忙しくなり、セシルを私の世話から解放し、オーランドに付ける。離れでオーレノアの仕事を行ってもらうためだ。オーランドもようやく17歳になり、交渉ごとに顔を出しても、見た目で舐められることはなくなったため、商会長の座を私からオーランドに変更した。スタッフも増えたし、もう大丈夫であろう。
セシルがオーランドに付くため、カーラを私の専属とした。カーラは本当に優秀で、私の事情は概ね理解していたため、専属になるのをきっかけに全て説明した。
カーラは、弟だと打ち明けるべきだと言うが、こちらの事情で心を傷つけたのに、オーレノアが軌道に乗ったから、実は弟でしたー!って言うのは、虫がいい気がする。手遅れになる前に、打ち明けるべきなのはわかっているのだが、踏み切れなかった。
オーランドたちが商会長会議で家を開ける日、私は離れでドレスに刺繍を施していた。カーラが入れてくれたお茶を飲み、休憩していると、眠気に襲われ、時間になったら起こすからと言うカーラの言葉に甘え、少し横になることにした。
目が覚めると外は日が沈み、応接室には灯りがついている。カーラ?てか何時!?と慌てて時計を見ると、間もなく20時になるところで、ディナーの時間など既に終わっている。ラファエルだって待っている。
パニックに陥っていると、離れの入口が騒がしくなる。現れたのはサミュエル様で、明らかに怒っているため、更にパニックに陥る。
サミュエル様は怒りのまま、私の腕を掴む。痛い。私は謝るしかできず、言い訳も出てこなかった。すると、また離れの入口が騒がしくなり、次に現れたのはオーランドとセシルであった。
「あれ?まだいるのかな?姉さまー?ただいま帰りましたー。」
あぁ、オーランドは賢いのに…なんというまぬけなんだろう。




