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久しぶりに顔を合わせたサミュエル様は、私に驚いている様子だ。どこか変なのかと心配になったが、皆綺麗だと言ってくれたし、サミュエル様も遠回しに褒めてくれている気がするので、気にしないことにした。
サミュエル様とお客様をもてなしていると、時々サミュエル様の視線を感じる。そういう時は限って、仲がよろしいことと揶揄われた。少しくすぐったいが、仲良く見せることは悪いことではないし、サミュエル様の手付きと思われる方が私にとっても都合が良い。
父は金策で疲れたのか、少し痩せており、弟も義妹も金策のため、婚約に出されたと聞いた。弟は問題ないお相手のようだが、義妹は辺境伯様と婚約が結ばれたと聞いている。お相手が義妹を見初め要望したそうだ。爵位も上だし、借金を全額肩代わりしてくれるそうだから、伯爵家にとってこの上ないお相手だ。ただ、お年が40歳を超えていたはず…。見目も確か少し…豚のような…。コホン、失礼。どちらにせよ、断る術はない。もし私がまだ伯爵家にいたら、どうなったことかと思うと、あの時決断し、行動した自分を褒めたいと思った。
夜会もお陰様で問題なく終わり、翌日、サミュエル様に昼食に誘われる。誘いを受けるなど、この屋敷に来て初めてのことであった。
夜会でのことを褒められ、私は嬉しくなった。初めてであったし、同時にオーレノアの仕事をこなし、自分のドレスの刺繍もしていた。正直かなり頑張った。苦手なダンスについても、サミュエル様自ら練習に付き合ってくれ、時間を忘れ2人で踊った。私に少しずつ心を許してくれてるようで、私だけではなく、ロバートや侍女長も嬉しそうであった。
初めてサミュエル様と過ごす時間が、思いの外楽しくて気づけば日暮れが近かった。私は慌てて、サミュエル様に別荘に戻るように言う。日が暮れてしまうと馬で帰るのは心配だし、馬車で帰すと、バイオレットが予定よりも早く戻ってくる可能性がある。バイオレットに付けた侍女に、昨夜は私たちの婚約披露パーティーであったことを、告げ口するよう密命を出していた。しっかり仕事をこなしていれば、今頃怒っているはずだ。
サミュエル様が別荘から戻ってからというもの、私に会いに来る頻度が目に見えて増えたいった。別荘での出来事を侍女に報告させると、夜会以降は地獄絵図のようであったとのことだ。芽吹く以上だったか。素晴らしい働きをしてくれた侍女、カーラに心付けを渡し、これからもよろしくと微笑む。
それにしても、バイオレットとうまくいかず、少し優しくされた私との時間を増やすって。やはりサミュエル様は単純ではないだろうか。
ロバートと侍女長に命じていたことが効力を発揮し、サミュエル様の行動も相まって、ついにバイオレットが私の元へとやってきた。
最初は冷静を装っていたようだけど、怒りの限界が近いのがわかる。私は皆にはわからないように、少しずつ神経を刺激し、最終的にバイオレットに大声を出させる。私はひたすら反抗せず、言われっぱなしを貫くだけだ。
慌てて止めに来たロバートに引きずられ、バイオレットは姿を消した。私は怯えたように、自分が悪いのだと言いつつ、泣いてみせれば、セシルやカーラをはじめ、侍女たちは皆、私は悪くない!!と代わりに怒ってくれた。
報告を受けたのか、サミュエル様も謝罪にやって来た。私は殊勝な態度を貫き、出来た嫁アピールをする。先程泣いた跡が残っていたのか、いきなり頬に触れて来た時は、驚き、サミュエル様の美しい顔が近くて、今までにないその距離に心臓が壊れるかと思うほど高鳴った。
孤立するバイオレットにカーラを付ける。カーラは地獄絵図を見ても面白いと思える希少な人間だ。私の指示を、きちんと理解してくれる非常に優秀な侍女だ。カーラにはバイオレットを支え、勇気づけてあげて欲しいと指示する。バイオレットの美しさを讃え、ぞんざいに扱う旦那さまが悪い、もっと他に良い人がいると。
サミュエル様と喧嘩するたび、そう囁けば、バイオレットの外出は増え、帰らないことも増えていった。それはそれで、いらない火種が飛ばないように、カーラにサミュエル様が訪れた日と、月のものの記録をつけるよう指示した。
私の方でどうにかしようと思っていたが、どうやらサミュエル様も事態の収拾に動いているようなので、ここは一旦引き、お手並み拝見とさせていただく。
見事、揉めることなく、バイオレットを追い出した手腕に感嘆する。心配していた子種という火種も、自分で月のものをチェックしていたようで、このあと妊娠しても自分の子ではないと念書をとったそうだ。単純なだけかと思っていたが、案外腹黒いようだ。
ようやく掃除が済み、私たちの結婚式は、クリーンな状態で行われた。サミュエル様の空気が甘く、そういうことには慣れていない私は居心地が悪い。誓いのキスって軽くするものだと思っていたのに、長々とされ息が止まるかと思った。
バイオレットがいなくなった途端に、可愛いだの綺麗だの囁くサミュエル様に少し呆れつつも、言われていることは嬉しい。不安だった初夜も、甘く優しく過ぎていった。




