魔王は死をも愛す
「レイヴンさん、レイヴンさん……!!」
聞き慣れた女の子の声、懐かしい声、愛おしい声ーー……。俺はこの声色を知っている。
最後に覚えている記憶は、目の前に突如現れた真っ赤な月の光に体が飲み込まれたということだ。
何かに追突した衝撃、胸を強く強打したあと、体が弾けるようにして強い光の中に消えた。
目を見開いて天井を見上げる。木目調の部屋に、ただの布切れが敷かれた固い木製のベッド。こじんまりとした部屋にはテーブルが一つ。俺はベッドから起きあがって壁に備え付けてある鏡を見る。
また、失敗したーー……!
俺はひどく落胆した。そう、俺がここ、始まりの場所に戻ってきてしまったということは、目的を果たせなかったからだ。
辺りを見渡すが、彼女はいない。
俺はそばにあった水色のマフラーを身につけて、街へ出る。広場には大きな噴水があって、旅人、勇者、村人、さまざまな人が街を歩いている。まだ覚醒して間もないからか、時折めまいがする。
見慣れたはずの風景なのに、どこか歪んで見える。いつも話しかけてくれた、宿屋の受付の男性はどこへ行っているのだろうか、部屋に鏡など備えてあっただろうか。俺は頭を押さえながら、目的地へ足を運ぶ。
「酒場に変な鳥がいるんだってよ? ちょっといってみようぜ」
変な鳥。きっと奴のことだろう。
酒場のドアを開けると、そこに奴はいた。
「勇ましい勇者たち。好きな場所へ運んでやるです」
「お前、本当に空間移動魔法が使えるのか?」
「そうでげすよ?」
「お願いがある、俺を魔王の塔へ連れてってくれないか?」
現実で起こっていることと、過去の記憶が交差していて、処理が追い付かず、頭の中がぐらぐらする。
紅い月。満月の夜。
一体これは何回目の記憶の続きなのだろう。




