魔王は勇者の心を虜にする
大浴場のドアの前まで行ってもレイヴンの姿は見えない。
「凛ちゃーん、凛ちゃーん!」
脱衣場までは入れないので、ドアの前で凛の名前を呼ぶ。すると、ドアの向こうで凛の返事が聞こえた。足音が近づいてくるのがわかる。まさか……まさかと思い、セーレは両手で顔を覆っていた。指と指の間からチラッと凛の顔を見る。……バスローブを着ていた。安心したような、ガッカリしたような。
「凛ちゃん、これナーガさんに持っていけって言われて……洗濯したばかりの新しい洋服……」
自分の過剰反応に顔を赤くして目を反らすセーレ。
「ありがとう、セーレさん!」
なぜだか、凛から呼ばれた名前が頭の中で木霊する。そうか、この魔王様は素直で純粋なのか。
ドアの前で凛が着替えるのを待っていると、洋服に着替えた凛が出てきた。先程まで着ていた黒いドレスとは違い、黒いワンピースの上に首まで隠れる暖かそうなフード付きのポンチョを羽織っている。
「湯冷めするといけないからな、そこにあったからついでに持ってきた」
ポンチョには猫のような黒い耳がついている。
「……ワタシ、遊ばれてますか?」
「少し……」
セーレは唇に手をあて、まじまじと凛の姿を観察していた。
「セーレさん、動物好きですよね……?」
セーレは自分のポケットから何やら手袋を取り出すと凛の手につける。
「ちょっと手を握ったり開いたりしてみて」
凛が手の平を見ると何やら黒い手袋にピンクの肉球が付いてある。黙り混んだ凛は下を向く。
「この手から魔法とか出るのか?」
凛の手袋の肉球をぷにぷにと押すセーレ。
「やっぱり、遊ばれていますか?」
「いや……だいぶ……」
後ろからその光景を見ていた魔獣が目を光らせ、凛を抱き抱えた。
「魔王様で遊ぶな」
魔獣は猫耳のポンチョをかぶった凛を抱き抱えたまま、自室のドアを開けたーー……。




