第7話 賭け事で稼いだ金は、賭け事で使おう!
……何を言ってんだこいつら? いらんわそんなもん。
いきなり命乞いを始めた男たちを見下ろし、俺の頭には疑問符が立ち並ぶ。
とりあえず持ち金と、身ぐるみ置いて行けよ。パンツくらいは許してやるから。
「……賭けたもんを出せよ」
俺が少し呆れ気味にそう言うと、男たちはガタガタと震え出した。
なんだこいつら? もしかして、負け慣れてないのか?
ギャンブルなんざ、すっからかんになって裸に剥かれてからが本番だろ!
「お願いです……! 命だけは、命だけは……っ!」
男たちは揃って床に頭をこすりつけ、涙と鼻水まみれで命乞いを繰り返した。
……え? この町って、ギャンブルでのオールイン負け=命の奪い合いになるの?
末法すぎんか?
治安どうなってんだよ。
俺はこれ以上怯えさせまいと満面の笑顔を作り、彼らを安心させるように優しく声をかけた。
「命なんかいらない。金と身ぐるみだけでいいんだよ」
すると、青ざめた男たちは顔を見合わせ、なぜか三人揃って財布をテーブルに置き、装備品と服をすべて脱ぎ捨てていった。
……?
俺、手前の奴一人としか勝負してないはずだが……。
なんで他二人も脱ぎ出してんの? 連帯責任?
むさい男たちのストリップタイムが終わり、真っ裸になった三人は、魂が抜けたようにふらふらとした足取りで酒場の外へと歩いていく。
パンツはいらないって言おうとしたけど、まあいいか。恥ずかしいのは俺じゃないし。
彼らの背中が見えなくなった瞬間――
『うおおおおおおおおおおおおっ!!』
突然、酒場が震えるほどの歓声が上がった。
「最高だ! 最高に気分が良いぜ兄ちゃん!」
「あいつらマジで好き勝手してたからな! これでもうここには顔出せねえぜ!」
酒場の客たちが次々と立ち上がり、手に持ったジョッキを掲げて俺を称賛し始めた。
……まーじーでー? 土下座して真っ裸になったくらいで出禁?
それじゃ俺はセルフ出禁のカジノばかりじゃねえか。
この町の治安はどうなっているんだ? 末法なのか? それとも逆に最先端なのか?
困惑する俺の前に、さっきの少年が進み出て、深く頭を下げた。
「ありがとうございました……!」
なにが? 俺はギャンブルでゴロツキの身ぐるみを剥いだだけだが?
「お客さん! 最高にかっこよかったです!」
今度は、さっきチップを渡したウエイトレスが、頬を紅潮させて興奮気味に話しかけてきた。
賭け事をしてた男を捕まえて「かっこいい」とは、中々個性的な価値観を持っている娘さんだ。ダメンズに引っかかって苦労しそう。
「そうでもないよ。もうちょっとスマートに行きたかったんだけどね」
とりあえずウインクを飛ばす。まあ、一応かっこつけておこう。損はしないし。
ウエイトレスちゃんの顔がまたも真っ赤に染まる。うーん、これも脈があるわけじゃないな。憧れのアイドルを見る感じ? ……何で?
ああ、そうか。……可哀想に。ギャンブルする男にゃ嵌まっちゃいかんよ。
「最高にスマートでしたよ! あいつらに痛い目を見せただけじゃなくて、フィン君のお金まで取り戻してくれるなんて……!」
……うん、フィン君って誰?
周りを見渡すと、頭を下げていた少年が涙声でこう言った。
「あの、本当に助かりました。これで、これで……兄弟たちに、おいしいものを買って帰ることが出来ますっ」
その言葉を聞いて、俺はピタリと停止する。
……え? もしかしてこの空気、ゴロツキから巻き上げた勝ち金、全部この少年に渡す流れになってる?
…………なんで?
いやいやいやいや!
俺が勝ち取った金だぞ!? ギャンブルの勝ち金は勝者のものだろ!
「なぜ、お前にやらなきゃならん」
俺が冷たく言い放つと、フィン君とやらはビクッと肩を震わせ完全に固まり、周囲の歓声もスッと引いていく。それまでの熱狂が嘘のように、静かな緊張が酒場に走る。
もう……。
なんだよこの空気ーーーっ!
わかったよ! 楽しませてやるよ!
エンターテイナーのゼンさんとして遊んでやるよ!
「男なら、勝ち取ってみせろ」
俺はゴロツキが残していった銀貨を一枚つまみ上げ、親指でピンと高く弾いた。
キンッ、と澄んだ音を立てて銀貨が宙を舞い、俺の手の甲に落ちる。その上から素早くもう片方の手を被せた。
単純なギャンブル。裏か表かを当てるだけだ。
「裏か、表か。……外したら、お前も身ぐるみ剥ぐからな?」
俺は意地悪く笑って告げる。
怖いだろ? 怖いって言え!
ニブイチで無一文になる勝負に乗るな!
ろくな大人にならないぞ!
少年は一瞬息を呑み、ビクビクと視線を泳がせた。だが、やがてギュッと拳を握りしめ、覚悟を決めたように顔を上げた。
これで引け! 頼む引いてくれ!
たまには勝ち逃げさせてくれ!!
「……お、表!」
のるんかーい。
いやだいやだいやだ! この手を外したくない! 外して負けたくない!
だがここで、ゼンさんに電流が走る!!
よく考えたら、俺はついさっきフォーカードからのロイヤルストレートフラッシュを引き当てた男だぞ?
間違いなく今の俺には時代の波が来ている!
この流れなら……勝てる!!
俺は被せていた手を、スッとずらした。
「表だ……」
観客となった酔っぱらいたちからの結果発表。
そこには、少年の宣言通り『表』を向いた銀貨があった。
やっぱり負けたあああああぁぁっ!
突如、心の株主総会が始まり、ちっちゃいゼンさん(調子乗り)が、ちっちゃいゼンさんたち(比較的調子乗り)から吊るし上げられる。
『なぜ勝負した!?』『この負け犬!』『責任をとれ!』と――。
俺は息を吐き、巻き上げた袋や装備品を、ポンと少年の胸に押し付けた。
「ほらよ」
少年は信じられないといった顔で袋を抱きしめ、やがて大粒の涙をこぼして何度も何度も頭を下げてくる。周囲からは再び、いや、先ほどよりもさらに盛大な、割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こり、ウエイトレスも泣きながら手を叩いていた。
やっぱり今日、俺はとてつもなく運が悪いわ。
パーティー追い出されたり。せっかくギャンブルで勝った金を、ガキに巻き上げられたり。
なんて日だ!
次回!
『新たなる刺客』
※サブタイトルは予定であり、予告なく変更する場合もございます。




