第4話 狂信者たち
夜もすっかり更けた頃、毛布を被っていたベルがゆっくりと身を起こし目を擦る。
「ふぁ……交代の時間だねー」
見張りを替わるため、クリスが新しい仲間のディアナへ休むように促した。しかし、彼女は首を横に振る。
「いや、私はもう少し起きていよう。せっかく仲間になったのだ、パーティーメンバー全員と話をしておきたい。すまないが、クリスが先に休んでくれ」
「そう? じゃあお言葉に甘えて……」
クリスは、テントの奥へと引っ込んでいった。
焚き火を挟んで、ベルとディアナが向かい合って座る。
ベルは炎の温もりを両手で感じながら、のんびりと間延びした口調で問いかけた。
「ディアナちゃんはさ、どうして魔王討伐のパーティーに入ろうと思ったの?」
その問いに対し、ディアナは鋭い視線を炎に落とし、重々しく口を開いた。
「……よくある話だ。平凡で平和な村に、突然魔王軍が襲来し……家族を、友を、故郷を、すべて焼き尽くされた」
ディアナの握りしめた拳が、ギリッと音を立てる。
「私はあいつらを許さない。絶対にだ。一匹残らずこの手で八つ裂きにし首を落とす。そのためだけに、私は剣を振り続けてきた」
炎の照り返しを受けながらも、彼女の瞳は底なしに暗い。
「お前らもそうなんだろ? アークが先ほど語っていた。故郷を滅ぼされた、と。彼とは幼馴染だそうだな」
「うん、そうだね。……私たちも、最初はそうだったな」
ベルは過去を懐かしむように、ゆっくりと炎を見つめ返した。
「……今は違うのか?」
ディアナが不思議そうに眉をひそめる。故郷を焼かれた憎しみが『過去形』になるなど、彼女の復讐心からすれば到底理解できないことだった。
「……ゼン君が、いたからかな」
ベルが静かに、ひどく優しい声でその名前を紡ぐ。
ディアナは露骨に顔をしかめ、ため息を吐き出した。
「……お前らと話をしていると、必ずその男の名前が出てくる。呆れたものだ」
「あはは、まあね。みんなゼン君が好きだからねー」
「……もしかして、お前もクリスと同じか?」
ディアナが胡乱な目を向ける。無理もない。クリスといい、アークといい、このパーティーの人間はあの軽薄な男に過剰なほどの執着を見せているのだから。
しかし、ディアナのその疑念に対して、ベルは焚き火から顔を上げ、
「……男性として見た時は、軽蔑しかないよ」
一瞬で彼女の柔らかい笑顔が消え、力強く否定する。
「そ、そうか。すまない、邪推した」
あまりの温度差に、ディアナは思わずたじろぎ、すぐに謝罪の言葉を口にする。
「いいよー。人として大好きなのは変わらないからね」
ベルはすぐにいつものふんわりとした笑顔に戻り、話を続けた。
「私とアークもね、故郷が滅ぼされて、ただ憎しみだけを持って王都に行ったんだ。もう、やけっぱちって感じで。奴らに一矢報いることができるなら、この命なんかいらない。どうなってもいいって」
「……」
「でも、それを止めてくれたのがゼン君だったんだよ」
ディアナは眉間に皺を寄せ、昼間に会ったあの男の姿を脳内で再生する。
「……あの男が、人の凶行を止めるような人間なのか?」
「まあ、もしかしたら他に何か下心とか、別の狙いがあったのかもね」
ベルはくすくすと笑う。
「でも、結果的に私たちは救われたの。冒険者として右も左もわからない、何も知らない子供だった私たちに生きる術を教えて、いっぱしの冒険者に仕上げてくれたのは、間違いなくゼン君だった」
少しだけ、ディアナの中でゼンの評価が変わる。
少なくとも、新人を育成するだけの実力と経験はあったということだ。
「もしかして、あの男は強いのか?」
遊び人とはいえレベル99の到達者。実は強かったとしても不思議はない。『遊んでたら強くなるのか?』という疑問は残るが。
ディアナが尋ねると、ベルは首をコテッと傾けた。
「うーん、強くないと思うけど……実際にはわからないかな?」
「……わからない?」
「うん。だって、ゼン君が戦っているところなんて、一度も見たことないから」
「……うん? ……うん?」
ディアナは二度、聞き返した。自分の耳がおかしくなったのかと思ったのだ。
「そうなるよねー。その反応が普通だよ。一緒に冒険して、何度も死線を潜り抜けてきたのに、戦っているところを見たことないんだから。私たちは血反吐を吐きながら戦っているのにね」
「そ、それなら彼は、戦闘中に何か別の役割があったのではないか!? 例えば、後方からの支援魔法や、戦況の指揮とか……!」
「うしろの方で応援してくれてたよ。『がんばれー』って」
「…………」
ディアナの口が、ぽかんと開いたまま塞がらない。
パチっと、焚き火が彼女の代わりとばかりに音を立てて爆ぜた。
「……なぜ、今までそんな男を放置していた?」
絞り出すように放たれたディアナの純粋な疑問。
それに対し、ベルは満面の笑みで即答した。
「だって、みんなゼン君が好きだったから!」
「理由にならん!!!」
ディアナのツッコミが夜の森にこだまする。
それを聞きながら、ベルはただ、けらけらと楽しそうに笑い続けるのだった。
次回!
『The サイコパス!』
※サブタイトルは予定であり、予告なく変更する場合もございます。




