第24話 チョロイン戦!
「ご無事で何よりです、ゼン様! お怪我はありませんか!?」
アークたちが首をかしげるのも構わず、俺の前へ駆け寄った白塗り妖怪――副団長のグレイスは、両手を胸の前でギュッと握りしめ、熱っぽい視線で俺を見上げてきた。
……なーんか、めちゃくちゃ好かれてんな。この妖怪に。
俺がしたのは、広場で竹とんぼとコマを作って遊んだあと、魔人から全力で逃げ回ってアークを呼んだだけなんだが……。
ま、女の子に心配されて邪険にするのは男が廃る。ここはとりあえず、爽やかな愛想笑いを浮かべ、パチンとウインクを飛ばしておこう。
「うっ……!?」
直後、彼女は胸元を押さえ、その場にへたり込みそうなほどプルプルと震えて悶絶し始めた。分厚い白塗りの奥でも、耳まで真っ赤に染まっているのがわかる。
その反応を見るなり、後ろの面々が無言で顔を見合わせた。
中でもクリスはスッと目を細め、白塗りの顔から鎧越しのスタイル、そして自分にはない主張の強い胸元までをジロリと値踏みした。
「ど、どうかされましたか?」
刺さるような視線に戸惑う彼女の前へ、クリスがツカツカと歩み寄る。
「……ねぇ、あなた。ちょっとこっちに来てくれる?」
クリスは無言の圧を放ちながら白塗り女子の手首を掴むと、そのまま振り返ってベルに手を差し出した。
「ベル、化粧落とし持ってる?」
「ん? 持ってるけどー?」
「ちょっと貸して」
ベルがポーチから取り出した小瓶と布をひったくると、クリスは困惑する彼女を強引に引きずり、崩れた建物の物陰へと消えていった。
残されたディとベルも「どういうことだ?」「さあー?」と顔を見合わせ、不思議そうにその後を追いかけていく。
――――
女子たちが揃って姿を消した一方、表の広場では、アークが団長のおっさんに向かって真面目な顔で切り出していた。
「団長。救護はひと段落しましたが、崩れた城壁の修復や瓦礫の撤去など、まだまだ人手が要るはずです。よろしければ、俺たちも町の復興を手伝ってから出発しますよ」
「おお、勇者殿! なんとありがたいお言葉……!」
感動に打ち震えるおっさんと、爽やかに頷くアーク。
……あ、これアカンやつだ。
救護作業はなんとかサボり切ったが、このまま突っ立っていたら、今度こそ瓦礫運びの重労働に駆り出されるパターンじゃん!
俺は二人が話し込む隙に、抜き足差し足でその場からフェードアウトし、女子たちが消えた建物の裏手へと逃げ込んだ。
「ちょ、ちょっと、何をするのですかっ!?」
「いいから、少しの間じっとしてなさい!」
裏路地に足を踏み入れた途端、奥からそんな声が聞こえてきた。
……女子いじめのシーン!? エロい奴? エロい奴!?
壁の角から覗き見ると、クリスが化粧落としを染み込ませた布で、分厚い白塗りの顔面を容赦なくゴシゴシと拭き取っているところだった。
布が往復するたび、真っ白なおしろいと、盛大にはみ出た真っ赤なルージュが落ちていく。
そして、すべての化粧が拭い去られた、その時。
「……お?」
覗き見していた俺は、思わず目を丸くした。
おしろいの下から現れたのは、とんでもない美女だったのだ。
横で見ていたディとベルからも、「おお……」「わぁ、綺麗……」と感嘆の声が漏れる。
……って、これだけの美人が、なんであんな妖怪みたいな化粧をしてたんだ?
首をかしげた俺の視線の先で、クリスの顔がみるみる引き攣り、世にも恐ろしい形相へと歪んでいった。
「い、いやぁっ……! こんな……ゼン様の前に、すっぴんでなど出られません……っ!!」
耳まで真っ赤にして両手で顔を覆い隠す美女騎士の言葉に、クリスのこめかみがピクリと跳ね、その形相が一段と険しく歪んだ。
……おーい、クリスさん? 顔がさっきの魔人より怖くなってますよー?
表の肉体労働から逃げてきたはずが、別の意味で危険な現場に出くわしてしまったらしい。
……いや、待てよ? これ、むしろ大チャンスじゃね?
今ここで、何も知らないフリをしてしれっと話に混ざる。
からの、『おや、誰だいその美女は!?』『ええっ、あの副団長!? 素顔はこんなにお綺麗だったなんて!』とベタ褒めする。からの好感度爆上がり!
――よし、これで美女とねんごろルート確定だな!
完璧なシナリオを打ち立てた俺は、わざと足音を立てて建物の角から爽やかに声をかけた。
「おーい、さっきから女子だけで集まって、どうしたんだ?」
俺が顔を出すと、クリスがビクッと肩を跳ねさせ、咄嗟に彼女を隠すように前へ立ち塞がった。
「い、いや、なんでも……」
「――いえ! 何でもないです!!」
クリスの言葉を遮り、後ろから彼女がひょっこり身を乗り出す。
その瞬間、俺は自分の目を疑った。
彼女の両手が、残像すら残さぬ神速で動いたのだ。
パフと口紅が顔面を駆け抜けたかと思うと――ほんの一秒前まで絶世の美女だった顔に、さっきと寸分違わぬ『白塗り妖怪メイク』が完璧に復元されていた。
うっすらと白い粉が宙を舞う中、何事もなかったかのように胸を張る白塗り妖怪。
恐ろしいものを見たかのように表情を凍らせるクリス。
……俺の『誰だいその美女は!?』から始まるねんごろ計画が、開始一秒で吹き飛んだ瞬間であった。
呆気にとられる俺の前で、クリスは一拍置くなり、さっきまでの怖い顔をクルリと満面の笑顔に変えて彼女の肩をポンと叩いた。
「……うん! 男の子の前ですっぴんはありえないよね! 女の子はお化粧をしないとね!」
「そ、そうですよね!」
満開の笑顔で礼を言う白塗り妖怪。
クリスのあまりにもひどいアドバイスに、隣にいたディが心底ドン引きした顔で一歩後ずさり、ベルは困ったように眉を下げて呆れ声を漏らした。
「クリスちゃん、それは……駄目じゃないかな……」
……うん。俺も素顔のほうがいいと思うんだけど、それを言ったらクリスにナイフを投げられそうだから、黙っておくことにしよう。
にしても、……ふむ。
さっきのねんごろ計画は不発に終わったが、彼女は俺のことを『ゼン様』と呼んでキラキラした目で見てくる。しかも騎士団の副団長というお偉いさん。
……あれ? もしかして俺、勇者パーティーにすがりつかなくても、この町で食っていける?
次回!
『今更戻ってこいなんて言ってももう遅い!』
※サブタイトルは予定であり、予告なく変更する場合もございます。




