第一部 最終話 祈り
グレイスちゃんという新たな太客候補を見つけ、将来のヒモ生活に思いを馳せていた俺は、ふと素朴な疑問に気がついた。
……そういや、なんでアークたちはここにいるんだ?
あいつらは俺を置いて、魔王討伐のために魔族領へと出発したはずである。それがなぜ、こんな絶妙なタイミングでアトスの町へ舞い戻ってきたのか。
「お疲れさん!」
「……ゼン。お前またサボってたな」
俺は建物の裏手からひょっこりと顔を出し、広場で瓦礫撤去の指示を終えて一息ついていたアークへと歩み寄った。
「なあ、アーク。今さらなんだけどさ……お前ら、なんで戻ってきたんだ?」
俺が尋ねると、アークは「あー……」と気まずそうに視線を泳がせ、なんだか言いにくそうに頬を掻いた。
その反応を見た瞬間、ゼンさんの天才的な頭脳にピコーンと電流が走る!
……あ、これ、俺がいないとダメだったパターンだな!?
いやー、参ったね! やっぱりこのゼンさんが抜けた穴は、ちょっとばかしデカすぎたか!
でもなー、どうしよっかなー。今の俺には、騎士団の副団長であるグレイスちゃんっていう超有望なスポンサーがいるからなー。今さら泣きつかれても、ごめんなさいしちゃうかもなー?
などと脳内で余裕ぶっこきながらも、俺の心の中では、ちっちゃいゼンさんたちが『勇者パーティー再就職』のため、ビシッと一張羅のスーツを着込んで心の面接会場に整列していた。
俺は溢れ出そうになるニヤケ顔を必死に抑え込み、チラチラと期待の眼差しを向けながら、さりげなくカマをかけてみる。
「もしかして……旅がうまくいってないのか?」
さあ、素直に白状しちゃえよ! お前らには俺が必要なんだって!
「いや、めちゃくちゃ順調だったよ」
アークは爽やかな笑顔で即答した。
「なんていうか、俺たち今まで、とんでもない『重石』をつけて旅をしてたんだろうなって痛感したよ」
……ん? おーい、アークくん? 今『重石』って単語を口にしたとき、なんで真っ直ぐこのゼンさんの目を見たのかな? 心の面接会場に並んでいたちっちゃいゼンさんたちも、不安げにざわざわし始めたよ?
俺が微妙に顔を引きつらせていると、アークはふっと遠い目をして、しみじみと言葉を継いだ。
「だけど、分かったんだ。お前のせいで散々振り回された『寄り道』も、俺たちの旅には必要なものだったんだなって」
おっ! おっ!? その言葉に、心のちっちゃいゼンさんたちがパァッと明るい顔になり、胸を撫で下ろす。
だよな! よかった、びっくりさせやがって! この流れは完全に『やっぱりお前が必要だ、戻ってきてくれ!』っていう感動の再雇用ルートだよな!
「だから、俺……いや、俺たちは決めたよ。これからは、お前がいた時と同じように、自分たちで周りを見ながら『寄り道』をしていくって」
うん、うん……ん?
「お前がいた頃とは違って、今は頼りになるディアナがいてくれるからな。少しくらい寄り道しても、全然余裕で進めるんだ」
……あれ? 心の面接会場で、スーツ姿のちっちゃいゼンさんたちに、付け髭のちっちゃいゼンさん事務員から白い封筒が配られ始めたぞ。
「今思い出しても笑えてくるよ。お前との旅、すげえきつくて、すげえ楽しかった! 今まで本当にありがとうな、ゼン」
アークは一点の曇りもない、キラキラした笑顔で俺の肩をポンと叩いた。
「お前がこの町で安心してスローライフを楽しめるよう、俺たちが絶対に魔王を倒してくるから!」
ペリッ。心の中で封筒を開けたちっちゃいゼンさんたちの手には、『不採用』と書かれた無慈悲な紙切れが握られていた。
「…………」
ちっちゃいゼンさんたちが、一斉に膝から崩れ落ちる。
「……ゼン?」
黙り込んだ俺を不思議そうに覗き込んでくるアーク。俺はぷるぷると肩を震わせると、精一杯の力でアークを指差し叫ぶ。
「……あ、後になって戻ってきてくれなんて泣きついても、もう遅いんだからな!! バーカバーカ! アークのバーカ!!」
「ゼ、ゼン!?」
俺は捨て台詞を吐き捨てるなり、子どものように全力で踵を返し、瓦礫の山の向こうへと走り去った。
「お、おい! ゼン! 瓦礫撤去さぼんな!!」
背後から飛んでくるアークの声なんて知ったことか!
夕暮れの路地裏へと逃げ込んだ俺は、荒い息を吐きながら茜色の空を仰いだ。
脳内の面接会場では、不採用通知を握りしめたちっちゃいゼンさんたちが、すでにスーツを脱ぎ捨て、『グレイスちゃん命』のハチマキを巻き直していた。
第一部完!!
第二部「スローライフ編」
【お知らせ】
第一部、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
第二部から別作品としてアップしております。よろしくおねがいします。
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