第2話 処女返せ!
「今まで確かに、遊び人だから迷惑をかけることもあったかもしれない! だが、それ以上にこのパーティーに貢献してきたつもりだ! 何があった!? いくらなんでも急におかしいだろ!?」
俺は必死に身を乗り出し、円卓越しにアークへ対話を求めた。
魔王討伐という過酷な旅路において、コミュニケーション不足は死を意味する。だからこそ、膝を突き合わせて話し合うべきなのだ。
俺の切実な訴えにもかかわらず、メンバーたちは重い沈黙を保ったまま、誰一人として口を開こうとしない。
「おいおい、思い出してくれよ! 旅の資金が底を突いて野垂れ死にそうだった時、俺がカジノで大金を稼ぎ出しただろ!? 砂漠の国の女王が突きつけてきたあの無理難題だって、俺がいたからこそ見事解決できたじゃないか! 他にも色々あっただろ!?」
俺は立ち上がり、これまでの軌跡を並べ立てていく。
そうだ、俺がいなければこのパーティーはとっくの昔に全滅していたはずなのだ。それなのに、誰も答えない。誰も、俺の功績を認めてくれない。
熱弁を振るいながらメンバーの顔を一人一人見回していた俺は、ふと、ある違和感に気がついた。
アークの左手。ベルの左手。クリスの左手。そして、部屋の隅に立つ筋肉女の左手に至るまで。
全員の薬指に、冷たい銀色の輝きを放つ、見慣れない指輪がはめられているのだ。
「……それ、もしかして」
「ああ」
俺の視線の先に気づいたアークが、重々しく頷き、ついに口を開いた。
「状態異常『耐性』の指輪だ」
「…………」
俺は無言で腰に手を当て、静かに天井を仰ぎ見た。木目がやけにぼやけて見える。
「やっぱり、お前、俺たちに……いや、もう言うまい」
アークは深くため息をつき、疲労困憊といった様子で眉間を揉んだ。
「ずっとおかしいとは思っていたんだ。普通に考えて、魔王討伐パーティーの固定メンバーに【遊び人】を入れる合理的な理由なんて一つもないんだからな」
「あ、あのな! さっきも言ったけど、俺の貢献! 確かな実績があるじゃん?」
俺は無様に食い下がるが、アークは冷ややかな目を向けてくる。
チクショウ! いつもならクソ簡単なのに!
「……旅の資金が足りなくなったのは、そもそもお前がギルドの依頼報酬を前借りして、全額遊びに使ったからだろうが」
「……」
「砂漠の女王の件だってそうだ」
「お、……俺の巧みな交渉術が……」
「お前が女王の妹に手を出して激怒されたのがすべての始まりだろうが! 挙句の果てに、『姉妹丼おいしゅうございました』とか言い残して国から逃げ出しただけじゃないか! おかげで俺たち、未だにあの国じゃお尋ね者らしいぞ! なんで俺たちもなんだよっ!? お前だけでいいじゃんっ!」
アークの怒号が部屋に響き渡る。
反論の余地がない見事な正論だった。こりゃ無理かも……。ああ、俺の快適な食い扶持が、勝手に大金稼いでくれるメンバーのおかげで成り立っていた贅沢三昧な日々が、音を立てて崩れていく……。
俺が内心で絶望しかけていたその時、それまで俯いていたクリスが震える声で喋りだした。
「わ、私も……ずっと、おかしいって思ってたんだ……っ」
「ん? どうしたクリス。俺、他にも何かやったっけ?」
正直、行く先々で色々やりすぎていて、個別の案件を正確に把握しきれていない。
「そ、その……わ、私が、ゼンなんかに……その、ないっていうか……」
クリスは顔を真っ赤にして言いよどむ。ああ、なるほど。
「ああ、クリスに手を出したことか? それは誤解だ。俺は普通に接してただけで、お前が勝手にチョロインしただけだぞ?」
「殺す! 私がこいつを殺す!!」
瞬間、クリスが腰の剣の柄に手をかけ、猛然と飛びかかってきた。
「まあまあ落ち着いてクリスちゃん! ほら、深呼吸!」
ベルが慌ててクリスを背後から羽交い締めにし、必死になだめる。
俺は暴れるクリスを真っ直ぐに見つめ、真剣な声色を作った。
「……だからな、クリス。お前は『素の俺』に魅力を感じてくれたんだよな。俺、すげーうれしかったんだ。こんな俺の、本音の部分を見て、好きって言ってくれる人がいるなんて……思ってもみなかったからさ」
俺は少し照れたように視線を逸らし、哀愁を漂わせる。
「……ゼンっ」
ピタリと動きを止めたクリスが、潤んだ瞳で俺を見つめ返す。その頬は瞬く間に朱に染まり、剣を掴んだ右手から、力が抜けていくのがわかった。
「はい駄目だよー! ゼン君の目を見ちゃ駄目だよー! クリスちゃんは生粋のチョロインなんだからー!」
ベルが窘めるような声を上げ、無理やりクリスの両目を手で塞いだ。
……ちっ。
「……そういうところだぞ、ゼン」
アークが呆れ果てたように宣告する。
「だからもう、俺たちにはお前の口八丁は通じない。だがな……お前との旅は、本当に楽しかった。色々とんでもない目に遭ったが、退屈だけはしなかった。これは紛れもない事実だ」
アークの顔から怒りが消え、かつて共に笑い合った友に向ける、穏やかで寂しげな表情へと変わった。
「そしてこれは、友達の、……お前の命を守るためでもあるんだ。頼む……パーティーを抜けてくれ」
有無を言わさぬ、しかし確かな思いやりに満ちたリーダーの決断。
これ以上、俺が入り込む隙間はどこにもなかった。
その日。
俺は、【勇者パーティーのゼン】から、ただの【遊び人のゼンさん】へと、見事なジョブチェンジを果たしたのだった。
次回!
『あいつは私が殺す』
※サブタイトルは予定であり、予告なく変更する場合もございます。




