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その探偵助手、黒幕につき  作者: 上山流季
第四話『探偵たちの饗宴』
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4-8・探偵勝負-肉料理-

「ま、待って、何が違うの?」

 狼狽した様子で寅絵は言う。

「どこが違うっていうの、朔夜さん。アタシは犯人の指名からトリックの解説まで、きちんと全部やったと思うのだけど。なのに、O木は犯人じゃない? どう考えてもO木にしか実行できないのに? それともO木はひっかけで、実はI田がこっそり下りて殺したとでも?」

 質問宣言でも解答宣言でもなかったので、俺は寅絵の抗議を無視した。

「どうして……? 何が……?」

 寅絵は片手で口元を押さえ、もう片手で髪を掴んだ。復帰には時間がかかりそうだ。これは、チャンスだ。寅絵が混乱している間に明崎さんが決めれば明崎さんの勝ちだ!

「じゃあ、I田なの……? それとも、U村とE園が共犯……? 待って、でも、協力者は一人だから……」

 メモを取ることも忘れぶつぶつと考えを呟き始める寅絵。その目は爛々と見開かれ、未だ見えぬ犯人を追っている。立ち直れていないのは明らかなのに、諦める様子はどこにもない。

 このままだと寅絵が執念だけで犯人を当ててしまうかもしれない。非常に困る。全員が見聞きするオープンな場である以上、明崎さんだけにヒントを出すようなズルもできない。すべては質問次第だ。寅絵にもまだ解答権が残っている。巻き返そうと焦るあまり最後の解答権まで手放す愚者なら助かるのだが……。

 釘木野は乱心の主人を前におろおろしており、外島は黙って、どこが間違っていたのか自分なりに見つけ出そうとしている。

 そして明崎さん。彼女はまだ考えている。

「質問です、黒繰さん」

 ようやく口を開くと、明崎さんは言葉を選びながら慎重に質問した。

「A倉さんのご遺体が見つかったあと、どうなりました? 警察への連絡はされたんですか?」

「いいえ。警察への連絡はしていません。A倉さんの死体を見つけたあと、全員、驚いて廃墟から逃げてしまいました。今回の出題に警察組織は介入しません」

「つまり、犯人は捕まっていない?」

「はい。だからこそ、犯人が誰か当ててほしいのです」

 明崎さんは「ちょっとメタ的な質問をしますね」と前置きして言う。

「警察組織が介入していないのに死因を断言できますか? いえ、そもそも捕まっても(・・・・・)いない犯人を(・・・・・・)断定(・・)できますか(・・・・・)?」

はい(・・)

 俺は断言した。

「A倉さんの死因は首を絞められたことによる窒息死です。A倉さんの(・・・・・)首を絞めて(・・・・・)殺した(・・・)犯人が(・・・)います(・・・)

 明崎さんは背筋を正すとゆっくり息を吐く。

「黒繰さんは今回の出題を『友人から聞いた話』として語り始めました。場にいたのはA倉さん、I田さん、U村さん、E園さん、O木さんの五人。のちにA倉さんは遺体となって発見されます」

 ――これは友人から聞いた話です。その日、友人たちは肝試しにある廃墟へ向かったそうです。そこで起きた殺人事件の犯人を見つけ出してほしいのです。

 明崎さんは凛とした声で問う。

「では、出題者の黒繰さんは今回の話を一体誰から(・・・・・)聞いた(・・・)んですか(・・・・)?」

 俺は薄く笑いながら答えた。

「質問は『はい』か『いいえ』で答えられるものでお願いします」

 突如、寅絵が「わかったわ!」と叫んだ。

「アナタ、犯人から(・・・・)直接(・・)話を聞いた(・・・・・)のね! だから死因がはっきりわかった! 転落死でないことも、A倉が自分で血のりを撒いたことも、スマホのアラームを使ったトリックだって! そうでしょ!?」

 俺は「質問の場合は宣言をお願いします」と返した。

「質問よ! アナタにこの話をしたのはI田!?」

「いいえ」

「それじゃあ、O木!?」

「いいえ」

「U村!?」

「いいえ」

「じゃあE園! E園が犯人よ!」

「解答の際は宣言をお願いします」

 寅絵が解答を宣言するより早く、明崎さんが手で制した。

「すみません寅絵さん、先に私が解答します」

「あ、明ちゃん!? ズルいわ! だって、今、アタシが――」

「犯人はE園さんではありません」

 寅絵は絶句した。テーブルに肘をついて、両手で額を押さえる。それから、おそるおそる「……どういうこと?」と言った。

 探偵・紅邑寅絵。彼女にはまだ解答権が残っている。しかしそれは明崎さんが咄嗟に守ったからに過ぎない。果たして彼女にまだ探偵の資格があるだろうか? 自ら解明に赴くことなく、ただ、明崎さんに答えを聞く今の彼女に。

 明崎さんは射貫くように俺を見つめていた。大きな両の瞳に決意煌めく星が輝く。動揺、緊張、不安、恐れ――当初浮かんでいたそれらは今は欠片もない。ああ、彼女には犯人が見えている。だからこんなにも眩しいのだ。

 その唇が名前を紡ぐ。

黒繰朔夜さん(・・・・・・)犯人は(・・・)あなたです(・・・・・)

 俺は、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。だから満面の笑顔で言った。

「そのとおり。正解です、明崎さん」

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