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その探偵助手、黒幕につき  作者: 上山流季
第三話「舞台に立つ者そつなく演ぜよ」
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3-11・暴露

 早々に前言を撤回するがトリックは二幕構成でも事件としては三幕構成になるはずだった。なぜなら探偵――つまり明崎さんによる解決編が俺によって待望されている。加えて、明後日の夕方までに解決編が訪れなくてはならない。それまでに解決されなければ俺という助手が会食にドナドナされてしまい、サポートすることはおろかその活躍を見ることすら叶わない。ということは事件の幕は上がったばかりでも第一幕としてはそろそろ終盤の計算だ。右手首に巻いた腕時計で今が午後六時前であることを確認しながら劇場内客席へと舞い戻った。

「おかえりなさい、黒繰さん。……あれ、鞄は?」

 明崎さんからの問いかけに「ただいま」と返しながらその隣に座る。

「鞄の中から俺の物ではない持ち物が見つかったから、警察に預けてきた」

 この言葉に明崎さんではなくその隣の安曇が声を潜めて聞いてくる。

「ど、毒とか出てきたんですか……?」

「当たらずとも遠からず、かな」

「うわお……」

 安曇がスッと身を引いたので改めて明崎さんに報告する。

「たぶん、スズメバチじゃないかと思う。動いてなかったから寝てるか死んでるかだったね」

「なるほど……。黒繰さんはしばらく鞄を楽屋に置きっぱなしにしていました。楽屋に出入りできた人間の中に、最初からスズメバチを持ち込んでいた人間がいる……のかもしれません」

「えっと、つまりどういう状況?」

 よくわかっていない安曇に向け、明崎さんは言った。

「ハチを使って王鞍さんを殺した人間がこの中でいるかもしれない、ということです」

 安曇は一度「えっ!?」と大声を上げたあと、やはり声を潜めて「……さ、殺人事件……ってこと?」と確認した。

「可能性はあるかと」

「で、でも、ハチなんか飛んでた? そもそも、ハチに刺されたくらいで人間って死ぬわけ?」

「アナフィラキシーショックという重篤なアレルギー反応が原因かもしれません。呼吸困難や意識障害を引き起こし、最悪の場合、命に関わります」

 明崎さんは考えを巡らせるように目を閉じる。

「今にして思えば、AEDを使用するためジャケットとTシャツを脱がせたとき、王鞍さんは全身に蕁麻疹の症状が出ていました。息をしていないというのも、アレルギー反応だった可能性はあります。ハチ毒に関してはアナフィラキシーショックが発生してから十五分で心停止するなんて資料もあって……」

「ひえ……」

 明崎さんは「問題は」と言って目を開ける。

いつ(・・)ハチに(・・・)刺されたのか(・・・・・・)――経過時間から言って、王鞍さんが劇中で倒れてから、瑞木さんが演技をして、その後スポットライトに当てられながら幕が下りるまでが大体十五分です。その後、王鞍さんはすぐ息をしていない状態で発見されています。ということは、少なくとも瑞木さんが小道具の包丁で王鞍さんを刺す演技をする周辺にはハチに刺されていなければなりません」

 ここで安曇が「わかった!」と声を潜めながら言った。

「小道具の包丁の先端にハチを取り付けて刺したんだよ! つまり、犯人は瑞木さんだ! とても人を殺すようには見えなかったけど、なるほどね……!」

 一人頷く安曇に、明崎さんが「それだと、王鞍さんから見たとき包丁の先端にハチが止まっていることが確認できてしまうんじゃないでしょうか?」と控えめに否定を返す。

「そもそも、道具系は全部大道具係の人が管理しているはずです。いくら役者とはいえ、ハチを取り付けたりなんかしたらすぐ気付かれてしまうと思います」

「じゃあ、針だけ! 毒針だけ取り付けて……!」

「そうすると、王鞍さん以外に刺さる事故が起こりかねません。それに、毒を保った状態でハチから針だけを取り出すとなると、なんらかの特殊な技術が必要なんじゃないでしょうか?」

 安曇は腕を組んで唸ると「難しいな……」と消沈したように呟いた。

 ここで、警察官に声をかけられる。もう一度全員で楽屋へ集まってほしいということだった。

 明崎さんたちは推理をやめ、それぞれの荷物を手に席から立ち上がった。


 楽屋には俺、明崎さん、安曇、長潟、瑞木、貴志、そして名前も知らないABCDEが集まっていた。どうやら荷物を取り上げられたのは俺だけらしいことを目視で確認していると士道が言った。

「今日は解散してもらって構いません。その他、気付いたことや思い出したことがあれば警察までご連絡ください。また、明日以降みなさんに尋ねたいことが出てくるかもしれませんので、その際は個別にご連絡差し上げます。そういった場合は警察署のほうでお話を伺えればと思いますので、ご協力よろしくお願いします」

 場を締めようとした士道の言葉を遮って「持ち物検査は」と貴志が言った。

「持ち物検査の結果はどうだったんですか」

 貴志がちらと俺を睨む。士道は「まだ調査中なンで」と言いながら、貴志の視線を追って一瞬だけ俺を見た。

「なにか出てこなかったんですか、毒とか。このままじゃ安心できません」

「と言ってもね。捜査状況は一般の方には話せないンですよ」

「こっちは先輩が死んでるんですよ! こんな、見るからに怪しい部外者がいるのに!」

 貴志がどうしても俺を犯人にしたいようなので、黙っていてもよかったが、口を挟むことにした。

「出てきましたよ、毒」

 俺からの言葉に瑞木が「きゃあっ!?」と悲鳴を上げた。長潟をはじめとするサークルメンバーもざわつき始める。

「ちょっ……黒繰さん!」

 慌てて注意してくる士道に「事実なんだからいいじゃないですか」と言って貴志を見やる。

「それに、持ち物検査の結果を言えば貴志くんは安心するそうですよ」

「……やっぱり、毒を持ってるんじゃないか! 認めろよ! アンタが犯人なんだろ!」

 答えず、腕を組みながら俺は独り言のように続けた。

「でも、おかしいんだ。毒は見つかったんだけど俺の持ち物じゃなくてね。つまり、本来の持ち主が別にいるはずなんだ」

「!? なにを言って……」

「貴志くん、どうして持ち物検査を提案したの? まるで俺が(・・・・・)毒を持って(・・・・・)いたことを(・・・・・)知っていた(・・・・・)みたいだ(・・・・)

「は……? そんな……そんなわけないだろ! アンタが怪しいからみんな不安がってるんだ! 王鞍先輩と直前に揉めてた! 動機がある! 毒も持ってる!」

「動機なら、王鞍くんと初対面の俺よりも、後輩として付き合いのある君のほうがたくさんありそうなんだけどね」

「! ……馬鹿にしてるのか!?」

 貴志が俺に掴みかかりそうになり、士道が「ストップストップ!」と間に割って入る。

「黒繰さん!」

 士道の注意を無視して続ける。

「そもそもどうして初対面の君にここまで目の敵にされなきゃいけないのか俺にはまったく心当たりがない。王鞍くんと揉めてる最中も、君は俺のことを睨んでいたよね。あれはどうして? 先輩を馬鹿にされたことがそんなに腹立たしかったの? もしそうなら誤解がある。俺は王鞍くんではなく王鞍くんの交際相手である姫宮海心さんに対して苦情があっただけで――」

「黙れ!」

 ここで、貴志は今日一番の大声を出して俺を黙らせた。

「姫宮先輩は関係ないだろうが! 今、俺が問題にしているのはお前が王鞍先輩を殺したこと! そのための道具としてハチを持ち込んでいることだ!」

 一瞬、場を静寂が支配した。

 俺はなにも言わなかったし、士道も口を閉ざした。明崎さんもまた気まずい顔で貴志を眺めており、サークルメンバーたちも顔を見合わせ、逆に安曇はなぜ場が沈黙したのかわかっていない様子だった。

 やがて、長潟が言った。

「えっと……貴志くん、ハチってなに?」

「だから! だからコイツが持ち込んでいる毒……が……」

 貴志は徐々に失速し、やがて言葉を失った。

 士道が咳払いしたあと「貴志さん、このあと、もう少しだけお話を伺ってもいいかな?」と貴志の肩を掴む。貴志はそれを「違う!」と叫びながら振り払った。

「違う……違う違う違う! だって、見たんだ! コイツがハチを持ってるのを見た! 本当だ! 俺は見てたんだ!」

 士道が「わかった、それを含めて個別に話を聞こう」と言いながら場にいた女性警察官に目配せする。それを合図に彼女は「みなさんは帰っていただいて構いません」と暗に人払いし始める。

「帰ろうか、明崎さん」

「待て! 待てッ! お前だ! お前が犯人なんだ! 俺は見たんだ!」

 吠え立てる負け犬に興味はない。俺は、貴志を気にする様子の明崎さんの背を軽く支えそのまま帰ろうとする。明崎さんは貴志に声をかけるか迷っている様子だったが、やがて声をかけることなく楽屋から出た。

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