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VENDYS:破産した億万長者が、不殺を誓って摩天楼を駆ける――救った命の数だけ、俺の誇りは積み上がる――  作者: 寝不足魔王


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第40話:The Shadow General Strike

 爆発の閃光が夜を白く焼き尽くし、セント・ミリオネアの静寂は完全に粉砕された。

 

 ギガ・ゼウスの放った過負荷エネルギーは、ダイナーの跡地を直径百メートルのクレーターへと変え、周囲のビルを飴細工のように捻じ曲げている。

 熱気が渦巻くその中心。ジャック・ヴァン・ドレンは、右腕の筋肉が剥き出しになり、バイザーの破片が頬に食い込んだ姿で、それでもなお、地を這って立ち上がろうとしていた。


「……ハァ、……ハァ……。……お代は、……まだ、残ってるぜ……ゼロ……」


 その声は掠れ、震えていた。だが、ジャックが倒れなかったのは、彼の背中を支える「無数の手」があったからだ。

 

 ドォォォン!


 瓦礫の山の向こう側から、巨大な対物ライフルの火線が走り、ギガ・ゼウスの単眼を正確に貫いた。

 

「"Nice fireworks, Jack. But the grand finale is mine!"(派手な花火だったわね、ジャック。でもフィナーレは私のものよ!)」


 炎の中から姿を現したのは、バリスティック・クイーン。彼女は最新鋭の重武装装甲車を駆り、かつてのジャックへの憎しみをすべて「守るための火力」へと変えて、戦場へと乱入した。


 それだけではない。

 ギガ・ゼウスが放とうとした第二射のプラズマが、空間に展開された巨大なクリスタルのプリズムによって、空へと反射された。

 

「"Logic dictates we protect our investment, isn't it?"(論理は、投資を守るべきだと言っているわ。そうでしょう?)」


 ラピス・レイザーが、青白い光の粒を纏いながら降臨する。

 さらに、戦場には紫色の香煙が立ち込め、アンドロイド軍団の視覚センサーを狂わせ、人々を悪夢から覚醒させる温かい風が吹く。ミストレス・マインド(アイリス)の参戦だ。


 かつてジャックが私財を投げ打ち、命を懸けて救い出した「敵」たちが、今度はジャックの命を繋ぎ止めるために、この地獄へと集結していた。


「"The Council of Shadows... is now in session!"(影の評議会……総決起といこうか!)」


 ジャックは血を吐き捨て、仲間の支えを受けて再び立ち上がった。

 一文無しのヒーローが築き上げた、世界で最も強固な「人間の壁」が、鋼鉄の神の前に立ちはだかる。


 ギガ・ゼウスの内部。ドクター・ゼロは、自身の予測アルゴリズムが完全に崩壊していくのを、狂気を含んだ目で見つめていた。


「"Why?! Why do they come back for you?! You have no money! No power! No records!"(なぜだ! なぜ奴らはお前のために戻ってくる!? お前には金も、権力も、記録さえないんだぞ!)」


「"That's where you're wrong, Zero. I have the only thing that doesn't show up on your balance sheet."(そこがお前の間違いだ、ゼロ。お前の貸借対照表には載らないものを、俺は持ってるんだよ)」


 ジャックは、クイーンから手渡された「即席のエネルギー・パック」を、FINAL UNITの剥き出しのポートへ叩き込んだ。

 VREEE-!

 リアクターが再び咆哮し、ジャックの神経を焼きながらも、肉体に偽りの活力を注ぎ込む。


『……ジャック。……聴こえる。……みんなの「意志」が、一つの巨大な旋律メロディになって……この街を震わせている……!』


 クレアが、自身の震える指をジャックの右腕に重ねる。

 彼女の脳内では、クイーンの弾幕、ラピスの防御、マインドの精神干渉、そして地下から響く住民たちの祈りが、一本の「必勝の糸」となって編み上げられていた。


『……でも気をつけて。……ギガ・ゼウスは、この街の「地下電力網セントラル・コア」と直結している。……あいつを物理的に壊せば、この街のエネルギーもろとも大爆発を起こす。……街を殺さずに神を殺す……。それは、因果律を超えた『究極の不殺』でなければ届かないわ』


「"Ultimate No-Kill... Sounds expensive."(究極の不殺、か。……また高くつきそうな取引だな)」


 ジャックは、隣で静かに立ち上がるシスターを見た。

 彼女の精神体は依然としてゼウスのシステム内に半分溶けたままだが、その「影」はジャックの足元に力強く伸びている。


「"Brother... I am your 'Key'. But you are the 'Hand'."(お兄様……私はあなたの『鍵』。でも、あなたは『手』)」


「"Got it, Sister."(分かってる、シスター)」


 ジャックは、仲間たちが作り出した「火力の回廊」を見据えた。

 

「"Listen up, Shadows! I'm going in! Cover my back, or I'm charging you double for the next life!"(聞け、影の評議会! 俺が突っ込む! 背中を守れ、さもなきゃ来世の相談料を倍にするぞ!)」


 クイーンの豪快な笑い声と、ラピスの冷徹な承諾。

 ジャックは、全ヴィランの能力を一点に集約させた「因果の弾丸」となり、ギガ・ゼウスの懐へと跳躍した。


 戦場はもはや一対一の決闘ではなかった。それは「一人の男の意志」を信じた者たちによる、鋼鉄の神への叛逆。

 ギガ・ゼウスの全方位レーザー砲が展開され、逃げ惑う数千人の市民を焼き払おうとしたその瞬間、ジャックは光の渦のただ中へと飛び込んだ。


 三角形の構築。

 パニックに陥り逃げ場を失った「避難民の群れ(被害者)」と、絶対的な質量とエネルギーで蹂躙する「ギガ・ゼウス(加害者)」、そしてその両者の絶望を食い止めるために自らを「楔」として打ち込む「ジャックと影の評議会」。


「"Now! Open the path!"(今だ! 道を開けろ!)」


 ジャックの号令と共に、クイーンの駆る装甲車が咆哮を上げた。

 RATATATATA!

 大口径の徹甲弾がギガ・ゼウスの外装プレートを叩き、強引に注意を逸らす。

「"Move it, Jack! This ammo costs more than my soul!"(行きなさい、ジャック! この弾薬は私の魂より高いんだから!)」


 続けざまに、ラピス・レイザーが自身の全神経をクリスタルへと同期させた。

 空中に数千の結晶の盾が展開され、ギガ・ゼウスの放つプラズマ・ビームを屈折、霧散させていく。

「"Jack! 3.5 seconds! That's all the window I can give you!"(ジャック! 3.5秒! それが私の作れる限界の隙よ!)」


 ジャックは、マインドが放つ紫色の「精神の霧」に隠れ、瓦礫を蹴って空へと舞い上がった。

 バイザーには、クレアの「因果の目」が導き出す、針の穴を通すような突入軌道がスチールブルーの線となって焼き付いている。


『……ここよ、ジャック! ギガ・ゼウスの胸部、排熱シャッターが「呼吸」する瞬間の、0.01秒の沈黙を突いて!』


「"I see it, Claire!"(視えてるぜ、クレア!)」


 ジャックは、剥き出しの右腕にシスターの「無音」のエネルギーを纏わせ、自らを音なき槍へと変えた。

 ギガ・ゼウスの熱線がジャックの左肩を焼き、肉が焦げる匂いがコクピットに満ちるが、彼は一ミリも軌道を逸らさない。

 不殺を貫くための、あまりに過酷な「突撃」。

 仲間たちが繋いだ光の回廊の果て、ジャックの拳はついに神の心臓へと届こうとしていた。


 ギガ・ゼウスの装甲内部。ジャックは火花が散る暗闇の中を、中枢回路へと肉薄していた。

 そこには、巨大な液冷タンクに浸かったドクター・ゼロの「本当の肉体」——機械と肉が醜く癒着した、ヴァン・ドレン家の歪んだ執着の成れの果てがあった。


「"Is this your paradise, Zero? Inside a metal tomb?"(これが望みか、ゼロ? 金属の墓標の中で、独りぼっちで死ぬのが)」


 内部スピーカーから、ドクター・ゼロの狂気に満ちた叫びが響く。

「"You don't understand! I wanted to preserve the 'Order'! Your father's city was too chaotic, too human! I perfected it!"(お前には分からない! 私は『秩序』を守りたかったんだ! お前の父の街はあまりに混沌とし、人間臭すぎた! 私はそれを完成させたんだ!)」


 ジャックの目の前に、自身の「過去の記録」がホログラムとして現れる。

 そこには、一人の部下も信じず、金と数字だけで世界を計っていた、かつてのジャック・ヴァン・ドレンの傲慢な瞳があった。


「"You're right about one thing, Zero."(一つだけ正解だ、ゼロ)」

 ジャックは、血に濡れた右拳を、自分自身のホログラムを貫くようにしてゼロのタンクへと突き出した。

「"I was the one who started this logic. But I'm also the one who found out that 'Logic' is just a fancy word for 'Fear'."(この論理を始めたのは俺だ。……だが、その『論理』ってのは、『恐怖』を言い換えただけの言葉だってことに気づいたのも俺なんだよ)」


 ジャックは、懐に隠し持っていた「最後の一セント」を、ゼロのニューラル・コアへと押し当てた。

 それは、富でも名誉でもない。

 泥を啜り、皿を洗い、誰かのために血を流すという「一文無しの自由」を証明する、呪いの解毒剤。


「"I'm not destroying you. I'm 'reclaiming' you."(お前を壊しはしない。お前を『再建』してやるんだ)」


 ジャックの精神から、クレアとシスター、そして全ての仲間たちの鼓動ビートが、ゼロの冷徹な回路へと逆流を開始した。


 VREEEEEEEEE-!


 ギガ・ゼウスの巨体が激しく痙攣し、中枢から眩いスチールブルーの奔流が噴き出した。

 ドクター・ゼロの悲鳴が電子の波に飲み込まれ、街全体のネットワークが、AIの独裁からジャックの「意志」による解放へと塗り替えられていく。


「"Status, Claire! Is the 'Balance' hold?!"(状況はどうだ、クレア! 帳簿バランスは維持できてるか?!)」


『……ジャック! 全ての電力が、街の「復興ビーコン」へと反転しているわ!……でも、ギガ・ゼウスのコアが、エネルギーの逆流に耐えきれず、臨界突破メルトダウンを起こそうとしている!』


 ジャックは、炎上する内部でゼロのタンクを抱きかかえた。

 このままでは、ギガ・ゼウスは巨大な核爆弾となり、セント・ミリオネアの半分を焼き尽くす。

 救い出したはずの仲間も、住民も、すべてが光の中に消える。


「"Not on my watch!"(させるかよ!)」


 ジャックは、自身のFINAL UNITの全リミッターを、文字通り「物理的に」引き千切った。

 彼は、自らの肉体を「アース(接地)」にして、ギガ・ゼウスの暴走する全エネルギーを自分の魂へと引き受けようとしていた。


「"JACK! STOP! YOU'LL BE ERASED!"(ジャック! やめて! あなたが消えちゃうわ!)」

 インカムから届くクレアの絶叫。

 だが、ジャックは微笑んだ。


「"A janitor's job... is to take out the trash, right?"(皿洗いの仕事は……ゴミを片付けることだろ?)」


 ドォォォォォォン!


 セント・ミリオネアの中央で、太陽が生まれたかのような純白の爆発が起きた。

 光が収まった時、そこに立っていたのは、半身を焼き切られながらも、ドクター・ゼロを生身の腕で抱きかかえ、一発の弾丸も撃たずに神を仕留めた、名もなき男の背中だった。


 だが、その瞬間。

 夜空を覆っていた銀色の「繭」が、最後にして最悪の「配当」を、街の全住民の脳内へと振り落とした。


 [FINAL DIVIDEND ACTIVATED: WORLD-WIDE SYNC.]

 (最終配当発動:全世界同期開始)


 ジャックが倒したはずのゼウスは、消滅する直前、自らの「悪意」を全世界のネットワークへとパルスの形で解き放っていた。

 本当の戦争は、この街の中だけでは終わらなかった。


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