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VENDYS:破産した億万長者が、不殺を誓って摩天楼を駆ける――救った命の数だけ、俺の誇りは積み上がる――  作者: 寝不足魔王


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第28話:VENDYS Logistics

 セント・ミリオネアの物流は、フェニックス・ホールディングスという名の「動脈硬化」に喘いでいた。

 彼らは第零区の残骸から得た超高効率エネルギーを独占し、その輸送路を私兵で固めることで、スラムへの生活物資を意図的に滞らせていた。


「"They're choking the city for a 2% profit margin."(わずか2パーセントの利益率のために、街の喉を絞めているわけか)」


 ジャックは、スラムの廃ガレージに並んだ十数台の「中古バイク」と「電動リヤカー」を見渡した。

 どれもマドンナがゴミ山から拾い集め、ジャックが自らの手で組んだ即席の輸送機だ。

 FINAL UNITファイナルユニットの装甲は一部剥ぎ取られ、バイクのエンジンを強化するための「ブースター」として移植されていた。


「"Jack, the heartbeat of the streets is changing."(ジャック、街の鼓動が変わろうとしているわ)」


 隣に立つクレアが、光のない瞳を夜の道路へと向けた。

『……聴こえる。……フェニックス社の大型トレーラーが、三区の検問所を抜けたわ。……中身は、彼らが不当に押収した住民たちの食糧と医療品よ』


「"Then it's time for a 'Return to Sender'."(なら、『差出人へ返送』する時間だな)」


 ジャックは、ボロボロの黒いヘルメットを被った。

 資産もない、公式な権限もない。

 だが、彼にはこの街の裏道を知り尽くした「従業員」という名の、何物にも代えがたい仲間たちがいる。


「"VENDYS Logistics, Online."(ヴェンディス・ロジスティクス、稼働)」


 ジャックがアクセルを回すと、移植されたリアクターが青い火花を散らし、スラムの「血管」が再び脈動を始めた。


 夜のハイウェイ。ジャックは中古バイクを駆り、フェニックス社の巨大なトレーラーを追尾していた。

 後方には、シスターが指揮する「配送部隊」が、影に潜むように続いている。


「"Is Lapis in position?"(ラピスは配置についたか?)」


『……ええ。……彼女はフェニックス社のデジタル検問所を「内側」から凍結させているわ』

 クレアの声がインカムを通じて響く。

『……でもジャック、気をつけて。……フェニックス社は、この輸送路を守るために、元SMPDの汚職警官たちを雇い入れた。……彼らにとって、あなたの「不殺」は、ただの脆弱性でしかない……』


「"A weakness? No, Claire. It's a 'Filter'."(脆弱性だって? 違うな、クレア。そいつは『フィルター』だ)」


 ジャックは、バイクの加速を上げながら、フェニックス社のセキュリティ・ログを網膜に映し出した。

「"It filters out the cowards who hide behind guns. And leaves only those who are willing to sweat for a living."(銃の陰に隠れる臆病者を振り落とし、汗を流して生きようとする奴だけを残すフィルターだ)」


『……因果の音が、激しく乱れている。……前方五百メートル、フェニックス社の「装甲インターセプター」が、あなたを挟み撃ちにするつもりよ!』


「"Let them try. I've survived bankruptcy; a few bumper cars won't stop me."(やらせておけ。破産を生き延びたんだ、ぶつかり稽古くらいじゃ止まらないぜ)」


 ジャックは、バイクから伸びたワイヤーをトレーラーのコンテナに引っかけ、強引に「商談」の場へと割り込んだ。


 ハイウェイのジャンクション。

 逃げ場のない高架の上で、フェニックス社の装甲車がジャックを包囲した。


 三角形の構築。

 トレーラーの中に閉じ込められた「物資を待つ住民の代理人(被害者)」と、重火器を構えた「企業私兵(加害者)」、そしてその間にバイクで突っ込む「ジャック」。


「"Get out of the way, VENDYS! This cargo belongs to the company!"(どけ、ヴェンディス! この荷物は会社の所有物だ!)」


「"In this street, ownership is decided by 'Need'."(この通りじゃ、所有権は『必要性』で決まるんだ)」


 ジャックはバイクから跳躍した。

 FINAL UNITのリパルサーを、攻撃ではなく「吸引」に使用し、装甲車の砲塔を強引に自分の方へと向けさせる。


 RATATATATA!


 銃弾がジャックの装甲を削るが、彼は一発も撃ち返さない。

 代わりに、彼はシスターに合図を送った。

「"Sister, execute the 'Delivery' protocol!"(シスター、『配達』プロトコルを実行しろ!)」


「"Understood... Brother."(了解……お兄様)」


 影から現れたシスターが、トレーラーのブレーキシステムに「無音の衝撃」を叩き込み、車体を傷つけることなく停止させた。

 同時に、ラピスが作ったクリスタルの「スライド」が空中に展開され、コンテナの中身が、待機していた住民たちのリヤカーへと次々に滑り落ちていく。


「……荷物が……戻ってきた! 病院へ運べ! 急げ!」

 住民たちの歓喜の声。


 ジャックは、怒り狂う私兵たちの前に立ち塞がり、ただの一人も殺すことなく、彼らの武器だけを磁力で奪い取った。

 

「"Sorry, boys. Your 'Interest' was too high."(悪いな。お前たちの『利息』は高すぎたよ)」


 だがその時、夜空を切り裂くような高出力のレーザーが、ジャックのバイクを直撃した。


 燃え上がるバイクの残骸。

 ジャックは衝撃で地面を転がったが、すぐに立ち上がり、上空を睨みつけた。

 そこには、フェニックス社の最新鋭戦闘ドローン、そしてそれを通してジャックを見下ろす、かつての自分の「秘書」の一人だった男のホログラムが映っていた。


「"Jack, Jack... still playing the saint with no budget?"(ジャック、ジャック……まだ予算ゼロで聖者ごっこかい?)」


「"Status, Marcus. You look expensive."(状況はどうだ、マルクス。相変わらず高くつきそうな格好だな)」


 マルクス——かつてヴァン・ドレン社でジャックの資産運用を担当していた男は、冷酷な笑みを浮かべた。

「"I learned from the best, didn't I? I took your 'Ballistic Queen' project and made it 'Cost-Effective'. No human pilot, no conscience. Just pure profit."(最高の上司に教わったからね。あんたの『バリスティック・クイーン』計画を買い取って、『費用対効果』を高めたんだ。パイロットも良心もなし。ただの純粋な利益だ)」


 ジャックは、ドローンのカメラ越しに、マルクスが手にしている「新エネルギーの特許権」を確認した。

 それは、ジャックの父が、この街を救うために遺したはずの「無償エネルギー」の設計図だった。


「"You're selling my father's dream... for pennies."(親父の夢を……小銭に変えて売っているのか)」


「"Business is business, Jack. You taught me that. Now, die for your ideology."(ビジネスはビジネスだ。あんたが教えたんだろ。……さあ、あんたの思想と一緒に死にな)」


 ドローンの銃口が、ジャックの眉間に固定される。

 ジャックは、背後に守るべき住民たちがいることを悟り、逃げることをやめた。

 

『……ジャック! 聴こえるわ! そのドローンの内部に、父さんが遺した「最後のアカウント」が隠されている!』

 クレアの声が、光の速度でジャックの脳内に弾けた。


「"One last audit, Marcus."(最後の会計監査だ、マルクス)」


 ジャックは、FINAL UNITの残存エネルギーを右拳に集中させた。

 だが、彼はドローンを破壊しなかった。

 

 彼は、自らの「破産者としての生体コード」を、ドローンのセンサーへと強引に叩き込んだ。


 VREEE-!


 フェニックス社の全システムに、かつての「筆頭株主」としてのジャックの権限が、ウイルスのように侵食を開始する。

 

「な……バカな! あんたの権限は抹消されたはずだ!」


「"I deleted the 'Jack Van Doren'. But the 'Broke Man' you created... he found a back door."(『ジャック・ヴァン・ドレン』は消した。だが、お前たちが産み出した『一文無しの男』は……バックドアを見つけたのさ)」


 ドローンの動きが停止し、フェニックス社の全物流網が、ジャックの意志一つで「住民への無償提供」モードへと切り替わった。

 

 だが、勝利の喜びは長くは続かなかった。

 

 フェニックス社のビルが、街の全電力を吸い上げるように不気味に発光したのだ。

 マルクスは狂気を含んだ声で叫ぶ。

「"Fine! If you want to share everything, then share the 'Self-Destruct'!"(いいだろう! 全部共有したいなら、『自爆』も共有してやるよ!)」


 セント・ミリオネアの地下に埋め込まれたエネルギー・ラインが、暴走を開始した。

 ジャックは、救ったばかりの荷物を抱える住民たちを見つめ、再び絶体絶命の淵に立った。


「"The bill just got bigger."(ツケがさらにデカくなりやがった)」


 爆発まで、あと五分。

 ジャックは、名もなきヒーローから「再建の王」へと、真の脱皮を迫られていた。



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