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勇者、魔王について考える

※前回の話、恭司視点です。

 到着後、直人と吉田さんとは入場ゲート前で別れた。

 「恭司さぁーん、玲奈様ぁー!!」とか喚いているでかい着ぐるみを吉田さんが引きずっていく姿はシュールだった。


 「さあ恭司、早く行こう」

 待ちきれないといった様子で玲奈が俺の手を引いてくる。

 そんなに楽しみだったのか?


 ……考えてみれば、普段から何かとスケジュールのあるお嬢様だ。長時間遊びに行くなんて滅多にないのかもしれない。

 なら、深く考えることもないか。母さんがデートとか言ってるだけで、あくまで俺はこいつの付き添い、ただの腐れ縁にすぎない。

 今日は純粋に楽しむのが無難だな。下手なことをしたら玲奈の親父が怖い。


 「で、まずはどこへ行くんだ?」

 「まかせろ、事前にリサーチしてルートは決めてある」

 と自信満々に言っていたので、とりあえず玲奈に任せることにした。


 「まずはここだ」

 玲奈が指さしたガイドマップを見ると、そこには『ドラゴンライダー』とあった。

 フライトシュミレーター型の人気アトラクションだ。意外と定番で来たな。


 ……しかし、思わぬ落とし穴があることにその時の俺は気づいていなかった。






 最初は普通に「空の旅」といった感じだった。

 そろそろ何か来るだろうな……と思っていた矢先にそれは始まった。


 『グギャオォーッ!!』

 「うおわっ!?」

 突然スクリーンに登場したドラゴンのアップ。

 そのせいで、脳裏に魔王城の入り口で遭遇したあいつが浮かんできてしまった。


 そうなってしまうと、最早楽しむどころではない。

 ああ、あの時と同じように迫ってくる口、噛まれれば手足なんてあっさり千切れそうな鋭い歯……

 アニメ絵じゃなくてリアルなCGなのが更にまずかった。マジで魔王城のドラゴンに見えてくる。


 「リアリティ追求しすぎだろ、コレ!!」

 思わず叫んでしまった俺を、誰が責められようか。






 十数分後。


 「はあ、はあ……初っ端から疲れた……」

 「男子なら、こういうのが好きかと思ったのだが。苦手だったか、すまん」

 完全にへばった俺に、玲奈が買ってきたらしいジュースを差し出していた。

 まあ、前世の……召喚される前の俺だったら普通に楽しめただろうが、しかし。


 「正直舐めてた……くっそ、思い出しちまったじゃねーか……」

 「ん? 恭司は飛竜に乗ったことがあるのか?」

 思わずぼやいたら、玲奈が食いついてきた。

 「そっちじゃねーよ、ドラゴンの口。いただろ、お前の城の門を守ってたドラゴン。俺、あいつに追っかけまわされたんだよ」


 玲奈はしばし考えた後、ぽんと手を叩き。

 「ああ、マリーベルちゃんか!」

 「見かけによらずかわいい名前だな!? ってか、メスだったのかよあいつ!!」

 どう見てもそんな名前が似合うようなシロモノじゃなかったぞ! でかいし、ごついし、いかついし!!

 だが玲奈は笑顔で続ける。

 「そうだぞ。卵から孵った時からの仲だ」


 急速に頭が冷えた。

 生まれた頃からの仲だったのなら、家族のようなものだったのかもしれない。

 俺も昔、飼ってた犬が死んだ時は滅茶苦茶泣いたのを覚えてる。もちろん前世の話だ。

 しかも、こいつの場合は……


 ふと、玲奈が不思議そうにこちらを向いた。

 「なんだ?」

 「いや……仕方なかったとはいえ、悪かったかなって。そのマリーベル、殺したの俺たちだし」

 「……そうだったな」


 あの時の俺は死にたくない一心だった。

 でも、あのドラゴンも……いや、それまで戦ってきた魔族たちだって家族や守りたい存在があったかもしれない。

 敵対している以上、他にどうすることもできなかったとしても。

 俺に、できることは……


 「だとしても、憐れむことはない。彼女は己が誇りのために勇者と戦い、その結果死んだ。むしろお前は勝利したことを誇れ、それがせめてもの手向けだ」

 そんな思考に陥りかけたからこそ、玲奈の言葉は信じられないものだった。

 強がってるわけでも、俺を気遣ったわけでもなく。

 明らかに本心から言っているとわかってしまったからだ。


 「お前って……」

 「ん?」

 マリーベルの死は、全然悲しくなかったのか?

 その問いかけは口にできなかった。

 「……いや、何でもない」


 考えてみたら、俺は魔族というものをよく知らない。みんな「憎むべき敵」以外のことは言わなかったし。

 今玲奈が言ったことだって、「そういうもの」として教育されてるのなら疑うことすらしないって、他ならぬ人間おれたちが証明しているじゃないか。

 もしそうだとしたら、今のこいつは……


 「次はどうする? どこか行きたい所はあるか?」

 玲奈の質問に、俺は思考を打ち切らざるを得なかった。

 行きたいところ、か。そういや、祐介に頼まれていたな。

 「それなら――」

 俺はガイドマップのゲーセンエリアを指差した。






 ボタンを押し、クレーンを慎重に動かす。

 目標はクロハ――祐介の推しキャラの抱き枕。

 狙ったポイントめがけてクレーンを下ろし……。

 「よっしゃ!」

 クロハの抱き枕は穴に落ちた。


 「それが欲しかったのか?」

 「俺じゃねぇよ、祐介に頼まれたんだ。この限定プライズ、この辺だとここしかないらしいから」

 自分で行けよと思ったのだが、金欠で入場料を出すのがきつかったらしい。

 取るまでにかかった金を引き換えに払うという条件で引き受けたのが一昨日の話だ。


 玲奈は珍しそうにクレーンゲームのコーナーを見回していたが、ふいにフニャックマのぬいぐるみが入った筐体に目を留めた。

 「それが気になるのか?」

 尋ねてみたが返答はない。無視しているというよりも、気になって仕方がないようだった。


 「なんなら……」

 俺が取ってやろうか、と言いかけて飲み込んだ。

 そういえば玲奈って、年頃の女子高生らしい遊びってしたことあったか?

 こういう機会でもないと、一生やりそうにないよな……

 「やってみるか?」

 「え、いいのか?」

 「別に俺の許可がいるわけでもないだろ。やりたいならやればいいんじゃねえか」


 玲奈は心なしか嬉しそうに筐体に近づき、百円玉を投入したが、

 「あれ? 動かないぞ」

 ……あのバカ、値段確認しないで操作しようとしてる。

 「おい、よく見ろ。それは200円だぞ」

 あ、と呟き玲奈は財布を探った。

 そして百円玉が再び投入されると、筐体は軽快な音楽を鳴らしだした。


 玲奈はやったことないだろうから、簡単に操作方法をレクチャーする。

 あえてコツは教えない。それじゃつまらないだろうしな。

 予想通り、玲奈の操作するクレーンはぬいぐるみの真上に移動した。

 初心者あるあるだなーと眺める俺の前で、クレーンが下りてフニャックマの頭を鷲掴みにし……


 「って、ああっ!?」

 ……案の定、すぐにクレーンから落ちた。

 っていうか、これ……


 「あー……これ、初心者には難しいかもな。思ったよりバランス悪い」

 「それはどういう意味だ?」

 「あ、ええと……ぬいぐるみって、ものによってバランスが変わるんだよ。手足が重かったりすると、頭を狙っちゃダメなのが多い」

 しかも、ビギナーの玲奈には厳しいレベルだ。掴んで運ぶのはまず無理だろう。


 「ならば恭司、教えてほしい。どうやればあのぬいぐるみを手に入れられる?」

 お、そう来たか。

 あの位置なら……そうだな。

 「お前でもできるやり方となると……3回くらいになっちまうけど、いいか?」

 「ああ」


 俺が教えたのは、「クレーンでずらして落とす」方法だ。

 これなら玲奈もコツをすぐつかめるだろう。

 俺が玲奈に教えることってあんまりないから、少し新鮮だなこれ。


 思った通り玲奈は、コツを知ってからは真剣だが楽しそうだった。

 ……こういうところを見ると、普通に女の子なんだよなこいつ。

 前世が魔王で、今は人間のお嬢様で。

 生きづらいとか思ったことはないんだろうか。


 「やった!」

 どうやら落とすのに成功したらしい。

 いそいそと取り出し口からぬいぐるみを取り出す姿は、その辺の女子高生のようで。


 俺は分からなくなった。

 今、俺の目の前にいるのは誰なんだろう。


 「魔王」か? 「朱雀院玲奈」か?

 それとも、どっちも違うのか?

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