魔王、デートを開始する
ガス抜きしたら、いい感じにネタが降臨してくれました。
ストレス発散、超大事。
はあ……柄にもなく八つ当たりしてしまった。
大体、直人も悪いんだ。罰をくらうようなことをしたんだから。
……何をやらかしたのかは、本人も吉田も話してくれなかったが。
何をしたにせよ、こちらは完全にとばっちりではないか。恭司とこれからのデートの話で盛り上がる予定だったのに。
だが、まあ。親密になるチャンスが一つ消えただけだ。まだ終わりではない。
幸い、今日はデート。
プランだって綿密に立てたんだ。ここから取り返せばいい。
そう思って、恭司と共にフェニックスランドのゲートをくぐった。
……のだが。
風の音と共に、世界が揺れる。
眼前に広がるは、空。
そして――
『グギャオォーッ!!』
「うおわっ!?」
突然スクリーンに現れた竜のアップに、隣の恭司がビクッと反応したのが見えた。
『大変だ、ワイバーンだ! 逃げよう!!』
声に合わせて動く椅子と映像。
時々後ろを振り向くようなカメラワーク、待ち受けるのはいかにも獲物を喰らおうとする飛竜の口。
「リアリティ追求しすぎだろ、コレ!!」
恭司の絶叫が聞こえた。
……おかしい、想像していたのと違う。
「はあ、はあ……初っ端から疲れた……」
「男子なら、こういうのが好きかと思ったのだが。苦手だったか、すまん」
フェニックスランド人気アトラクションの一つ、ドラゴンライダー。
竜に乗って空を飛ぶ気分を味わえると評判らしいのだが、予想に反して恭司はぐったりと座り込んでしまった。
「正直舐めてた……くっそ、思い出しちまったじゃねーか……」
「ん? 恭司は飛竜に乗ったことがあるのか?」
「そっちじゃねーよ、ドラゴンの口。いただろ、お前の城の門を守ってたドラゴン。俺、あいつに追っかけまわされたんだよ」
城? 門のドラゴン、というと……
「ああ、マリーベルちゃんか!」
「見かけによらずかわいい名前だな!? ってか、メスだったのかよあいつ!!」
「そうだぞ。卵から孵った時からの仲だ」
うん思い出した、懐かしいな。
当時の魔将軍から卵をもらって、飛竜軍の竜に温めてもらったんだ。
私が魔王に即位するまでは、よく一緒に遊んでいた。
ふと視線に気づくと、恭司が複雑そうに見上げていた。
「なんだ?」
「いや……仕方なかったとはいえ、悪かったかなって。そのマリーベル、殺したの俺たちだし」
「……そうだったな」
それはそうなのだが、しかし。
その知らせを聞いた私には、友の死を嘆くよりも勇者が生き延びたことを喜ぶ気持ちの方が勝ってしまっていた。
そんな本音を知ったら、目の前の彼は軽蔑するだろうか。
「だとしても、憐れむことはない。彼女は己が誇りのために勇者と戦い、その結果死んだ。むしろお前は勝利したことを誇れ、それがせめてもの手向けだ」
だから、私は建前を……いや、これもある意味本音か。
彼女が誇り高き竜であったことは確かなのだ。下手に憐れむのは、かえって侮辱だろう。
私の言葉に、恭司が目を見張った。
「お前って……」
「ん?」
「……いや、何でもない」
まあ、話しているうちに恭司が落ち着いてくれたなら何よりだ。
そろそろ次へ向かおう。
とはいえ、恭司が竜の口にトラウマがあるとは予想外だった。少し、プランを修正した方がいいかもしれん。
「次はどうする? どこか行きたい所はあるか?」
とりあえず、本人の希望ならまず間違いはないだろう。
好きなようにさせて、頃合いを見て本来のプランに戻そう。
恭司は少し考え、
「それなら――」
広げたガイドマップの一点を指さした。
「よし、このまま……」
がたん、と大きな音を立ててそれが穴の中へと落ちる。
「よっしゃ!」
「それが欲しかったのか?」
「俺じゃねぇよ、祐介に頼まれたんだ。この限定プライズ、この辺だとここしかないらしいから」
取り出し口から少女のイラスト入りクッションを出しつつ、恭司が答える。
ここはゲーム筐体の並んだコーナーだ。
クレーンゲームというのは初めて見たが、こういう遊びもあるのだな。愛らしいぬいぐるみ、小さな菓子、様々なものが入っている。
見回しているとふと、ある筐体が目に留まった。
あそこに入っているぬいぐるみは……前にあっちゃんが教えてくれた熊のキャラクターだ。確か、フニャックマとかいったか。
その時は大して気にしなかったが、このぬいぐるみはなかなかかわいいな。表情がいい。
「それが気になるのか?」
気になる。ふむ、この場合はそうなのだろうか。
この中のどれかを選べと言われたら、まず間違いなくこれにする。
「なんなら……」
なぜか恭司はそこで言葉を切り、少し考える素振りをした。
「やってみるか?」
「え、いいのか?」
「別に俺の許可がいるわけでもないだろ。やりたいならやればいいんじゃねえか」
そうか、やってもいいのか。
恭司のやったことを思い出してみる。確かここに百円玉を入れるんだったな。
だが、
「あれ? 動かないぞ」
壊れたのかとボタンを連打していると、後ろから恭司の呆れた声が聞こえた。
「おい、よく見ろ。それは200円だぞ」
あ、本当だ。つまりもう一枚いるのか。
気を取り直して、百円玉を再投入。筐体から音が鳴って、ボタンが点灯した。
「まずは横に動かす。やってみろ」
光ってるボタンの一方を押す。おお、クレーンが左に動いた。
ということは、こちらは右か? 試しに押したら、右に動いた。
ならば、クレーンをあのぬいぐるみの真上に持っていけばいいのだな。
調整して、もうちょっと……よし、こんなものか。
「それでいいならこれを押せ。そのまま前後に移動できる」
さっきの要領で……うむ、いい位置だ。
あとは分かる。この点滅している「取る」と書いてあるボタンだな。
降りたクレーンは、狙い違わずぬいぐるみの頭を鷲掴みにし……
「って、ああっ!?」
ぬいぐるみが落ちた!
そのまま何もないクレーンが穴の上まで移動し、元の位置に戻って終了。
「あー……これ、初心者には難しいかもな。思ったよりバランス悪い」
恭司が聞き捨てならないことを呟いた。
「それはどういう意味だ?」
「あ、ええと……ぬいぐるみって、ものによってバランスが変わるんだよ。手足が重かったりすると、頭を狙っちゃダメなのが多い」
早く言ってほしかった。
……いや、まてよ。
この様子からするに、恭司はクレーンゲームには詳しいし上手いだろう。
だったら、教えを乞うのも手ではないか?
「ならば恭司、教えてほしい。どうやればあのぬいぐるみを手に入れられる?」
「お前でもできるやり方となると……3回くらいになっちまうけど、いいか?」
「ああ」
頷いて、更に200円を投入する。
「まずは、横に動かして……ストップ。そこから、若干右だ」
「え?」
どう見ても、掴むにはバランスが悪そうな位置だ。
しかし、恭司がそう言うなら従おう。今は教えてもらっている身だ。
「よし、いいな。前後は真上に合わせろ。うん、そこだ」
恭司のアドバイスを聞きながらクレーンを微調整する。
そして「取る」ボタンを押下。
「ん? ……おおっ!!」
クレーンはぬいぐるみを掴めなかった。
その代わり、クレーンのアームがぬいぐるみを左へと押す形となった。
なるほど、掴むだけが必勝法ではないということか。
「押す要領は分かったな。今のを繰り返せば、左の穴へと落とせるはずだ」
「ああ!」
コツをつかめばなんてことはない。
私は合計800円を消費して、ぬいぐるみを手に入れた。
「ふふっ」
「良かったな、手に入って」
「ああ」
初めてのクレーンゲーム、しかも恭司と一緒に手に入れたものだ。嬉しいに決まっている。
思えば恭司は、出会った時からそうだった。私の知らない物や世界を見せてくれる。そして、そのすべてが私に喜びをくれる。
しばらく私は二重の幸せに浸っていたのだった。
マリーベルちゃんがわからない方は、第一話を読み返してみましょう(笑)




