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勇者、マスコットを指導する

お待たせしてすみません。難産でした……

 抜けるような青空。

 それなりの陽気に、適度な風。

 もし前世の友人ダチがいたら、「最高のデート日和」とか抜かすんだろう。

 そういやあいつ、彼女とはうまくいってるんだろうか。

 ……あ、思い出したらムカついてきた。

 ハゲができる呪いでも送っておこう。届くかわからんけど。

 ってか、あいつ今いくつだ? 時間の流れが一緒ならいい歳のおっさんだよな。


 「恭司、何してるんだ? 行くぞー」

 ……まあ、そんな現実逃避など玲奈こいつは許してくれないが。


 といっても、原因は玲奈ではない。

 「今日は俺が送迎やるから、よろしくな」

 「あ、はい」

 ワゴン車の運転席から挨拶してきた吉田さんでもない。


 問題は、ワゴン車の中にある物体だ。

 「……で、これは何だ?」

 聞きたくはなかったが、仕方なく尋ねる。

 後部座席の左側に鎮座していた、鳥型の着ぐるみを指さして。


 「フェニックスランドのマスコット、フェニちゃんだが?」

 「んな見てわかることを聞いてんじゃねえよ!」

 玲奈のとこで送迎してくれるのはいいとしても、なんでそこに遊園地の着ぐるみがいるんだよ!?

 しかも動いてるし、中身いるだろコレ!?


 すると吉田さんがそいつの方を向き、

 「ほら、そろそろ挨拶しろ。話が進まねえ」

 「…………」

 着ぐるみのため表情は見えないのだが、どうも悩んでるような感じがするのは気のせいだろうか。

 とりあえず声でもかけるべきなのかと近づくと。


 「おはようござ、じゃなくてえーと……やあ恭司さ、恭司……君、今日は楽しんでくれると嬉しいぜ……嬉しいな」

 ツッコミどころ満載の挨拶をされた。

 てか、この声……


 「何してんだよ、直人」

 「な!? なんでわかっ……いや、何の話かなー、お、じゃなくてボクはフェニちゃんだよー」

 ……棒読みのセリフが更にグダグダになった。


 「……説明お願いします、吉田さん」

 「こいつ、今日馬鹿な事やらかす計画立ててたんだよ。だから、罰として一日マスコットになりきって警備しろって言ったんだ」

 罰だったらしい。というか、何やろうとしてたんだよ直人。


 「ま、これも課題だ。護衛をやる以上、変装して周りに溶け込む必要だって出てくる。恭司君には悪いが、着くまでこいつの演技練習に付き合ってくれや」

 事情は分かったが……こいつにマスコットの演技って無理がないか?


 「そういう訳だ、罰だから遠慮なくいくぞ。フェニちゃん、まずはおすすめスポットの説明からだ」

 「えっ!? いや、俺は遊園地は……」

 「口答えするな、素も出すな。そら、やってみろ」

 ん? 玲奈、なんか怒ってないか?

 スパルタで教えることはあるのだが、いつもはここまで問答無用な感じではない……はずだ。多分。


 「えっと、ボルケーノライドってジェットコースターがあって……」

 早速素で言っちまってる。

 そこへ容赦なく玲奈が、

 「だから、マスコットらしく紹介しろ」

 ぼごん、と着ぐるみがクッションになってなさそうな音を立ててはたく。

 「いでででで……」

 直人、滅茶苦茶痛がってるぞ……流石にやりすぎじゃないか?


 「玲奈、ちょっと落ち着け」

 「何を言う、私は落ち着いているぞ」

 どこがだ。そう言う奴に限って落ち着いてねえんだよ。


 「いきなりハードル上げすぎだ。なお、じゃなくてフェニちゃん。観覧車はあるのか?」

 「ある……よ、うん、観覧車はあるよ」

 よし、素が出かかったけど演技自体はできた。

 まだ声は微妙だが。


 「そうだな、子ども相手にしゃべってるような感じの方がいいんじゃないか? で、もうちょっとはきはきした話し方だとそれっぽいかも」

 「子ども相手……はきはき……」

 「んじゃ、俺を小学生だと思って質問に答えてみろ。最後に滝から落ちるジェットコースターってどれだっけ?」

 「ええと……ランナウェイ・リバー、だよ」

 うん、さっきよりはマシになった。

 直人もやればできる奴なんだよな……扱い間違えるとあさっての方向に行っちまうだけで。






 そして、簡単な演技指導をすること十数分。


 「ホーンテッドラビリンスの場所は?」

 「ファンタジックガーデンの、スターライトブレイブの右隣だよ!」


 短めの会話なら、どうにかそれらしく振舞えるくらいにはなった。

 短時間でここまでできれば上出来だろう。


 「…………」

 ふと、複雑そうな表情を浮かべている玲奈が視界に入った。

 そういえば、俺が演技指導しだしてから一言も発していない。


 「玲奈? どうしたんだよ?」

 「私が教えた時より覚えが早い……」

 「は?」

 「そりゃ、お嬢様は『千尋の谷に突き落とす』タイプですから」

 吉田さんが笑いながら話に入ってきた。


 「基礎も何もできてない人に教えるのは向いてないんですよ。今まで教えたのって、ある程度は分かってる人だったでしょう?」

 なるほど、納得した。

 玲奈の環境が環境だ。全然できなかったり経験自体がない人間なんて周りにいなかったのだろう。

 なまじ玲奈が何でも器用にこなせるタイプだから、できない奴の気持ちはわかりにくいのかもしれない。


 「だから、今回は恭司君がいた方がいいかと思って連れてきたんだ。すまんな、変なことに巻き込んで」

 「いえ、そういうことでしたら……」

 まあ、直人に教えるのは前にも何度かやったしな。勉強とか勉強とか勉強とか。

 あん時は大変だった。「連立方程式って何ですか?」レベルだったし。

 それを考えたら、俺でよかったのかもな。


 「気にするなよ玲奈。適材適所、ってやつだ」

 「だが……」

 玲奈はまだ納得してないらしい。珍しいな、こういうの。




 そして、玲奈の機嫌はフェニックスランドに到着するまで直らなかった。

もちろん吉田さんの言っている「馬鹿な事」とは、直人たちによる二人のデートを盛り上げよう計画です。

玲奈は、『恭司と二人で仲良く後部座席』を(結果的に)直人に台無しにされてムカついています。

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