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閑話:舎弟、魔王と出会う

続きは書いているのですが、こちらが先にできたのであげます。

直人の過去話です。

 バカ強い女がいるらしい。


 退屈していた俺が聞いたのは、そんな噂話。

 そして、それがすべてを変えるきっかけとなった。






 俺は、そこそこでかい会社の社長の次男として生まれた。

 で、マンガのお約束のようだが、兄貴が優等生すぎて俺は周りに比較されまくり、親父の俺に対する扱いはどんどん悪くなり、これまたお約束のごとく俺は捻くれた。

 中学に上がる頃には、典型的な不良息子の出来上がりだ。


 誰かとつるむ、何てこともしなかった。

 俺の親父が社長だってことは知れ渡っていたので、金目当てで擦り寄ってくる奴も多かったからだ。

 うっとおしいのでボコっているうち、誰も声をかけてこなくなった。その方が気が楽だったので別に構いはしないが。


 そんなので楽しいことなんてあるわけがなく。

 つまんねえとぼやいていた俺がようやく興味を持てたのが――噂の「バカ強い女」だったわけだ。


 俺はそれなりにケンカには自信があった。

 どうやら例の女は「いいとこのオジョーサマ」らしく、だったら鼻っ柱を折ってやろうなんて息巻いていた。

 なのに、


 「ぐ……」

 「筋は悪くない。だが、無駄が多すぎだ」


 完敗だった。

 掠りもしなかったどころかあっさりとやられ、おまけにアドバイスまでされた。

 久しぶりに悔しいと思った。






 それから数日して、その女とどっかの連中が戦っているところを偶然見かけたのだが、

 「……すげぇ」

 アクション映画を見ているようだった。

 自分が戦っているときは気づかなかったが、動きがきれいだ。

 偉そうに言うだけのことはあるということか。


 「あーもー、俺まで巻き込むな、っつの!!」

 よく見ると、連中に攻撃してる奴がもう一人いる。

 いかにも荒事に向いてなさそうな弱っちそうな見た目だが、それに反して動きに無駄がない。

 こいつも強いな。……面白れえ。


 「おりゃあっ!!」

 俺はそいつに殴りかか


 「恭司に何をするっ!!」

 「あがっ!?」


 ……ろうとして女の一撃を脳天に食らい、地面にキスをした。

 こないだと威力違うぞ……これが本気かよ……がくっ。






 後にして思えば、俺も懲りない奴だったらしい。

 「……また来たのか、お前」

 「おうっ!! 今日こそは一発くらい当ててやるぜっ!!」


 噂の女こと、朱雀院玲奈に挑むようになって一ヶ月。

 その頃にはもう、この勝負が数少ない楽しみになっていた。


 どうもそいつはなんだかんだで他人を突き放せないタイプらしく、渋りはしてもよほどのことがない限り付き合ってくれる。

 アドバイスも的確で、最初は悔しかったそれも実践すると理にかなっていることがわかってきた。


 「その癖は直せと言っただろう」

 「がっ!」

 「だがパンチの時の足運びは良くなったな。このまま精進しろ」

 「そりゃどーも……いてて……」


 単なるケンカ相手とも、弟子と師匠とも違う。

 そんな奇妙な関係が、もうしばらく続くと思っていた。






 「……らしいぜ?」

 家に帰りたくなくて、夜の街をぶらついていたら聞こえてきた会話。

 いつもなら「へえ」くらいで済ませるのだが、今回はそうも行かなかった。


 「で、いつその女襲撃するんだ?」

 「明日の夕方、それなりにメンツも集まってる。これなら勝てるだろ」

 「へへっ、しかも金持ちのオジョーサマだぜ? アッチの方も楽しませてもらおうじゃないか」


 おい。まさかそれって……


 気づけばそいつらの前に立っていた。

 「今の話、詳しく聞かせろ」

 「ん? ……なんだ高坂かよ、お前もやっぱ……ぐへっ!?」


 そいつの胸倉を掴んだ俺を、まるでもう一人の自分が見ているような気分だった。

 むかついてるのも俺なのに、それをどこか遠くの出来事のように感じてる俺もいる。


 「いいから答えろ。誰を襲撃するって?」

 「す、朱雀院玲奈って女だよ! うちの奴らをノシたばかりか舎弟にし始めたから、いい加減痛い目見てもらおうって、うがっ!!」


 思わずそいつを放り捨てて、俺は走り出していた。

 何にむかついているのか、自分でもわからないまま。






 よく考えればどこに行けばあいつに会えるのか知るわけないのだが、冷静じゃない俺にはそれすら頭の中にはなかった。

 そんな状態で走っているうち、


 「うわっ!」

 「うをっ!?」


 曲がり角から出てきた奴にぶつかりそうになった。


 「あ、すいません」

 「気ぃつけ……あ?」


 怒鳴りつけようとして、その男が見覚えのある顔だと気づく。

 確か、こいつは……前に戦いそこねた……


 「! お前、あいつを知ってるよな!?」

 「は? あいつ?」

 「朱雀院玲奈だよ! 前、一緒にいただろ!!」

 「え、まあそりゃ……って、お前あの時の!?」


 そいつも俺を思い出したらしい。なら、好都合だ。

 「あいつに知らせてくれ、暗堕亜愚羅雲怒あんだあぐらうんどの奴らがあいつを狙ってる!!」

 連中は仲間の証に、同じマークを服のどこかに付けている。

 さっきの奴も胸元にあったから間違いない。


 「あんだー……? なんだそれ?」

 「この辺で一番でかいチームだよ、人数集めて明日の夕方に襲撃かけるって話だ!!」


 そこまで言うと、そいつは「待ってろ」とスマホで電話をかけ出した。

 相手はすぐに出たようで、しばらく話した後、

 「ほら、自分で伝えろ」

 と俺にスマホを渡した。


 「……もしもし」

 戸惑いつつも電話を変わると、

 『恭司から話は聞いた。私を狙ってる奴らがいるそうだな』

 聞き慣れた声が耳に流れてきた。


 「あ、ああ。暗堕亜愚羅雲怒ってでかいチームだ。お前がそこの連中を舎弟にしだしたから痛い目見てもらう、とか言ってた」

 『舎弟? ……ああ、弟子にしてくれとか新ヘッドになってくれとか言っていた奴らか?』


 要するに、俺のような奴が暗堕亜愚羅雲怒からも出てきたって事か。

 そりゃ、あいつらが怒るよな。


 『他には何か知っているか?』

 「明日の夕方に襲撃をかけるって……なあ、俺が言うのもなんだが、俺を信じるのか?」


 こいつにしてみれば、俺もあいつらも似たようなものだろう。

 危険を知らせてくれたとはいえ、そうあっさり信じるのか?


 『お前は卑怯な手を使うような奴ではなかろう。でなければ、何度も一人で私に挑みはしない』


 思えばこの一言から、俺はこの人を尊敬しだしたんだろう。

 親父や兄貴、周りの連中から認められなかった俺を、ちゃんと見てくれた。

 それが、たまらなく嬉しかったんだ。






 結論から言うと、暗堕亜愚羅雲怒の連中は返り討ちにあった。

 「集団で来るならもう遠慮はいらんな」と護衛を連れ、さらにあの優男まで加わった戦いはただただ圧巻の一言だった。

 くそ、まともに説明できない俺の脳みそが憎い。


 名門校の生徒でもあったらしい玲奈様(これからはこう呼ぶことにする)がこんな騒ぎ起こして大丈夫なのかと不安もあったが、玲奈様の父親が「原因の子達は朱雀院財閥が責任を持って更正させる」ということで収まったらしい。

 まあ、玲奈様の強さに心酔してすっかりファンになってしまった連中がほとんどだったようなので、そこは任せても問題ないだろう。






 で、俺はといえば。


 「え、俺が護衛候補生!?」

 「ああ。お前は荒削りだが格闘のセンスは悪くない。今からでも訓練すれば、うちの護衛としてやっていける人材になれると私が推薦した」


 朱雀院財閥の護衛部門。

 そこで候補生として訓練してみないかと、玲奈様が言ってきた。


 「え、でも俺腕っ節強いだけのバカだし」

 「そんなことはない。私に指摘されたところを直そうとしていただろう? 努力ができるならそれも能力だと私は思う」


 玲奈様が評価してくれるのは嬉しい。

 でも、俺みたいなろくでなしを近くにおいて大丈夫なのか?


 「それに、強くなりたいのだろう? ならば、試してみるのも一つの手だ」

 「試す……」

 「そうだ。護衛の中には私の護身術の師匠もいる。お前にとって悪くない話だと思うが」


 玲奈様の……師匠。

 その一言で、迷っていた心は決まった。


 「……やってみたい」

 「そうか。なら、お前の保護者に会えるか?」

 「……え?」






 俺が中坊な以上、親の許可がいるというのは仕方がないことらしく。

 俺は渋々、玲奈様と親父を会わせるため家へと向かった。

 あー……会いたくねぇ。玲奈様にも会わせたくねぇ。


 そして顔を合わせた親父は案の定、

 「ようこそおいでくださいました。こちらは息子の総一郎で……」

 兄貴を隣に並べてへこへこ挨拶してきた。くそ、やっぱり兄貴を売り込む気満々かよ。


 「ああそうか。早速だが本題だ。そちらの次男、直人をうちの護衛見習いとして訓練させたい。本人も希望しているので許可をいただきたいのだが」

 「いえ、直人など。総一郎の方がお役に立てるかと」

 「私は直人の話をしているのだが。それと、総一郎さんだったか? 朱雀院に売り込みたいなら系列会社で面接してほしい」

 「いやいや、総一郎はなかなかよい息子ですよ? T大で優秀な成績を修めておりますし」


 あー、俺の親ながらうぜぇ……

 俺には暴言ばっかりのくせに、相手が朱雀院のお嬢様だと知るやゴマすりやがって。


 聞いてるのもアホらしくなって、聞き流しだしてから三分ほど経った頃。

 「……いい加減にしろ」

 玲奈様の声が、若干低めになって部屋に響いた。

 妙な迫力がある……これはもしや怒ってる、か?


 「T大? 優秀な成績? それで? 他にご長男は、朱雀院に売り込めるほどのものは持っているのか?」

 「で、ですから優秀な……」

 「くどい! 名門大学に通っていたり卒業しているだけなら朱雀院には必要ない!!」


 ああ、やっぱり怒ってた。

 まさか怒られるとは思っていなかったのだろう、親父と兄貴は大げさなほど身を引いた。


 「あなたは同じ息子である直人を役立たずと思っているようだが、少なくとも私は直人を直で見て護衛に向いている人材だ、育ててみたいと思った。なぜ、家族であるあなた方が直人を信じない!」


 この時、誓ったんだ。

 俺は一生、この人についていこうって。

 親父に毅然と言い返す玲奈様を、俺は誰よりもかっこいいと思ったんだ。








 「ふんふんふーん♪」

 「あれ、玲奈様。ご機嫌ですね?」

 「ふふ、そうか? わかるか?」


 最近、玲奈様は機嫌がいい。

 理由は師匠達から聞いた。恭司さんとデートするからだ。

 俺達も護衛として、当日遊園地内を回ることが決まっている。


 楽しそうに鼻歌を歌いつつ去っていく玲奈様を横目で見ながら、俺達護衛候補生はこっそりと目配せした。


 「で、何か考えてきたか? 玲奈様のデートを盛り上げる作戦」

 「それなんだけどな……貸し切っちまう時点で普通の遊園地デートみたいなことはまず起きねえだろ?」

 「まあ、スタッフや警備員だって俺達に旦那様の部下だもんな……」

 「なら、俺達でサプライズってのはどうだ?」

 「なるほどな! ……けど、具体的にどうすんだよ?」

 「それをこれから考えるんだよ」

 「つまりノープランかよ、使えねぇなお前!!」


 『朱雀院玲奈ファンクラブ』を名乗る俺達の目的は、玲奈様を守ること。

 そして、玲奈様を幸せにすることだ。

 あの人のためならなんだってやる。


 でも、あの人を一番幸せにできるのは俺達じゃない。まして俺達の中の誰か一人でもない。

 なので俺達は、玲奈様の恋を応援しようと決めている。

 あの人を幸せにする役を、恭司さんなら任せてもいい。むしろ他の奴なんて許さない。


 玲奈様。

 俺はあなたに多くのものを与えてもらった。

 だから、がんばって恩を返します。

 俺の一生を、かけてでも。

直人は玲奈を尊敬していますが、恋愛感情はありません。

玲奈の好きな人が恭司だから、応援しようと思っています。

他の男だったらちょっかい出すかもしれません。「玲奈様にふさわしいか見極める」的な理由で。

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