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勇者、結果と賞品に困惑する

 APが切れた。

 ちなみに、これで4つ目のゲーム。


 「……何やってんだ、俺」

 一応当事者のはずだよな?

 なんで玲奈と天宮が勝負してるのをよそに、誰もいない視聴覚教室でゲームしてんだ。

 確かに公平にするならこれが正しいのだが、蚊帳の外を納得できるかはまた別問題だ。


 ぼやきつつもゲームアプリを閉じると、スマホの時計表示が開始から55分後になっていた。

 大丈夫かあいつら……いや、ルールはしっかりしてるし問題はない……よな?

 くそ、防音完璧な視聴覚教室ここが恨めしい。まったく状況がわからん。


 「あ、そろそろだからスタンバイお願いしまーす」

 扉を開けて、顔だけ出した放送研究会らしき生徒が言った。

 俺の目の前にはビデオカメラが一台。

 俺の選択が、これを通じて会場のモニターに映し出されるのだろう。

 ……それっぽく取り繕う準備くらいはしとこう。さすがにあの大人数の前で放送されると思うと恥かしい。






 髪の毛を多少はマシ程度にいじり終えた頃、ドアがガチャリと開いた。

 生徒が二人、俺の前に何かの入った透明ケースを置いていく。


 一つはどこかの店のパッケージに収まったクッキー。

 もう一つは黄色い紙切れが一枚……って、ナンテンドースティッチの引換券!?

 こんなもんまで用意したのかおっさん。


 「今のうちに決めちゃっていいですよー。でも、手に取るのは合図してからでお願いします」

 撮影担当らしい生徒が、カメラを操作しながら言う。

 そうだな、この二つで選ぶとしたら――






 という訳で選択タイムがついに到来し。

 『さあ、橘君はどちらを選ぶのかっ!?』

 解説と同時にカメラの近くの生徒が『選んだ方を手に取ってください』と書かれた紙を持ち上げる。これが合図か。

 実を言うと、決断は結構早かった。後は実行に移すだけ。


 俺は迷うことなく、クッキーが入った方のケースを掴んだ。

 だって、しがない一般市民だぞ俺は。

 自分でくじを当てたならともかく、女の子から高いゲーム機なんて怖くてもらえるかよ。


 『おおおおおおっ!?』


 俺の行動を見届けたスタッフは一様に驚きの声を上げた。

 その直後、視聴覚教室の据付モニターが映像を映す。


 『勝者、朱雀院玲奈嬢――!!』

 そこには、勝ち誇った笑みを浮かべる玲奈と青い顔でへたり込んでいる天宮の姿があった。

 俺は無意識に、視線を手元に移した。

 このクッキー、玲奈の持ってきたやつだったのか?


 『朱雀院嬢には賞品として、橘君とのフェニックスランド一日貸切デート権が進呈されます!!』

 ……なんだと!?

 おい、俺はそんなの聞いてないぞ!?


 ちなみにフェニックスランドとは、朱雀院財閥が経営している遊園地の一つである。

 だから、おっさんの権限で一日貸切にするのは造作もないことなのである。

 つか、絶対当日のスタッフの皆さんは護衛兼(俺の)監視だよな……嫌すぎる。


 と、モニターの向こうのおっさんがこっちを見た……気がした。

 口を動かしている……ええと、『わ か っ て い る ね』?

 ……あかん、すでに逃げ道塞がれてるなこれは……








 家に帰ると、母さんが満面の笑みで

 「聞いたわよ、玲奈ちゃんと遊園地で貸切デートですって?」

 ……やはりと言うかなんと言うか、外堀はとっくに埋立工事済みだったようだ。


 「お母さん、いてもたってもいられなくなっちゃって……」

 そわそわと一旦台所に引っ込んだ母さんは、すぐに紙袋を持って戻ってきた。

 「デート用のお洋服、買ってきちゃった♪」


 …………はい?


 「一応聞くけど、誰用の?」

 「? 恭司がデートするんだから、あなたのものに決まってるじゃない」

 ……あああああっ、埋められた外堀がさらにコンクリで固められたっ!!

 それじゃまるっきり、俺が玲奈とのデートを楽しみにしていたみたいになるじゃないか!!


 「あのな……」

 「恭司」

 俺の言葉を遮って、母さんが真剣な表情を向けた。


 「理由はどうあれ、女の子に恥をかかせるような真似は母親としてさせられないわ。デートにTシャツとジーンズだけなんて論外よ」

 「う……」

 はい、白旗上がりましたー。

 こういう状態の母さんには逆らってはいけない。息子やってた17年間、勝てたためしがない。


 「ありがたく着させていただきます……」

 よろしい、と微笑む母さんから渋々紙袋を受け取った。

 まあ、母さんのセンスは悪くないし……手間が省けたと思うことにしよう。








 おっさんから勝負のDVDが届いたのは、それから3日後のことだった。

 フェニックスランドのチケットも同封され、日取りは今度の日曜に決まったとの一筆も添えられていた。


 マジでするのかよ……しかも人生初のデートの相手が元魔王……

 ……どうがんばっても、まともなデートが想像できん……

 初デートって、もっとワクワクドキドキなもんじゃなかったっけか? イメージ的に。


 それはさておき、途中経過は気になっていたところではある。

 母さんあたりに見せろとか言われる前に、こっそり確認してしまおう。

 自室のDVDプレイヤーを起動し、届いたディスクを挿入する。

 再生ボタンを押すまでもなく、画面は「再生」の二文字を表示した。


 『―――!!』

 やがて映ったのは、平行して走る玲奈と天宮。

 わざとなのか別の理由があるのか、天宮の声は聞こえない。でも、なんとなく文句を言ってるっぽいのは雰囲気でわかる。やっぱ、あかんパターンの転生者っぽいな。


 そのまま画面は、(玲奈中心に)勝負の様子を映し続け、

 『すまないが、なかったことにしてくれ』

 「…………え?」

 予想外の展開を目にした俺は、呆然と呟いていた。


 図書室にまで足を運んで、手に入るはずのナンテンドースティッチ引換券。

 俺が欲しがっていると知っているはずのそれを、映像内の玲奈はあっさりと受け取り拒否した。

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