表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

勇者、女の戦いに巻き込まれる

 最初、天宮が玲奈に向かって訳のわからないことを怒鳴っていたらしい。

 そのうち玲奈が「外に出ろ」と言い出し、二人は中庭へ向かった。

 穏やかではない雰囲気を感じ取った片桐は、自分の手に余ると判断して俺を探していたとのことだった。


 なぜ外に出たのかはわからないが、嫌な予感がする。

 どうか、間に合ってくれ。

 必死に走って中庭にたどり着くと、人垣が見えた。


 「悪い、ちょっと通してくれ。あっ、すまん」

 人をかき分けながら向こう側へ到達する。

 そこにあったのは、


 「えいっ、たあっ、やあっ!!」

 「甘い、そんなへっぴり腰では当たるものも当たらんぞ!!」

 「って、何やってんだお前ら――――!!」


 棒状の何かを振り回してチャンバラをやっている、天宮と玲奈の姿だった。




 二人は俺を見て動きを止め、

 「あっ、橘君!!」

 「なんだ恭司、女の戦いの最中だというのに」

 ちょっと待て。今、聞き捨てならないワードが聞こえたぞ。

 何か話しかけてる天宮の脇をすり抜けて、俺は玲奈に問いかけた。


 「玲奈。女の戦いって何だ?」

 「天宮ちとせに文句を言われた。恭司たちの性格が違うのは私のせいだとか、悪役はおとなしくざまあされろとか」

 「ほう」

 「ざまあの意味はよくわからなかったが、勝負して負けろという意味と解釈した」

 ……あー……まあ、そうなの……か?

 確かにざまあされるのは、経緯はどうあれ負けた方だし。


 「なので要望通り、悪役らしく『恭司に告白したければ、この私を倒してから行け』と」

 「アホかあぁぁぁぁぁっっ!!」

 思わず聖剣2号ではたいた。


 「なんだそりゃ!! お前はどこのロープレの四天王だよ!!」

 「む、言われてみれば三下感があるな。もう少し威厳のある台詞にすればよかったか」

 「そこじゃねぇよ!!」


 つか、元魔王を倒してからってなんだ!!

 そんなにハードル高いのかよ、俺への告白!!

 だったら俺がいまいちモテないのも……って、そうじゃないだろ俺。


 「そもそも、そんな女の戦いはねえ!! んなもん女の子にさせるな!!」

 「お前の仲間はやってたぞ。ルヴィアーナの時に」

 ルヴィアーナって、確か魔王軍の女将軍だったか。って、

 「あいつらを一般的な女と同列にするな!!」


 自分の身長ほどもあるでかい斧をぶん回してた女魔族と同等に渡り合ってた戦士と、『麗しき破壊魔女』って異名を持ってた魔法使いだからできる芸当だぞアレ!!

 ああ、思い出したら頭痛がしてきた……ある意味心臓に悪い戦いだったな……

 魔法使いが調子に乗って撃ちまくった伝説級魔法を、女魔族が斧で打ち返してたからな。

 俺と僧侶は流れ弾ならぬ流れ魔法から逃げ回る以外のことができなかった。金積まれても二度とやりたくない。


 「それに、一応ハンデはやったぞ? 私は一切攻撃せず防御に徹する、私の体に一撃でも当てたら勝ちだと」

 言いながら、玲奈は持ってた棒を軽く曲げる。よく見れば、それはスポーツチャンバラで使うような柔らかい刀だ。

 そこはちゃんと考えたんだな。それでも天宮には無理ゲーと変わらないだろうが。


 「……とにかく、天宮は素人みたいだから武道や格闘技系は色々まずいと思うぞ。もうちょっと公平で平和的な勝負にしろ」

 そう妥協案を出してやると、玲奈はしばし考え、

 「私には思いつかん。公平で平和的な勝負とは、例えばどういうのだ?」

 ……思いつかねえのかよ。


 女の勝負でありそうなのっていうと料理……いや、玲奈の腕前じゃどう考えても天宮が不利だ。

 他の家事でも、玲奈は自分ちのメイドさん仕込だからプロ並みだし。

 あとは、えーと……あー……


 「……すまん。俺が悪かった」

 「なんでっ!?」

 結局思いつかず、謝った俺に天宮が叫んだ。

 いや、だって……なあ?


 「そもそも、玲奈が規格外すぎて勝負にならねえんだよ」

 運動もアマチュアアスリートで通りそうなレベルだし、それ以外もめっちゃ極めてるからな。マジでどこを目指してるんだよ魔王。

 公平以前に、勝負が見えすぎて相手がかわいそうなぐらいだ。

 天宮はどこをどう見ても凡人レベルだからな……今までの様子からして。


 「話は聞かせてもらった!!」

 不意に、誰かが声を上げた。

 そして人垣を掻き分けて近づいてくるのは、瓶底眼鏡の男子生徒。

 ってことは……


 「君たち二人の勝負、我々三咲学園放送研究会が預かろう!!」


 やっぱりか。

 この男は放送研究会会長の田中(名前はゲーム中には出てこない)。

 セカ花ではミニゲーム担当を勤める、お祭り男である。


 セカ花にはミニゲームがある。

 別にクリアしなくても個別ベストエンドは見られるが、好感度はグッと上がるので、全員の好感度がそこそこ必要なグランドエンドを目指す際にはクリア必須なのである。

 大体は玲奈などのライバルキャラとの対立を田中が対決イベント化するというのが初回の流れとなり、一度プレイした後は田中に話しかけることで再挑戦できるようになる。


 「我が三咲学園の女王、朱雀院玲奈に勝利する可能性のある『公平かつ平和的な勝負』!! その要望、是非とも実現させてもらおう!!」

 いや、別に要望を出したわけではないぞ。

 と、言っても無駄だろう。こいつは一旦スイッチが入ると、イベント実現に向けて大爆走だ。プレイヤー間で「お騒がせお祭り男」と呼ばれていた所以である。


 俺たちは都合のいい日時を聞かれ、詳細は後日と告げられた。

 ……あれ? これ、嵐が先延ばしになっただけじゃね?

 そう気づいたのは、田中がスキップしながら去っていった後だった。








 そして数日後。


 『レッディ――――ッス、ア――――ンジェントゥルメェ――ッン!!』

 「特設会場」の看板が立てられた校庭に、俺たちの姿があった。

 ノリノリで実況席にいる田中の隣で、俺は「審査員兼賞品」と書かれた席に座っている。

 曰く、「君が原因なら責任を取るのが筋だろう」とのこと。

 まあ、気になるっちゃ気になるから、どのみち見に来るつもりではいたんだが。


 『ただ今より、橘杯・朱雀院嬢VS天宮嬢を開始するぜぇっ!!』

 わーっ、と拍手を始めるギャラリー。つか、多いぞ。下手すりゃ半数近くの生徒いるんじゃねえか?


 『実況は俺、放送研究会の田中! 審査員兼賞品に、渦中の男橘恭司! 畜生リア充滅べ!!』

 うるさい。あと俺は「リア充滅べ」を言う側だ、言われる側じゃねえぞ。……多分。


 『解説は、なんとこの企画のスポンサーにして朱雀院嬢のお父上、朱雀院孝之氏でお送りするぜ!!』

 『みなさーん、玲奈ちゃん共々よろしくねー』

 「ちょっと待ておっさーん!!」


 何しれっと高校生の馬鹿騒ぎに紛れ込んでるんだよ財閥総帥!!

 しかもスポンサーって、資金提供までしやがったのか!?


 「ああ、心配はいらんよ恭司君。今日はオフだ、玲奈ちゃんの晴れ舞台だしな」

 嘘だ、絶対秘書や部下の皆さんに押し付けて休みもぎ取っただろ!


 「それに……相手の子は玲奈ちゃんや君たちの情報を転入前に知っていた。この機に見極めようかと思ってな」

 小声でそう言われ、俺は怒りの言葉を引っ込めた。

 危険人物とするか、もしくは有能としてスカウト対象にするか。つまりはそういうことなのだろう。


 「けど、それ別におっさんじゃなくてもできるよな?」

 「はっはっはっはっは」

 おい、目をそらすなおっさん。


 と、そこへ達哉さんが近づいてきた。

 「旦那様、お嬢様からの伝言を預かってきました」

 「おおっ、玲奈ちゃんが!! 何だい!?」

 「『解説を引き受けたからには公平に扱うように、あと部下に押し付けた分はきちんと仕事するように』だそうです」

 「はい……」

 おっさんがうなだれた。娘にまで言われるってどうなんだよ……


 「すいません、いつもお嬢様と旦那様が……」

 「いや、こちらこそ止められなくて申し訳なく……」

 そのまま達哉さんが頭を下げてきたので、俺は慌ててフォローした。

 ゲームより有能になった達哉さんだが、あの親子のせいか苦労性はそのままである。

 そんなわけで、ゲームよりも仲良くなってしまった俺たちだった。


 『では、勝負方法を発表いたしまーす!! 題して、わらしべDEプレゼントー!!』

 ぱちぱちぱち、とスピーカーから拍手音がする。これ、放送用の効果音だな。

 『両選手には、ポケットティッシュを一つ持ってスタートし、物々交換をしてもらいます。そして、最終的に手にした物品を橘君に渡してもらいます。橘君が受け取るのはどちらか一品。つまり、彼に選ばれた品を持ってきた方が勝者です!!』

 なるほど、それで俺が審査員なのか。


 『なお、制限時間は1時間。さらに不正防止のため、放送研究会のクルーがそれぞれに判定役として同行します。彼らの目がない所での交換は禁止です』


 その後も細かいルール説明があったが、それをざっくりまとめると以下の通り。


 ・校庭~校舎内の範囲で行う。ただし、一般生徒が自由に立ち入りできる場所に限る。

 ・物々交換ができる相手はたすきをかけた「通行人」役のみ。

 ・赤いたすきの通行人の持ち物はランダム。つまり、交換するまで何を持っているのかわからない。しょぼいのもあれば、いい物もある。

 ・黄色のたすきの通行人はいい物を持っているが、交換するには指定の物を出すか、彼らの出す課題をクリアしなければならない。


 うん、思ったよりまともそうだな。

 物が用意されてるなら、物々交換できないなんてこともなさそうだし。

 俺としては、変な物がこなければ問題ない。


 『では、両者位置について……すったぁぁ――――とぉ!!』

 田中の合図で玲奈と天宮、そしてそれぞれの判定役が走り出した。

 (多分おっさん提供の)巨大モニターが玲奈たちの姿を映し出す。バラエティ番組みたいだなとかぼんやり思っていると、


 「じゃ、橘君は別室で待機していてね」

 「は?」

 訳がわからないまま、スタッフに腕を引っ張られて立ち上がらせられた。

 「って、おい!? なんで俺だけ……」

 「あ、言い忘れてたけど公平を期す為に、橘君には『誰が何を持ってきたか』わからないようにしてもらうから」

 なんならゲームとかしてていいよー、と田中がひらひらと手を振った。


 「安心したまえ、後日玲奈ちゃんの勇姿メインに編集したDVDを送ってあげるから!!」

 満面の笑みでサムズアップしてるおっさんの姿に、もうどうにでもなれという気持ちになった。


 しゃーない、スマホゲームでもしてるか……

2016/12/28 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ