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NEURAL BORDER(ニューラル・ボーダー)  作者: n416


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3/3

第3話:ニューラル・ボーダー

痛覚リミッター、解除。


 アラートが赤く染まる。

 機体の軋みが、針のように脳を刺す。

 痛覚の完全同期。機体へのダメージが、肉体を焼く激痛に変わる。


「教えてやるよ、ヴェイン」


 機体が前傾姿勢をとる。

 スラスターの咆哮。


「これが俺たちの、命の痛みだ!」


 激突。

 パイルバンカーを、大剣で受け止める。

 凄まじい衝撃。両腕の骨が砕ける激痛。


「ぐ、ああっ……!」


 胃液がせり上がる。血を吐く錯覚。

 止まらない。

 奴は痛みを感じない。なら、俺がアイツの分まで背負う。


 火花が散る。至近距離でもつれ合う。

 装甲が削れるたび、肌が削がれる。呼吸ができない。視界が血に染まる。


 踏み込み。弾き。また踏み込む。

 仮想ゲームで繰り返した剣戟。

 だがここは現実だ。血と肉と鉄の重さがある。


「終わらせてやる……!」


 敵が体勢を崩す。

 左の装甲が剥き出しになる。あのゲームと同じ隙。


 操縦桿を押し込む。

 大剣が、分厚い胸部装甲を深々と貫いた。


 同時に、敵のパイルバンカーが俺の左肩を粉砕した。


「ッああああああっ!」


 焼け焦げるような激痛。

 意識が飛びかける中、大剣をさらに奥へねじ込んだ。

 敵のコアが沈黙する。赤い光が消え失せた。


 勝った。


 激しい息鳴り。

 全身が汗で濡れている。左肩の感覚はない。


「今……出してやる。ヴェイン」


 痛む体を引きずる。沈黙した敵機へ近づいた。

 こじ開ける。親友の脳髄を救い出すために。

 大剣を引き抜き、装甲を強引に引き剥がした。


 だが。


「……え?」


 声が漏れた。


 装甲の奥。培養槽でも、脳髄でもなかった。

 人間がいた。

 ひしゃげた操縦席。血まみれの人間が、荒い息を吐きながら倒れていた。


 ヴェインだった。

 脳だけじゃない。両手足もある。

 傷だらけの肉体を持ち、痛みに顔を歪めている、本物の人間。


「なんで……お前、体、あるじゃねえか……」


 混乱。

 ヴェインが、血を吐きながら顔を上げる。

 その瞳に浮かんでいたのは、純粋な恐怖と憎悪だった。


「バケモノめ……」


 掠れた声。


「片腕を潰されても、悲鳴すら上げないのか……。痛覚すらないのか、テロリストの無人機は……!」


 時が止まった。


 無人機。

 テロリスト。

 痛覚すらない。


 何を言っている?

 俺は防衛軍のパイロットだ。痛みも感じている。激痛に耐えながらお前を助けに――。


 ふと、視線がずれる。

 ヴェインの機体のセンサー。鏡面のように磨かれたフード。

 そこに、俺の乗っている機体が映っていた。


 コックピットなんて、どこにもない。

 頑強な装甲の奥。青白い培養液で満たされたカプセル。

 白くふやけた『一つの脳髄』が浮かんでいる。


 俺だ。


 声が出ない。

 肉体がない。痛みもない。

 術式が「痛み」という錯覚データを送り込んでいただけ。

 「自分は人間だ」という、狂わないための仮想バーチャルを見せられていただけ。


 俺は防衛軍じゃない。

 暴走した殺人無人機。

 ヴェインは、そんなバケモノ(俺)を止めるために出撃してきた、正規軍のパイロットだったのだ。


 ――お前は最高の『処理能力』を持ってる。

 ――念入りに『メンテナンス』してやる。


 管制官の言葉が反響する。


「あ……ああ、あああああああ!」


 絶叫。音は出ない。俺には喉がない。

 自分が親友を殺した。自分こそが、倒すべき鉄の棺桶だった。


 自我の境界線ニューラル・ボーダーが崩れ落ちる。


『R.U.I.(Remote Unit Interface) 異常検知。ニューラル・ボーダー崩壊』


 無機質な音声が、脳を叩く。


『仮想自我、リセットを開始します――』


 視界が暗転する。

 凄惨な現実が消え、再び、見慣れた青空が広がる。


『どうしたルイ! その踏み込みじゃ抜けないぞ!』


 笑い声。

 そうだ。ここはリンク・アリーナだ。痛みも死もないゲームの世界。


『あるのは速度だけだ。――隙だらけだぞ!』


 俺は笑い返す。

 永遠に続く、終わりのない仮想の空の下で。



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