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第6話:【永遠の拍手】ピエロの真実

 パッパラパパパ、パパパパーン!

 不協和音ギリギリの派手なファンファーレが、帝都中央広場に鳴り響く。

 今回の舞台は、逃げ場のない処刑台。黄金の7人は絶体絶命の窮地に陥っていた――少なくとも、観衆である一万人の帝国兵と市民たちの目には、そう映っていた。


12:00 壊滅したチームと「笑う死刑囚」


 広場の中央には、魔導抑制の枷を嵌められた7人が並べられていた。……否、正確には、並べられているように「見える」。

 重傷を負い、膝をつくアイアン。魔力を封じられ、顔を伏せるルナとハッカー。そして、中央の処刑台で最も派手な鎖に繋がれているのが、道化師ピエロだった。


「おやおや、皆さん。そんなにお通夜みたいな顔をしないでくださいよ。これから始まるのは、帝国史上最高にハッピーな公開処刑なんですから!」

 ピエロは顔に描かれた三日月のような笑みを崩さず、縛り上げられた状態でひらひらと手を振った。

「黙れ、薄汚い道化が!」

 帝国軍の将軍が激昂し、ピエロの腹に蹴りを入れる。ピエロの体は力なく折れ曲がるが、口からは苦悶の声ではなく、プピーッというおもちゃの笛のような音が漏れた。


「……あはは! 今の、いいキックでしたねぇ。八十点エイティ! フォームは綺麗でしたが、殺意が少しばかり無骨すぎました」

 常に笑い、常にふざけ続ける。それがピエロという男の「殻」だった。

 前世の彼は、ラスベガスで喝采を浴びた伝説の脱出手品師。だが、彼にとって拍手は「空虚な箱の中に注がれる砂」のようなものだった。称賛されればされるほど、自分という人間が空っぽであることを痛感する。死の瞬間すら「これで見物客が驚くなら、安いものだ」と考えていた、救いようのない虚無の住人。


13:00 教授のブラフと「空っぽの心」


「……ピエロ、準備はいいか」

 隣で項垂れていた教授が、誰にも聞こえないほどの小声で囁いた。

「もちろんです、教授。僕の人生は、この瞬間のための長い前座フロント・アクトだったんですから」

 今回の「チーム壊滅」は、教授が仕掛けた史上最大のブラフだった。帝国軍を油断させ、帝都の防衛網を内側から崩すための捨て身の作戦。そして、その核心を担うのが、ピエロによる『死のイリュージョン』だ。


「ピエロ、君は空っぽなんかじゃない」

 教授は伏せたまま、眼鏡の奥で不敵に目を光らせた。

「君の空虚さは、何にでもなれる無限の可能性だ。……さあ、世界を騙してこい」

「……ふふ、最高の演出家ディレクターですね、あなたは」

 ピエロの仮面の下、一瞬だけ「素」の瞳が覗いた。それは、何の色も持たない、どこまでも透明で冷徹な、プロフェッショナルの輝きだった。


14:00 ガジェット:『万能演目装置オール・オア・ナッシング


 処刑の刻限が来た。

 巨大なギロチンの刃が、魔法の輝きを帯びて吊り上げられる。

「全市民に告ぐ! 帝国を愚弄した大罪人どもに、等しく死の鉄槌を!」

 将軍の宣言と共に、ピエロの首が台に固定される。

 ピエロは口に含んだ極小のガジェット『万能演目装置オール・オア・ナッシング』を噛み砕いた。これは、服用者の五感を限界まで拡張し、数秒間の出来事を数分に引き延ばすと同時に、周囲の魔力を増幅して視覚情報を書き換える、教授特製の「命懸けの演出装置」だ。


 カラン、カラン……。

 ギロチンの紐が切られた。

 

 刃が落ちる。

 観衆が一斉に息を呑む。

 

 だが、刃がピエロの首に触れる寸前――。

 ピエロの世界は、極彩色のスローモーションへと変わった。


14:15 クライマックス:究極の脱出グランド・エスケープ


 シュパパパパパパパッ!!

 ピエロの首が落ちた……かに見えた。

 だが、転がったのは生首ではなく、何千、何万という色鮮やかなキャンディと紙吹雪だった。

「さあさあ、皆さん! 拍手が足りませんよぉ!」

 

 処刑台のどこからともなく、ピエロの声が響き渡る。

 観衆が空を見上げると、そこには無数の「ピエロ」がパラシュートで降りてくる姿があった。

「なっ、何だ!? 幻術か! 撃て、撃ち落とせ!」

 帝国兵たちがパニックに陥り、一斉に空へ向かって魔法を放つ。だが、それはピエロが仕掛けた『世界反転』のトリガーだった。


 兵士たちが放った魔法の光が、ハッカーが事前に仕込んでいた反射魔法陣に当たり、広場全体を覆う巨大なスクリーンへと変貌する。

「今夜のメインテーマは、『逆転』! お宝はもう、僕たちがいただきましたよ!」

 

 処刑台で縛られていた7人の姿が、一瞬で「帝国の重臣たち」にすり替わった。本物の7人は、すでにピエロのイリュージョンに紛れ、帝国の宝物庫を空っぽにして、ゴーストの待つ飛空艇へと飛び乗っていた。

 広場に残されたのは、自分たちの重臣を処刑しようとして大慌てする将軍と、空から降ってくる「黄金の7人」を模した巨大なアドバルーンだけだった。


15:00 アンコールの声に包まれて


 雲を突き抜け、高度を上げる黄金の飛空艇。

 その甲板で、ピエロは枷を外して大の字に寝転んでいた。

「……はぁ。疲れました。もう二度と首を切られる役なんてやりませんからね、教授」

「だが、あれ以上に観衆が沸いたシーンはなかったぞ。一万人の拍手、聞こえたかい?」

 教授が隣に座り、チェスの駒を弄ぶ。

「……ええ。まあ、悪くない気分でした。少しだけ、自分の中に砂が溜まったような気がします」

 ピエロは仮面をずらし、初めて本当の笑顔を見せた。空っぽの箱は、今、確かな仲間との連帯感で満たされていた。


「さて、アンコールの時間はない。次は帝都を脱出し、国境を越えるぞ」

 教授の合図で、ゴーストがアクセルを踏み込む。

「あいよ! ピエロのショーの後は、俺のスピードスピード・スターの出番だな!」


 背後の帝都では、まだ紙吹雪が舞っている。

 黄金の7人、第6話――。

 それは、空っぽだった道化師が、初めて自分のために「拍手」を勝ち取った夜だった。


 ダバダ、ダバダ、ダバダ……

 夜空に響くジャズの調べ。

 黄金の7人の物語は、いよいよ最終決戦、教授の「神とのチェス」へと向かって加速していく。

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