龍神でも素朴な料理を食べればいいじゃない
──龍寺院
食事の準備が整い、信者たちは長机の前に座るよう私たちに促した。
シルヴィ、ルミナ、ラティの3人は、いつもの食事以上に落ち着きがなくなっている。
「ねぇねぇ、ヘレナ様」
「何が出てくるの?」
シルヴィが私の袖を引っ張りながら大きな瞳を輝かせた。
「お肉かな?」
「パンかな?」
「なんでしょうね」
「私も想像がつかないわ」
「お、お肉……」
ルミナは不安げに私を見上げながら小さく呟いた。
「変なお肉が出るかも……」
確かに……。
魔族や龍用の魔物肉とか出てきたら困るわね。
その一方でラティは腕を組んで神妙な表情を作った。
「寺院ってことは~」
「神聖なご飯ってやつか?」
「そういうのって味薄いんじゃね~の?」
「ふふっ、確かに……そうかもしれないわ」
私は、それぞれまったく違う子供たちの反応に思わず微笑んでしまった。
「そなたらは食事を待つあいだも賑やかじゃのう」
祭壇の上に座らされたフィールカリオンは足をぶらぶらと振りながら待っていた。
「わしも食卓につきたいのじゃ~」
ずっと足をぶらぶらさせながら駄々をこねるフィールカリオン。
すると近くにいた栗色の長髪の女性信者があたふたしながら口を開く。
「龍神様に、かような場所に下りていただくわけには……」
「ふーむ、そうか……」
「しかしのう、盟約者のヘレナが食卓にいるのじゃから」
「わしも同じ場所でないとマズいじゃろう」
信者たちはうろたえていたけど私が視線を送ったら渋々了承したようだった。
「……龍神様のお望みであれば」
結局フィールカリオンは私の隣にちょこんと座った。
「お待たせいたしました……」
「食料の蓄えがなく本日はこのようなものしか……」
老紳士然とした端正な顔立ちの信者がフィールカリオンの顔色を伺いながら姿を見せた。
「む?」
「美味けりゃなんでも良いわい」
フィールカリオンの前には細かく一皿一皿、まさに山の味覚って雰囲気の食材が運ばれてきた。
これは……料理というよりも、お供え物ね……。
捌いたばかりの赤身肉、綺麗な形になるように木串を通して締められた川魚、高そうな祭具に入った酒。
まあ神様みたいだし、そうなるのかしら。
「うーむ、千年ぶりの肉じゃ」
フィールカリオンは皿が食卓に置かれた瞬間にガツガツと食べていく。
「なんじゃあ?」
「味のある料理はないのか?」
「お、恐れながら伝承に残っていた物をご用意しました……」
老紳士然とした信者は畏怖の念を込めて、その場に跪いた。
「今は人間の体じゃからのう」
「味のある料理が食べたいのじゃ」
「あら、そうなの?」
「ちゃんと見るがよい」
「そなたの子らと同じじゃろうが」
確かに言われてみればフィールカリオンには角も尻尾もない。
「あ、そうね」
「申し訳ございません」
「いかなる罰も甘受しま──」
「あー、よいよい」
「わしを邪神か何かと勘違いしとらんか」
「そういうのやっとらんのじゃよ」
一方、私たちの前にはヤギの乳で作られたようなミルク粥が出されていた。
子供たちは夢中でスプーンを動かし、はふはふと勢い良く食べている。
「おいし~!」
シルヴィが笑顔でスプーンを振り上げた。
「ふわぁ……あったかい……」
ルミナも満足げにスプーンを口へ運んでいる。
そして一番勢い良く食べていたラティは口の周りをミルクで盛大に汚していた。
「もう……ラティ」
「口がすごいことになってるわよ」
私は手近な布でラティの口元を拭いてあげた。
「へへっ」
「おいっ」
「わしもアレが食べたいぞ」
「し、しかし……」
「つべこべ言わず持ってこんかい」
奥で控えていた白髪の女性が慌ててスープ皿を持ってきた。
「どうぞ、お召し上がりください」
あれ、この"人"……。
私はローブの隙間から見えた顔付きに違和感を覚えた。
「はふはふっ」
「これは、なかなか美味いのう!」
「もう……子供といっしょね」
フィールカリオンは口元を白くしながら、ひたすら食べ続けている。
「ほら、あなたも口が汚れてるわよ」
私はそっとフィールカリオンの口元を拭ってあげた。
「ん゛むっ、はふはふ……」
フィールカリオンは私に口を拭われているあいだも手を止めることはなかった。




