8-12『代官』
◇学園帰還翌日(トライアウト「的当て(初回)」の前日)◇
「代官、バカヤロー!」
春風によって花びら舞う教務棟玄関口を出たロータリーで、俺は思いっきり叫んだ。
代官、許せない。
代官、気に入らない。
代官、いけ好かない。
大体、「代官」っていう名称自体が気に食わない。
「私はあくまで代理の者です」って責任逃れを名前からして全面に押し出しているところが……
村にいた頃に、あのほぼクズ義兄が「村長の代官」を自称して俺から魔石を巻き上げていた苦い過去が思い返される。
以来、「代官」という職種に就く人間や自分を誰かの代理と称する者のことは基本的に信用しないようにしている。
そして、俺は、長旅から学園に戻った翌日、そんな相性の悪い名称を持つ人物から呼び出され、わざわざ「教務棟」まで出向いた……というわけだ。
なぜか、「学園長室」への呼び出し……
なぜか、学園長が同席……
そこで、思わぬ追及を受けることになった。
◇回想「学園長室」◇
「なぜ、貴方たちがここで『面会』をするのか理解不能ですが、私はここで執務をしておりますので、その間は、そちらを自由にお使いください」
部屋の一角にある談話スペースに座らされる俺。
この部屋の主である学園長に理解ができないなら、俺にその理由が分かるはずもない。
……っていうか、ソファに向かい合って座る相手が誰なのかすら分かっていない。
見た感じ聖衣を着ていることから教会関係者なんだろうけど、この目の前の緑色の髪を長く伸ばしている眼鏡を掛けた堅物そうな女性が誰なのか知らない。
俺に教会関係者の知り合いはいない。
……いないったらいないんだよ!
「すみません、そちらのノーウェ=ホーム殿の派閥の顧問である『聖者』様にこちらの部屋を案内されたものですから」
……先生の仕業か!
どうやら、フィッティ先生が面倒臭がってこの場を学園長に丸投げしたっぽい……
フィッティ先生より学園長の方が偉いんだよな?
上司が部下に仕事を丸投げされるなんてことあんのか?
あと、先生の呼び名がナチュラルに『聖者』様になっとる……
あの「結婚式」のときに不慮の事故によって『聖龍の呪い』を受けてしまったわけだから、常に光輝いているのも仕方ないことなんだけど、教会関係者にまでそういった目で見られるのは少しかわいそうだね。
まあ、誰のせいでもないわけだから仕方がない。
それよりも、目の前の女性だ。
彼女は一体何者なんだ?
只者ではない雰囲気がしているのだが、よく分からん……
「申し遅れました、ノーウェ=ホーム殿。私の名はセリス。この度、『仁の聖女』の『代理神官』を務める者です」
「それはそれはご苦労さまです」
あいつの代理なんて聞いただけで苦労がしのばれるというものの、教会関係者に知り合いのいない俺には関係ない話だな。
俺は席を立とうとした。
「まあまあ、ノーウェ。とりあえず話を聞きましょうか」
止められた……
横に座っていた身内に……
なんだ?
俺はハメられたのか?
2人はグルか……?
「うふふ、アルテの言うとおりの人物のようですね」
代理神官……即ち「代官」が、こちらを見て笑っている。
非常にいけ好かねえ……
俺は、膝に肘を置いて、その手の上に顎を乗せ、そっぽを向いた。
……意識せずに右を向いたら、学園長がじっとこっちを見ていたので、反対のドア側に向き直った。
「それでは、そちらの『紫魔導師』殿に逃げられてしまう前に、本題に入りましょうか……」
「どうぞ」
話し合いが始まった。
リバーが俺の「代官」みたいになっとる……
「まずは、『ウル-ヴィル』への遠征お疲れ様でした」
「どうも」
「アルテがリバー殿に依頼した内容はすべて確認できました。お礼を申し上げます……それで、今回お話させていただきたいのは、追加の依頼とその報酬のことです」
「はて、追加とは……?」
リバーが首を傾げている。
もちろん、これは彼にとっては交渉の範疇だ。
ある程度、長く一緒にいると分かる。
「なんの話をしているのか分からない」という態度によって、交渉の優位性を取ろうとしている技術なんだ。
ただ、そんなリバーに対して交渉相手の「銭ゲバの代官」は、表情を一切変えていない。
なかなか手強そうだ……
「貴方方がウル-ヴィル近郊にて『怪物』を大量に撃破して魔石を回収していったというお話を聞き及んでおります。そちらをお譲りいただけませんでしょうか」
「はて……」
……情報が漏れている。
そして、なんか視線を感じる……
右だ……
学園長が「諸々聞いてねえぞ?」と言いたげな様子でじっとこっちを見ている。
うん、言ってないもん……
ツチノコ捕まえに行っただけだもん。
他の「怪物」はついでに見つけたんだよ。
つ・い・で・に……!
「私どもは『伝説の怪物』を探しに遠征をしておりましたので……」
「身に覚えがございませんか?」
リバーが嘘を吐かない形ではぐらかしたが、「代官」の追及はなおも続く。
しかし、どこから情報が漏れたのだろうか……
パッと思いつくところで、3つ考えられる。
1つは、「軍部」のレオ=ナイダス先輩から……
これが1番可能性高いか……?
俺たちも、先輩に話してしまった以上は、情報が漏れることもある程度覚悟の上だが、そこから生臭組織の銭ゲバに知れ渡ると仮定した場合、軍部とあいつらの間に何かしらの戦略上の協定のようなものがあるのかもしれない。
まあ、だからといって、俺たちが稼いだ魔石を掠め取っていい理由にはならんけど。
「お答えする義理もありませんし、仮に事実であったとしてもせっかく我々が得た戦利品をお譲りする道理もないかと」
「なるほど、そう来ましたか……」
代官はノートサイズのマスボを出して何かを確認している。
他に考えられるところは……
敵方から漏れるということもあるか……
相手からしたら、自分たちの手の内……特に失点を政敵に教えるわけはないだろうが、あの街には教会もあるわけだし、伝えなくてもそこから漏れるという可能性はある。
教会にスパイを仕込んでおくぐらいのことはありそうだ。
あの銭ゲバならそれくらいあくどいことをしていてもおかしくないだろうさ。
なんたって『悪の聖女』だからな、あいつは……!
「少なくとも、今ここにお持ちになっているようではなさそうですね」
「仮に、私どもがそんな大されたことをして大量の魔石を有しているのであれば、真っ先にギルドなりに捌くと思いますが」
「商会に所属する貴方がそれを言いますか……ここにないということは、何かをお調べになっているということでしょうかね」
「はて?そんな膨大な量の魔石を調べる暇は我々にはありませんね。あくまで、そちらのおっしゃる怪物退治が事実であるとして、ですよ?それとも何か調べざるを得ない事情について根拠がおありでしょうか」
最後の3つ目の可能性として、非常に厄介なことに、今、俺の隣に座る男から漏らされているという可能性がなきにしもあらず……
「身内の恥を晒すようで申し訳ないのですが、昨夏にお2人にも解決のご協力をいただいた『マルテの街』での悪魔召喚の儀式と誘拐事件の犯人たちを更生させる際に色々と明らかになったことがありましてね」
「それは何よりです。その明るみになった事柄に『怪物の魔石』がどう絡むのか、私の頭では到底想像がつきませんが、『聖教会』はそれが単なる魔石でないとお考えなのでしょうか?」
現在進行形で、非常に回りくどい形での「報告会」になっている気がなきにしもあらず。
なんだ、この場は……!?
オホンッ……
咳払いが聞こえた。
……右は向きませんよ。
「聞いてねーぞ?」と言われても知りません!
課外活動ですから……!
学園に逐一報告する義務はありません……!
「なるほど……それがただの『魔石』でないという可能性を貴方方は探っておいでなのですか。よく分かりました。まあ、すぐにとは申しませんので、いずれはお譲りいただけないでしょうか」
「対価なしに『怪物』の魔石をお譲りする商人はいないと思いますよ」
……やはり、探りを入れているみたいだな。
その真意は測りかねるが。
「魔石」は方便で、リバーの作業の進捗が知りたかった……とか?
でも、だったら、なぜわざわざ、こうして俺たちに学園内での「面会」を求めたのだろう……?
その行動の意味がちょっと分からない。
「対価は、アルテからの伝言で『お前が持ち去った本はしょうがないから内密に譲ってやる。その代わり魔石100個よこせ』……だそうです」
な、なんの話かな?
あと、マスボを見ながら一体だれと連絡を取り合っているのかな?
非常にむかつく存在が近くにいるみたいで、無性に腹立たしいのだが……
「はて……『本』とはなんのことでしょうか?ノーウェ、心当たりがありますか?」
……急にリバーからバトンタッチされた。
突如、こちらの「代理人」からの丸投げ……!
「さあ、ちょっと何言っているか分からないな」
とりあえず否定。
たぶん、あの本のことを言っているのだろうが、俺は知らぬ存ぜぬを押し通す……!
今、持ってないし。
もうすでに、先輩にあげちゃったし!
「そうですか。その場合は、と……『お前以外、あの本を持ち出す人間なんていないんだよ。正直に話しな』だそうです」
……うむ。
たとえ、代理の者から発せられているとしても、その口調は不快すぎるな……!
「『あの本』が何を差すのか分からないが、俺がもし何かをあいつのところから持ち出すようなことがあるのだとしたら、それはかつてあいつに押収されたものになるだろうな」
ペテル師のものはペテル師のもとへ……というやつだ。
俺が見つけ出したもの(本)を奪い返して何が悪い!
「そうですか……『じゃあ、アレ貸すのやーめた!』だそうです」
「うぐっ……」
……それは困る。
「アレ」とは……おそらく、「マーロック遺跡」に入るときに必要になるであろう「アレ」のことだろう。
俺1人ならともかく、仲間たちと向かう場合、どうしたって「アレ」が必要になるだろう。
くそっ……人の足元を見やがって!
銭ゲバがっ!!
今さら、「本を返して」とは言えないし、ここは譲歩するしかないか……
1度左の方を見ると、リバーはゆっくりと頷いた。
「ちっ、分かったよ」
く……くやしい!
「それはようございました。『討伐した怪物の魔石』100個と『あの本』の交換……よろしいですね?ちなみに、私はあくまでアルテの『代理』ですので、苦情は本人に直接お願いしますね」
「でも怪物の魔石100個は、どう考えても暴利じゃない?」
「残念ながら、私はあくまで『代官』ですので、取引の公正さを測る立場にはありません。それは、アルテに直接お願いできますか?」
「ちっ……」
「まあ、そんな『魔石』が市場に出回っては困る……という彼女の考えは理解できますけどね」
緑髪眼鏡の「代官」は、そう言うとニッコリと笑った……
……食えない「代官」。
「なるほど、ノーウェ=ホームに対しては『代理人』を立てることが有効なのですね。さすがはアルテです。非常に理に適っていますね」
……変なところで納得していないでください、学園長!
◇回想終了◇
◇「学園長室」<ソフィ学園長視点>◇
「なるほど……さすがは『礼の聖女』セリスですね。あの『紫魔導師』と『麒麟児』を前に完全なる『認識阻害』を成功させるとは」
「『理の賢者』にそう言ってもらえると光栄ですね」
緑の髪が会釈によってふわっと揺れる。
「お見事でした。もっとも、わざわざここに『聖国の看板』である貴方たちが揃う理由を私は聞かされておりませんが」
「こっちも、それだけ切羽詰まっているというわけだよ……」
学園長室のカーテンの一部が風もないのに揺れると、その中からもう1人の『聖女』が姿を現した。
こちらは『仁の聖女』アルテ……
帝国を「縄張り」とする、見慣れた方の『聖女』だ。
たしかに、普段は「聖国」を守護する任に就いているもう1人の『聖女』がこうしてお忍びでやって来ているということ自体が、なんらかの「異常事態」を示していることに他ならない。
「貴方方は私の学園の生徒たちを揉め事に巻き込むつもりですか?」
1つ釘を差しておく。
ソフィは、アルテをじっと睨んだ。
「そのつもりがあっても、なくても、あいつらは勝手気ままにするだろう?はたしてあんたにそれを止められるのかねぇ」
ソフィの睨みもどこ吹く風と具合に、アルテはさっと受け流して、ソファまで移動するとどっかりと腰を下ろした。
そのやり取りを見ながら、セリスはただニッコリと笑っていた。
ソフィは思わずため息を吐いた。
互いの「職域」を重要視する『聖女』たちがこうして手を携えるということは、よっぽど背に腹を変えられない事情があるのだろう。
今更、釘を差したところで、すでに事態が大きく動いてしまっている以上、「後の祭り」であることぐらいはソフィも分かっていた。
……すでに、賽は投げられているのだと。
だからと言って……
「……それで?なぜ、ここで貴方たちが『面会』をする必要があるのでしょう?理解不能なのですが」
「さっき、『自由に使っていい』と言っていたじゃないか。とりあえず『魔紅茶』1つよろしく!」
ザッバーーーーーーーーーーー……
ボボボボボアーーーーーーーー……
執務席とソファの間に『水』と『炎』の柱が立ったが、2つの最上級の『結界魔法』により、瞬時に防がれた。
「『お湯』じゃなくて『茶』が欲しいんだが……」
「ここは『喫茶室』ではありません。『学園長室』です」
「そうかい。まあ、いいさ。それじゃあ、セリスのこと頼むな」
「はい?」
「しばらく、ここで『秘書』として雇ってくれ。なに、任務が終わったらこいつも帝国を去るから、それまでの間だからさ」
「はい?」
「だって、さっき『私が執務をしている間は自由にしていい』っていっただろ?それに、学生の『課外活動』が気になるんだろう?保護者がいれば安心じゃないか。んじゃ、頼むなー」
「はいー?」
学園長ソフィ=エスメラルダは思わず3度聞き返してしまった……
そして……颯爽と去っていく『仁の聖女』の後ろ姿とソファに座ったまま、いつの間にかお茶を飲んで微笑んでいる『礼の聖女』を見て頭を抱えた……!
◇学術棟周辺の道◇
あまりにも腹立たしかったので、しばらく学術棟の周辺を野良犬のようにうろついていたら、いつの間にか隣にいたはずのリバーがいなくなっていた。
1人で先に待ち合わせの場所に行きやがったな……
……まったく。
微妙に示し合わせていた節もあったし、あいつも腹の底が読めないんだよな……
まあ、「ウル-ヴィル」の件については、リバーに一任しているわけだから、文句もないんだけど……!
そんなことよりも、今は復讐方法を考えなければ……
銭ゲバの生臭シスターはもちろん、あの微妙に胡散臭い「代官」にもいずれ一泡吹かせてやらなければならない……
あの堅物そうな緑髪眼鏡シスターは、非常にやりづらい人物であったが、なんとなく何かを隠している様子だった……
一体なんだろう?
まあ、いずれ暴いてやるとして、まずは銭ゲバに復讐する手立てだな……
あいつの大聖堂にツチノコを放り込むというのはどうだろう?
……いや、ダメだな。
あの太った蛇じゃ、バシリスク幼体よりも頼りなさすぎる。
「伝説の魔物」のくせしてちょっと運動不足なんだよな、あいつは……!
うちの学園にいるピギーの方がよっぽど優秀だぞ?
ガスッ……
腕を組んで下を向きながら、そんなことを考えていると、俺の肩に誰かの肩がぶつかった。
「おい、お前、この『宵闇』フォルクス=ガントと知っての乱暴狼藉……あっ――」
……おっ!
その古臭い口上とダサい黒のローブは……
「あー、フォルクス先輩、ちぃーす!ちょうど先輩に会いたいところだったんですよ」
「うわぁーーーー、の、ノーウェ=ホーム!なんだよっ、勧誘なら間に合っているからな?いくら俺を誘っても、俺はもう他に誘われちゃっ――」
「今から、俺と一緒にダメ教授のところに行きましょう!ちょっと手伝ってください」
「はいーーー?」
「話は後です。『マインドチェーン』」
「ぐわっ……」
むしゃくしゃしていた俺は、同じ『殿上人』の『宵闇』フォルクス=ガント先輩の動きを無理矢理封じて誘拐した……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
冒頭の台詞が言いたいために書いたストーリーではないですからね(^▽^;)
念のため……(笑)
それにしても、学園内まで……
着々ときな臭くなってきているようです。
次回
さて、問題です……
フォルクス先輩はこれからたった1話で大出世を果たしますが、何になるでしょーか?(笑)
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




