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8-11『前向きジャン』

◇「フードパーク」<ジャン視点>◇


「まあ、ドンマイ」


「ドンマ~イ」


「ジャンの一次通過の奇跡に乾杯と、ドンマイ」


「ジャンの今後にドンマイ」


 新入生が5人……


 念願であった派閥の「トライアウト」の一次選考に、無事全員通過した。


 本来ならば、これほど喜ばしいことはない。


 盛大に乾杯して飲み食いしたい。


 なのに……


 気持ちがさっぱり晴れない……


 『茶魔導師』ジャンは、幼馴染の女子学生2人と、この学園に入ってできた初めての友人である男子学生2人による冷やかしと慰めの両方を同時に受けていた。


 「山ぶどうスカッシュ」がやけに酸っぱく感じる……


◇回想◇


 一次選考の「的当て(初回)」において、夕方まで的を当て続けた甲斐があり、『紫魔導師』ノーウェ=ホームより直々の薫陶を受けるという幸運を授かることができた。


 ――もっと自分の魔法に向き合え――


 そのアドバイスは至言であった。


 なぜなら、『茶魔導師』という『称号』を授かって以来、今日に至るまで、ジャンが自分の魔法をじっくりと見つめるなどという機会はなかったからだ。


 そもそも『茶魔法』って一体なんだ……?


 紅茶を飲むときのマナーか?


 いまだに、カップの下に置かれている皿の使い方が分からないし、紅茶を飲んでいる間、それを持っているべきなのかどうか迷う。


 ……いやそれは茶の作法だ。


 全然違う。


 ジャンは魔力の尽きている身体でスクワットをしながら、熟考した。


 汗とともに、何か良いアイデアが湧いて出てくれればいいな、なんてことを考えながら。


 「茶」という色の意味を考える……


 自身にとって憧れであり、崇拝に近い尊敬をしている『紫魔導師』と自分の似ているところと、似て非なるものについて整理を試みる。


 似ている部分は、同じ『色付き』であるということ。

 そして、その色は違うが、他にいない「中和色」であるということ。


 「黒」でもなければ「赤」でもなく「白」でもない……


 他に類を見ない、独特の「色」であるからこそ、その『称号』を授かったということが判明したとき、正直戸惑った。


 当初は『色付き』は馬鹿にされていたし、何より前例のない色だったからどうしたらいいのか分からなかったのだ。


 ジャンは、『紫魔導師』に憧れた。


 謎めいた魔法を放つその魔法は、自分の『称号』に答えを見出せない男にとっては、単なる憧れ以上の「救い」であった……


 しかし、憧れているうちは、何も進歩はない。


 夢の中でなら、誰だって「最強の魔導師」になれる。


 妄想に浸っていれば、「皇師宴」3連覇だって可能なんだ……


 妄想と現実の行き来をしているうちに、そのときは来てしまった。


 『赤魔法』と『黒魔法』の訓練を続けるも、修行に身が入り始めた時期があまりにも遅く、独学の戦術論も役に立たず、「入学式」までの間の「決闘奨励期間」での実績は実に30戦30敗という記録を作り上げてしまった。


 焦りが募る中でも、ジャンにとっての「念願の日」は待ってはくれない……



 入学式から数日して、その日はついにやって来た。


 「【紫雲】トライアウト」の初日。


 課題は「的当て」……


 普通にやっても、絶対に受からないと思ったジャンは、開き直ってある策に出た。


 課題を始める直前に思い切って憧れの『紫魔導師』に挨拶をしたことでヒントを教えてもらえたのだ。


 その秘策とは……

 その場にいる最も強いやつの真似をする……


 対象は、『信の勇者』チズ=アーズマであった。


 華奢な身体をしたおかっぱ頭の異国の留学生……


 幼馴染のラミィとも大して変わらぬ背格好の『勇者』は、なんとも羨ましいことに、『紫魔導師』ノーウェ=ホームから「特別課題」を与えられていた。


 そいつの隣に陣取り、魔法を『ものまね』して誤魔化そう作戦……


 ふんわりと、「おっ、あいつも『勇者』によく喰らいついているじゃないか。なかなか見どころがあるな」……なんて思ってもらえれば作戦成功だ。


 そう思って、『勇者』のやることをひたすら真似していたのだが……


 『信の勇者』は何やら戸惑いながら「小さな魔法」を放っている。


 『赤魔導師』の限界値であるハイ級よりもさらに弱い、初級の魔法を最小限の出力に抑える……


 やってみると、意外に難しい。


 初級の魔法は、ジャンのような初心者に毛の生えた程度の魔導師であっても、さらっとできてしまうので、見過ごされがちなのだが、拳大程度の『風の玉』を作り出そうとした場合、発動直後に『風』が分散してしまい、なんとも上手くいかない……


 『勇者』もそこに戸惑っているようだ。


 そんなジャンと『勇者』チズのお手本となる存在が現れた。


 『紫魔導師』ノーウェ=ホームが声を掛けたのは『赤魔導師』ハリー=ウェルズ……


 魔法の精密性や発動の速さにおいては、ジャンの敬愛するノーウェ=ホームと派閥……いや、学園において双璧をなす存在だ。


 そんな『赤魔導師』ハリー=ウェルズが放った魔法は、近くで見ていたジャンにとって「驚愕」の一言であった。


 自分が試みている「拳大」はおろか、「飴玉」よりもさらに小さい「豆粒」サイズの『火の玉』を連発で緩急をつけて放ったのだ……!


 同じ『赤魔法』を使う者でもこうまで違うのか……


 その実力差に途方もなさを抱いてしまい、気が遠くなってしまったジャンであったが、そのとき初めて胸に1つの言葉が染み込んできたのであった。


 ――もっと自分の魔法に向き合え――


 己の拙さをようやく見つめることができたジャンは、日が暮れるまで何百発も魔法を放ち、挑戦し続け、最後に、なんとか「拳大」のサイズの『風の玉』を作ることができた。



 次の日、ジャンは昼までベッドから起き上がれなかった。


 寝坊ではなく、魔力欠乏。


 身体中が痺れる思いをしながら、なんとか這いつくばって午後から動き出す。


 数週間前から始めている「アルト&シャウ直伝魔法筋トレメニュー」を初めてこなしたときのような身体の重さに苛まれつつも、翌日に迫った「トライアウト『的当て(2回目)』」に向けた準備をしなければならない。


 ……といっても、魔力が枯渇しているので、魔法の練習をすることはできない。


 だから、ジャンは考えに考えた。


 尊敬する先輩『紫魔導師』ノーウェ=ホームの教えに従って……


 ……

 …………

 ………………


 考えるうちに、自分にとって何が障害になっているのか、薄っすらと分かってきた。


 人の真似をしても意味がない……


 人の魔法を真似して奪え、そして発展させろ……


 ジャン自身が憧れている『紫魔導師』ノーウェ=ホームという存在は、唯一無二だ。


 だって……


 彼自身が、魔物の魔法を真似して奪い、発展させているじゃないか……


 そんなことができるのは、ノーウェ=ホームしかいないのだから真似したって無理……


 ……そう思い至ったジャンは、改めて見つめなおした。


 『茶魔法』……


 ……

 …………

 ………………


 それはつまり、『赤』と『黒』……


 そういえば、これまでその2つの組み合わせについて考えを巡らせたことなどほとんどなかった。


 ……何か意味がある?


 痺れる身体を震わせながら、ジャンは静かに熟考する。


 『赤』と『黒』……


 『赤』と『黒』……


 そして、魔法の「本歌取り」となる2人の人物と、1つの靄掛かった結論に『茶魔導師』は行き着いた……


 成功するか、失敗するか……

 

 どちらの答えが出るか、正直分からない。


 でも……


 挑戦してみなければ、「答え」は出せない……!



 「的当て(2回目)」当日を迎えた。


 場所は、同じ草の青い香り、噴水のせせらぎが心地よく伝う「噴水前芝生広場」。


 課題も同じ「的当て」だが、今回はその指示内容がよりシンプルであった。


――魔法1発勝負。発動者自身の『これだ』と思う魔法を的にぶつけよ――


 1回目のように、「的当て」を日が暮れるまで何度もやり直すことはできない。


 1発勝負なので「的」も1つであり、公園中を取り囲む大勢のギャラリーの前で1人ずつ魔法を放っていく。


 ジャンは仲間内の最後尾に並んだ。


 50人ほどの参加者の中盤あたり。


 1人、1人、魔法を放って行き、あっという間に自分の番が迫ってくる。


「次、どうぞー」


「はい、『赤魔導師バノン』行きます!」


 5人の仲間の先頭を切ったのは、同じ『色付き』である『赤魔導師』バノン。


「『ハイアイス』、『ハイウォーター(れんぞくま)』


 なんと、バノンは、両手の人差し指を「的」に向け、属性の違う魔法をほとんど同時に発動した。


 『れんぞくま』……


 それも、属性を変えたものをほとんど同時発動。


 オォーーーーーーーーーー……


 周囲から感嘆の声が漏れる。


 形こそ、2日前に見た「本家」に比べてまだまだ甘いものの、その魔法からはバノンの「気概」が十分に感じられた。


「次どうぞー」


「はい」


 ……

 …………

 ………………


 順番が近付いてくる。


 学園に入ってできた友人のもう1人、『風涼』ロックフォールは、ただの強力な『風』ではなく、『冷気』を伴う『羊』の形をした『風』を発動させた。


 明らかに、『水豪』ブルート=フェスタの魔法を参考にした造形魔法。


 それを見ていた本家が「ヤギ泥棒」と叫んでいたが、「羊」であって「ヤギ」ではないとジャンは思った……


 ジャンの幼馴染である2人……『瑠璃るり』のラミィと『火窓かまど』のサクヤもまた、初日からそれぞれの魔法を発展させていた。


 「探索型冒険者」を目指すラミィは、青白い光を放つ『玉』の散弾を放射し、1度拡散させてから、的に集約させるという芸当を見せた。


 「造形魔法」に興味を持つサクヤは、自身から「的」に到達させるまでの間に、巨大な『火』の形を何度も変えて向かわせた。


 その美しい魔法に思わず歓声が上がった。


 幼馴染ながらに才気溢れる魔法を放つ2人に対し、順番を待つジャンは心の中で悪態を吐いた。


 ……あまり、ハードルを上げてくれるなよ、と。


「次、どうぞー。おー、ちゃま君だねー」


 いよいよ、ジャンの番。


 ジャンは目を瞑り、深呼吸をしながらイメージをする。


 『赤』と『黒』……


 1人は、あの豆粒ほどの繊細な魔法をスピード自在に発動できる『赤魔導師』……

 もう1人は、じっくりと「ため」て、強大な魔法を放つ『黒魔導師』……


「『茶魔導師』ジャン、行きますっ、ぬおおおーーー」


 ボフッ……

 ボボフンッ……!!


 イメージしたのは、豆粒のような『風の玉』と巨大な『風の玉』の同時発動……


 だが、現実は、拳大よりもほんのひと回り小さな『風の玉』とハイ級に毛の生えた程度の『風の玉』……


 しかも、『れんぞくま』にはほど遠い、間隔を空けての2発……


「ぷーーーーー、あいつ、1発勝負って言われているのに2発放ってやがるぜ」


 すでに、試技を終えてギャラリーとなっている金髪七三分けの貴族の学生に思いっきり笑われた……


 あの男は……以前に、決闘で負けた相手だったな。


「はい、次どうぞー」


 ……

 …………

 ………………


 こうして、ジャンの試技は終わった。


 試技の出来栄えについて未練がないといえば嘘になるが、自分のできることは示したつもりだ。


 だから、不合格だったとしても悔いはない……


 ……いや、嘘だ。

 やっぱり、受かりたい……!!


 そう思って、ジャンは結果発表を緊張の面持ちで待ち……


 そして、「一次通過者」に自分の名前があって飛び上がるほど喜んだ。


「やったぜーーーー!!」


 ……

 …………

 ………………


 だが、その直後……


 いつの間にか、よく分からないいざこざに巻き込まれ、「条件付き通過(?)」というよく分からない状況に追い込まれてしまった……


 他ならぬ、敬愛する『紫魔導師』ノーウェ=ホームによって。


◇回想終了「フードパーク」◇


「ノーウェ先輩、ジャンに【紫雲】に入ってもらいたくないのかな?」


 グサリッ……


 幼馴染から心に突き刺さる言葉の刃が飛んで来た。


 たとえ二次試験を通過しても、ジャンには「不合格者との決闘での全勝利」というとんでもない追加条件が【紫雲】の「長」より課せられてしまった。


 30戦30敗の男が、2週間後に26戦26勝しなくてはならない……


 そんな無理難題を突き付けられた理由について、仲間内で勝手な推察が始まっているのである。


「まあ、こいつ魔法がヘボいしな……」


「あんまり、ストレートに言うなよ、ロック。ジャンは単純に経験不足なだけだよ」


 グサッ、グサリッ……


 さらなる刃とフォローになっていない追い刃が次々と飛んでくる。


「でもさ~、もしジャンに派閥に入ってもらいたくないなら、普通に1次で落としていたんじゃないかな~」


「「「た、たしかに……」」」


 下を向いていたジャンは思わず顔を上げた。


 もう1人の幼馴染サクヤが一瞬、女神に見えた。


「そ、そうだよなっ!?……ってことは、ノーウェ先輩は俺に『特別な試練』を与えてくれたんだな!」


 ジャンは一気に前を向いた。


「お前ってすぐ前向きになれるのな」


「そこだけはちょっと尊敬しているぞ」


「よっしゃーーー、それじゃあ、2次も頑張ろう!」


「「やれやれ」」


 改めて乾杯をした。


 今度の「山ぶどうスカッシュ」は甘酸っぱい!


「それじゃあ、せっかくだから、俺たちでチームを組むか?」


 『風涼』ロックフォールがおもむろに提案した。


「ん、どういう意味だ?」


「なんだ?知らなかったのか『インビテーション』が届いているぞ。どうやら次の試技は『ダンジョン攻略』らしい。『6人1組のチームを組め』……だってさ」


「「「ダンジョン!?」」」


 俺は幼馴染のラミィとサクヤと顔を見合わせた。


 彼女たちも知らなかったようだ。


 なんと、【紫雲】の「トライアウト2次選考」は、「ダンジョン攻略」が課題になるらしい……


「んー、でもどこでやるんだろう~」


「この近くだと『ハイリゲンダンジョン』かな?」


 ダンジョンで「2次選考」とは、さすがは【紫雲】だな、とジャンは思った。


 俄然、やる気が出てきた。


「でも、6人ってどういう意味だろうね」


 マスボを見て確認をする『赤魔導師』バノンが呟いた。


「何がだ?」


 ジャンには、バノンが気にしていることがよく分からなかった。


 24人残っているのだから、6人1組ならちょうど「4」に割り切れる。

 だったら、何もおかしくないのではないか……


「だって、【紫雲】の募集人数は『5人』だぞ?」


「「「「あ!」」」」


 ……そうだった。


「いくらチーム単位で活躍しても1人省かれてしまうのかな?」


「あるいは、チーム関係なく活躍した者を選ぶとかなのかもな」


「んー、でも、ひょっとしたらそれも【紫雲】の思惑かもしれないよ~。何か意図が隠されていたり~」


「『罠』なのかしらね?ひょっとしたら、これもノーウェ=ホームの策略なのかもしれないよっ。チームの結束力や統率力を試しているとか?」


 募集人数について侃々諤々の議論となったが、ジャンにとっては、正直どうでもいい。


「まあ、とにかく全力で攻略するだけだろ!?まずはそれからだぜ」


「まあ、そうだな。俺たちの中ならジャンが弾かれるだろうし」


「そうそう」


「「そだね~」」


「うぉーーーい……ん?でも、俺たち5人だからあと1人足りないぞ?」


「「「「あ!」」」」


 今さらながら大事なことに気づいた。


 「ダンジョン攻略」のチームは6人。


 あと1人、誰を誘えばいいのだろうか……


 そのときであった……


「すいませーん。『アローカナールのグツグツそば』10杯お願いしまーす!」


「じっ、10杯ですかっ?」


 ……ふと、目を向けると、おかっぱ頭の見覚えのある女子学生が「ぐつぐつ亭」の店の前で注文をしていた。


 1人で10杯。

 その華奢な体のどこにそれだけの麺が入るというのか……

 店員も驚いて口を開けたままだ。


「あっ、ネギましましのそば大盛りでお願いしますね♪」


「……あっ、あいよー」


 ちょうど鴨がネギを背負ってやって来るように……


 ……野生の『勇者』が単体で出現した。


◇一方その頃◇


「ちょっとー、ノーウェ君。チームの定員を『6人』にしてどうするの?」


「んっ、何が?」


「だって、派閥の募集人数は『5人』だよ。『6人』でチーム組んだら1人は落とさなきゃじゃん?」


「……あっ、そっちの数はまったく気にしてなかった」


「んもぅ!」

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ダンジョン……

ん?

どこのダンジョン……?(^^)


次回、間接的な姉弟喧嘩……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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