表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

533/533

8-13『ノーウェ=ホームの悪だくみ』

――「プラハ魔法学園」には秘密の地下組織が存在し、地下施設が作られている――


 最近、まことしやかに囁かれている都市伝説だ。


 そこには、会員制の超高級レストランなんかもあるんだってよ。


 良い噂だけでなく、悪い噂もあって、人がたびたび誘拐されるんだとか……


 まあ、噂は噂でしかなく、今のところ事実ではないんだが、なぜそのような都市伝説が語られるようになったのかの背景については、気に留めておく必要がある。


 その理由は、秋に起こった「大怪物」アメフラシによる襲撃事件だ。


 あのとき、学園の南側の一部が冠水してしまったことを重く見た学園は、排水設備の強化をある人物に依頼し、この冬から春にかけて大規模な工事に着工した。


 その人物とは……


 俺たちともつながりのわりと深い、ソナタ商会役員の息子であり、リバーとは将来的には同僚になる予定の『水興』サンバ=オンドレア先輩だ。


 もちろん、彼1人でこの大事業をすべて行なえるわけでもなく、彼はとある2つの派閥に工事の依頼をして、全体の音頭を取ったというわけだ。


 その派閥とは、当然【堅切鋼】と【魔転牢】だな。


 サンバ先輩とは、1年生の頃からの腐れ縁であり、この春、晴れて職場の同僚にもなったコイン先輩と彼の派閥メンバーは、土木建築関連のエキスパートだ。


 土を掘り起こしたり、地盤を補強したりするなんて作業は『石嶺』コイン=ドイル先輩であればお手のものであるし、彼らのメンバーにはドワーフ族までいるからね。


 まさにプロフェッショナル。


 彼らが、地下で工事作業を行ない、出入りをしていたために、件の「都市伝説」が囁かれ始めたのだろうと察する。


 地下掘削作業が進められる一方、治水改善計画も並行して進められた。


 雨が降ったときの水の流れを把握した上で、排水のルートを策定したり、地下に一次的な「人工貯水湖」を作ったりといったことを、綿密な計算のもとで行なえる人材が必要となる。


 それを魔法(魔道具)で行なえるようであれば、なお良い。


 そんな全体の設計図を作り、「頭脳」的な役割を担ったのが、【堅切鋼】の副長であり、春より「魔法省」で都市計画の部門を担当する(らしい)クォーター=ムソウ先輩、そして、派閥【魔転牢】の長であり、サンバ先輩に絶対の忠誠を誓う配下を自認している『氷狐』ガイル=ワイリー先輩だ。


 この2人が、【魔転牢】の副長ギース先輩以下、派閥のメンバーと一緒に何度も打ち合わせと実験を重ねてこの壮大な「魔導排水(貯水)システム」を造り上げたというわけだな……!


 スケールのでかいすごい先輩たち……


 学生の身分でそんな壮大な事業を行なえるなんて、すさまじいよね。


 俺なんて、魔物を倒すくらいしか能がないから、少し気おくれがしてしまう……


 ……なんてことは思わず、秋頃、「大連合」を彼らと結成していたときよりその話を耳にしていた俺は、彼らの計画に着想を得て、ひそかに壮大な計画を練っていたというわけだ。


「Produced by ノーウェ=ホーム」の一大計画……


 とあるダメ教授とダンジョン狂、古代魔道具の研究に猛進している『殿上人』とその派閥メンバー、そして俺の派閥仲間数名を誘い、前述の、非常に高い土木技術や魔道具の知識を持つ人たちを無理矢理巻き込み、あとは、『闇魔法』に関してこの学園の第一人者であり、こういう「秘密組織」と聞いたら喜んで話に乗ってくれる気の合う『殿上人』の先輩の知恵を拝借しながら、ついに、計画の完成へと至ったというわけだ。


 人間とは、夢を抱き、叶える生き物だ……


 「都市伝説」というものも、少し方向性を違えた人間の抱いた夢の発露といえるのである。


 ……ならば、叶えたっていいじゃない。


 「プラハ魔法学園地下ダンジョン計画」……


 それこそ俺が秋からこっそりと計画し、内々に秘密組織の構成員を募って、ついに完成までこぎつけた壮大な事業である。


 これから計画の実行にあたっての最後の詰めの会議が開かれるんだ。


「やあやあ、ノーウェ君!ついに念願だったこの『DUNGEON』の特許が取れたんだよーーー!」


会議の開催場所は 「ブラックスクエア」。

冬ごろに新設された、黒い立方体の形をした巨大研究施設。


 その代表である女性が、ボサボサ髪にヨレヨレの白衣と魔物のアイマスク、というおおよそ偉い人らしからぬ装いで俺を出迎えた。


 その手にはフラスコと酒瓶という、よく分からない組み合わせの仕事道具が握られている。


 言わずと知れたダメ教授、マーゴット=エジウス教授である。


「ついに僕たちの夢がリリースされるよーー!ノーウェ君ー!1、2、3……ダンジョーン!」


 こちらは、学園一(いや、おそらく帝国一)のダンジョンマニアとして有名な、ダンジョンをこよなく愛し、ダンジョン研究のために教職に就いているといっても過言ではないダンジョン狂のトルナ=メマコーン先生。


 一応、魔導師としても卓越した技量を持つことは、春前に行なわれた「エキシビジョンマッチ」でも証明された。


 でも、そんなの関係ない。


 だって、先生のその思考と魔法は、すべてダンジョンのためにあるんだもの……


「「うぃーーー」」


 酔っ払いと、ダンジョン狂いが研究施設の玄関前で、踊りながら俺を出迎える。


 ……実は、こんなはずじゃなかったんだ。


 俺は、この「秘密組織」と「都市伝説実現計画」をなるべく秘密裏にやろうと思っていたんだよ。


 完成した暁には、ある日突然、学生が迷い込んでしまう……といったホラーテイストなイメージを持っていたんだ。


 例えば、ブルートが夜寝ていたら、いつのまにか地下ダンジョンに転移し、目が覚めたらダンジョンの中にいる、とか……


 例えば、ブルートがジェシーとメープルと一緒に散歩デートをしていたら、落とし穴に落っこちて地下ダンジョンに迷い込んだ、とか……


 例えば、ブルートが俺との決闘中に地下の貯水湖に落とされて、なんとか脱出したら今度はそこがダンジョンだった、とか……


 ……こうやって、あらゆるケースを想定していたんだよ。


 だけど、目の前の2人が俺の言ったことを拡大解釈し、なんと、授業用の設備に仕立てあげて大々的に公表してしまったのだった……!


 それじゃあ、おいそれと学園の生徒をダンジョンに拉致できないじゃん。

 やっぱり、学生を誘拐するなんて悪いことをしてはいけないって、何かの戒めなんかね……


「ん?ノーウェ君が担いでいるのは、ひょっとして『宵闇』フォルクス=ガント君じゃないかい?一体どうしたのかなーーー?」


「たしかに、フォルクス君もダンジョン適性が高そうだけどねー」


「ああ。誘拐してきた。この地下ダンジョンのダンジョンマスター役にちょうど良いと思って」


「なるほどーーー、それは名案だーーー!彼の『闇魔法』は新しく開発したマムンクルスと相性が良さそうだねーーー!」


「素晴らしいぞぉー!『殿上人』のフォルクス君がマスターなら、この『DUNGEON』の箔が付くというものだー!これならば、天然のダンジョンにも負けないぞぉー」


「だろ?大々的にやるならこれくらいやらないとな。生ぬるいダンジョンにはしない」


 俺は先輩を抱えながらそう胸を張った。


 ちなみに、抱えるといっても『フロート』で浮かしているんだけどね。


「くっ、の、ノーウェ=ホーム!これは一体なんのつもりだっ!?」


 先輩が目を覚ました。


 寝ていたわけじゃないけど……


 『マインドチェーン』で動けなくしてから『マジックパフ-ボイスバッグ(融合)』でその身を包んでいたんだよ。


 『ボイスバッグ』は発動者の周囲の「音」を含めた『風』をすべて消してしまう魔法だけど、こうやって『マジックパフ』に包み込めば、その範囲を限定的にできるんだ。


 誘拐、拉致監禁には持ってこいの魔法ってやつだな……!


 ようやく、その効果が切れたところだ。


「だから、先輩にはこれから『地下ダンジョン』のダンジョンマスターになってもらうんですよ」


「はあっ?ダンジョンマスターっ!?そ、それはなかなか魅力的なオファーだな……」


 意外と前向きなフォルクス先輩。


 こういうノリのよさがいいんだよな、この人。


 周囲からは「陰キャ」だと思われているみたいだけど、どっちかというと「陽キャ」なんじゃねーかと思う……


「うっくっく、もしダンジョンマスターになれば愛しのマリーをダンジョンにおびき寄せて……」


 ……前言撤回!


 相変わらずヤベェ人だ。


「くれぐれも合法的に生きてくださいね、先輩!」


「き、君にだけは言われたくないっ!」


「えっ?」


 なんの話だ?


 俺は誰かを無理矢理ダンジョンに引きずり込んだりはしないぞ?


 ちょっとブルートでシミュレーションをしていただけだ……!


「そ、それに……じ、実に魅力的なオファーであるが、俺はもう他の派閥の勧誘を受けて加入してしまったから、だ、駄目なのだ……む、無念ではあるが」


「えっ、なんで駄目なんですか?」


「えっ?だって派閥加入の勧誘なのだろう?」


「違いますよ」


 ……どうやら、行き違いがあったようだ。


 先輩みたいな危ない人間を【紫雲】に勧誘するわけないじゃないですか……


 百歩譲って「傘下」ならばまだしも……

 いや、それも御免被るな。


「これは、派閥の垣根を越えた『ゼミ』扱いになるから大丈夫ですよ?」


「ぜ、ゼミ……!?」


「ええ、あくまでも授業や学内講習の一環です」


 ダメ教授とトルナ先生の暴走により、この「DUNGEON」は学園の新授業である「OB・OG講習ゼミ」の一部に組み入れられてしまったんだ。


 その運営自体が……ね!


 ダンジョンを体験して、訓練に使う用途の方は、この先、学生公開、ひいては一般公開していく予定なのだが、その運営は研究者であるこの2人や「OB・OG」の監督のもと学生たちが日々調整をしていくことになる。


 それが……「ダンジョン経営講習ゼミ」だ!


 その「ゼミ」の部長にフォルクス先輩を抜擢したというわけだな。


 ……えっ、俺?


 やらないよ。

 面倒臭いもの。


 俺はあくまでも「プロデューサー」であり、リバーとともに「監修役」を担う人間だからね。


 兼務はできないのだっ!


「お、俺が『ダンジョンマスター』にして『ゼミ長』……うっくっく!」


 ……お!


 だいぶ乗り気のようだ。


 よかった、よかった!


 先輩がどこの派閥に入ったのか知らんけど、これで一件落着……!


 でも……

 あれ?


 フォルクス先輩って自前の派閥持っていなかったけ!?


「うっくっく!分かった、ならば協力しようじゃないか、ノーウェ=ホーム!これよりこの『宵闇』フォルクス=ガント、『ダンジョンマスター』兼『ゼミ長』として君や先生方の期待に応えるとしよう!」


「おーーー、やったーーー!おめでとうーーー!」


「めでたいなあっ!」


「よろしくお願いしますよ、先輩」


 俺は『フロート』で浮かして抱えたままの先輩とガッチリ握手をした。


 ……交渉成立!


◇ブラックスクエア「地下室」◇


 ……ということで、晴れて『宵闇』フォルクス=ガント先輩が「DUNGEON」のダンジョンマスターに就任してくれたので、彼をこの建物の地下室に案内し、秘密の地下組織招き入れることにする。


 カツカツカツ……


 地下に向かう金属製の階段を降りる俺たち。


 ダメ教授とトルナ先生も一緒だ。

 ちなみに、フォルクス先輩は宙に浮いたまま。


「ひ、秘密の地下組織?そ、それはまた香ばしくてそそるな」


 ……と、このように非常に前向きなので、拉致した甲斐があるってもんだ。


「これから案内する地下秘密組織は絶対非公開の裏組織なのでくれぐれも口外無用ですよ?」


「わ、分かった!このフォルクス、必ず約束は守ろう!」


「よかったです。では、秘密組織のボスが待っていますので」


「う、うむ……!」


 ギイィーーーーーー……


 俺は重々しい鋼鉄の扉を開いた……!


「がははっ、秘密裏地下組織『ブラックスクエア団』にようこそ!」


 地下に用意された会議室の中央に座る黒いフード付きローブを羽織る男……


 「DUNGEON」ゼミの後見人(OB)、『水興』サンバ=オンドレアが新任のダンジョンマスターを盛大に出迎えた……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


(前回に出した問題)

フォルクス先輩はこれからたった1話で大出世を果たしますが、何になるでしょーか?(笑)


答え:ダンジョンマスター&ゼミ長でしたー(笑)


次回、ダンジョンゼミ会議始動……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ