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8-9『信の勇者は試される~その2~』

 信あれば徳あり……


 組織というものは、「長」に対する信頼によって固まり、「長」の振る舞い1つ見ればその組織の在り方や結束力が分かるというものだ。


 私、『信の勇者』チズ=アーズマは、なかなかにひどい派閥の「長」の振る舞いというものを目にしている。


 希望者を集めて自身との決闘の「トライアウト」を行なう場をわざわざ派閥のメンバーたちが整えてくれているというのに、1人で癇癪を起こしているのだ。


「だから~、アルテさんとの姉弟喧嘩きょうだいげんかは学園の外でやっててば!今は、派閥の一大事なんだよっ」


「誰が姉弟きょうだいだっ!」


 金髪の女子学生に再三嗜められている「紫の悪魔」。


 ……それよりも、さっきから気になる言葉が飛び交っている。


 アルテさん……


 ひょっとして、私が尊敬してやまない『聖女』アルテ様のことを話しているのだろうか?


 そうだとすると、『聖女』アルテ様を悪しざまに罵っているノーウェ=ホームは論外としても、「さん」付けしている女性幹部のメンバーたちもちょっと慣れ慣れしいのではないかって思ってしまう。


 それとも、彼女たちにも、『聖女』様との特別なつながりがあるのだろうか……?


「わあった、わあった。じゃあ、俺は復讐方法を考えるのに忙しいからさっさと済ませよう」


「の、ノーウェ先輩!」


「ん、どした?」


 急に、私の隣に立っていた茶色いローブを着た魔導師がずずっと「紫の悪魔」方に寄ると何を思ったのか、いきなり頭を下げていた。


 悪魔に頭を下げるとは……


 ……頭がおかしいのか?

 ……それとも、借金でもしているのだろうか?

 負けがこんでいるみたいだし。


「お、俺!ノーウェ先輩を尊敬していて……あっ、俺、ジャンって言います」


「ああっ、ズルいぞ!ジャン、お前!?」


 なんか急に自己紹介を始めていた。

 他の者も何人かが前に出ている。


 悪魔を尊敬……って、一体なんの冗談だ?


 だから、30敗もしているのだろうか?


 せっかく「大物」に出会えたと思っていたのに……


 もし、その敗北がわざとだったとしたら私がその根性を叩きなおしてやろう。


「あ、そう……」


 目を輝かせる後輩に対して、まったくつれない様子の悪魔。


 やはり悪魔だな。


 人の言葉に心が動かされることなどないのだろう。


「俺、ノーウェ先輩みたいな魔導師になりたくて、それで先輩の真似をして―――」


「真似なんてしない方がいいぞ?」


「「「「「えっ?」」」」」


 きょとんとする茶色のローブを着た魔導師と数歩前に出た男子学生たち……


 そりゃ、悪魔の真似なんてしない方がいい……


 ……というより、絶対にするべきではない。


「で、でも……先輩、先日の決闘で『人真似結構、猿真似結構』って……」


「ああ、それか……この『トライアウト』のヒントになってしまうけれど、この際だから、教えてやる。俺が『真似』を結構と言っているのは、誰かの真似ってことじゃない」


「「「「「えっ?」」」」」


 ……ちょっと何言っているのか分からないな。

 今、「人真似結構」って自分で言ったばかりじゃないか。

 それとも、結構なのは「猿真似」だけってことか?


 まあ、悪魔の真似はしない方がいい……あくまでも!


「俺が真似をしろって言ったのは、人の『魔法』を真似しろってことだ。真似して奪え、そして改善しろ!」


「「「「「えっ?」」」」」


 固まる男子学生たち。


 無茶苦茶なことをいう悪魔だな、やはり……


 恥も外聞もないやつだ。


 人が努力して磨いた魔法を真似して奪うなんて悪魔ならではの発想だ。


「魔導師として持って生まれたものも目指しているものも違うのにいくら真似したってしょうがないだろ?だから真似して学ぶならあくまでもその人の持つ『魔法』だけで十分だろ」


「えっ、でも……」


「スタイルぐらいだったら最初は真似してもいいかもしれんけど」


 戸惑う男子学生たち。


 そもそも「紫の悪魔」の用いる魔法って、その大半は魔物から得た魔法だったはず……

 ……「じゃあ、真似できないじゃん」って心の中で呟いたのは、きっと私だけではないはず……


「で、でも、そ、それって失礼なんじゃ?」


「なんで?」


「だってその人が頑張って見出した魔法だけを真似して奪うなんてことしたら―――」


 茶色ローブが恐る恐る質問をした。

 うむ、そのとおりだな!

 まあ、私なら、真似されたら『聖剣』で叩き切るけど!


「―――自分の魔法の可能性が広がるし、真似された相手もさらに改良できるじゃん?」


「「「「「えっ?」」」」」


「真似されるってことはその魔法は汎用性の高い、良い魔法ってことだろ?だったらみんなで真似すべきじゃん。逆に、人に真似される程度の魔法を『伝家の宝刀』みたいに思っているなら、そんな魔導師はまだまだ器が小さいってことだぞ?」


 ……皆、押し黙って考え始めた。


 たしかに……


 一理ある……のだろうか。


「器が大きく、向上心の強い魔導師なら、真似されたら却って喜ぶと思うけどな。自分に『魔導師』としてまだ伸びしろがあるわけだから」


 ……むむむっ。


 この男……魔法については、たしかに正論を言っている気がする。

 悪魔のくせに……


「か、可能性……」


「例えばだ……おーい、ポンコツ!『見よう見まね氷水龍』~」


 シュルルガーーーーピキピキ……!!


 「紫の悪魔」は何を思ったのか、いきなり後ろに控える味方メンバーに対して、龍の形をした『氷』と『水』の合わさった魔法を放った。


「あっ、おいコラ、ノーウェ!俺の『氷水龍』をパクるんじゃねえっ!!あと、メープルが驚くだろうがっ!!メープル、下がっていろ」


「メェー」


 シュルルルルルガァーーーーー……シュー……ピキピキピキ!


 『紫魔導師』が放った『氷水龍』を、何倍も大きな『氷水龍』によって消し去る、水色のローブを着た青髪の男子学生。


 青髪の魔導師が放つ魔法のあまりの威力に、周囲がざわついている。


 ……あと、その青髪の学生がこの学園内で普通に魔物を飼っていることに誰もツッコまないのだろうか?


 「悪魔の派閥」のメンバーだから、「魔物使い」ぐらいいてもおかしくはないのだろうか?


 そして、こちら側をそっちのけで魔法バトルを始める「紫の悪魔」と「青の魔物使い」……


「くぅーーー、さすが本物は違うや!ノーウェ先輩……それにブルート先輩!」


「ほんと!ちゃまとは大違い」


「だね〜」


 周囲の人間は……さっきまで話題の中心にいたはずの茶色のローブの男子学生たちまでもが、急に始まった戦いを見て興奮の色を隠せていない。


 ……「トライアウト」はどうなったのだ?


 あと、誰もツッコまないが、魔法を真似された「青の魔物使い」はひどく怒っているのだが、あれは「器が小さい」という解釈でいいのだろうか……


「『マジックパフ-シェル(融合)』……お前、安易に大技撃ちすぎだぞ?」


 ボヨヨ〜ン……


「ぐっ……『山羊六蒼やぎむそう』」


 ……なんと!

 「紫の悪魔」が「青の魔物使い」の魔法を跳ね返した!


 ……それを、「青の魔物使い」が今度は6体の『青い山羊』による一斉突撃で相殺した!


「お前、そろそろ『ヤギ魔導師』に『称号』を変えたらどうだ?」


「ヤギを馬鹿にするヤツは許さんっ!」


「馬鹿にしたのはヤギじゃなくてお前だ、ポンコツ魔導師!」


「ポンコツを馬鹿にするヤツは許さんっ!」


 目にも止まらぬ速さの魔法の乱打戦が始まった……


 ……なんだ、これは!?


 終末の序章かっ……!?


「『黒武石-山羊(クロヤギ)』、『白武石-山羊(シロヤギ)』」


「あっ、お前!この期に及んで……」


 ……あと、『紫魔導師』はやはり恐ろしく性格が悪い。

 今も、わざわざ『魔山羊ハチェットゴート』の形をした『石魔法』を放って相手を挑発し続けている。


「あー、もう!やっと帰って来たと思ったらこれだものっ!ハリー君、カーティス君、そこのアホ2人をなんとかしてっ。あとリバーは的を守って。せっかく私たちが一晩かけて用意したんだから」


「カーティス、やっちゃいなさい」


「まったく、世話の焼けるリーダーと大将だぜ……『火剣』、『土槍』」


「やれやれ……『大氷壁』」


「はいはい……『釜蔵漠布かまくらばくふ』」


 むむむっ……!


 ……すごいっ!


 赤い帽子を被った魔導師が、瞬時に2人の間、「青の魔物使い」の正面に入り込み、『氷水山羊』を『火の剣』と『土の槍』で消し去る。


 私たち『勇者』にも通じる騎士道的な身のこなしと魔導師をミックスしたような戦い方だ。


 一方の「紫の悪魔」の『白黒石山羊』に対しては、黒いロングコートタイプのローブを着た黒髪の魔導師が大きな『氷壁』を作り、その攻撃を防いだ。


 大技をこともなげに発動し、息を乱している様子もない。

 こちらは生粋の魔導師といった具合だ。


 ヒューン、ヒューン、ヒューーーーーーン……ピキピキピキ!!

 ヒューン、ヒューン、ヒューーーーーーン……ピキピキピキ!!


 『石山羊』が叩き割った『氷塊』が方々に散っていく。


 ボンッ……ピキピキ……シューーーーーー……!!


 私たちが「トライアウト」で使う予定の「的」の方にもいくつか『氷塊』が向かったが、魔導師らしからぬ綺麗な身なりをしている執事のようなスタイルの男が拵えた『土のカバー』がすべて防いだ。


 間隔を空けて設置された「的」の1つ1つに丁寧にカバーをするその早業に舌を巻く。


 改めて……すごいの一言だ。


 口惜しいが、さすがは現学園最強と目される派閥の魔導師たちだ。


 だが、相手に不足はなし……!


 「トライアウト」を勝ち抜いた暁には、私も祖国から付いてきてもらった『勇者』のパーティを呼び寄せるとしよう。


 ……ところで、「トライアウト」はまだか?


「ハリー、邪魔すんじゃねえよ。お前の相手ならまたここで早朝にしてやるからさ……何戦何勝だったかな?」


「はっ、安い挑発だな、リーダー。だが、乗ってやる。今日があんたが初めて俺に敗北する日だ」


「カーティスも『氷』はまだまだだなあ……俺の『氷水』には勝てんぞ、ふはははは」


「俺は属性5つ自在に使えるけどな……」


「むっ、それは俺に対する挑戦状と受け取った!良い度胸だな」


 ……なんか、新たな争いが勃発しているし。


 互いに間に入って対峙した相手でもないのに……


 1対1だった争いが4人のバトルロイヤルになってしまった……


「あ~、アンデットバスターがアンデットに……」


「カーティスのバカッ!何やっているのよ」


 ……

 …………

 ………………


 ここから十数分、私たちは無法者たちの無法地帯による無法な争いを眺めることになった。



 ……長かった。


 ようやく、やって来た「的当て」の時間。


 ひょっとして、私たちの「忍耐力」でも試す狙いがあったのだろうか、と邪推してしまうほどには待たされた。


「はい、つぎー!『信の勇者』チズ=アーズマちゃん」


 ようやく私の番だ。


 私は、発動位置として引かれた線の上に立った。


 線は、芝生の上に『盛り土』がされている。


 そして、なぜか脇には『魔山羊』が座って私を見ている。


 草を食べながら……


 ……なぜ?


「いやー、『勇者』がうちの『トライアウト』に参加してくれるなんて鼻が高いよ~」


「なに、早く勝ち抜いてノーウェ=ホームに決闘を申し込むんだ、私は」


「ふーん、派閥内決闘って意味ね。その意気、その意気」


「おう……うん?」


 なんか、引っ掛かる言い方だったが、まあ良い。


 意識を集中しよう。


「ところで、『勇者』の得意な魔法ってどの属性なんだ?」


「ふん、『勇者』はオールラウンダーだ。使える魔法に得意も不得意もないぞ」


 私は、金髪の案内役とは別の方向から聞こえてきた質問に即答した。


 ……うん?

 その声は……?


「へえ、そりゃ、すごいね。じゃあ、あんたは特別ルールだな」


「えっ……なっ!む、『紫魔導師』……!」


 声を掛けてきたのは「紫の悪魔」だった。


「じゃあ、『勇者』のあんたは、初日は最も威力の小さい形で、あの的に魔法を当ててくれ……攻撃魔法として使えるすべての魔法ね」


「なっ、なあ!?」


「あっ、それだと簡単すぎるから、最も威力の小さい形で最も速くした形と最も遅くした形の2種類でよろしく」


「なっ、なっ……!?」


 ……私は、「トライアウト」の場でいきなり悪魔による妨害工作を受けた!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


学園戻ってやりたい放題のようですね(^▽^;)

『勇者』は「紫の悪魔」からの嫌がらせを切り抜けられるのか……?


次回、結果発表~!!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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