8-8『信の勇者は試される~その1~』
信じる者は救われる……
この私、『信の勇者』チズ=アーズマの「座右の銘」だ。
かつて、私の実家のある領で流行病が蔓延し、領民も、私自身も命の危機に陥ったときに教わった言葉だ。
人によっては、この言葉をひどく「他力本願」のようなもののように受け止める人がいる。
神に祈ったところでなんのご利益もありゃしない……
いざっていうときに、祈っているだけでは何も変わらない……と。
だが、それは違う。
逆なんだ……
それは、万策尽きて何者にも頼れなくなってしまったときに、最後にすがるものなんだ。
そして、実際に信じたことで救われたとき、目に見えない、偉大な存在に感謝することになり、以来、日々の感謝をしていくことになる。
私もそうであった……
あるとき、流行病が蔓延し、民家の戸は閉まり、街から人が消えてしまった。
領主であった父は、元々、領民とは距離を置くタイプの為政者であり、そのときは街を封鎖し、他領との交流を一時的に絶った。
同時に、領主宅への訪問客も禁止し、病の拡大を防ごうとした。
自分たち貴族家に被害が及ばないように……という気持ちも多分にあったであろう。
結果、封じ込め策が悪い方に向かい、家の中でも遅れて流行病が侵入してしまった。
兄、母、姉、私と次々に体調不良で倒れていく。
家中が危機に陥ってなりふりかまっていられなくなった父は、他領を駆けずり回り、薬や回復師を求めた。
しかし、十分な量を確保できず、果てには父自身の体もその流行病に冒され、屋敷に住む家族皆倒れ、幼い頃の私もベッドの上で死を待つばかりになった……
……そこに、やって来たのだ。
神の使いであるその女性は……
その『聖魔法』によって、私や私の家族、そして領内の領民の1人1人に至るまで、その体内に宿った病を『浄化』してくれ、命を救ってくれた。
病床に臥せていた私に、大きな遮光眼鏡を掛け、怪しげなマスクを装着していた輝く聖衣を着た『聖女』様は、衰弱し、これ以上の「生」を諦めかけていた私にこう言った……
――もう何もできないっていうなら、せめて信じな。強く信じる心を持つやつしか救われないもんだよ――
その言葉を聞いて、呼吸を荒くしていた私は、最後の力をふり絞るつもりで必死に願った……
もっと生きたい……と!
私が今、こうして元気でいられるのは、あのとき『聖女』様がかけて下さった御言葉のおかげだ。
そればかりではない。
私たち家族や領民を救って下さったお礼に家の財産をお布施という形で支払おうと領主である父が申し出たときに、崇高なる『聖女』アルテ様はこう仰ったのだ……
――馬鹿言うんじゃないよ。そんなお布施をしたってあんたらになんのご利益が在るっていうのさ?そんな無駄金を使うぐらいなら、まずは、同じことがもう1度起こったとしても、次は自分たちで解決できるように今からその『金』を使うんだよ――
こうも仰った……
――金を払って救ってもらおうなんて考えが甘いんだよ。領主であるなら、まずは領民を救うために金を使い、2度とこんな不幸が起こらないように豊かになる方法を考えな。祈るのはその後だよ。領民に対しても同じだ。ただ祈らせるなんて馬鹿みたいな真似だけはさせるな。あんたにそれができないってなら、私ら『聖教会』がいつでも取って代わっちまうよ――
……なんと高潔な御人だろうと、私は思った。
人のために金を使え……
人の幸せのために頭を使って金を増やせ……
それを回し豊かになった人を見て喜べ……
それが為政者の責任だ。
これまで、「聖教会」との関係は、互いに箔を付け合うことと、領主にとって、領民の心を繋ぎ止めるための代行業という認識だった。
父は、それ以来、人が変わったように街に出るようになった。
領民のことを知らずして貴族として領地経営などできるわけがない。
生き馬の目を抜くような商人たちからは、積極的に他領、他国の情報を仕入れた。
以前よりも、倍も忙しそうな父であったが、それでいて何倍も嬉しそうに笑う時間が増えた。
私も変わった……
朝早く起きて、必ず礼拝に向かい、神に祈る……
この命を生かしてくれたお礼と、人の幸せを祈りとして捧げ、そのために奉仕して生きることを誓う。
信じる者は救われる……
こうして、13歳になった春……
私は『天啓』を受けることになった。
『信の勇者』……
その特別な称号を授かったときに強く思った。
これは……「天命」だ、と。
あのときの『聖女』様のように、『信』じるものを救う『勇者』になってみせる!
この「天命」を受けたからには、研鑽を積み、精進を重ね、この「聖剣」と『聖魔法』の腕を磨き上げる。
そして、人々を恐怖に陥れる「魔物」や、民衆を苦しめる「悪」をすべて駆逐してみせる……!
そう意気込んで、私は隣国である「ウィルヘルム帝国」の「プラハ魔法学園」へとやって来た。
『聖女』様のお膝元であるこの帝都で、私は実力を付けて悪い奴を片っ端から倒していくんだ……!
◇
――今、この学園は、『紫の悪魔』なる者が牛耳っていると聞きます。私は『勇者』として、必ずその『悪魔』を討ち滅ぼして見せますっ!――
私は宣言した。
新入生として歴代最高クラスの50戦50勝という実績を引っ提げて……!
標的は、1つ年上の『紫魔導師』という奇異な『称号』を持つ男。
昨年、学園で旋風を巻き起こした魔導師と評判だが、「あぷる」なる媒体の情報によれば、熱烈な応援者がいる一方で、その戦い方を嫌悪する者も多い。
何やら、魔物から得た魔法を駆使して、人を小馬鹿にするような戦い方に興じたり、相手を嘲笑ったりすることも多く、まったくもってフェアでない、卑怯な手を尽くしてやりたい放題らしい。
新入生時の成績など、私の決闘数には及ぶべくもない回数しか行なっていないのにもかかわらず、記録上では私よりも多くのポイントを稼いでいる。
これだけでも、この男が卑怯な魔導師なのだということがよく分かる。
しかも、あの『聖女』様のことを公然と罵ったという話も聞く。
何やら、『聖女』様が巡礼をしていた際に知り合った仲だと聞くが……
……許せない!
やはり、これは「天命」だろう。
きっと、「天」から、「信の勇者」たるもの、悪魔の1人ぐらい打ち果たしてみよ……というお達しを私は受けたのだ。
かくして、私は「決闘」の場に向かった。
居室での礼拝を終え、学園名物である「ヤキソバまん」とやらを腹八分目に5個ほど朝食代わりに食べたあと、「紫の悪魔」が支配する派閥の女性幹部より指示された待ち合わせ場所である「噴水前芝生広場」の石畳の闘技台の上で目を閉じて静かにその時を待つ。
春の風は、芝生の匂いに、どこからか運んできた花の香りを添えてくれるから心地良い。
近くに流れる噴水のせせらぎも、じっと目を閉じて聞いているだけで心が落ち着く……
「うひょー、ここで『トライアウト』が受けれるなんて、感激だぜ!!」
「何、いきなり興奮してんのよ、このアホちゃま」
「だって、ここはあのノーウェ先輩が侯爵令息をボッコボコのギッタンギッタンにした場所だぜ?『ノーウェ=ホームの決闘史上、最も凄惨で容赦ない殺戮(※注:一部誇張表現が含まれています)が行なわれた決闘舞台』だ!」
……絶妙に五月蠅い。
隣で、茶髪の男子学生がラベンダー色の珍しい髪色をした女子学生相手に何やら1人で熱弁して盛り上がっている。
彼らもノーウェ=ホームへの挑戦権を得るための「トライアウト」とやらに参加するのだろうか。
「俺も、今日は『風魔法』でギッタンギッタンにしてやるぜ」
「的相手なのに、何言ってんだか……」
朝っぱらから騒々しい男だな、と思ったが、その男子学生と女子学生の会話の内容には聞き捨てならないものがあった……
「紫の悪魔」がかつてこの地で貴族の令息を切り刻んだらしい。
しかも、王国と帝国の違いはあるが、私と同じ侯爵家の令息を容赦なく仕留めたという……
やはり噂通りの「悪魔」なのか、『紫魔導師』は……!
私は、一段と気を引き締めた。
「ん?お前、もしかして『勇者』か?」
「ああ、そうだが。私はチズ=アーズマ。『信の勇者』だ」
「へっ、50戦50勝したくらいで頂点に立った気でいる勘違い野郎だな。上には上がいることをこの『トライアウト』で教えてやるぜ!」
「私は見てのとおり『野郎』ではないが……そういう君は、一体どれほどの成績だったんだ?」
茶色いローブを羽織った茶髪の魔導師……
……どうやら決闘で相まみえた記憶はない。
「聞いて驚くなよ、30戦30敗だ!なめんじゃねーぞ!?」
「はい?」
「何、恥ずかしいことを堂々と偉そうに言ってんのよ、アホっちゃま!」
パシーーーーーン!!
「な、何すんだよ!」
茶色髪の魔導師は、先ほどまで口論をしていた女子学生に頭をスパコーンとはたかれていた。
……なんていうか、大物ではある気がする。
私なら、30敗もして、あんなに明るく振る舞えないだろう……
こういうへこたれない精神性は見習わなくてはならないかもしれない。
なんか、調子狂うが……
ざわざわざわざわ……
「あ、来たわよ」
「の、ノーウェ先輩もいるっ!?」
周囲がざわつき出す。
石畳の上で待つ私を含めた「トライアウト」を受ける者以外にも、芝生広場の周りを大勢の学生たちが集まり始めた。
……さすがはノーウェ=ホーム。
彼との決闘の挑戦権を賭けた「トライアウト」とやらでさえも、注目を集めてしまうのか。
さすがは、悪のカリスマ……といったところか。
私にとって標的の男は、大きさの違った練習用の的のようなものを運ぶ集団の中におり、私たちの待つ噴水側とは反対側に向かい合うように並んだ。
厚手の禍々しい紫のローブを纏い、紫髪を風になびかせている。
眉間にしわを寄せ、その口を「へ」の字に結び、見ただけで人相と機嫌の悪そうな顔をしている。
「ほらっ、ノーウェ君。新入生のみんなも大勢集まってるよ?そろそろアルテさんのことは一旦脇に置いて、『トライアウト』に集中しよ?」
私をこの「トライアウト」に案内してくれた金色髪の快活な女子学生が「紫の悪魔」を何やら嗜めている。
アルテ……さん?
「くっそーーーー、あの生臭の銭ゲバがぁーーー!!ぜってぇ復讐してやる!!」
初めて対面した「紫の悪魔」は……
何やら悔しそうに絶叫していた……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
戻ってきて早々、何やら荒れておりますねえ(^▽^;)
次回、「1次試験」本番……!
『勇者』や『ちゃま』は通過できるのか……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




