6-95『ノーウェ=ホームのスローライフ』
これは、ノーウェ=ホームがプラハ魔法学園に入学する以前の話……
幼い頃から続けていた「魔境」探索の話である……
◇「魔境内」南西「ママバウムの森」付近◇
ママバウムだらけの「魔境」の中に〜、ドラゴンがいたら〜、天ぷら仕込みたいね〜……
俺ことノーウェ=ホームは今、「魔境」を探索中なのだ。
6歳の頃より始めたこの「魔境」探索。
今では、何日だって続けられる。
「魔境」と共に生きる……
いわゆる「スローライフ」ってやつだな。
最近、冒険者の間で流行っているんだってよ。
村にあるギルドのダメダメ受付職員メーダが言っていた。
時間に縛られず、気ままに生活することを指すらしい。
だからってギルドの受付を15時前に閉めるのはどうかと思うけどな。
腹いせという名の仕返しに、この「魔境」探索の戦利品を戻る日の朝に持ち込んで仕事に没頭させてやるとしよう。
しかし、スローライフというのはなんとも心地良い響きだ。
是非とも、俺もこの「魔境」探索にそのエッセンスを取り入れるとしよう。
「おっと、『ハイファイア−ニードルラッシュ』」
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ……
……まったく、目を離すとこれだよ。
『イエローサージェント』が木陰から何匹も襲ってきた。
前方よし、左右よし、後ろよし……!
とりあえずざっと20匹は仕留めたな。
どうせママバウムの栄養になってしまうだろうから3本くらい持って行こうか。
お前も、あまり根を生やし過ぎて魔境の他の場所まで侵食し出したら「間引く」からな?
覚悟しておけよ?
こないだ「遠征」して仕入れた魔法をたくさん試したいんだからねっ!
あと、枝を1本拝借していく。
あとで道具に使うんだ。
「魔境」の生態系ってのは本当に厄介。
目を離すとすぐに増えるから、頻繁に間引かないといけない。
やることが多いんよ……
さて、さっさと行くか。
早くしないと日が暮れる。
蛇の魔物じゃ〜、玉乗り仕込めないね〜♪
足がないから〜……
……おっと、今度は空からかよ。
ありゃ、『ダーツイーグル』だね。
大群だ。
狙った敵に対して頭の先に付いた鋭利な角を飛ばしてくる結構危険な魔物。
「『ハイアイス−エアサイス』」
ブーーーーーーーン……ピキピキピキピキ!!
……とりあえず凍れ!
鳥肉ゲットだぜ!
きっと近くに卵の巣があるな……
採りに行かなきゃ!
ああ、忙しい。
スローライフ♪
スローライフ♪
楽しい「魔境」のスローライフ♪
◇さらに南西「川沿い」◇
さて、河辺にやってきたぜ。
この川を下れば薄汚れた「聖国」に向かい、上れば、前人未踏の「マーロック遺跡」へと辿り着く由緒正しい川だ。
名前は知らない。
たぶん、ここに来れる人間自体少ないし。
とりあえず、俺は何十回と来ているけど、いまだに誰1人として遭遇したことないから。
そんな場所でのんびりと過ごしてこそのスローライフ……!
ドドドドドドドド!
ん?
……なんだ、「ダークフォレストボア」か。
ここ、森じゃないぞ?
「『デッドバインド』」
せっかくわざわざお越しいただいたんで、脂を使わせていただきますよ。
身肉は……食い切れないけど、あとで燻製を作るか。
ああ、やることが多い。
このままじゃ日が暮れてしまう。
その前にタスクをこなさなくては……!
スローライフといえば、「釣り」!
「釣り」なくしてスローライフを語るなってんだ。
釣り糸を垂らし、日々の喧騒から離れ、ゆったりとした時間を過ごし、マインドセットする……
これ、即ちスローライフの極意なり……
……って冒険者ギルドにあった本に書いてあったよ。
……
…………
………………
……うーん、全然掛からない。
イエローサージェントの餌が悪いのかな?
ミミズ系がいいっていうからコレにしたのに、やっぱりミミズと蛇は違うのか?
ブーン、ブーン、ブーン……
うるさいな、もう!
「『ハイファイア–スプラッシュマジック』」
ボボボボボボボボボボ……ボボボボボボボボボボアーー!
皇帝蜂は森に帰れ!
お前はユスリカ?
それともタカリか?
グオーーン……!
ああ、もう。
騒がしいな……!
皇帝蜂が来たら、当然お前が来るよな?
わかっているよ。
「『オニヒトデ』」
ドバンッ!!
グワォーーーーン!
騒がしいんだよっ、アホグマ!
この沢は俺の縄張りだ。
魚が逃げるだろうがっ!
……ふうっ。
気を取り直して、釣りに集中しよう。
……
…………
………………
……うーん、釣れない。
せっかくわざわざ川に降りたっていうのに、成果がまったくないっていうのも嫌なもんだね。
……ん?
待てよ。
よく考えたら、何も釣り上げる必要はないんだよな?
中に飛び込んでしまえばいいんじゃないか?
……そんなことを考えている最中に、イエローサージェントを付けた竿に大きな反応があったぞ!
やった!
これぞ、ハッピースローライフ♪
……ぐおぉっ!
重い……!
竿が思いっきりしなるほどの強烈なアタリ。
よく考えたら、体長2メートル近くあるイエローサージェントを餌にする魚なんだから、大物なのは道理……!
原材料がママバウムの枝なもんで、竿が折れることはないだろうけど、このままだと俺の腕が折れかねない。
覚悟を決めるか……
「『マイティハート』」
中に何がいるか分からないからな。
何がいてもいいように心の準備をする。
『マイティハート』は、魔力を使って強烈な自己暗示を掛ける魔法。
心頭滅却すれば火もまた涼し……を体現するような魔法で、魔力のガードと感覚の鈍化によってあらゆる魔法耐性や属性耐性が一時的に上昇する。
魔力の『纏い』は魔導師の基礎だから、それだけでも大抵の敵はなんとかなるんだが、ここは一応「魔境」だからな……
警戒するに越したことはない。
「『アクアヴィータ』」
んで、水の中でも5分間呼吸できる魔法を掛けて、竿ごと……
ザブンッ……!
……
…………
………………
……うおっ!?
いきなりいたよ。
魚が……
……魚か?
イエローサージェントを丸呑みにしている黒く細長い魔物。
こいつは、ここのヌシだな。
そして、水面を眺めただけじゃ全然分からなかったが、この川、意外と深い。
うおおっ!
そんなに引っ張らないでくれるかい?
「『ハイストーン–ニードルラッシュ』」
ドバババババババババババヒュンッ……!
ブスッ、ブスッ……
うーん、効果は今ひとつのようだ。
相当硬いぞ、あの皮は。
でも、おかげでこっちを向いてくれ―――
バリバリバリバリッ!
うおおぉっ……!!
危なっ……!
『雷魔法』持ちかよっ!?
そうならそうって最初に言ってくれ。
『マイティハート』を掛けておいてよかったよ。
じゃなきゃ、きっと今頃、心が砕けていた。
……物理的に!
これだから、「魔境」ってやつは油断ならない。
こんなバケモンがゴロゴロ、うようよしているんだから。
とりあえず、長くは持たないし、そう何発も喰らっちゃいらんないから、さっさと決めさせもらうぞ。
「『ハイウインド-エアサイス』」
ブーーーーーーーーーーン……ズバッシュ……カーーーーーーン!!
……マジかよ。
『エアサイス』でも刈り取れない首って……Aランク以上確定じゃんか。
そんなに固い皮だと釣りあげても食べられないよ。
さて、困ったな……
どう倒そう……。
バリバリバリバリ……!!
「『マジックボム』」
2度めはないんじゃ!
もう学ばせてもらったから要らないよ。
よし、思いついた……!
「『猪突猛進』」
フォレストボア系の魔物の専用魔法ね。
俺より魔力の少ない者であれば、この魔法の暗示に掛かって、一直線に突撃をかましてくるという技だ。
グルンッ……ギュルンッ、ギュルルルルルル……!!
さて、来なすったな。
「『グロウバウム』」
ギュイーーーーーーーーーーーーン……グサッ!!
ギュワァーーーーーーーーーー!!
水中で血飛沫が上がった。
よしっ、獲ったどーーーー!
さすがは「ママバウムの竿」。
「怪物」の木の枝だからね。
グロウバウムで勢いよく伸ばせば突き刺さるよ。
とりあえず、『フロート』で浮かして、と……
◇
ふう……
ようやく一息つけそうだ。
川の水がこのでか長い魚の魔物の血に染まって黒ずみ、おどろおどろしい色具合になった。
あの中にしばらくいたらまずかったかもしれない。
ひょっとしたら、麻痺系の毒があったかもしれないので、さっさと陸に上がって正解だった。
さて、ここからが本番。
釣った魚や獲った獲物を料理する時間だ。
ジジジジジジジジジジ……
「魔境」探索をするとき、俺の背嚢には常に底が深くてコンパクトな鍋と小麦粉が入っている。
獲れたての魔物を味わうのに最高の料理……「天ぷら」だ。
ダーツイーグルの卵と水を合わせた卵水を作り、小麦粉と軽く混ぜて衣の準備は完成。
『アイス』で冷やしておくといいんだよ。
温度差で衣がカラッと揚がるんだ。
川のヌシも、フォレストボアも、ダーツイーグルも、ついでに皇帝蜂も、イエローサージェントもみんな適当な大きさに切り刻んでいきます。
ジュジュジュジュワーーーーーーー……!!
フォレストボアの脂を水で煮詰めた即席ラードが熱せられたので具材を投入。
ジュジュジュジュ……パチパチパチパチ……
頃合いで引き上げて、油を落とし……
塩をパラパラ振って……
サクサクサク……
食す……!
……うーん、美味い!!
これが、「魔境」ならではの醍醐味ってやつだな。
ギャーーーーーーーーオーーーーー!!
グルッグーーーーーーーーーーーー!!
ちっ……人がゆっくりと食事をしているというのに。
「『ハイウインド-エアサイス』、『れんぞくま』」
「『マジックボム』、『エアマッシャー』」
グギャーーーーーーーーーー……
グギョギョギョエーーーーーー……
「魔境」のスローライフは大変だ。
◇数時間後◇
シャッシャッシャッシャ……
ちょっと寝たら、妙な音とぼんやりした灯りで目が覚めた。
何だろうと思って、その灯りに近付いてみると……
シャッシャッシャッシャ……
なんか、ぼんやりと光る人(?)が、川辺にキャンパスを置いて絵を描いていた。
「やあ」
「あ、どうも……」
「魔境」で初めて人らしき者に会うので、ちょっと戸惑ってしまう。
……ってこんな時間に絵!?
ははーん……
さてはスローライフの達人だな?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
「魔境でスローライフ」……
「雪山で海水浴」ぐらい不思議な響きですね……(^_^;)
次回、後編。
光る人の正体は……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




