表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

442/535

6-96『近しい存在』

 俺に「師」はいない……


 魔導師として、お手本になる人が村にはいないし、馬鹿力の養母も、性格最悪銭ゲバシスターも、「魔境」での過ごし方についてはまったく参考にならない。


 何なら、俺の方がよっぽど「魔境」での生活力があると思っている。

 一緒に見回りするときも、大体、料理当番とか俺だったし……


 強いて言えば、魔物1体1体が俺の「師」と呼ぶべき存在かもな。


 俺の魔法は、あいつらとの戦闘の経験によって培ったものだから、一期一会じゃないけど、出会う度に学びがあるよ。


 そんな俺が、齢14にして、初めて「師」と呼べる人に出会えた。


 何の「師」?


 うーん……きっと、「スローライフの師」だな!


 絵を描く趣味は今のところないので……


「こんな辺鄙な所で一体何を描いているんです?」


 しかも、この真夜中に……という言葉は胸の中に押しとどめておいた。

 会ったばかりの人とは距離感を測るのが難しいね。


 ……そもそも「人」かどうかも微妙な、奇妙な発光体の御方なんですけど。


 なんていうか、「人」としてのビジュアルはあるんだ、たしかに。


 ぼんやりとだけど見える。


 でも、実体はない……そんな感じ。


「ありのままを描いているのさ」


「ありのまま?」


「うん、同じ場所を定期的に、時間を置いて描くことで、時の移ろいというものが分かるんだよ」


 ……うーむ、深い!


 ちょっと何言っているのかよく分からないけど、なんとなくそれは「スローライフの極意」と呼ぶべきものなのかもしれない。

 うん、きっとそうだ……!


「君、名前は?」


 筆を持つ「発光体の人」が俺に名を聞いてきた。


「ノーウェ=ホームと言います。こっから10キロくらい離れた『マノ村』って所に住んでいます」


 初対面の人に所在地を教えてもいいものか迷ったけど、なんとなく信用できそうな人だから話すことにした。


「……そうか。君が『ホーム』を」


「えっ、ご存じなんですか?」


「ああ。なんと言えばいいかな。まあ、君や君の親御さんと近しい存在……と言っておこうか」


 近しい存在……


 ……ご近所さんってことか!?


 まあ、「魔境」から徒歩10キロ圏内なら近所みたいなもんだな。


 それにしても、俺はともかく、俺の父さんや母さんのことを知っていてもらえるなんてうれしい。


 例え、この人がゴーストだったとしても鼻が高いというものだ。


「ああ、僕は()()()()じゃないよ」


「はい?」


 ……いきなり、心の中を読まれた。


 発光体の人はこちらに笑顔を見せている。


 おぼろげだけど、意外と若い風貌だ。

 端正な顔立ちの王子様って感じで、若いんだか、それとも年取っているのかよく分からない。


「ああ、ごめんね。まずは僕の素性を明かそうか……」


 どうやら、俺の警戒心が増したことを察したらしい。

 その辺のそつのなさも却って警戒心が増すんだよなあ、なんて思ったりもする。


「さすがに、ゴーストかと思われるのは心外だったからね」


「違うんで?」


 どうやら、こちらが粗相をしてしまったようだ。


 距離感が掴めなくて難しいね、「魔境」の隣人は……


「だって、ゴーストってのは生きていようがいまいが何かに強い怨念を持っているものだからね。そんな未熟者に思われるのは心外だ。僕は享楽的な方だよ」


「それは、すみません」


「いいよ、気にしなくて」


 ……で、結局あなたは一体何なんです?


「僕にも人間に成り切れていた頃はあるんだよ。あのときは充実していたなあ……」


 ……ということは、今は違うんだな。

 よかった。

 発光人間とかでなくて……!


 よく分からないけど、ゴーストではない、何かしらの「霊体」ってことでいいのかな。

 きっと、そういうことだろう。


「厳密にいうと違うけど、まあ、その解釈でいいよ。面倒くさいし」


 違うんかーい……と思いっきり言ってやりたかったけど、堪えた隣人思いの俺。

 まあ、心読まれているから、言ったも同然だけどな。


 それにしても、かなり恐ろしい相手なはずなのに、なんとなく心地良い感じなのはなぜなのだろうか?


 ドラゴンに遭ったときのようなピリピリくる威圧感もなければ、今日遭った川のヌシのようなビリビリくる電圧もない。


 絵を描いている者と野営をする者で、あまり共通点もなさそうな互いの属性なのに、なんとなく親近感を抱いてしまうのはなぜだろう。


 うん?

 なんか、ローブが揺れている。

 うるさいな、他人の魔力を吸うなら静かに吸ってくれよな。


「人間って良いよなあ……」


 ……今の言葉は誰に向かって言ったんだろう?

 俺に、か?


「人間にも色々いますけどね」


 一応、返答しておく。

 そろそろ多少は皮肉めいたことを言っても大丈夫か、距離感を測ってみる。


 だって、人間だって色々いるもの。


 弱いくせに威張っているクズ寄りの兄とか、強いくせに自分で動かず、人を動かそうとするゲスな銭ゲバとか……


「まあ、いろんな『色』があることは否めないよね。でも、だからこそ面白いんじゃないか……まるで、パレットに1つ1つ違う色の絵の具を入れるみたいでさ?」


 ……うーむ、深いぞ。


 今のもきっと「スローライフの極意」なんだろうな。


 そういや、この人と話し始めてから、魔物の気配がなくなったな……


 むっ!


 ……さては、スローライフの達人になると、「魔境」ですらゆったりたっぷりのんびり空間になるのだな!?


 魔物ですら邪魔できない空間を生み出せるんだ、きっと……


 これは「学び」にしないと……!


「君は何かと()()()()()()()()()()()ようだけど、人間ってめまぐるしいからこそ色鮮やかってこともあるんだぜ?」


「そ、そんなものですか……?」


「かくいう僕も、あの頃は、『みんな()()()()よ』って口癖のように言ってたけどね」


 なるほど。

 必ずしも、「ラク」をすることがスローライフってわけでもないのか……


 これは、勉強になるな。


 俺もついついこの「魔境」の中では楽に魔物を狩ることばかりを考えて生活してきた。


 でも、それってとどのつまりは、せっかくの「学び」の場なのに、相手の魔物の強さを引き出せていないだけなのかもしれない……


 うん、明日からはもっと戦いの中でも工夫をすることにしよう。

 相手の技を最大限に高めてもらった上でこちらが試行錯誤して勝てるようにするんだ。


 そうすれば、「魔境」生活のクオリティもきっと、もっと上がるはずだ。


 天ぷらももっと工夫していろんなバリエーションを試してみよう。


 自分だけの「魔境スローライフ」を見つけるんだ。


「ふふっ、なかなか楽しそうだし、頼もしそうで何よりだよ、()()()()()ホームの末裔。君の今後の活躍を楽しみにしているよ」


 そう言うと、発光する人は、キャンバスを片づけて立ち上がり大きく伸びをした。

 ……っていうか、いつの間にかキャンバスが消えた!

 すごい魔法だ。


「あれ?どこかに出かけるんですか?」


「うん。僕は旅もするからね。気になっていた()()()()にも会えたことだし、僕の相棒も元気でやっているか様子を見に行かなくちゃいけないからね」


 うーん、せっかくお知り合いになれたというのに、この「光るご近所さん」は、どうやら旅人でもあるらしい。


 ……ということは、きっとこの「魔境」は彼にとっては「秘密の別荘地」みたいなもんなんだろうな。


「旅をしながら、君の噂を聞くのを楽しみにしているよ、ノーウェ=ホーム!またいつか会えたらいいね」


 ……そういうと、俺にスローライフの極意をいくつか教えてくれた「光るご近所さん」は、暗闇の中に向かって、その姿を消した。


 なんとなく、虚しい気持ちになったが、これが別れの寂しさというやつなのだろう。


 これまで、「マノ村」にいても、人と別れることなんてなかったから、初めての感覚だよ。


 ……えっ、銭ゲバ?


 いや、あいつは帝都に戻ってくれてせいせいしているし。


 あいつがいたら、とてもじゃないけど、「魔境」で落ち着いたスローライフ生活なんて楽しめなかっただろうし。


 ―君は何かとゆっくりしたがっているようだけど、人間ってめまぐるしいからこそ色鮮やかってこともあるんだぜ?―


 フォレストボアと川のヌシを引きずりながら、マノ村への帰路を歩く中で、「光るご近所さん」の言葉がなんとなく俺の心に刺さっていた。


 まるで、取り除けていなかった天ぷらの具材の白身魚に残った小骨のように……


 これまでは、「魔境」で探索を続けていれば、「最強の魔導師」への道を極められると思っていたけれど、なんとなく、違うアプローチをした方が良いんじゃないかと、バババウムになりかけているママバウムを駆逐しながら、ふと考えてしまう。


 村にいる鬼ババ……養母には、「そろそろ村を出て学園に行け」と言われているけれど、ひょっとしたら、あのご近所さんも、そのことをそれとなく教えてくれたのかもしれない……


 そんな風に思えてきた。


 ……

 …………

 ………………


 行ってみるか……!


 帝都に、魔導師がたくさんいる「学園」に……!


 「魔境」での修業も、魔導師としても、まだまだ未熟者だけれど……


 きっと帝都の学園生活をすることで見えてくることもあるのだろう。


 回り道をしたっていいじゃない。


 俺の道は始まったばかりなのだから……!



 ……

 …………

 ………………


「……って、こんなことがあったんよ。『魔境のスローライフ』の道はなかなか深いだろう?」


「「「いやいやいや……!」」」


「え?」


 「三勇士」に思いっきり首を横に振られた。

 3人と並んで話を聞いているリバーだけははニコニコ笑っている。


「今の話のどこに『スローライフ』があったんだよ、アホノーウェ!」


「この間の夏休みもハードでファスト過ぎたぞ、リーダー!」


「俺は、その発光体が気になるんだけどな……」


「ふふふ、ノーウェには、1番似合わない言葉ですね」


 ……うーん。


 分かってもらえないって虚しいね、ご近所さん……

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


「ノーウェにスローライフ」……

後に、「猫に小判」みたいな諺として使われるとか、使われないとか……(笑)


次回、学園に戻って決戦前……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ