6-94『或る教師の悩み』
やあ、クローニ=ハーゲルだよ。
みんな元気にしているかな?
私は最近、あまり気分が優れないんだ。
憂鬱ってやつだね。
「冬の総魔戦」も佳境も佳境。
「第2ラウンド」を終えていよいよ「決勝ラウンド」を残すばかりとなったよ。
喜ばしい。
「決勝ラウンド」に進出した<連合>は、<最強軍閥連合>、<五騎当千連合>、<無法者連合>の3つだよ。
どの<連合>も圧倒的な実力を示し、5連勝で勝ち進んできたわけだから、「決勝ラウンド」も盛り上がること間違いなし!
実に、喜ばしい。
……喜ばしいことではあるのだけれど、だからこそ私にとっては憂鬱なのだよ。
これが「クローニ=ハーゲルが悩んでいることその1」、だよ。
結果自体はある意味下馬評どおり、前評判の高い<連合>が勝ち上がったのだけれどね。
<最強軍閥連合>は、おそらく今大会で最も統率の取れた集団だ。
2人のカリスマ……
【蘭光】を率いる『光厳』メーネス=アンフェと【炎城桜】をまとめる『焔海』パージ=ジョートーは、才気溢れる指揮官であり、個人の魔導師としても学園最強格だ。
彼らが率いる派閥は、そのまま軍の1隊を任せられるほど成熟しているし、実際にその多くが来春、栄えある帝国軍に加わるからね。
その時点ですでに「最強」だが、加えて、彼らの<連合>にはそんな2人ですら立案された作戦に素直に従わざるを得ないほどの才人……「学園最高の戦術家」と呼ばれる『湯蛇』レオ=ナイダスが「総参謀」として采配を振るう。
彼が実質掌握している派閥【咬犬】は、一見するとその実力的には平凡なメンバー構成で、学内傭兵稼業としてポイント稼ぎに勤しむ集団に思われがちだ。
でも、それは表の顔であって、彼らには裏の顔があるのだよ。
それは……諜報部隊、隠密部隊、あるいは特殊部隊と呼ばれる存在さ。
まあ、言葉ほど大袈裟な話ではないのだけど、レオ=ナイダス君の司令に従い、決闘中にあらゆる役目を担うわけだな。
そこには内容の可否を問わず、命じられたことにただ忠実に従う部下がいる。
汚れ仕事でもなんでも引き受ける物騒な集団だよ。
レオ=ナイダス君の戦術は必ずしも正攻法ばかりではない。
奇策、詭道なんでもござれの精神だから、何をしてくるかわからない恐ろしさがあるわけだけど、そんな彼が命ずるどんな作戦をも忠実に遂行するメンバーがあの派閥には混じっているのだよ。
学生なのにどうしてそこまで人を動かせるのか、逆に、なぜそこまで忠実になるのか、先生には理解できないのだけれど、それだけ軍部の中枢に所属する男の威光は凄いのだろうと思っているよ。
他国にもそういう機関はあるわけだしね。
……とまあ、総合力でいえばこの<最強軍閥連合>が「3強」の中では間違いなく抜きん出ている。
トップの実力、指揮能力、戦略・戦術性、メンバー個々の実力……どれをとっても申し分ない。
私が優勝オッズを決めれるなら彼らを1番にするね。
教職員は学園内の賭け事はできないけど!
Bブロックを勝ち抜いた<五騎当千連合>は、まあ、名は体を表すというか、ここまで本当にたった5人で勝ち上がってきた。
学園最強魔導師である『迅雷』イクス=トストとそのパーティーといった具合だけど、なかなかどうして……!
仲間の4人も1年生の『灰魔導師』グレイ=ゾーエンス君を含めて『殿上人』に劣らぬ実力を示していたので、単純にいえば、「最強&『殿上人』4人」のチームが鎧袖一触に迫って来る破壊力があるよね。
グレイ君のことは心配していたし、今もまだ気になる点はあるのだけれど、少なくとも魔導師としては着実に成長しているみたいだね。
彼らの弱点は明白だよ。
この【雷音】メンバーたちとグレイ君の「五騎」以外のメンバーが心許ない。
一応、元【土灸雲】という「春の選抜決闘」の予選通過チームがいるのだけれど、それでも、他の<連合>と比べた際の見劣り感は否めないね。
「決勝ラウンド」の「THRONES」の出場メンバー数は、各<連合>13人だ。
これが5人だったなら、<五騎当千連合>が間違いなく優勝最有力と言えるだろうけど、さて、この残り8人が決闘にどう影響を及ぼすか……
それがポイントだね。
最後に<無法者連合>……
はあ……
彼らが私の悩みの種だよ……
もちろん「決勝ラウンド」進出おめでとうなんだけどさ?
<公爵令嬢連合>と<2年生『殿上人』連合>という強豪だらけのブロックを勝ち抜くという快挙を果たしたわけだけどさ?
……君たち、ちょっと強すぎない?
先生、会場で観戦してて、天ぷら巻きを手からすっぽり落としてしまうくらいにはびっくりしたよ……!
まあ、「第4戦」までだったらまだ分かる。
戦略性で優位に立った方が実力を抜きにして上回るというのは「冬の総魔戦」においてよくあることだし、醍醐味でもある。
勝因を考えれば、ノーウェ=ホームという「特異点」ということで、周囲が納得せざるを得ない形には収まってはいた。
ああ、ノーウェ=ホームなら仕方ないか……ってことだね。
……1年目の冬時点でそうなっているのも、もうだいぶおかしいのだけど。
でもねぇ……
「第5戦」はもう、ごまかしようのない結果となってしまったよ。
2年生のトップクラスであり、来年以降の学園を引っ張っていく立場になるだろうと目されていた『殿上人』3人が、無惨にも全員ノックアウトの末に敗れ去るなんて誰が想像できた?
しかも、その3人と対峙したのはノーウェ君ではなく、ブルート君、ハリー君、カーティスの3人だったんだ。
ノーウェ君が最後にフィニッシュを決めに出てきたとはいえ、ね。
<2年生『殿上人』連合>にとっては、「総大将」ノーウェ=ホームと2年生最強の『泥欲』クレハ=エジウスをほぼ最後まで温存されてのこの敗北。
フルボッコもいいとこだったよ。
彼らにほんの僅かな救いがあったとすれば、『殿上人』3人の内、少なくとも『光霞』のマライヤ=ミラーと『宵闇』フォルクス=ガントに関しては、完全な「力負け」ではなかったところかな。
ハリー君とカーティスの挑発に乗ってしまい、本来の持ち味である広範囲での『領域支配』による攻撃を自ら制限してしまったことが敗因だったから……その戦術的敗北の事実も上級生としてはなかなか情けなくはあるのだけれど、まだ、真っ向勝負だったならば、と思わせる内容ではあった。
カシウ=フェスタに関してはなんの言い訳もできないほどの完敗だったけれども……
彼には同情の余地もないな。
本人はともかく、彼の御父上殿のおかげで私は教師なのに隠密じみたことをさせられているのだから……
それが、この「クローニ=ハーゲルが悩んでいることその2」ね。
ちなみにだけど……!
それと、「DOOM」という「決闘方式」への順応度にも差があったね。
この「決闘方式」を考案したのが【泥魔沼】であり、開発したのがアホのマーゴットである以上、どう考えても有利なのは<無法者連合>だったのだが、それは私のように割と近くで見ている者だから言えることなのかもしれない。
それにしても、<2年生『殿上人』連合>はこの「決闘方式」に対してあまりに無策が過ぎた。
どこか、チームとして機能していないような印象すら受けたけれど、ひょっとしたら、第3戦で<公爵令嬢連合>に敗れたことが尾を引いたのかもしれないね。
どちらにせよ、この結果は、彼らにとっては相当重く、「挫折」といっていいものだろう。
再浮上できればいいが、「底が知れてしまった」という意味では、これから茨の道だろうね。
まあ、それこそが学園決闘教育の目指すところではあるのだけれどね。
競争の中で「挫折を体験すること」が学校で1番大切なことだと私は思っているよ。
世の中、どうしても敵わない相手がいる……
それを学園という安全な空間で経験できるというのはすごく貴重だ。
これは元冒険者の私だから思うことかもしれないけどね。
最初の「挫折」が「大怪物」とか……目も当てられないからね。
<2年生『殿上人』連合>の諸君にも、なんとか立ち直って欲しいものだね。
……で、問題は、<無法者連合>だ。
「決勝ラウンド」に挑む彼らがまったく読めない……
もちろん、実力があることは間違いない。
「第4戦」、「第5戦」とできっちり証明したしね。
ただ、その実力がどこまでか……というところが「第2ラウンド」の5戦を見てもよく分からないんだよなあ。
よく言えば「未知数」。
将来性、意外性、という面では言うまでもなく「3強」内でも1番だろうし、戦略、戦術面でみてもあのリバー=ノセックが「総参謀」をしている以上、レオ=ナイダスに対抗できる素地はある。
ただ、実力的に3年生主体の「2強」に届くかどうか……
私は、「第5戦」を改めて映像で観ながら、その点を分析してみたよ。
まず、ノーウェ=ホーム……は一端、脇に置いておこう。
彼の実力の天井は正直、誰にも分からないと思う。
比較対象がいないし、『殿上人』を2人相手にしてもあっさり勝ってしまうし……
とりあえず、彼は別格として……
『水豪』ブルート=フェスタ……
彼は、今回の「第5戦」でその実力をはっきりと証明したね。
「DOOM」における優位性を差し引いても、彼は『殿上人』である兄を完全に上回る実力を示した。
彼も晴れて『殿上人』クラスだ。
続いて、ハリー君とカーティス、あと、リバー君もか……
今のところ、まだ『殿上人』を真っ向勝負で倒せるイメージは湧かないな。
幹部との戦いも……2年生派閥の幹部たちはあの体たらくだったから、参考にならないし、正面きっての戦いだとまだなんともいえないが、それでも、彼らには総じて戦術眼を持っているから、少なくともいい勝負はするだろうね。
『泥欲』クレハ=エジウスも忘れてはいけない……
れっきとした『殿上人』だ。
その右腕である『飛燕』コト=シラベも、2年生派閥幹部の中では別格といえるだろう。
バラン=レンホーンとコナース=イナッソの魔帝国コンビも1年生の中では10傑に入るであろう強者だな。
……あれ?
ひょっとして、普通に総合力でもかなりのものなんじゃない……?
「決勝ラウンド」の「THRONES」は、魔道具を用いない、小細工なしの純粋な実力勝負となる。
3つの「王座」を互いに守り、1つの「空の玉座」を争う戦いだから戦略性は求められるけども、実力勝負となることには変わりないんだ。
だから、さすがの<無法者連合>も分が悪いと思っていたのだけれど……
……うーむ。
こりゃ、まいったぞ。
彼らには、勝って欲しいような、欲しくないような気持ちが私の中で混在しているよ。
「挫折」を味わって欲しいというのも、その理由……
それ以外にも、まだある。
それが、「クローニ=ハーゲルが悩んでいることその3」に繋がるのだよ。
「決勝ラウンド」の優勝者には特別な決闘が最後に待っている。
この私含めた「教職員選抜」との決闘がエキシビジョンマッチとして翌週に開かれるのだよ。
教師側の参加人数は学園長を含めた7人。
学生側は「THRONES」と同じ13人になるので、対外的には「ハンデマッチ」と見られるし、現実的には、現役の学生に負けたとしても言い訳の立つ人数という、実に大人の考えらしい落としどころだ……
その名誉ある(?)メンバーに選出された教師はこの私、『黒魔導師(極)』クローニ=ハーゲルを含めた6人。
年越しから正月にかけてアリーナで行なわれた、100人近い教職員が一堂に会した決闘トーナメントを勝ち抜いた猛者たちだよ。
ちなみに、トルナ先生とユージ先生も入っている。
他に2名、普段の権力争いではあまり日の目を見ていない実力主義の先生2人が選ばれた。
笑えたのはモーリッツだね。
学園教務主任ということで、我々は1回戦免除のシードだったのだが、4回勝ち進むと選抜メンバーに選出される。
彼は4回勝ってしまったのだよ。
しかも、対戦相手はすべてモーリッツ派の人間。
何人か子飼いのメンバーを選抜メンバーに送り込もうと画策したらしいが、くじ運のせいでそれがすべて自分に返ってきてしまい、派閥の主に逆らえない彼らはみんな棄権するなり、途中で降伏するなりしてしまったんだ。
まさに、大人の決着……
実力で勝ち進んだわけじゃないのがなんとも微妙な話だけど、まあ、せいぜい本番頑張って戦って欲しいね。
どの<連合>が来ても、彼にとっては地獄でしかないだろうから。
もちろん、私は、誰が相手でも負けるつもりはないし、学園長が出ている限りまず「教職員選抜」に「負け」はないからね。
少なくとも初見の相手では……
じゃあ、なぜ私が悩んでいるのか、というとだな……
仮に、この「エキシビジョンマッチ」に<無法者連合>が進んだとしよう。
そうすると、ノーウェ=ホームは学園長と戦うことになるわけだ……
いかな彼でも、初見では絶対に……いや、おそらくは学園長には勝てないと私は思う。
それはいい……
でも、彼、まだ1年生じゃん……!?
仮に1戦交えたら、きっと「学習」しちゃうじゃん……?
……それが、非常に悩ましいことなんだ。
……
…………
………………
……でも、まあ、「決勝ラウンド」で敗退したとしても、映像で学習されてしまう恐れはあるしな。
……なるようにしかならないか。
少し気が楽になったよ。
今は「決勝ラウンド」を楽しみにするとしよう。
……
…………
………………
ところで……
先ほどまでの私と同じくらい眉間にしわを寄せて悩んでいる御方が正面の執務席にいらっしゃいますよ。
彼女は一体、何を悩んでいるのだろうか……?
「クローニ……」
「はい」
「『教職員選抜』の名称ですが、何が良いですかね……『教魔セブン』はどうでしょう?」
……
…………
………………
……うーん、限りなくどうでもいいわっ!!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
学園長は意外とノリノリです……(笑)
あの集団に感化されている可能性もあり?(^▽^;)
次回、閑話が2話続きます。
ノーウェの過去……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




