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ベルモンドの隠密部隊


「まったく、炎の中に飛び込ませるとはテオドール卿も人使いが荒い」


 魔法将軍テオドールの魔法隊は炎の魔法に長けている。森を焼き払うことは勿論の事、自分達が炎に巻き込まれないように防火の魔法を使うことも出来るのだ。

 とはいえ、魔法には必ず制約が存在するので神々の力のように無制限に使うことは出来ない。防火の魔法はすぐに切れるので、炎の中に突入した後は退却が出来なくなる非常に危険な任務となる。

 そこで今回白羽の矢が立ったのが消耗を前提に置いた奴隷部隊だ。しかし、奴隷部隊だけでは士気が保てないので、監視役として私が率いる隠密部隊も選ばれた。確かに奴隷部隊を推薦したのは私ではあるが、まったく損な役回りだ。もっとも、隠密部隊分の防火の魔法は用意してあるので、いざとなれば我々だけ退却することも可能だ。


「奴隷ども! 目の前のエルフを殺さないと我々は焼け死ぬぞ! この戦に勝利すれば戦乙女様の温情によりご馳走が振る舞われる! 各自奮闘せよ!」


 奴隷は傭兵と違って金がかからないのが良い。とはいえ傭兵よりもさらに士気が低いので、こういう危機的な状況で使わねば真価を発揮しないだろう。さすがの奴隷たちも後がないと見たのか、エルフ達に死に物狂いで襲いかかっている。

 完璧に挟み撃ちとなったな。エルフ達は前後から攻撃を受けて混乱しているようだ。

 エルフ達がこの状況を打破するとしたら奴隷部隊を倒したほうが早いだろうが、奴隷部隊の先は炎の壁だ。奴隷部隊が倒れた後は炎に押し込まれてエルフ達は全滅するだろう。とはいえ、奴隷部隊を放置しておけば前後からの攻撃で苦戦は必死。このままではどちらにせよ全滅するだろう。


 戦線は好調なのだが、何よりも背中が熱いな。

 さっさとここから離脱したいものだ。

 そう思っていると、黒装束を着た配下の隠密が音もなく側にやってきた。


「ベルモンド様。敵の騎兵がこちらに向かってきています」

「煙幕と糸を使え。我らの本質は撹乱と欺瞞。見えない罠の恐ろしさを思い知らせてやるのだ」


 荒れ地の巨大蜘蛛から取った糸は、例え細くても人の体重を軽々と支えるほどに強靱だ。これを周囲に張り巡らせれば、騎兵など蜘蛛の巣にかかった獲物に過ぎないだろう。

 さらに煙幕を使って視界を悪くする。罠を見えづらくし、弓矢による被害も減らせられる。奴隷たちは前だけ向いて戦えば良いのだから、こちらには大した影響はない。


 しばらくすると敵の騎兵が攻めてきた。

 しかし、案の定糸に引っかかって落馬しているようだ。地面に叩きつけられたエルフを配下の隠密達が確実に剣で仕留めていく。

 足を止めた騎兵が遠くから矢を射掛けてくるが、我々は隠密部隊、木々に隠れながら戦うのはエルフ達だけではないのだ。これだけ遮蔽物があれば回避することも容易い。奴隷たちを撃てば当たるだろうが、どうやらそっちは狙わないようだ。エルフ達と乱戦になっているから同士討ちを恐れているのだろう。

 このまま足止めしておけば、やがては前方の本隊がエルフを押し潰すはずだ。我々はここで消耗を抑えながら撹乱しているだけで良い。

 

 作戦会議ではエルフを平原におびき寄せ、駄目押しとして我らが疲弊したエルフ部隊を背後から突く作戦だった。実際は森の中での乱戦となり、我らは炎を背負う羽目になったが、大体予定通り作戦は進んでいるようだ。

 地に伏すエルフの数がどんどん多くなってきた。帝国本隊も直ぐそこまで迫っているようだ。このまま挟み込んで終わりだろう。

 多少被害は出たが、さすがは戦乙女様といったところか。矢で負傷した者は癒やしの戦乙女エイル様の力により、即死した者以外は傷が癒えて即座に戦線に復帰している。おそらく今も上空で見守っておられるのだろうが、なんとも恐ろしい力だ。広範囲の負傷兵を一度に回復させる癒やしの力。矢を得意とするエルフに対してこれほど有効な力はないだろう。いくら矢が刺さったとしても、頭にでも当たらない限りすぐに回復してしまうのだからな。帝国側にヴァルキュリアがいる以上、始めから勝敗など決まっているのだ。


「おのれ、人間ども! 逃げずに私と戦え!」


 隻眼のエルフ騎兵が何やら喚いているが、我々の任務は本隊が来るまでの足止めだ。無理に攻め込む必要はない。

 敵の騎兵達は罠に囚われ、思うように身動きが取れなくなっているようだ。このまま放置しておけば、後は本隊がなんとかしてくれるだろう。

 そろそろ炎が直ぐ側まで迫ってきたな。奴隷兵は補充が効くから良いとしても、隠密部隊は入念に育てた精鋭部隊だ。こんな場所で消耗するわけにはいかない。そろそろ撤退命令を出すか。


 しかし、笛で命令の信号を出そうとした時、炎の燃え盛る音や戦いの騒音に混じって、何やらミシミシと木の枝が軋むような音が聞こえてきた。

 なんだ? 一体何の音だろうか?

 訝しげに音の方を見やるも、こう木々が多くては何も見えない。まさか敵の援軍だろうか。しかし、エルフ達の背後に回る際にある程度の偵察は行ったはずだが……。

 どうするべきか悩んでいると、木々の合間を縫って部下がやって来た。


「ほ、報告します。敵の増援です」

「ほう、やはりそうか。となると、後方の傭兵部隊も前に出したほうが良いかな……。それで規模と武装は?」

「そ、それが……」

「どうした?」

「増援の敵部隊は木々です。木が本隊の後方から迫っております!」


 木? 何を言っているのだ?

 しかし、部下の報告は正しかった。

 エルフ達が作った若い森とは違う、森の奥深くにあるような巨大な木々が本隊の背後から迫ってくるのが見えたのだ。

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