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巨木とトロール


「なんだありゃあ? 木が動いてるぞ」

「あー、動いってるっすね」


 いきなり木々が生えて森が出来たかと思うと、今度は火事になっているところを迂回するように木々が移動してきた。

 エルフ達を逃さないように火の手が上がっているので、必然的に木々は帝国本隊の背後へと移動することになる。これはもしかして挟み撃ちを受けているんだろうか?


 俺達傭兵は他人事のように戦闘の成り行きを見守っていた。

 今回は重要な戦いとのことで、俺達傭兵隊は森から離れた後方で予備部隊として待機しているのだ。

 まぁ、ここ最近のエルフ達のゲリラ攻撃で傭兵達の士気は嫌というほど下がっていたので、懸命な判断とも言える。


「帝国のお偉いさん方は自分達だけで倒すとか言っていたが、こりゃあ俺達の出番がやってくるかもな」


 隣でベオウルフがニヤニヤしながら剣を抜いたり収めたりしている。

 しばらく傭兵団で暮らしていて分かったのは、傭兵には三種類のタイプがいるということだ。一つ目は金のために戦っているやつ。二つ目は戦いが好きなやつ。そして三つ目がその両方が好きなやつだ。そしてこの順番で好戦度も増していく。

 金のために戦っているやつは死ぬことを恐れる。戦いが好きなやつは相手を選ぶ。だが金も戦いも求めているやつはどんな戦場でも顔を突っ込みたがるのだ。

 そしてベオウルフは両方を求めている典型的なタイプだ。本人は金のためとか言っているけど、俺が知る限りどんな任務でも嬉々としてこなしているし、危険なことに首を突っ込みたがる。

 俺は出来ることなら地獄で引き篭もっていたいんだけど、一体何がこいつをそこまで駆り立てるのか……。


「あ? なんだガル。なにジロジロ見てんだよ」

「いや、別に何でもねえっす……」 


 そうこうする内に戦場の方が騒がしくなってきた。

 どうやら本当に木に襲われているようだ。森がユサユサと揺れる度に兵士達の怒声と悲鳴が聞こえてくる。

 

「見ろ! 合図の鏑矢が上がったぞ!」


 ヒュルルーと音を発しながら矢が上っていった。予備部隊の進撃合図だ。


「おい聞いたか野郎ども! 稼ぎ時だ! 俺に付いて来い!」


 ベオウルフが剣を掲げ檄を飛ばしながら先頭を駆けていく。それに続けと、彼が集めた命知らずの傭兵達が雄叫びを上げて突撃していった。

 ベオウルフはエルフの森での功績が評価されて中隊長格にまで昇進している。それに伴い率いる傭兵の数も増えており、百人を超えるごいつおっさん達の迫力は中々のものだ。

 他の部隊もそれに触発されたのか、勢いづいて森の方へと進軍していった。

 帝国が負けると戦争が長引きそうだし、面倒だけど俺も頑張らないとな。

 

 


「おい! こんなのどうやって倒せばいいんだよ!」


 そりゃあそうだ。勢い込んで森の中へ突撃したは良いが相手は巨木なんだよ。

 剣で斬ったり、槍で突いたところで大した傷は与えられない。

 木の枝の集合体みたいな巨大な手で薙ぎ払われて、また一人傭兵が吹っ飛んでいった。


「おい、ガル! お前の斧で叩いてみろ!」


 無茶言うなよな。斧って言っても何度も叩きつけないと無理だろ。

 まぁいいや、とりあえずダメ元で一撃入れてみよう。

 幸い相手の動きは俺から見ても遅く、なんとか懐まで入ることが出来た。


「おりゃあ!」


 とりあえず近くにあった足みたいな根に斧を振り下ろした。

 スコンと良く響く音を出して斧が地面まで食い込んだ。どうだろう。とりあえず斬ったけど効いているのかな?

 上を見上げると、木の幹にある虚ろのような穴から赤い目が覗いていた。どうやらこっちを見ているようだ。


「あぶねえぞ! ガル!」


 真上から振り下ろされた木の手に叩きつけられて、俺は潰されたカエルみたいに地面とくっついた。

 痛え。俺じゃなかったら死んでるぞ。

 少しすると、俺が死んだと思ったのか上から押し付ける圧力が消えた。


「ガル、大丈夫か?」

「あー、たぶん大丈夫っす」

「おいおい、まじで死んだかと思ったぞ」

 

 ベオウルフに助け起こされてなんとか安全地帯まで退避する。

 あんなのとはまともに戦っていられない。

 周囲にも同じように息を潜めながら、大木の様子を伺っている傭兵達がいた。


「このまま戦っても勝ち目はねえぞ、ベオウルフ。どうすればいい?」 


 傭兵の一人がベオウルフに意見を求めた。

 どうするって言われても、どうしようもないよなぁ。


「……こうなれば、いつもの手でいくしかねえな」

「いつもの手?」

「おうよ。敵の大将を叩く」


 あー、また何か危険な発想だな。

 敵の大将とか言って、さらにでかい木だったらどうしようもないぞ。


「とりあえずここにいる全員でそれらしいやつを見つけるぞ。発見次第、声を上げろ。周りにいるやつを集めて一気に叩く!」


 傭兵達は頷くと、特に反対意見も出さずに各自散開し始めた。

 傭兵は臨機応変だ。危ないと思ったら自分だけ逃げれば良いし、やれそうだと思ったら自分だけでもやれば良い。最善策を見つけてから行動する必要はないのだ。


「ガル、お前は俺に付いて来い。その大斧は役に立ちそうだからな」

「でも、あの木には効かなかったっすよ」

「いや、たぶん効いてたさ。だからすぐに反撃したんだ」


 そうなのか?

 まぁ良くわからんけど、こいつが言うならそうだろうな。俺とは戦いの経験が違うし。

 

「ほら、付いて来い。ぼやぼやしてるとまた押し潰されちまうぞ」

「へいへい」


 帝国兵が全滅してしまう前に、さっさと敵のボスを見つけだすとするか。

 俺は斧を肩に担いでベオウルフの背中を追った。


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