巨人族の会合
今一度ここに食パンの耳の存在意義を問う!
「このままでは我らは滅んでしまう!」
「そうだ、我らは滅んでしまうぞ!」
「アース神族を殺せ!」
「そうだ、アース神族を皆殺しにしろ!」
氷の巨人フリュムと岩の巨人フルングニルがツバを飛ばしながら叫んでいる。
やれやれ、まったくもって有意義な時間だなぁ。さっきから同じことばかり言っているよ。
巨人達だけで攻めてもまたトールにボコボコにされるのが関の山なのに、なんで分からないのかなぁ。二人とも族長なんだから、もう少し頭を使って欲しいよ。
「まぁまぁ、兄弟たち。もう少し落ち着きたまえよ。何事も焦ってはいけない。リンゴは熟した瞬間が美味しいんだ。霜の一族や山の一族では青いリンゴを食べているのかい?」
「何を言う! 我らは馬鹿ではない。リンゴは赤いのを食うぞ!」
「我らもだ。我が一族に愚か者は一人もいないぞ!」
はぁ、なんだか頭が痛くなってきたよ。
誰か助けてくれないかなぁ。
「ロキよ。お前が言うリンゴが熟す時とは何時やってくるのだ? アース神族は人界から勇者の魂を招いて、戦争に備えておるではないか。このまま手をこまねいていては、我らに不利になるだけぞ」
おや、少しは理知的なやつもいたか。
黒の巨人スルト。炎界ムスペルヘイムの王だ。
「今は各地に援軍を要請しているところだよ。我々巨人族だけで神界アースガルドに攻めても勝算は薄いからね。他の勢力と協力しないと駄目なのさ」
「何を言う! 我は一人でもオーディンを倒すぞ! 武器を持て!」
「そうだ! 我も一人でオーディンを倒すぞ!」
また始まったよ。僕が何か言う度に興奮するんだもんなぁ。
「ロキよ。氷と岩が言うこともあながち間違ってはおるまい。我ら巨人族だけでも十分にアース神族を滅ぼせるはずだ」
「それは疑問だね。忘れたのかい? 向こうには巨人殺しの雷神トールがいるんだ。彼の雷は巨人には躱せないよ。僕たちは鋼には強いけど、脳天を雷で貫かれたら流石にどうしようもないじゃないか」
「ならば、どうするべきだと?」
「簡単さ、トールの相手を他の勢力にやってもらえばいいんだ。例えば、背の低い地神の一族であれば雷を避けれるだろうね」
雷神トールはアース神族でも一二を争う豪傑だ。
愛用の雷鎚ミョルニルで雷を自在に操り、既に数え切れないほどの巨人を屠っている。
背が高く鈍重な巨人なんて、トールからすれば格好の的だろうね。
「はぁ? 地底の小人どもだとぉ? そんなのは儂の鼻息で吹き飛ばしてくれるわ!」
「はっはっは、ならば儂は屁で吹き飛ばしてやろうぞ!」
やれやれ、脳天気な巨人は幸せそうでいいねぇ。なんだか羨ましくなってきたよ。
「なるほどな。それで具体的にどこに援軍を頼んだのだ、ロキよ?」
「そりゃあもうあらゆる所にだよ、スルト。上層世界三つを除く六世界、さらには地獄ヘルヘイムにまで打診したさ」
「地獄だと? 地獄の死神どもが我ら生者の戦いに興味を持つとは思えんがな」
「それはあれだよ。なんて言ったって、僕は冥界の女王ヘルの父親だからね。彼女に頼めば死神を派遣してくれるっていうわけさ」
まぁ、正直に言うとあまり感触はよろしくないんだけどね。でもあそこには面白い死神がいるから、彼に頼めば何とかなるんじゃないかなぁ?
「なるほど。ならば、しばしの間はお前を信じて待つとしよう。だが既に世界樹ユグドラシルの力は弱まり始めている。このままでは我ら巨人族は飢えて滅ぶことを忘れるな」
「はいはい、もちろん分かっておりますよ。僕だって食いっぱぐれるのは嫌だからね」
十年前に始まった世界樹の衰弱は九世界全てに影響を与えていた。特に下層世界ほどその影響は大きく、大気は凍てつき、大地の恵みは痩せ細る一方だ。
膨大な食料を必要とする巨人族にとって、大地の荒廃は死活問題だ。巨人族はこのまま座して死を待つか、上層世界から恵みを奪うかの二択を迫られていた。
「ヴァン神族を殺せ! 楽園の恵みを奪い取るのだ!」
「そうだ! ヴァン神族を皆殺しにしろ!」
ヴァン神族が統べる楽園ヴァナヘイムが手に入れば、巨人達の食糧問題は解決するだろう。でも、それができるなら苦労はしないんだよね。
現在のヴァン神族の女王は豊穣の女神フレイヤだ。彼女は神界アースガルドで過ごしていたこともあり、アース神族とは強い同盟関係を築いている。さらに彼女の双子の兄フレイは精霊界アルフヘイムの王なのだ。ヴァン神族を攻めれば必ずセットでアース神族と精霊達を相手にしなくてはならない。
そもそも楽園のある天界に至るには、必ず神界アースガルドを通らなくはならないのだ。つまり巨人族の天敵であるアース神族とぶつかるのは必然であり、オーディン達を倒さない限り楽園ヴァナヘイムを得るのは夢物語でしかなかった。
「時がくれば、我らは全一族を率いて攻め上がる。元々我ら巨人族とアース神族は相容れぬ仲よ。いずれはどちらかが滅びるまで戦わねばならぬ運命だ。ロキよ、そなたも今のうちに覚悟を決めておくことだな」
「やだなぁ、僕は巨人族の味方だって言ってるじゃないか。アース神族だったのも既に過去のことだよ。もう覚悟は決まっているさ」
巨人族は世界の始まりからアース神族と争ってきた。しかし、それは言うなれば子供の喧嘩のようなもので、今回のような本物の戦争とは違う。
巨人族が他の勢力を率いて天界に戦争を仕掛ければ、それは天地を分けた世界戦争になるだろう。運命神の予言にもある終焉の戦い、即ちラグナロクへと……。
「そもそも人間どもが増えすぎておるのが悪いのだ! 人間どもを殺せ!」
「そうだ! 人間どもを皆殺しにしろ!」
やれやれ、フリュムとフルングニルも相当鬱憤が溜まっているみたいだね。
オーディンも下界から力を集めて何かをやろうとしているようだけど、そろそろ巨人達の不満も限界だよ。何かやるつもりなら、ラグナロクが始まる前にさっさとやってくれないかなぁ……。
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