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冥界の女王ヘル

悪いな。たけのこ派は見つけ次第殺すことにしているんだ。


「またミッドガルドから大量に死者が送られて来たか」

「はい、ヘル様」


 オーディンめ、神々が人界にここまでの影響を与えるなど、一体何を考えておるのだ?

 それにあやつら、生命力を奪い取り死者の魂だけを我らに押し付けおって、終末の戦いラグナロクで使える手駒さえ手に入れば、他の世界などどうなっても構わないということか?

 死神達が冥界に迷い込んだ死者の魂を回収しているが、全くもって手が足りぬ。今も凍える不毛の地にて、たくさんの魂が彷徨っておるわ。


「父上はなんと言っていた?」

「はっ、ラグナロクの準備は順調に進んでいる。時が来たら援軍を送りたし、とのことでございます」


 ちっ、神々の諍いなど妾の知ったことではない。

 妾にとって大事なのは、弱く悲しき定命の子ら、醜く惨めな妾の子供たちよ。

 残念だが、冥界ニブルヘイムには今日も冷たき風が吹き荒れておる。暖かな光を生み出すにも力が足りぬのだ。

 世界樹ユグドラシルの力は上層世界の住人達によって独占され、冥界へは僅かな力しか流れて来ぬ。

 ここにはこんなにも魂が溢れておるというのに……。

 

「ヘル様、グニパヘリル様がお見えです」

「ほう、通せ」


 執事に先導されて、謁見の間に最古参の死神が入ってきた。

 グニパヘリルか。確か、新しき死神ガルムの様子を見守らせておったな。

 死神は玉座から十歩離れたところで跪いた。

 

「面を上げよ、グニパヘリル。今日はいかような要件で参ったのだ?」

「はっ、ヘル様。ご尊顔を拝しまして恐悦至極。今日は死神ガルムについての報告に参りました」

「ふむ、続けよ」


 死神ガルムか。

 運命神ノルン達の予言に従い、異界より魂を呼び寄せて死神へと転生させたのだが、果たして物になるのか。


「まずは、こちらの献上品をご賞味下さい」

「ん? なんじゃ、それは?」


 執事が天辺が茶色で全体が黄色い物質を皿に乗せて持ってきた。

 

「はっ、プリンと申します」

「プリン? 聞いたことがないのう。どれ、食べてみるとするか」


 良くは分からぬが、余興には丁度良かろう。

 最近は気の滅入る報告ばかりでストレスが溜まる一方じゃ。

 

「なんじゃ、やけに柔らかいのう。最近の食べ物はこんなに柔らかいのか?」


 スプーンで突くと、それだけで全体が揺れた。

 まるで、地底に蔓延るスライムのようじゃな。

 ふーむ、なんだか非常に気が進まぬが、一口食べてみるとするか。


「……こ、これは!?」


 う、美味い! なんじゃこれは!?

 程よい甘さが優しく口中に広がる。そしてこの茶色い部分がほのかに苦く、絶妙なハーモニーを作り出しておるわ!

 このようなものは楽園ヴァナヘイムでも食べたことがない。

 まさに新世界! 今まさに第十の新世界が生まれる!


「いかがでしょうか?」

「……は? う、うむ。なかなか悪くないぞ」


 いかんいかん。

 配下の手前、威厳のない姿は見せられぬ。

 案の定グニパヘリルがニヤニヤと微笑んでおるわ。

 ぐぬぬ、憎らしい奴め。

 ここは冷静にならねば。

 

「ふむ。それで、これは一体どこから入手したのだ?」

「はい、これはガルムの地獄で創造されたものでございます」

「ほう、ガルムがな」


 なるほど。

 あやつは異世界から来たから、この九世界に存在しない食べ物も創造出来るわけか。

 ふむふむ、なかなか良いことを聞いたぞ。


「なるほど、それでガルムの調子はどうであった?」

「はい、非常に良く地獄を統治しておりました。地獄内で作物を育てることにより、冥力を地獄内で再生産しているようです」

「なるほど、外から力を集めずに内から力を生み出しておるのか。考えたものよの」


 ふむ。確かに冥界で生命を育くめば、人界や世界樹から冥力となる生命力を持ってこなくても良いな。

 死神達に死者に耕作させるよう命令を出すか。


「それから、見たこともない作物をたくさん育てていました。例えば、ここにある米は主食となる麦のような作物のようです。さらにはジャガイモや、トマトといった変わった野菜を育てていました」

「ほう、中々に興味深いの。死者を派遣して作り方を覚えさせるか」

「はい。冥界で作物を育てるのであれば、必ずや力になるかと思います」


 ふふふ、運命神ノルン達よ、中々にやるではないか。

 どうやらガルムを異界から連れてきたのは正解だったようじゃな。

 これで今も凍えながら、ひもじい思いをしている我が子らを救えるやも知れぬ。

 あとは、人界の争いをどう止めるかだが……どれ、一度ガルムを呼んでみるとするか。




 俺はグニパイセンに朝一でヘル様の下に行くように言われ、なんか悪いことをやったんじゃないかとビクビクしながら、謁見の間で跪いていた。

 

「ガルムよ。貴様、最近中々に面白いことをしているそうだな」

「あっ、はい。すいませんです」


 やべえ、小人たちにヘル様を称えるヲタ芸を教え込んでるのを見られてしまったか?

 前世では良くても、この世界では異端とかそういうことかもしれん。


「ん? なぜ謝る? その調子で続けるが良いぞ」

「えっ? あっ、はい。ありがとうございます」


 おお、なんだか知らんが、ヘル様の理解を得られたぞ!

 これは今後も踊りの研究に励まねばなるまい。


「そうだ、貴様、私に何か献上するものがあるのではないか、あの黄色いやつとかな」

「黄色……あっ、はい。さすがはヘル様。実は持ってきております」


 なんてこった、ヲタ芸に続き、これまで知っているとはな。地獄のことは何でもお見通しらしい。ヘル様パネェわ。

 俺は懐から木彫りのヘル様像を出して、執事の人に渡した。


「ん? なんじゃ、これは?」

「小人たちが作ったヘル様の木像っす。あの、ヘル様に捧げたいとのことなんで、持ってきやした」


 あれ、なんか思っていたのと反応が違うな。

 さっきまでウキウキしていた感じなのに、訝しげに眉を顰めている。

 やばい、フィギュアを送るのは失敗だったか。


「ふっ、ふははははははは」


 なんだなんだ、めっちゃ笑ってるぞ。もしかして怒りの限界点を超えたとか、そういうことだろうか?

 うわあああ、モールスのおっさんドヤ顔でこれ渡して下さいとか、てめえふざけんなよおぉぉ。


「くふふふっ……神々の工芸品とくらべて、なんとお粗末な作品か。だが、愚かな子であるからこそ、なおのこと愛おしい。だからこそ、妾は弱き者を救いたい」

 

 ヘル様が木像を胸に抱きながら何やら呟いている。

 ん、何の話しだ? 怒っているんじゃないのか?


「ガルムよ、冥界には今も打ち捨てられた死者の魂が溢れておる。貴様、これをなんと見る?」

「えっ? えーと、なんとかしたいっす」


 全然話についていけないが、とりあえずイエスと言っていれば大丈夫なはずだ。

 イエスマンLV55の俺に死角はない。


「そうであろう。もはや妾とて黙ってはいられぬわ!」


 ヘル様は玉座から勢い良く立ち上がった。

 立ち上がっても小さいな。ヘル様かわいいよ。ヘル様。

 ヘル様は手を前に出すと、俺に向かってドヤ顔で宣言した。


「地獄の番人ガルムよ、貴様に使命を与える! 人界ミッドガルドに赴き、戦乱の裏に暗躍している神々を止めよ。必要とあらば殺しても構わぬ!」

「ははーっ、承知しましたっす」


 なんだか分からんが、ヘル様は本気のようだった。

 俺が今安寧とした暮らしをしているのも全てはヘル様のおかげだ。

 ならば、この任務は必ず完遂しなくてはなるまいと、俺は心で誓った。


ブログで先行配信してます。

http://garmthedeath.blog.fc2.com


ブクマ&評価おなしゃす。


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