帝国の戦乙女
10秒ホラー
A「あれ?まだ光男は来てないのか?」
B「光男は三年前に亡くなっただろ」
A「知ってる」
「進めーっ! 命を捨てるは今ぞ!」
「突撃ーっ! 皇帝陛下に栄光あれ! オーディン様に栄光あれ!」
角笛の音が響き渡り、矢のような突撃陣形を組んだ重騎兵隊が眼下を駆けていく。
まるで川の氾濫のようだ。決壊した堤防から水が一気に流れ出すように、重騎兵隊は敵の戦列中央を突破し、分断していった。
「勝負あったな。ベルモンド卿」
「ええ、ワインでも飲みながら、観戦しましょうか。テオドール卿」
「ふん。とてもそんな気にはならんよ」
戦争は現在、帝国対連合国の体をなしている。
今回の戦で連合国の先鋒、ゴトランド王国の主力部隊に壊滅的な被害を与えられるだろう。しかしながら、後ろにはまだまだ敵がいるのだ。
傭兵部隊と奴隷部隊を導入してはみたが、いまだ全体の二割にも満たない。序盤の軽歩兵隊による投擲合戦を除けば、殆どは帝国兵が使われていた。
「まだまだ、帝国の被害が多いな。ベルモンド卿」
「そのようです。しかしながら、今回の実戦で傭兵部隊、奴隷部隊も運用できることが少なからず証明出来ました。これらの比率を今後増やしていくことにより、帝国の損害は少なくなることでしょう」
「ふむ。そうだとよいがな」
崖の下から勝鬨が上がった。
さて、我らが女神様の下に参るとするか。
「諸君、大義であった!」
戦乙女ヘリヤ様の労いの言葉に、「ははーっ」と将軍以下、将校達が跪いた。
もはや帝国は神々の剣と言っても良い状態だ。ここに居る者たちの大半は、ヘリヤ様が命を差し出せと言えば喜んで差し出すことだろう。
「喜べ、今回の戦で諸君の同胞から神々の勇者"エインヘリヤル"となった者達がいる」
「なんと、誠でございますか! ヘリヤ様」
鉄鎖将軍クィントゥスが驚きの声をあげた。
「うむ。重騎兵隊と重歩兵隊からそれぞれ数名をヴァルハラに迎え入れた」
「おお、我が重騎兵隊から勇者が出るとは、何たる光栄か!」
今度は騎士将軍メリオットが喜びの声をあげた。
クィントゥスとメリオット、それから現在は北の戦線を受け持っている竜頭将軍ヨハンは、我ら十二神将の中でも特にヴァルキュリアを崇拝している者たちだ。
彼らにとって最も重要なのは、帝国の存続ではなく、いかにしてヴァルハラへ行くかなのだろう。まったくおめでたい連中だ。
「ヘリヤ様。今回の戦で傭兵、奴隷部隊、共に一定の戦果をあげることが確認できました。今後も運用を続けたいと思います」
「控えろ、ベルモンド卿! 勝利の場にそのような下賤な者たちの名前をあげるな!」
鉄鎖将軍クィントゥスが声を荒げた。
彼は傭兵たちに自分の活躍の場を奪われると思っているのだ。
クィントゥスの主力部隊は重装歩兵隊。歩兵は傭兵でも代替が利きやすいからな。
「参謀将軍ベルモンド。傭兵を使う有用性を述べよ」
「はい。このまま帝国兵の数が減れば、帝国内の治安が危うくなり、やがては領内のあちこちで反乱が勃発するやも知れません。そうなれば大地の統一どころではなくなります。補充が容易に利く傭兵や奴隷兵を最前線で使い、精強な帝国兵は要所で投入するのが良いと愚考します」
「ふむ。よろしい、傭兵と奴隷兵を集めよ。ただし臆病者はいらんぞ」
「ははっ」
クィントゥスとメリオットは不満そうだ。
ふん。そんなに死に急ぎたければ、自分たちだけで死ねば良いのだ。帝国の民を道連れにするな。
騎士将軍メリオットが不服そうに口を開いた。
「しかし、ヴァルキュリア様。そのような下賤な者たちを使わずとも、我らだけで勝利出来ますぞ?」
「ふっ、そなたらの勇猛さは分かっておる。しかし、オーディン様は確実なる勝利を望んでおられるのだ。万全を期するのは当然であろう? 無論、そなたらの活躍も期待しておるぞ」
「ははっ、お任せを! ヴァルキュリア様!」
クィントゥスとメリオットが最敬礼をした。
なんとも単純なやつらだ。
「ゴトランド王国首都攻略戦へは剣の戦乙女スカルモルドが同行する。私は帝都に戻るが、今後は何かあればスカルモルドに報告すると良い。では、諸君らの奮闘を祈る!」
「「ははっ!」」
クィントゥスとメリオットは多くの戦士と同様に単純だが、こと戦にかけては天才的な差配をする。ゴトランド王国の首都も問題なく落とせるだろう。
さて、ヴァルキュリア様の言質も取れたことだし、私は早速帝都に戻って、傭兵と奴隷部隊の増強に努めるとするか。
ブログで先行配信してます。
http://garmthedeath.blog.fc2.com
ブクマ&評価おなしゃす。




