表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽国戦記  作者: ブレヒトさん
魔晶戦争
91/131

閑話 騎士の王 1 -父の思い-

カルブルヌス騎士団国王エルネストとオーギュントの過去。

全二回。

 俺は狂王を恐れていた。

 生まれて初めて会ったときから、かつて賢王と呼ばれていた時も、その底知れぬ力に恐れ続けていた。

 彼の息子と共に反乱を起こし、遺体を確認しても、それから十年以経った今でも変わらず恐れている。柔らかさの中にあった破滅的な魔力、笑った瞳に映る壊れやすいものを、そして、それがもたらすだろう地獄を。

 けれど、そんなものは人としての思惟的な思考の産物であったことを知った。

 愛すべき妻が笑って抱き上げた我が子を見たときに。


 ****


 予定日より早く、難産の末に未熟児として生まれた末の子は容易に呼吸しなかった。

 頬を張られても、尻を叩かれても泣かず、産婆が引きつった笑みで見上げて来て、薄目を開けた妻も、涙を流しながら俺の手を探ってきた。握り返す俺の手は、固く強張っていたことだろう。それは、息子の死を予感したからではなかった。その目が開くことに身構えて、恐れていたのだ。

 生まれてはじめての、違和感が先に立つ恐れ。誰にも説明できない、理由のない恐怖だった。


 -なんだ、この子は-


 逆さ吊りにされ、揺さぶられながら尻を叩かれて、ようやく息子は泣いた。

 妻は縋るようにして産婆から奪い取り抱きしめた。頬ずりして、俺を見上げた。そのとき俺はいったいどんな顔をしていたのだろう。腹芸ができないから、きっと不恰好に笑っていたにちがいない。

 妻が俺の心中に気付くよりも先に、息子に医学的な処置をするように言いつけた。このままでは死んでしまうから、いや、殺してしまったほうが、良いのか?

 そう思ったのは一瞬だった。あやす妻の満足げな顔に、俺もまた父としての義務を思い出した。心は揺れながらも、これもまた愛すべき息子なのだと自分に言い聞かせて、人差し指でその頬を撫でた。

 そのとき、廊下で騒がしい声がして娘たちが入ってきた。遅れて息子たちが続き、照れながら、興味がない振りをしながら末の弟の顔を覗き込んだ。

 娘たちは突いて、笑って、手を叩き、乳母に抱かれた幼い三男は、じっと見つめながら両手を伸ばす。長男はぎこちなく弟の手を握って、興奮を隠すように無理に難しい顔をしている。

 けれど、次男のトドロフは笑ってはいなかった。真っ青になって壁際に退き、俺を見た。

 肩に手を置くと、トドロフは眼を伏せ、息を殺すようにして(ささや)いた。


「父上、弟は、人なのでしょうか?」


 俺は咄嗟(とっさ)には応えられなかった。

 処置室に向かい子供たちが列をなし、赤子を守るかのようについて行く。よほどうるさかったのか、おとなしくしていた赤子が泣き出した。長男が慌てて、両手を振り回して滑稽な顔を作る。

 娘たちがはやし立て、三男ルシアーノを抱いた乳母も噴出した。

 赤子がようやく泣き止み、かすかに笑う声が響いた。

 トドロフは顔をほころばせた。


「変なことを申しました。お許しください」


「行ってやれ」


 走り去るトドロフの背中が歪んで見えた。

 俺は自分が何を考えていたのか、そのおぞましさを見せつけられたような気がした。恐怖に支配されて父であることを放棄し、生まれたばかりの息子を手にかけようとした。なんという人非人、産んだ母を喰らう魔獣にも劣る。俺は愕然として立ち尽くし、両手で顔を覆った。


 それからは、末の子を守るために手を尽くした。息子へ抱いた悪意を否定するためでもあっただろう。

 家臣が訝るのを無視して、出来うるかぎり剣に触れさせぬよう目を配り、情操教育に力を入れた。言い訳が出来なくなったときからは、剣よりも魔術に力を入れさせた。さらに、国内の騎士団、主国ケルサスが次男トドロフを欲しがるのを、時期が早いだの、やるべきことがあるだのと無理にごまかし、教育係りに当て、共に過ごすようにさせた。トドロフも理解して、良く務めてくれた。弟のために良き兄であり、友であってくれた。

 全てが上手くいっていたのだ。

 末の子は優しくまっすぐに育って、見守るトドロフも立派な騎士になった。


 けれど、壊れてしまった。

 あっけなく。

 俺が油断したから。

 末の子ばかりに気を取られて、目前に迫る別の悪意に気が付かなかったから。

 どんな言い訳も許されない。許されていいはずがない。


 そのときトドロフは十六になっていた。

 国内外からの要請を断り続けてきたものの、トドロフにはカルブルヌスの騎士として避けられない役目があった。騎士団国の王子として騎士団を率いる才があることを示すため、伝統に従い初陣として国外に出した。

 簡単な難民保護の任務だった。それでも俺は、信頼できる騎士をみずから選りすぐって、下士官には身分を隠した教導騎士団の副団長ザイールをつけた。随行する非魔術兵にも騎士と魔術士をしのばせ、その守りはケルサス王にも勝ると思った。

 俺は出来うるかぎりのことをしたのだ。


 だが。

 それが、どうした。


 死んだのだ。


 あの子は、トドロフは敵の罠に嵌って、骨一つ残さず焼き尽くされてしまったのだ。


 何故だ?

 どうして?

 俺は何処で間違った?


 十分な警護に囲まれていたはずではないか?

 どの国が、最強騎士団を有するカルブルヌス騎士団国の王子を殺すんだ?

 そんなことをしたら、大陸の危うい均衡が崩れてしまうじゃないか。


 あるはずがない。

 こんなことは、ありえるはずがないのだ。


 -・・・それが、-

 -間違いだったとでも言うのか-


 ****


 王宮で、俺の前に(ひざまず)いた教導騎士団副団長ザイールが、充血した目でトドロフの死を報告した。背後に、彼の兄でカルブルヌス騎士団副団長のザイオンが立った。

 ザイオンは剣を抜く。

 ザイールは首をさらけ出して正座する。


 -おいおい、こいつらは、何をしているんだよ-


「・・・この命なぞ、なんのお慰めにもならないことは理解しております。しかし、どうか、私に騎士としての死を賜りますよう」


 -分らないのか?-


「僭越ながら、私からもお願いいたします。これまで愚弟はカルブルヌスに尽くしてまいりました。どうか、後を追うお許しを下さりませ」


 -壊れてしまったんだぞ?-


「そんな自由が、貴様にあると思っているのか?」


 -トドロフはもう帰ってこない。遺体すらない。妻に別れを告げさせることすらできない-


「何故、ここに居る?」


 -俺が、今、何を思っているか-


「首謀者を生きたまま捕らえて、俺の前に引きずりだすのが、お前らの務めだろう?」


 -整理がつかないんだよ-


「死ぬことは許さない。あそこにトドロフを送ったのは、俺だ。俺なんだよ」


 -そんな俺に、ガキのころから知っているお前を殺せだって?-


「俺の責任だ。全部、俺が悪いんだよ。そうだろ?

 愚かで、浅慮な王が、最強騎士団の団長に祭り上げられて、いい気になっていた馬鹿が!!」


 ザイオンが剣を落とし、金属音が響く。


「はっきり言ったらどうだ!!己の命で、主君の蒙を開かせる?下らない!!」


「エルネスト!!」


「ザイオン、なつかしいなあ、お前がそう呼んでくれるのは!!」


 -頼むから、もう、許してくれ。俺を責めないでくれ-


「友達だと思っていたのは俺だけか?なあ!?」


「では、私を許せるのか、エルネスト?兄貴面して、お前の信頼を裏切ったんだ!!」


 -許せと?憎めと?そんなことは言わないでくれよ。そんなに俺は強くないんだ-


「ならば、俺のために義務を果たせ。お前たちが、信頼に足りうると信じさせてくれ」


「エルネスト・・・」


「教導騎士団、カルブルヌス騎士団、全ての力で持って実行犯、並びに首謀者を洗い出し、俺の前に連れてこい。殺すな。ただし、腕がなかろうが、焼け焦げていようが、生きていれさえすればいい。殺す楽しみは俺だけのものだ」


 憎むべき相手は他にいて、何も考えられないから、心に従った。

 身を守るかのように王としての仮面を被り、父としての怒りのままに信じる友に命を下した。


「「はっ!!」」


 そう言って友は消えてしまった。

 俺は、一人になった。


 ****

 

 トドロフの死が告げられた日。

 俺の世界が崩れ堕ちた日から、恨みをぶつけるために、あらゆる手段を取った。

 騎士団を強引に動かすことによって不足する予算の補填は臨時の税でまかなった。民の悲しみを煽ることで、反感なく徴収することが出来た。内乱の復興に忙しいケルサス、グラナトゥムの友人らの力も借り、物資も十分に備えた。

 けれど、首謀者も実行犯も未だ俺に殺されていいない。

 実行犯は俺の選んだ騎士の一人で、事を成すとすぐに帝国に逃げていた。そして、その後の調べで、暗殺を画策したのは、その帝国であることが判明した。

 実行犯の引渡しを求めることなんて出来るはずがなかった。恥を晒すのを恐れたのではない。まして、帝国の軍事力にひるんだのでもない。帝国が騎士団の要職として迎え入れたその者を引き渡すはずがないのだ。カルブルヌスの都合だけで無理強いすれば、それを口実に帝国は不可侵条約を破り、内乱の傷跡が癒えないケルサスに攻め込んでくるのは明白だった。

 内乱で減ったカルブルヌスの血族、最も才能あるといわれた王子を暗殺して戦力を削ぐ。あわよくば、カルブルヌスの手で不可侵条約を破らせて先端を開く。それが目的だったのだ。

 トドロフは、戦争のきっかけとして、帝国に利用されたのだった。


 俺は王と父の狭間で、憎しみと、歯がゆさに身をよじるかのような日々を過ごした。多くの時間を復讐の方図を探るために費やした。カルブルヌスがこれまでで築き上げたコネクションを最大限使って外交的に働きかけ、それでも足りないと知ると、慣れない晩餐会にも顔を出した。友らに働きかけて、グラナトゥム、ケルサス両国からも圧力をかけてもらった。

 トドロフの無念のために。

 泣いて過ごす国民のために。

 カルブルヌス騎士団国の妃として気丈に振る舞い続ける妻のために。

 そう思い込んで、俺は父として大きな過ちを犯した。壊れてしまった俺の世界の残骸を、他ならない俺が踏みつけていたのだ。トドロフの短い人生で成し遂げた数少ない成果、それをふいにしてしまったのだった。


 気付いたのは、トドロフの墓に一人出向いたときだった。

 そこに、あいつがいた。微笑んで、一人たたずんでいる。兄の名が刻まれた墓に向かって、何か言って笑っている。


 心がすとんと、真っ暗な大穴に落とされたような気がした。景色が消えて、俺とあいつしかいなくなる。ぼそぼそと、たまに笑いが混じって、あいつの声が耳にこだました。

 

 あいつが言っていることを理解することが、怖かった。

 ただの音の連なりであるのに、魔力なんて少しもこめられていないのに、たまらなく恐ろしい。

 あいつの闇を見てしまうことが、本当に、怖いんだ。

 解ってしまえば、あれが何か認めてしまうことになる。ぼろぼろになってしまった俺の世界が、消えて、なくなってしまう。

 知りたくない。お前がなにかなんて、これっぽちも知りたくない。お前は俺の息子で、それ以上でも、それ以下でもないんだ。

 だから、止めてくれ。

 俺の世界を、家族を壊さないでくれ。


 視界が歪んで、動悸が敵襲を告げる早鐘のように響く。

 脳が拒否反応を起こして、今すぐ逃げろと信号を送る。

 どんな戦場も、狂王すらも。

 こんな恐怖は、知らない。


 -俺を見ないでくれ-


 足が震えて、奥歯が鳴る。

 剣の力がどうこうではない。存在が、桁外れなのだ。


 必死に気配を隠す。

 魔力を練って、王衣に刻まれた隠密魔術を起動した。


 けれど、ゆっくりとあいつは振り向いた。

 微笑を浮かべて俺を見た。

 その目が、抑えていても湧き出す狂気が、暗闇の中にヘドロとなって溢れていた。


 壊れてしまったのは、俺の世界だけではなかった。

 最愛の兄であり友人をなくしてしまった、こいつにも(ひび)が入ってしまっていたのだ。

 トドロフが導いて、俺たちが手を握るはずだった息子は、カルブルヌス歴代最強の騎士は。


 -オーギュントは、鬼になってしまった-


 ****


 トドロフが死んでしまい、もう俺のほかにオーギュントの危うさを知る者はいなくなってしまった。

 俺一人では、あいつを押さえ込むことなんて出来るはずがなかった。

 鬼の目を見てしまった俺は、あいつを導くことなんて出来ない。


 それでも何とかしようとした。父だから、やらなければならない。俺が対処しなければ、いずれオーギュントは取り返しのつかないことをしてしまうだろう。そして、血溜まりの中で、己の喉を掻っ切ってしまうのだ。

 けれど、妻でさえ笑って俺の言うことを取り合わなかった。

 私たちの子なのだから、心配いらないと言った。


「トドロフがいなくなってしまって、貴方もオーギュントもおさまりがつかないのね」


「・・・お前は、大丈夫なのか?」


 妻は俺の頭を胸に抱いた。


「貴方が参っているときは、大丈夫じゃなきゃだめなのよ。それが夫婦というものじゃない?」


「それじゃあ、お前は・・・」


「その代わり、私が泣きたいときは、お願い」


 妻の優しさに甘えて、俺は問題を先送りにしてしまった。

 オーギュントが見せたあの狂気は、トドロフを失ったショックによるものと思い込んだ。事実、オーギュントには何の変化もなかったし、ヘドロのような剣気も、まるで幻であったかのように消えてしまっていた。

 ただ、ふさぎ込むようになっただけで、医者も、兄弟をなくしたのだからそれが正常なのだと、なお食い下がる俺に笑いながら、大丈夫だと太鼓判を押した。

 しかし、医者に何がわかるのか。一度生まれた鬼が消えることなどない。

 解っていたはずなのにその言葉に(すが)った。オーギュントのために、俺と家族のために眼を逸らしてしまった。

 それからは、自分たちが面倒を見るという妻と娘にオーギュントを任せて、内乱の復興や国外に派遣した騎士団の差配に打ち込んだ。

 手紙でオーギュントたちの様子を知ることが長く続き、王宮にもろくに帰れず、年月は過ぎていった。


 ****


 やがて、オーギュントは初陣を迎える年になった。

 俺は王宮に帰り、オーギュントの稽古を見て安堵し、いささか拍子抜けしたのを覚えている。騎士として優秀なことには間違いない。カルブルヌスを背負って立つ騎士にもなるだろう。しかし、あくまで人の範疇としてのことだった。

 初陣に出すことに同意した俺は、試験には各地に散らばる教導騎士団だけではなく、各騎士団の精鋭をあてることにした。試験としては過剰な保護といえたが、トドロフのこともあって、各騎士団長たちは反対どころか、さらなる騎士の帯同を提言した。さらに、どうしてもと言う妻も同行させた。そのことに対して王宮の反対は大きかったが、俺は彼女の思いに応えたかったし、彼女から見て、剣を帯びた息子がどう映るのか気になった。当の俺は、事故で騎士団を引退していたザイオンを含む僅かな部下と共にオーギュントを追うことにした。冷静な目で、全てを把握しなければならない。


 戦場でオーギュントは新任騎士少尉としてふさわしい振る舞いを見せた。戸惑ったのは最初だけで、下士官の言うことを良く聞き、油断することなく常に戦闘に備えていた。王族だからと驕るところもなく、雑用にも嫌なそぶりを見せず、仲間たちからも受け入れられているようだった。

 そんな中で試験は始まった。

 あらかじめ潜んでいた教導騎士団が敵襲を装って部隊に奇襲をしかけた。暗い森の中、結界を守るために小隊規模で散開を余儀なくされた騎士達に、試験官である教導騎士団が襲いかかる。

 カルブルヌスの試験は過酷だ。死人も出る。死罪の罪人が利用され、彼らにはカルブルヌスの騎士をしとめることが出来たならば、罪の軽減と家族の保障を約束してあった。だから、彼らの殺意は本物であり、試験であっても気をぬくことは出来なかった。本当の殺し合いでもって検分してこそ、騎士と言うものが理解できる。

 なかでもオーギュントのチームは、ある騎士団の次期副団長の試験も兼ねていたから、その過酷さは他の比ではなかった。正直に言えば、勝てるはずがなかった。ケルサスの近衛を超える力を持ち、人の命を奪うことになんら躊躇しない外道の騎士三人と、取り囲む邪教徒に扮した教導騎士団の精鋭は、チームの力を軽く凌駕していた。負ける戦いでどう動くか、それが問いだった。

 チームの回復役が早くに倒され、次期副団長に推されていた男も脱落した。

 打つ手はない。

 自らの力を上回る騎士、さらに力の底すらみることのできない邪教徒の集団相手に、オーギュントは果たしてどうするのか。試験官達は、かすかな心配と緊張をもってオーギュントを観察する。俺もまた、彼らと同様に緊張していた。けれど、心配していたのは全く別のことだった。


 オーギュントは、月光の下、血の匂いがする風に吹かれて、笑った。

 とても楽しそうに、目を煌かせて、剣を抜いて戦うことを選択した。

 教導騎士団に動揺が走る。戦うことに驚いたのではない。今まで見せたことがない恍惚とした表情に、オーギュントを見誤っていたことを知ったのだ。


 オーギュントは斬られながら、楽しみながら、殺してゆく。

 急速に高まる剣技に、見守る誰もが酔いしれ、嘆息を漏らす。

 試験を終えた教導騎士団たちが、闇夜に閉ざされた森に輝くオーギュントの剣気に誘われ集まり、うっとりと陶酔する。

 俺も例外ではなかった。いや、俺が最も感慨をもって見とれていたことだろう。

 教えていなかったカルブルヌスの秘剣『奔馬の太刀』を、それまでの観察と流れる血で探り当て、最適な効率で操り、自分にあうように作り変えてしまう。


 -なんという才能だ-


 (つぶや)きが漏れる。

 カルブルヌスに誕生した剣聖に至りうる力。ヘリオス帝国の怪物ウラニア・ホドース・ヘーリオスにも迫る才能。群集は興奮し、剣気を(たぎ)らせる。

 ステージの上で、流麗なステップの後に首が舞い、返り血を浴びることなく切裂き、貫く。

 その美しさ、たどり着くことの出来ない極地を思い知って、やがて群集は嘆き始めた。


 -だれも、王子には敵わない。剣を教えることも、立ちはだかり目標となってやることも出来はしないのだ-


 最後の舞を踊るオーギュント、愛しの息子。

 静寂に包まれる舞台。

 騎士たちは自らの力のなさにうなだれる。


 けれど。


 -そうじゃない-

 -そんなことじゃないだよ。あいつの胸にあるのは、剣への渇望だけじゃないんだ。孤独への恐れだけじゃあないんだよ-


 それは儚さへの呪い。簡単に斬れてしまうことの、命への絶望。


 -愛したものが簡単に壊れてしまうなら、どうして生きていけるんだ?-

 -ためすしかないだろうが。斬れないものを探して、見つけられなくて、世界に見切りをつけた鬼はどうなってしまうんだよ-


 俺は隠れていた木の根元にうずくまって泣いた。

 ザイオンが肩を抱いてくるが、はねつけた。


 -誰も、解ってはいないじゃないか!!-

 -やがて外道に落ちる息子を救うには、もう、奪うしかないじゃないないか!!-


続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ