花開くは慈愛の世界、枯れ落ちるはまどろみの世界
「こんなものは、騎士の戦いではない!!」
騎士は叫んだ。
涙が溢れ、視界がぼやけて敵が見えない。
斬っても、斬れない。貫いても、手ごたえがない。焼き尽くそうとしても、火炎はただまとわり付くだけ。剣に聖を宿そうとしても、どういうわけか術式が発動しない。まるで、自分が罪びとであるかのように。
がむしゃらに剣を振り回して、斬れない相手を斬ろうともがく。
母のために立派な騎士になりたいと誓った友人が断末魔を上げて崩れ落ちた。
亡き祖国復興のため毎日国旗に祈りを捧げていた誇り高い老騎士が、立ち尽くしたまま血しぶきを上げた。
敵の突撃、噂に聞いたマルティス騎士団の土属性を剣に纏わせた、交わしてもそこからさらに延びる樹木の一撃で四分の一が死んで、過剰な命を与えられた草に貫かれて四分の一が死んだ。
残った者らは呪われた騎士達に一太刀も与えることなく切裂かれようとしている。
団長は既に死んだ。敵の魔術の集中砲火に足を止められ、一言も発する暇無く、群がる敵の刃にずたずたにされた。
主力の騎兵は草のつるに引きずり下ろされ、魔術士たちは食肉植物に文字通り食いつくされた。
いったい、なんなんだ。これは?
背後に迫った槍を四つんばいになってかわす。
見上げた敵の兜から覗いた目は、赤く染まっている。
こんなのはヒトの目じゃない。
発狂しそうになるのをこらえて、小便を漏らしながら防禦を固める。
どうすれば勝てるんだ?生き残ることが出来るんだ!?
「あの少女を、しとめろ!!」
隣にいた古参の騎士が土流に押しつぶされながら叫んだ。
その声に体が反応して、騎手を失った軍馬に飛びまたがった。
鞭を入れる。
ありったけの魔力を軍馬の足に埋め込まれた魔具に流し込んで強化する。
軍馬が嘶いて、少女のいる丘に向かって、一足に駆け出す。
背中に衝撃が走って、熱湯をかけられたように熱くなる。手甲がはじけ飛んで、左手の感覚がなくなった。
ただ、前だけを見て、駆け抜ける。
痛みなんて邪魔だ。
そんなものにかかずらっている暇は無い。
みんな、死んでしまったけれど、俺は生き残って見せる。
そのためなら、腕なんで、足なんて、要るものか!!
もう少し、もう少しで、少女まで、剣が届くんだ。
あの寂しげな子さえ殺せば、きっとこの殺戮は止まる。俺たちは生き残れるんだ!!
剣に魔力をこめながら、目を上げた。
「・・・」
雨が降りしきる丘の上で、碧の、きらめく命の息吹がこぼれていた。
笑ってしまう。
なんだ、そうか、そうだったのかよ。
俺たちが、勝てるはずがないんだ。
勝っていいはずがないんだ。
光りが満ちる。
顎を上げて雨天を見上げた少女が、微笑みの中で翼を広げた。
雲間に光りの柱が立ち上って、オーロラがかかって、まるで玉座にかかる天鵞絨のカーテンのよう。
少女の碧色の髪が揺れて、美しい、そんな言葉がちんけに思える魔力が、はじけている。
ああ、その翼に映る慈悲の世界。
雨が、血しぶきけぶる丘の上で、楽園が花開いている。
今は無き、世界樹そびえる素晴らしき世界。住まうは、愛の種族。
「エルフ」
彼女の背後に控えていた騎士が剣を抜く。
その足に風が渦巻いて、騎士は音速を超える。
ただ、涙を流して、眼前に迫る剣を見つめる。
幼い頃聞いて、憧れた騎士。
彼の疾走した軌跡には屍が積み重なる。
血を浴びることなく駆け抜けた先に、栄光がある。
こんなふうになってしまう前に一度、グローリアの式典でお目にかかったことがあった。
ゼロの騎士。
剣聖の横に立つもの。
足に施された魔術によって間合いを一足に飛び越えて、刃のきらめきが目の前にせまる。
いや、それは残像。
すでに、剣は俺の体を切裂いているだろう。
聖騎士エーミル様。邪教徒によって世界から消えうせた楽園の守護者。
夢見た姿そのままに。
あなたに憧れて、俺はここまで・・・。
世界は、エルフは、楽園は、神は、俺たちを見棄てていなかったのですね。
*************
「馬鹿な娘だ」
ヘリオス帝国皇帝ウラニアの命を受けて隠密として戦場に侵入していたキサラギは、雨に打たれてたたずんでいた。
「潜んでいれば良かったものを」
森から立ち上る碧の光柱に目を凝らした。
「コールめ、貴様が付いていながら、なんてざまだ。わざわざ奴ら(邪教徒)の目をごまかしてやったというのに。それにメルキド、どういうつもりだ?こうなった以上、おまえの安全も保障できんぞ」
友の、メルキドの皮肉げな笑みが思い浮かぶ。
そして、教え子の透き通った瞳も。
「ウラニアのやつ、知っていたな?」
キサラギは舌打ちをすると、木陰に消えいるように姿を消した。
**************
「ライラ・・・」
ブリギッタは空を見上げてつぶやいた。
背後では、大隊の面々が正体不明の魔力を探るべく急ぎ本陣に問い合わせようとしていた。
「落ち着きなさい。マルブの旅団の魔力よ!!」
「お嬢様!」
杖を付いた白髪の老人、サラと共に彼女の副官を務めていたイヴァンが叫んだ。
「ええ、ライラよ。あの子が力を解放したの。こんなくだらない戦で、私たちのために」
「・・・」
「さっさと戦を終わらせてライラのところに行くわ。きっと泣いてる。抱きしめてあげなきゃね」
イヴァンはにこやかに相槌を打つと、すぐにそこから離れて天幕の中に入った。人払いをして、通信を起動して暗号文を送る。
送り先はブリギッタの弟であり、ケルサス本国の解析部隊に配属されていたベネディクト、そして各部隊に忍ばせていた配下の者ら。
文面は、ハナヒラク。
それは、ベネディクトが解析部隊に送りこまれた本当の理由、任務開始の合図だった。
*******
「あれが、再誕の光り。浄土曼荼羅か」
ルシアーノとオーギュントは隠密からもたらされた影像を見ていた。
「お前は知っていたんだろう?」
「うん。だけど僕達はライラが力を解放することには反対だった。あの子に争いは似合わない」
「しかし、彼女を前面に出していれば、無駄な殺生は避けられたはずだ。ルクサーナ殿下は力あるものとしての責務を放棄しているのではないか?アーティファの末裔。聖なる血にはむかうことが何を意味するか。ヤーヘンに選択肢を与えるべきではなかったか?」
オーギュントの目が細められた。
にじむ敵意をさとらせまいとして、顎を引いた。
「兄さん、どうかしたのか?そんな責任なんてあるはずがないじゃあないか。殺し合いは僕たち戦争狂がやればいい。力があるから戦場に行かなければならないなんていう論理が戦争を広げることくらい分っているだろう?死にたい奴が死ねばいいんだ。幸福を望む者まで戦場に刈りだしたら、平和はいったい誰が作るというんだ?」
ああ、なんて目だ。そんな目を兄に向けるなんて、成長したなオーギュント。
そうだ、お前の言うことが正しい。
ルシアーノはオーギュントの肩を抱いた。
お前はそうでなくてはならない。
血に従うのではなく、己の意思に従わなくてはならない。
怪物ウラニアを超えて、最強になるのだから。
お前の剣が戦争の行方を決めてしまう。
その重圧。
剣に確かな意志を乗せる限り、お前は壊れない。
試すようなことを言って、許してくれ。
お前が狂気に染まっていないか心配だったんだ。
すべて殺して、悪魔すら殺して、悪鬼となりはて自害したメリザンドのようになってはならない。
「そうだな。しかし、彼女は壇上に上がってしまった。これからどうするつもりなんだ?すべての国が彼女を放っておかない。アーティファ信教の教徒すら、彼女の名前を叫んで、楽園のために戦場を求めるだろう」
「僕は戦場に来て、ようやく理解したよ。誰も戦争なんて望んでないって。それでいて暴力の魅力に逆らえる人はほとんど居ないんだ。
始めから血を求める僕らカルブルヌスは異常者なんだ。平和な世界にはいてはいけないんだよ。壊すことしかできないから、せめてライラやレオーネのような人たちを守るために剣を振るうんだ。
彼女たちを穢す奴らは死ぬべきだ。僕たちも例外じゃない。それを理解して殺すから、僕たちは世界に居場所があるんだ。
ライラの魔力の波動は、こんなにも綺麗で、澄んでいる。その光りが指し示す先にある未来を守ってみせる」
それがオーギュントの答えであり、カルブルヌスの真のあり方。
幸福への尖兵。
平和のために自らを血で穢すことを決意するから、彼らは気高くあり続けることが出来るのだ。
ルシアーノは確信した。
弟はメリザンドのように無残な最期を遂げることはないと。
たとえ自害するようなことがあったとしても、それは役目を終えたときであると。
自分が居てはいけないと、確信したときであると。
・・・は?
遥かなる世界で慈愛の女神があきれ果てる。
だけど、それは悲劇でしょ。
世界にいらなくなったから、捨てる?
痛みに歯を食いしばって剣を振り続けた同胞に居場所をみつけられなくて、何が平和なのかしら?
平和が義務付けられながら、戦に秀でた力を持った者が存在するという、おかしな矛盾。
神が平和を欲するならば、そんなヒトが居てはいけないんじゃない?
暴力への衝動が抑えきれないというならば、生まれた瞬間に死ねとでも?
それとも、ただ苦しんで、生き抜けと?
「だから、絶対神の法じゃあ駄目なのよ」
世界樹にもたれかかって、かつての世界の覇者が貝の櫛で碧の髪をとぐ。
「逃れられない闘争本能に苦しむことを絶対神は試練などと言う。でも、そんなの許せないじゃない?そこにどんな目論見があったとしても、生きることを妨げるなんて傲慢だわ。あなたたちは幸せになる権利があるの。混沌との戦いなんて私たちがしてあげるから、安心して生きるべきよ。
あなたたちの道は私(慈愛)に続くの」
「しかし、戦士が足らん。我らの盾となり、寝屋を守る奴隷が」
突如、アーティファの頭上に影が落ちる。
見上げる瞳に異形がうつる。
翼竜が羽ばたいて、エネルギーの奔流が現世を吹き飛ばす。
「そうだ。ゆえに、私が選別する」
虚無だけになった世界で、厳しい金色の甲冑を纏った有翼の乙女が神槍を掲げ、天使の大軍が馳せ来る。
「白雲たちの残りかすで存在させてあげているんだから、それくらいはしてもらわなくちゃこまるにゃあ」
世界の隅で、異なる次元を纏い、あらゆる場所に凝固する白虎が前足で首を掻き、とろけた視線を投げかけた。
「しかし、アーティファ殿の言うことも一理あるのではありませんか?私達は傲慢なのですよ」
三千世界に延長するエイが漂う。
「何を言うかと思えば。ほかに方法があるのならば教えて欲しいものです」
黒色の球体に腰掛けたメイドが、紅色に染まりながら異界の神々をにらみつける。
「喧嘩なら、他所でやれ」
神気に乱れる世界、そこに刻み込まれるように声が響く。次元の狭間の中で、眼鏡をかけた蛇人が書物から顔を上げて、いらだたしげに神々をにらんだ。
「ああ、まあ、あれだ。少し落ち着いたらどうだ?お前たちがそんなことを言っている間に世界は動いているぞ。カイもどうやらもがいているようだし・・・」
「あら、あなた」
混沌との戦に向かう途中、ひょっこり顔をだしたアーティファの夫神でオークの王が控えめに言う。
「そのとおりだ。まったく、時間の勘定もせんとは。巻き戻されてはたまらんぞ」
冥界の主たる大狼サイレスが変化し、ゴシック衣装に身を包んだ少女、マイヤとなってため息をつく。
「あんたは黙ってて」
「何だと?」
「~♪」
食人の神がステッキを振るって、タップダンスを踊ってはやし立てる。
マイヤとアーティファが睨み合い、アルファスがしどろもどろに仲裁の声をかける。
カグツチが炎を撒き散らし、白虎がニヤニヤ笑い、エイがむうむう唸る。
「ホアンもなんとか言ってください」
助けを求めるようにマーテルが縁の神に語りかけた。
「我は知聖以外どうなろうとどうでもよいわ。眠い。寝る」
自堕落な目をした遊女がかいまきを引き寄せた。
「妹よ。風邪を引くぞ」
蛇人が優しくかけ直して、微笑む。
埒があかないと、ため息をついたアルファスが翼竜の尻尾をむんずと掴んで引きずる。
「ほら、行くぞホクマ、出陣だ。おい、暴れるなよ公方」
ホクマが目を上げるが、また書物に視線を落す。
翼竜はぎゃあぎゃあ小言を言って、じたばたかしましい。
「はあ、頼むから早くカイを戦に戻してくれ。このトカゲどもは言うことをきかん」
アルファスの頼みに、世界からの源流から声が響く。
「もう少しですから・・・。ほら、ホクマ殿も、公方殿も、そんな意地悪しないでください」
唯一なるもの、最高善に侍る神、桔梗は頂で微笑む。
「今まで眷属をもたなかったカイが二人を招くのです。その意味をみなさん、理解してくださったはずではありませんか。それに他の者たちも無くてはならないのですよ」
しかし、神々は聞き入れない。
それどころか、騒ぎに触発されてさらなる神々が参入して、入り乱れる。
「はっ!これで神だと?ぐだぐだと文句ばかり、呆れたものだ。現世に集った馳走、貴様らにやるのは理にかなわない。僕がもらおう」
タップダンスが突如止んで、虚ろだった瞳に人格が宿る。
ステッキが世界でない世界ごと全てを飲み込む。
底しれぬ食欲でもって、理念の世界に新しいイデアを形づくろうと、唇をゆがめる。
「「カーニバル!!」」
反応した神々の力をかいくぐって、カーニバルの世界が顕現するかに見えた。
「kbojzspaoiueroifaga;oiipfg!!」
発音できない言葉が響き、カーニバルの世界だけではなく、イデアの世界を抜かす全ての世界が閉じた。
負の属性を持つ世界からの干渉があらゆる作用を打ち消した。
「あら?ありがとう。皆さん、助かりました」
桔梗が何かに礼を言って、耳障りな声が止む。
「まったく、カーニバルさんを怒らせるどころか、あちら側の手を煩わせるなんて。皆さん、いい加減に」
眉をひそめて、困りげに微笑む。
「わたくし、怒りますよ」
******
「なんだ、この魔力は!?」
ヤーヘン指揮官ウグニス王子は、長城から身を乗り出した。
「ははあ。なあに気にするには及びません。エルフの光りです」
美しいですな、と背後にいた、商会から遣わされた蛇人の男が嘆息した。
「何だと?!グローリアは滅びたのだぞ!!しかも、エルフだと!!」
「ええ、ええ。王女ルクサーヌ殿下は生き延びておいでです。そして、グラナトゥムのベリル皇后陛下の庇護の下にかくまわれておられました。参戦しているとは聞いておりましたが、これは眼福ですな。まさか、浄土の光り、この目で見ることが出来ようとは」
「貴様、知っていたのか?それでいて、我らに知らせなかったと!?」
「・・・それが、なにか?」
「なんということだ。我らは、グローリアの、アーティファ信教の聖巫女に剣を向けたというのか・・・。しかも、エルフだと?そんな、馬鹿な・・・」
「大した問題ではありませんよ」
「何を言う!!我が軍にもアーティファ信徒は居るのだ!!このままでは指揮が保てない。聖巫女の『詔』をどう防ぐつもりだ?皆殺しにされるぞ!!」
「あなた方は詔を勘違いしておいでです。あれはそんなに都合の良いものではありませんよ。もし、言い伝えどおりならば、邪教徒に滅ぼされるより先に、他国によってとっくに滅び去っているはずではありませんか。・・・軍には、敵のかく乱とでも言っておけば良いでしょう。誰もエルフなぞ見たことは無いのですから」
「では、本国は?この戦を凌いだとしても、いつまでも隠し通せるものではない。他国に知られようものならば、世界がわが国の敵になる。滅びるよりほか無いではないか!!」
「ですから、知られる前に殺してしまえば良いのです。さあ、お急ぎください。勝ちさえすればどうとでもなります。もとより大陸の平和を乱そうとしているのです。味方なぞ、期待できようはずが無いではありませんか」
「・・・」
「ご安心ください。こたびの契約を持ちかけたのは我が方、商会でございます。契約途中で逃げ出すような三流ではございません。我らは一心同体でございますよ」
背を向けて歩き出した。
そうだ、はめられていることなんて、始めから解っていた。
けれど民が苦しむ姿を見るのはもう耐えられないゆえ、決起したのだ。
突き進むよりほかに道は無いだろうが。
-恨みは荷が勝ちすぎるだろう?-
脳裏にケルサスとの繋がりの重要性を訴えた男の顔が浮かぶ。
-頭を下げるのが嫌ならグラナトゥムに仲介を頼もう。なんだったらグローリアでもいいんじゃないか?どちらも大陸でも指折りのくずどもだが、国の体面を良く心得ている-
家庭教師だった彼からいろいろなことを教わった。
王族としてのあり方から、畑の耕し方、女の口説き方まで。
-お前はとりわけ優秀だから、利用されないようにしなければいけない。そのためには多くを望まないことだ。ヤーヘンにいては限界が見えないかもしれないが、世界は広いのだから自分よりも上はたくさんいるもんだ。利用されていれば、そいつらと剣を交えるはめになる。悔しいかも知れないが、小国としての身の程を知れ-
そんな、唯一の友を殺したのは俺だ。
くだらない馬鹿に乗せられて、王子の自分に向き合ってくれた唯一人の大人を殺してしまった。
父王は俺たち王子たちのことを思い、西方を漫遊した彼を招いた。
しかし、その人柄と進歩主義的な思想が彼に多くの敵を作った。
彼は、ヤーヘンの一族が最も優れていると主張する似非愛国者どもの罠にはまり、謀反の疑いをかけられた。
俺は彼を助けずに、死刑を宣告した。
最高の民族であるヤーヘンの王子と言う甘美な自意識を守るために、彼が伝える苦い現実を封じ込めたのだ。
死刑を告げたときの、彼の苦笑。
できの悪い生徒の粗相を笑って許した。
ただ、彼は初めて見せる眼差しで、妻と子の保護を求めた。
エーダルヒア。
俺の師。
俺のただ一人の友。
解っているさ。助けるに決まっている。
なぜならば、後ろめたいからだ。せめてもの罪滅ぼしだからだ。
一族を皆殺しにするほど俺が強かったならば、お前はそもそも死んでいない。
そんなエーダルヒアの愛したルーナイアも死んでしまった。
息子は大丈夫だろうか。
いや、ケルサスは捕虜を殺しはしない。きっと手厚いもてなしを受けていることだろう。そのあり方がケルサスをケルサスたらしめるのだから・・・。
思わず、笑ってしまう。
この期に及んで信じているのが、エーダルヒアの教えてくれたケルサスの誇り高さだとは。
けれど、すまないな。
俺達は負けないんだよ。
ルーナイアとエーダルヒアの忘れ形見。
申し訳ないが、死んでくれ。
ウグニスが通信魔術に囁きかける。
戦場に大きな信号弾が上がる。
さあ、地獄の釜が開くぞ。
神々よ、御照覧あれ。
人の業、ここにきわまれり。
願わくば、我が祖国ヤーヘンに慈悲を。
罪はすべて我にあり。




